柳暗・花明

紅紫蝶舞

薔薇の一族 ~第1章~

『あやかし』との戦いで薔薇の一族はおさとアザを持った4人の女性のみとなってしまった…だが能力を備わった者『人間』が多く増える事で統制は取れていた。

 能力を持ったモノには階級があり、神官しんかん一宮いちのみや二宮にのみや三宮さんのみや四宮よんのみやというクラスとされていた、神官ランクには男性が多く各拠点には常に仁王と呼ばれる『阿形あぎょう』という『知性派』と『吽形うんぎょう』という『武道派』の2しんが薔薇の一族を補佐していた。
 仁王は常にあるじと共に行動をしている。

 そんなある日、物事が大きく変わる事が起きようとしていた……各拠点にいる女性『紅剡こうせん』『緋雨ひさめ』『樹羅』『さくら』の元に使役神しえきがみと呼ばれる式紙しきがみが届いたのである。

『緊急事態発生!母屋おもやに集結しよ!』

 各拠点の女性は仁王を連れて母屋おもやに急いだ……最初に着いたのは樹羅だった。

「おい、樹羅。俺達が一番に着いたみたいだぜ」
 碧瑠へきりゅうという男性が樹羅の前に出て周りを見渡しながらガッツポーズをしている。
「ホントだぁ!でも何があったんだろうね?」
 樹羅は碧瑠へきりゅうに近づきワイワイと騒いでいる……そんな姿と見た翠蛍すいけいは。
「2人とも、少し静かにした方がいいみたいだ?」
 翠蛍すいけい碧瑠へきりゅうは双子だが、少しだけ落ち着いている兄の翠蛍すいけい蛍が2人に言う。
「なんでだよ!」
「そうだよぉ、久々な母屋おもやなんだよぉ~」
 碧瑠へきりゅうと樹羅は翠蛍すいけいの言葉に納得してないような感じでいたが、それでも3人でワイワイやっているところに遠くから声が聞こえた。
「樹羅さぁ~~ん」
 樹羅に向かって小走りに近寄ってくる可愛らしい女の子……
「あっ!さくら~久しぶり!」
「久しぶりです!今日って何かあるんですか?」
「それが分からないんだよね~って蒼珀そうはく青喇せいらも久しぶり!」
 樹羅はさくらと一緒に来た仁王、キリっと大人の雰囲気を醸し出す蒼拍と長髪のいかにも綺麗なお姉さんに見える青喇せいらに挨拶をする。
「お久しぶりです。樹羅様」
「きゃ~ 碧瑠へきりゅう翠蛍すいけい7年振りねぇ~ウフッ、相変わらず同じ顔の男前ねぇ~ついでに樹羅もお久しぶり~」
「気持ち悪い声をあげるな!青喇せいら!!」
「もぅ~蒼珀そうはくったら、ヤ・キ・モ・チなんて嬉しいわ 」
 蒼珀そうはく含め他のメンバーも青喇せいらの濃さに圧倒され固まりつつスルーする…
蒼珀そうはくさん、いつも使役神しえきがみありがとうだ」
「問題ない、さくら様のご指示だからな」
 おのおのが楽しそうに話をしている、碧瑠へきりゅう青喇せいらと手合わせしないか?など武道について話し樹羅とさくらも仲良さそうに話をしている蒼珀そうはく翠蛍すいけい使役神しえきがみの事で情報交換の話をしていた。
 楽しく話している皆に暖かい空気が流れる……
「遅れてしまいましたでしょうか?……」
 ゆっくりと話す緋雨ひさめに全員が話を止める。
「いえ、お嬢まだ大丈夫だと思いやす……」
 周りを見渡しながら黄呀こうがが口を開く。
「みんな成長したんやなぁ~」
 陽春ようしゅんは独りしみじみその光景を噛み締めていた。
「やっぱり緋雨ひさめさんだぁ!ずっと会ってなかったけど、この気ですぐに分かりましたよ」
 樹羅はさくらを連れて緋雨ひさめに近づく。
「樹羅さん大きくなられましたね、元気そうで何よりです。後ろの方はさくらさんですか?」
 樹羅は笑顔で頷きながらさくらを見る。
「はい!初めまして緋雨ひさめさん。緋雨ひさめさんの事は樹羅さんや蒼珀そうはくさんから聞いています」
「あら、そうだったのですね」
