連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜
第9話:セカンド・コンタクト③
まるでガラスが粉々に飛び散るような、ガシャンという音が響き渡る。
世闇を照らした青い炎は消え去り、ヘイラが手にした炎は力を失うように小さくなって斧本体も砕け散った。
「割れちゃった……」
「通常時でさえ、威力はドライブ・イグソーブの数十倍はあるそうだ。ただ、アレ本体は魔力に耐え切れず、一度きりで使い切ってしまう。ヘイラのように巨体でないと十分に扱えんしな、難点が多いのだ」
トメスタスが説明しながら刀を構える。
最後の結界は、この男が割る――。
「さてミズヤ、俺とお前の技はどちらが強いかここで見ておこうじゃないか」
ブォン!と、強い衝撃がトメスタスを中心に波を打った。
緑の柄で出来た長細い刀を高々と掲げ、刀の中心からは黒い渦が発生する。
ミズヤがしたように、刀から沸き起こる黒き竜巻は天にまで登った。
「【羽衣天技】――」
ヘイラは後退しながら、空の星々を埋め尽くす竜巻を見ていた。
だがその魔力の集まりも、刀に収束する――。
「――【一千衝華】!!!」
黒き刀が振るわれ、収束された魔力が結界に向かって飛び出した。
トルネードの衝突は夜に突風の雨を広げた。
豪風が吹き荒れ、ミズヤも風圧に帽子を抑える。
「ふにゃ〜っ!」
可愛い悲鳴をあげながらミズヤは吹き飛び、なんとか空中に止まる。
「ったく……とんでもねぇ威力だな。大将よぉ……」
ヘイラも悪態をつきながらトメスタスの近くまで戻った。
肝心のトメスタスは大笑いをして、
「はっはっは、すまんな! 少しやり過ぎたようだ」
4階の吹き飛んだ建物を見下ろしていた。
結界を壊すだけの目的だった攻撃は、建物の4階まで吹き飛ばしていたのだ。
【羽衣天技】はイグソーブの技ではなく、物理攻撃を可能にする。
本来ならば建物をまるまる飲み干す威力はあったろう技だった、しかし――さらに結界が張ってあった。
「まったく、こんなに俺たちが入りたがっているのに、この引き篭もりどもは……」
「そう簡単にゃあ出てきてくれねぇ。いつものことじゃあないですかい」
ゴキゴキと腕を鳴らしながら、ヘイラはまた斧を出す。
「さてと、ここでちょうど3階までになった。俺たちは3人だし、各階に侵入しようじゃないか」
「おいおい大将。まだ結界張られてんだろ……?」
「そーですよーっ。ねこさんも大変なんだよ〜?」
「あんなの割ればいいではないか。なぁ?」
トメスタスが楽観的に2人に尋ねる。
しあし返答は返ってこなかった。
ミズヤは神楽器を戦いで使わないため、【羽衣天技】を使用するのは厳しい。
ヘイラも、イグソーブ・アックスには本数に限りがある。
大量生産するものではないため、1日の使用は3本、予備に2本の制約されていたのだ。
だから誰もいい返事はせず押し黙る。
「……なんだ、ノリの悪い奴らめ。仕方ない、また俺が――」
トメスタスが刀を振り上げる。
その時だった。
ピカッ
一瞬、閃光のような光がミズヤ達の横を過ぎ去った。
「ん――?」
思わずヘイラが呟く。
呟いた直後、不意に後ろを向いた。
バチバチ……バチ、バチ――
トメスタスの立っていたはずのその場所には、見たことのない少年が立っていた。
逆立った黒い前髪、つり上がった目をしている。
白いワイシャツとスラックスに身を包み、右手には白銀の槍が握られている。
「は〜、ったくよぅ……人がのんびり休憩してるのに、んだよあの竜巻。殺す気かっての」
何かを怒っている少年は空いた左手で頭を掻きながら、辺りを見渡した。
「……お前、瑞っちだろ!!」
少年はミズヤを見つけ、驚嘆した。
目を見開き、歯を噛み締めてから口を開く――
