連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜
第10話:2日目の終わりに
キトリューの対戦後、先ほど無差別戦をしていたメンバーからの志望でクオンを除く全員が1対1の模擬戦をそれぞれ行った。
ケイク、ヘリリアはイグソーブ武器を用いて互角に戦いながらも勝利を勝ち取り、環奈に関しては素手で圧倒してみせた。
環奈、キトリューの力は【赤魔法】なしでも身体能力が高く、鉄柱程度は難なく折ることができ、ドライブ・イグソーブを真っ二つにして試合終了という事態になる。
「こんなこと初めてだわ……」
「はっはっはー。我、最強のコンビニ店員なり〜」
「……?」
「……伝わらないのは寂しいね」
対戦相手の人とそんな会話をしたそうな。
一方、ミズヤはというと……
ヒュン!
「にゃーっ!?」
ブオン!
「ひーーッ!?」
そんな感じで叫びながら避けていると、
「ニャーッ!(真面目にやらんかーっ!)」
「ひゃーっ!!?」
サラにぶたれてノックアウト。
クオン達唯一の敗北であるが、西軍側の兵も「一撃も当てられなかった……」と落ち込んでいたらしい。
西軍の兵達は勿論それぞれが強く、総戦力で考えればバスレノス本拠地の城と互角に渡り合えるだろう。
しかしミズヤ、環奈、キトリュー等はそれぞれが魔破連合でいうSクラスハンターと同等以上の実力があるのだ。
力、使える魔法の種類、技能。
キトリューに劣るとも勝らぬ環奈、【羽衣天技】を使い、全色の魔法を使えるミズヤ。
今回の遠征メンバーは、“強過ぎる”のであった。
そのため――
「ミズヤさん! 次は本気でかかってきてください!」
「カンナさん、対策を考えたのでもう一戦いいですか?」
この2人はずっと戦いを申し込まれ、環奈はテキトーに相手をし、ミズヤもイグソーブ武器で(本来の使い方がわからないから)そのまま殴るなどして戦っていた。
キトリューにおいてはマナーズよりも強かったという事で誰からも声を掛けられず、ケイクやヘリリアはボチボチ模擬戦を続けるのだった。
1人残ったクオンは、じっと戦いを見て思う。
自分も戦えるようになりたい――姉も兄も戦っているのに、周りにばかり戦わせているのは嫌だ、と。
「……キトリュー殿、お時間よろしいですか?」
「む……?」
する事もなく基地の入り口に寄り掛かっていたキトリューにクオンは声を掛けた。キトリューはぼんやりしながら声を返すと、即座にクオンが頭を下げる。
「お願いします! 私を少し、鍛えてください!」
「……別に構いませぬが、怪我をされても知りませんよ?」
「はい。折角軍基地に来たのに、私も何もしないわけにはいきませんから!」
「……。了解です、相手になりましょう」
そうして彼女もまた、戦いに身を染めるのであった。
彼女が自ら戦いを学ぶ姿勢を後ろから見て、ヤーシャはそっと微笑むのであった。
「ヤーシャさん、仕事しろよ」
「うっさい負け犬。アタシの代わりにやりなさいよ」
「…………」
マナーズの一言も一蹴し、今日の訓練は続く。
◇
夜になると、ミズヤはサラと共に教会へ赴いていた。
目的はあの猫の楽園で戯れるためで、教会でにゃーにゃー言いながら猫たちを撫で回している。
「ひゃーっ、みんな猫さんだね〜っ」
「ニャーニャーッ」
「ミャーッ」
本堂でたくさんの猫を撫で回し、近くにいるナルーは耳を閉じて既に眠り、その上にも猫が重なって眠っている。
「ニャーッ(ひまー……)」
サラは暇そうに丸くなり、他に寄ってくる猫にはビシビシと尻尾を振って追い払っていた。
ミズヤ以外はあまり相手にしたくないのであり、というか他の猫にミズヤを取られてちょっと嫉妬しているのが実情である。
「キャーッ! ねこさんーっ!」
女子特有の黄色い声を出しながらジタバタ暴れるミズヤ。
そんな彼の様子を、教会の住人たる2人が見守っていた。
「……なんか、ただの子供にしか見えないな。本当にクオン様の側近なんだろうか?」
「まぁまぁ、アナタ……可愛いからいいじゃありませんか」
「そういう問題か? 俺らに害があるわけじゃないし、構わないけど……」
いろいろと複雑な思いを抱えながらも、ずっと遊んでいるミズヤを眺めているのだった。