「はい!緋雨ひさめさんが近くにいると、とても落ち着くって言っていました。会ってみて実感です、守られているような暖かい気ですね」
「クスッ ありがとうございます。とても嬉しいですよ」
 樹羅はさくらと緋雨ひさめが仲良く話しているのを笑顔で見守っていた。
 それからまた皆でいろんな話をして場が盛り上がっている最中……
「静かにしろ……」
 その声と空気でその場が固まる…皆が後ろを振り返ると三人の人が立っていた。
「お久しぶりです……紅剡こうせん様」
 紅剡こうせんを前に緋雨ひさめ黄呀こうが陽春ようしゅん碧瑠へきりゅう翠蛍すいけい青喇せいら蒼珀そうはくは膝まつく……
陽春ようしゅん翠蛍すいけい蒼珀そうはく!あなた達は何をしていたのです!!」
 かくという男は3人の男を集め笑顔で怒鳴る…呼ばれた3人は黙ったままうつむ
黄呀こうが碧瑠へきりゅう青喇せいら!手合わせをこの場所でするとは何事ですか!?」
 朱漸しゅぜんという男もまた3人の男に笑顔で怒鳴る……
 樹羅は何が何だか分からずその場で立ち尽くす……ただ紅剡こうせんの事を知ってはいたが初めて見た為『逆らってはいけない』と本能で感じとっていた。
 さくらはかく朱漸しゅぜんが笑顔を絶やさない見た目優しい人かと思ったが……怒る姿を見て実は怖い人なのでは?と疑問を感じていた。
緋雨ひさめ……きさまがいながらこの状況とは何事だ……」
 明らかに見下したように緋雨ひさめを睨みつける……その光景を見て樹羅がイライラしはじめた。
「申し訳ございません……紅剡こうせん様」
 深々と頭を下げる緋雨ひさめは目に涙をためながら紅剡こうせんに謝る。その姿を見た樹羅は…
「初めまして紅剡こうせんさん!緋雨ひさめさんを責めるのは止めて下さい!私たちはただ久々に会って話しに花が咲いただけですっ!」
 樹羅は1人責められる緋雨ひさめを見て、責めるなら全員を責めるべきだと主張した。
「樹羅さんいいんですよ……ありがとうございます……」
 泣きながら樹羅にお礼を言う緋雨ひさめの姿を見た全員が内心オロオロしていた……
「樹羅と言ったな……きさまはここに呼ばれた理由を知らないのか?」
 紅剡こうせんの睨みが恐いが……ここは突き通すしかないと決心する樹羅。
「知りません、緊急との事で来ただけですっ」
「そうか、だが緊急の意味ぐらい分かるだろ……」
 樹羅はそのまま黙ってしまった…さくらもまた紅剡こうせんの凛とした姿を見て今にでも泣きそうな顔でオロオロしている。
紅剡こうせん様、わたくしも今回集まりの件でございますが、内容を知らないのです……」
「どいつもこいつもだな……まぁいい……ここで待っていろ」
 緋雨ひさめや樹羅の言動にため息を付きながら紅剡こうせんかくに事の重要さを皆に話すよう伝えると奥の部屋に入って行った……
「ここにいる全員知らないようですから、お教え致します……」
 皆がかくを見つめる……かくは優しそうな笑顔で話し始めた……
「実は薔薇の一族であるおさがもう時期亡くなります。その為に次の長を決め、薔薇の一族のその後を話し合う場として今日皆が呼ばれました」
 『な!!』そこにいるすべての者がびっくりしていた。
 長と言っても何ヶ月かに1度会うことがある人……彼女達の拠点に来ては指示だけ出して行く、そんなに会わない人でもそれぞれ思い出もあり大事な人の一人である……
「そんな……長が……」
 さくらは聞こえない程の小さな声を出しながら俯く。
「おじぃが……1ヶ月前元気に顔出してたのに……」
樹羅は悔しそうに拳を握った。
「どうしてその事を私達には伝えてくれなかったのでしょうか……」
そして、泣きやんだかと思ったらまた泣き始める緋雨ひさめ……その他の一行は、ショックを隠せないようで悲しみをぐっと堪えていた。すると紅剡こうせんが現れ……
かくから話は聞いたか?長が呼んでいる、くれぐれも静かにするように」
 