「なんだ! 居るじゃねぇかよ瑞っち! はぁ〜っ、マジ良かったわぁ〜……」
「ぇ……?」
心底ホッとしたように胸をなで下ろす少年。
しかし、それに対してミズヤはキョトンとしていた。
ミズヤ・シュテルロードも、【地球】で生きた響川瑞揶も、彼の目の前にいる少年を見たことがないから。
他に、その少年を見たことがあるのは――
「あっ、ああああああっ――」
南大陸、アルトリーユ王国。
そこの姫君であるサラは、猫の目を通して彼を見、驚愕で口が塞がらず――
「瑛彦ぉぉおおおおおおお!!!!???」
寝室にて叫び声をあげ、一時騒然となるのであった。
◇
「……えーと、どちら様?」
瑛彦の言葉に対し、ミズヤは名前を聞く結果となった。
その様子に瑛彦はピクリと肩が跳ね、胸に手を当てながら言う。
「俺だよ! 瑛彦だよ! 羽村瑛彦!! 小坊の頃から一緒だったじゃねーか!」
「……日本人?」
「は?」
“日本人”という言葉に、瑛彦は首を傾げた。
まるで「何言ってんだコイツ?」というようにバカにした顔である。
「……俺たちは【ヤプタレア】の人間だろ? 日本人ってなんだ?」
「……でも、ハムラアキヒコなんて名前、日本人じゃないと……」
「知らねーよ。あぁ、でも……そうか。お前は俺を知らねーのか……」
ふぅっとため息を吐き出す瑛彦。
彼の事を知るのは、第2生で【ヤプタレア】を生きた“響川瑞揶”と、響川沙羅だけである。
その【ヤプタレア】の記憶がないミズヤは、わからないのだ。
ただ――
「あーあ、お前は“響川瑞揶”じゃねーのか。他人の空似っつーわけかよ……」
「え――?」
ミズヤの第1生の名もまた――
「何故その名を知っている!?」
“響川瑞揶”なのだ。
「……ん?」
ミズヤの反応に瑛彦は疑問符を浮かべる。
ミズヤは瑛彦の知るミズヤではない。
しかし、“響川瑞揶”の名前は知っている。
ならば、幼馴染であった瑛彦にはその理由がわかった。
「お前、霧代って女の――」
その言葉を言い終える刹那、
「ニャァッ!!!」
「ぶっ!!?」
サラが思いっきり、ミズヤの顔面を殴った。
猫の前足をしならせ、腰を曲げての前夜力で繰り出した猫パンチ。
思わずミズヤはサラを離すも、サラは自身の魔法で飛んでいた。
「いっ、痛いよサラ!! 何するの!!?」
「はっ? 何? コイツ沙羅っちなの!!!? ねっ、猫になってんじゃん! ブーッ! うっ、ウケるんだけど……!」
「ニャー……?(なんですってぇ……?)」
瑛彦が腹を抱えて笑っていると、サラの目がギラリと光る。
小さな体ながらも筋肉が膨れ上がり、一気に空を蹴る。
「フニャアッ!(こんの、瑛彦風情がぁっ!)」
「いっ!?」
瞬く間もなくサラは瑛彦の前に立ち、洗練された猫パンチを繰り出した。
ポンッ
だが、その拳は人間の手の前にはまるで叶わないのだった。
「…………」
「…………」
手のひらに押し当てられた肉球、猫の本気のパンチであっても人の手を押し返すほどのものではなく、あっさりと防がれたのだった。
「……ニャァッ!?(ああんっ!?)」
「な、なんだよ?」
「ニャァッ!!(何防いでんのよボケェ!!)」
「ぐぅっ!!?」
即座に蹴りを繰り出し、瑛彦は少々後退する。
一様の動きが終わり、沈黙が夜に戻ってきた。
「……おい、ミズヤ。ソイツはお前の仲間か?」
ヘイラが問うと、ミズヤは首を横に振る。
仲間――そうであるかはまだ判断がつかない。
首を振ったミズヤを見て、瑛彦は強く項垂れた。
「……はぁ。なんだよ、俺の知ってる響川瑞揶じゃなかったか。まぁでも――」
瑛彦は目の前に浮かぶ金色の猫を見る。
サラ――これが響川沙羅だと言うのなら――
「何か、厄介なことに巻き込まれたなぁ……ホントよぉ」