◇
一方、西軍拠点ではクオンとキトリュー、環奈がクオンの個室にて話をしていた。
「……そうですか。自身の故郷ですものね、行きたいのもわかりますし、許可しますよ」
ベッドに座ったクオンが目の前に立つ2人に頷いてみせ、環奈達はお互いを見あって笑う。
彼らが第一生で生まれた西大陸は行くため、許可を取りに来ていたのだ。
「ありがとうございますーっ。んじゃあキトリュー、行こっか」
「深夜に行っても、何も面白くないだろうがな……」
「ウチらが戻る理由は、それじゃあないっしょ?」
「…………」
「……?」
2人の会話がわからず、クオンは顔を顰めた。
しかしながら、2人の居たハヴレウス公国はとうに滅びており、理由を詮索するのは無粋なので行わない。
「貴方達は修行の必要もないでしょうし、ゆっくりしてきてください」
「はーいっ」
「心得ました」
2人は短く返し、礼をして部屋を出た。
クオンは1人になると、靴を脱いでベッドへ横になった。
「……はぁ。気を張りすぎなんですかね……」
言葉をこぼしながら、仰向けになってジャージのジッパーを外す。
もぞもぞと寝返りを打ちながらジャージを脱ぎ捨て、中に着ていた白いシャツも脱ぐ。
上が下着だけになると、再び靴を履いてハンガーラックまで歩き、ジャージを掛けて寝巻きを取る。
スルスルとネグリジェを白い肌に通し、ズボンも脱いでハンガーに掛ける。
「……はーっ」
ゆっくりと後ろを向いて、とぼとぼとベッドまで戻る。
体をベッドに投げ出すと、優しく押し返しながらも受け止められた。
クオンは疲れていた。
自分が皇女だから、みんなの先立って頑張ろうと書類作業も頑張った。
イグソーブ武器でキトリューと何度も戦い、1回も勝てなくても必死に頑張った。
みんなのために、その心を持って。
国のために、自分も何かしようとして。
彼女はそうして、心をすり減らしていたのだ。
「……むぅ」
唸りながらベッドの上で半回転、また半回転してまっすぐうつ伏せになる。
眠たげな瞳は白い枕を見つめ、熱の篭る掛け布団の暖かさに、目を閉じそうになる。
しかし、クオンは思った。
この暖かさよりももっと暖かいものが、自分を慰めてくれたと。
(おいで〜っ、おいで〜っ)
優しい声で招き、抱きしめてくれた、あのミズヤの顔が思い浮かぶ。
いつものようにニコニコと笑った少年に抱きしめられ、あの時は、もっと暖かかったと――。
「寂しくはないつもりなのに……」
思わず言葉が出る。
寂しくはない、何故なら彼女には愉快な側近がいるのだから。
ならこの疲れはなんなのか。
その答えはよくわからないけれど、唯一彼女がわかることは、そう……
(またああやって、慰められたい……)
子供として当然の願望、彼女もまだ13の少女なのだから。
抱きしめられて、頑張ったねって言われればそれで良い。
「ミズヤ……」
こんな恥ずかしいことを頼めるのは、あの少年しか思い浮かばなかった。
クオンは枕を手に取り、すっぽりと胸に埋めて抱きしめる。
それこそ寂しさを補うような仕草だが、彼女は気に留めなかった。
毎日やることがって忙しい日々、それでもクオンは小さな希望を胸に、クスリと笑うのだった――。
「クオン様!!」
「!?」
突然部屋の扉が開かれ、ヤーシャが押し入ってきた。
クオンは思わぬ出来事にすぐさま起き上がり、靴を履いて駆け寄った。
「ヤーシャ、何事ですか……?」
「レジスタンスが攻めてきました! 急いで建物を出てください!」
「なんですって!?」
ヤーシャの口から飛び出した言葉に、クオンの顔は驚愕に染まる。
まだ眠るには早いようだ――。
ケイク、ヘリリアはイグソーブ武器を用いて互角に戦いながらも勝利を勝ち取り、環奈に関しては素手で圧倒してみせた。
環奈、キトリューの力は【赤魔法】なしでも身体能力が高く、鉄柱程度は難なく折ることができ、ドライブ・イグソーブを真っ二つにして試合終了という事態になる。
「こんなこと初めてだわ……」
「はっはっはー。我、最強のコンビニ店員なり〜」
「……?」
「……伝わらないのは寂しいね」
対戦相手の人とそんな会話をしたそうな。
一方、ミズヤはというと……
ヒュン!