紅剡こうせんの言葉に頷き、黙って紅剡こうせんの後について行く一行……
部屋に着き、長を囲むように座る……朱漸しゅぜんに支えられながら長が起き上がる。
「みんなよく来てくれたのう、と言ってもわしが呼び寄せたんじゃがな…」
長の軽いボケなのか長の笑顔に、その場が少し明るくなる…
「わしの命ももう少し……薔薇の一族の残りもお前達だけになってしまってのう……」
「えっ!薔薇の一族も……」
さくらはその事実を知らなかった為、びっくりし声を出してしまった。
「さくらは知らんかったんじゃな……そこでじゃが…わしの、長の変わりは紅剡こうせんにやってもらおうと思う」
「賛成でございます、長」
真っ先に声を上げたのは緋雨ひさめだった。
「そして他の者は今までどおり各拠点を守って欲しいんじゃが……問題はあるか?」
長の言葉に、全員が首を横に振り納得をする。
「良かった……これで安心出来る……皆これだけは守っておくれ…人々をあやかしから守り一日も早く平和に暮らせるよう頑張って欲しいんじゃ……」
「大丈夫、必ず守るから」
樹羅の言葉に全員が頷く。
「じゃ~わしは休むとするか、解散してよいぞ」
 その言葉に全員がその場から立ち去り先ほどの部屋に戻る……

「これからの事なんだが、考えがある」
紅剡こうせんが皆の前で話し始める
「考えでございますか?」
「ああ、かく地図を持ってきてくれ」
「かしこまりました」
 緋雨ひさめが疑問に思って口にしたが、紅剡こうせんはお構いなしにかくに地図を持って来させた。
「今我々の拠点はこうなっている……」
「そうですね」
 紅剡こうせんが地図のある場所を指で刺す、さくらもそこが拠点という事を知っていた為同意した。
「ここにもう一つ拠点を作りたいんだ……」
五芒星ごぼうせいですね」
「そうだ」
 紅剡こうせんの指した所を見た樹羅が直観で呟いていたが、それを見抜いていたと勘違いした紅剡こうせんが嬉しそうに頷く。
「ですが……誰がもう1つの拠点に?」
「宛ならある」
 緋雨ひさめがあることに気づいたが紅剡こうせんは坦々と話を進める
「薔薇の一族は私たちしかいないですし……任せられるくらいの方ですか?」
「術者としては私と同じくらいだろう……」
「そんな人がいるんですかぁ!すごいですね!!」
さくらも一族がここにいるだけだと疑問に思っていた。
紅剡こうせんは密かに考えていた一部分の触りだけを伝えると樹羅が目を輝かせて驚いていた。
「その拠点の場所を確保したら使役神しえきがみを送る。皆は拠点にて待機」
「分かりました」
緋雨ひさめはその使役神しえきがみが来たら、おまえの結界で五芒星ごぼうせいを描いて欲しい」
「かしこまりました」
さくらも緋雨ひさめ紅剡こうせんの言葉に頷く、樹羅は強い人と手合わせするのが好きだったので、早く会ってみたいと一人ウキウキしていた。

 それから数日間は長の事もあり母屋おもやに留まっていた。
初めは怖いと思っていた紅剡こうせんとも仲良くなり長の要望から毎日が宴だった……
 だが2週間が過ぎた頃、長が亡くなり悲しみの中皆が自分の拠点に帰って行った……

 これから起こりうる戦いを胸に秘めて……

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