ガリガリと頭を掻き、鋭い目つきで呟くのだった。
世闇を照らした青い炎は消え去り、ヘイラが手にした炎は力を失うように小さくなって斧本体も砕け散った。
「割れちゃった……」
「通常時でさえ、威力はドライブ・イグソーブの数十倍はあるそうだ。ただ、アレ本体は魔力に耐え切れず、一度きりで使い切ってしまう。ヘイラのように巨体でないと十分に扱えんしな、難点が多いのだ」
トメスタスが説明しながら刀を構える。
最後の結界は、この男が割る――。
「さてミズヤ、俺とお前の技はどちらが強いかここで見ておこうじゃないか」
ブォン!と、強い衝撃がトメスタスを中心に波を打った。
緑の柄で出来た長細い刀を高々と掲げ、刀の中心からは黒い渦が発生する。
ミズヤがしたように、刀から沸き起こる黒き竜巻は天にまで登った。
「【羽衣天技】――」
ヘイラは後退しながら、空の星々を埋め尽くす竜巻を見ていた。
だがその魔力の集まりも、刀に収束する――。
「――【一千衝華】!!!」
黒き刀が振るわれ、収束された魔力が結界に向かって飛び出した。
トルネードの衝突は夜に突風の雨を広げた。
豪風が吹き荒れ、ミズヤも風圧に帽子を抑える。
「ふにゃ〜っ!」
可愛い悲鳴をあげながらミズヤは吹き飛び、なんとか空中に止まる。
「ったく……とんでもねぇ威力だな。大将よぉ……」
ヘイラも悪態をつきながらトメスタスの近くまで戻った。
肝心のトメスタスは大笑いをして、
「はっはっは、すまんな! 少しやり過ぎたようだ」
4階の吹き飛んだ建物を見下ろしていた。
結界を壊すだけの目的だった攻撃は、建物の4階まで吹き飛ばしていたのだ。
【羽衣天技】はイグソーブの技ではなく、物理攻撃を可能にする。
本来ならば建物をまるまる飲み干す威力はあったろう技だった、しかし――さらに結界が張ってあった。
「まったく、こんなに俺たちが入りたがっているのに、この引き篭もりどもは……」
「そう簡単にゃあ出てきてくれねぇ。いつものことじゃあないですかい」
ゴキゴキと腕を鳴らしながら、ヘイラはまた斧を出す。
「さてと、ここでちょうど3階までになった。俺たちは3人だし、各階に侵入しようじゃないか」
「おいおい大将。まだ結界張られてんだろ……?」
「そーですよーっ。ねこさんも大変なんだよ〜?」
「あんなの割ればいいではないか。なぁ?」
トメスタスが楽観的に2人に尋ねる。
しあし返答は返ってこなかった。
ミズヤは神楽器を戦いで使わないため、【羽衣天技】を使用するのは厳しい。
ヘイラも、イグソーブ・アックスには本数に限りがある。
大量生産するものではないため、1日の使用は3本、予備に2本の制約されていたのだ。
だから誰もいい返事はせず押し黙る。
「……なんだ、ノリの悪い奴らめ。仕方ない、また俺が――」
トメスタスが刀を振り上げる。
その時だった。
ピカッ
一瞬、閃光のような光がミズヤ達の横を過ぎ去った。
「ん――?」
思わずヘイラが呟く。
呟いた直後、不意に後ろを向いた。
バチバチ……バチ、バチ――
トメスタスの立っていたはずのその場所には、見たことのない少年が立っていた。
逆立った黒い前髪、つり上がった目をしている。
白いワイシャツとスラックスに身を包み、右手には白銀の槍が握られている。
「は〜、ったくよぅ……人がのんびり休憩してるのに、んだよあの竜巻。殺す気かっての」
何かを怒っている少年は空いた左手で頭を掻きながら、辺りを見渡した。
「……お前、瑞っちだろ!!」
少年はミズヤを見つけ、驚嘆した。
目を見開き、歯を噛み締めてから口を開く――
「なんだ! 居るじゃねぇかよ瑞っち! はぁ〜っ、マジ良かったわぁ〜……」
「ぇ……?」
心底ホッとしたように胸をなで下ろす少年。