「にゃーっ!?」
ブオン!
「ひーーッ!?」
そんな感じで叫びながら避けていると、
「ニャーッ!(真面目にやらんかーっ!)」
「ひゃーっ!!?」
サラにぶたれてノックアウト。
クオン達唯一の敗北であるが、西軍側の兵も「一撃も当てられなかった……」と落ち込んでいたらしい。
西軍の兵達は勿論それぞれが強く、総戦力で考えればバスレノス本拠地の城と互角に渡り合えるだろう。
しかしミズヤ、環奈、キトリュー等はそれぞれが魔破連合でいうSクラスハンターと同等以上の実力があるのだ。
力、使える魔法の種類、技能。
キトリューに劣るとも勝らぬ環奈、【羽衣天技】を使い、全色の魔法を使えるミズヤ。
今回の遠征メンバーは、“強過ぎる”のであった。
そのため――
「ミズヤさん! 次は本気でかかってきてください!」
「カンナさん、対策を考えたのでもう一戦いいですか?」
この2人はずっと戦いを申し込まれ、環奈はテキトーに相手をし、ミズヤもイグソーブ武器で(本来の使い方がわからないから)そのまま殴るなどして戦っていた。
キトリューにおいてはマナーズよりも強かったという事で誰からも声を掛けられず、ケイクやヘリリアはボチボチ模擬戦を続けるのだった。
1人残ったクオンは、じっと戦いを見て思う。
自分も戦えるようになりたい――姉も兄も戦っているのに、周りにばかり戦わせているのは嫌だ、と。
「……キトリュー殿、お時間よろしいですか?」
「む……?」
する事もなく基地の入り口に寄り掛かっていたキトリューにクオンは声を掛けた。キトリューはぼんやりしながら声を返すと、即座にクオンが頭を下げる。
「お願いします! 私を少し、鍛えてください!」
「……別に構いませぬが、怪我をされても知りませんよ?」
「はい。折角軍基地に来たのに、私も何もしないわけにはいきませんから!」
「……。了解です、相手になりましょう」
そうして彼女もまた、戦いに身を染めるのであった。
彼女が自ら戦いを学ぶ姿勢を後ろから見て、ヤーシャはそっと微笑むのであった。
「ヤーシャさん、仕事しろよ」
「うっさい負け犬。アタシの代わりにやりなさいよ」
「…………」
マナーズの一言も一蹴し、今日の訓練は続く。
◇
夜になると、ミズヤはサラと共に教会へ赴いていた。
目的はあの猫の楽園で戯れるためで、教会でにゃーにゃー言いながら猫たちを撫で回している。
「ひゃーっ、みんな猫さんだね〜っ」
「ニャーニャーッ」
「ミャーッ」
本堂でたくさんの猫を撫で回し、近くにいるナルーは耳を閉じて既に眠り、その上にも猫が重なって眠っている。
「ニャーッ(ひまー……)」
サラは暇そうに丸くなり、他に寄ってくる猫にはビシビシと尻尾を振って追い払っていた。
ミズヤ以外はあまり相手にしたくないのであり、というか他の猫にミズヤを取られてちょっと嫉妬しているのが実情である。
「キャーッ! ねこさんーっ!」
女子特有の黄色い声を出しながらジタバタ暴れるミズヤ。
そんな彼の様子を、教会の住人たる2人が見守っていた。
「……なんか、ただの子供にしか見えないな。本当にクオン様の側近なんだろうか?」