しかし、それに対してミズヤはキョトンとしていた。
ミズヤ・シュテルロードも、【地球】で生きた響川瑞揶も、彼の目の前にいる少年を見たことがないから。
他に、その少年を見たことがあるのは――
「あっ、ああああああっ――」
南大陸、アルトリーユ王国。
そこの姫君であるサラは、猫の目を通して彼を見、驚愕で口が塞がらず――
「瑛彦ぉぉおおおおおおお!!!!???」
寝室にて叫び声をあげ、一時騒然となるのであった。
◇
「……えーと、どちら様?」
瑛彦の言葉に対し、ミズヤは名前を聞く結果となった。
その様子に瑛彦はピクリと肩が跳ね、胸に手を当てながら言う。
「俺だよ! 瑛彦だよ! 羽村瑛彦!! 小坊の頃から一緒だったじゃねーか!」
「……日本人?」
「は?」
“日本人”という言葉に、瑛彦は首を傾げた。
まるで「何言ってんだコイツ?」というようにバカにした顔である。
「……俺たちは【ヤプタレア】の人間だろ? 日本人ってなんだ?」
「……でも、ハムラアキヒコなんて名前、日本人じゃないと……」
「知らねーよ。あぁ、でも……そうか。お前は俺を知らねーのか……」
ふぅっとため息を吐き出す瑛彦。
彼の事を知るのは、第2生で【ヤプタレア】を生きた“響川瑞揶”と、響川沙羅だけである。
その【ヤプタレア】の記憶がないミズヤは、わからないのだ。
ただ――
「あーあ、お前は“響川瑞揶”じゃねーのか。他人の空似っつーわけかよ……」
「え――?」
ミズヤの第1生の名もまた――
「何故その名を知っている!?」
“響川瑞揶”なのだ。
「……ん?」
ミズヤの反応に瑛彦は疑問符を浮かべる。
ミズヤは瑛彦の知るミズヤではない。
しかし、“響川瑞揶”の名前は知っている。
ならば、幼馴染であった瑛彦にはその理由がわかった。
「お前、霧代って女の――」
その言葉を言い終える刹那、
「ニャァッ!!!」
「ぶっ!!?」
サラが思いっきり、ミズヤの顔面を殴った。
猫の前足をしならせ、腰を曲げての前夜力で繰り出した猫パンチ。
思わずミズヤはサラを離すも、サラは自身の魔法で飛んでいた。
「いっ、痛いよサラ!! 何するの!!?」
「はっ? 何? コイツ沙羅っちなの!!!? ねっ、猫になってんじゃん! ブーッ! うっ、ウケるんだけど……!」
「ニャー……?(なんですってぇ……?)」
瑛彦が腹を抱えて笑っていると、サラの目がギラリと光る。
小さな体ながらも筋肉が膨れ上がり、一気に空を蹴る。
「フニャアッ!(こんの、瑛彦風情がぁっ!)」
「いっ!?」
瞬く間もなくサラは瑛彦の前に立ち、洗練された猫パンチを繰り出した。
ポンッ
だが、その拳は人間の手の前にはまるで叶わないのだった。
「…………」
「…………」
手のひらに押し当てられた肉球、猫の本気のパンチであっても人の手を押し返すほどのものではなく、あっさりと防がれたのだった。
「……ニャァッ!?(ああんっ!?)」
「な、なんだよ?」
「ニャァッ!!(何防いでんのよボケェ!!)」
「ぐぅっ!!?」
即座に蹴りを繰り出し、瑛彦は少々後退する。
一様の動きが終わり、沈黙が夜に戻ってきた。
「……おい、ミズヤ。ソイツはお前の仲間か?」
ヘイラが問うと、ミズヤは首を横に振る。
仲間――そうであるかはまだ判断がつかない。
首を振ったミズヤを見て、瑛彦は強く項垂れた。
「……はぁ。なんだよ、俺の知ってる響川瑞揶じゃなかったか。まぁでも――」
瑛彦は目の前に浮かぶ金色の猫を見る。
サラ――これが響川沙羅だと言うのなら――
「何か、厄介なことに巻き込まれたなぁ……ホントよぉ」
ガリガリと頭を掻き、鋭い目つきで呟くのだった。
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