「まぁまぁ、アナタ……可愛いからいいじゃありませんか」
「そういう問題か? 俺らに害があるわけじゃないし、構わないけど……」
いろいろと複雑な思いを抱えながらも、ずっと遊んでいるミズヤを眺めているのだった。
◇
一方、西軍拠点ではクオンとキトリュー、環奈がクオンの個室にて話をしていた。
「……そうですか。自身の故郷ですものね、行きたいのもわかりますし、許可しますよ」
ベッドに座ったクオンが目の前に立つ2人に頷いてみせ、環奈達はお互いを見あって笑う。
彼らが第一生で生まれた西大陸は行くため、許可を取りに来ていたのだ。
「ありがとうございますーっ。んじゃあキトリュー、行こっか」
「深夜に行っても、何も面白くないだろうがな……」
「ウチらが戻る理由は、それじゃあないっしょ?」
「…………」
「……?」
2人の会話がわからず、クオンは顔を顰めた。
しかしながら、2人の居たハヴレウス公国はとうに滅びており、理由を詮索するのは無粋なので行わない。
「貴方達は修行の必要もないでしょうし、ゆっくりしてきてください」
「はーいっ」
「心得ました」
2人は短く返し、礼をして部屋を出た。
クオンは1人になると、靴を脱いでベッドへ横になった。
「……はぁ。気を張りすぎなんですかね……」
言葉をこぼしながら、仰向けになってジャージのジッパーを外す。
もぞもぞと寝返りを打ちながらジャージを脱ぎ捨て、中に着ていた白いシャツも脱ぐ。
上が下着だけになると、再び靴を履いてハンガーラックまで歩き、ジャージを掛けて寝巻きを取る。
スルスルとネグリジェを白い肌に通し、ズボンも脱いでハンガーに掛ける。
「……はーっ」
ゆっくりと後ろを向いて、とぼとぼとベッドまで戻る。
体をベッドに投げ出すと、優しく押し返しながらも受け止められた。
クオンは疲れていた。
自分が皇女だから、みんなの先立って頑張ろうと書類作業も頑張った。
イグソーブ武器でキトリューと何度も戦い、1回も勝てなくても必死に頑張った。
みんなのために、その心を持って。
国のために、自分も何かしようとして。
彼女はそうして、心をすり減らしていたのだ。
「……むぅ」
唸りながらベッドの上で半回転、また半回転してまっすぐうつ伏せになる。
眠たげな瞳は白い枕を見つめ、熱の篭る掛け布団の暖かさに、目を閉じそうになる。
しかし、クオンは思った。
この暖かさよりももっと暖かいものが、自分を慰めてくれたと。
(おいで〜っ、おいで〜っ)
優しい声で招き、抱きしめてくれた、あのミズヤの顔が思い浮かぶ。
いつものようにニコニコと笑った少年に抱きしめられ、あの時は、もっと暖かかったと――。
「寂しくはないつもりなのに……」
思わず言葉が出る。
寂しくはない、何故なら彼女には愉快な側近がいるのだから。
ならこの疲れはなんなのか。
その答えはよくわからないけれど、唯一彼女がわかることは、そう……
(またああやって、慰められたい……)
子供として当然の願望、彼女もまだ13の少女なのだから。
抱きしめられて、頑張ったねって言われればそれで良い。
「ミズヤ……」
こんな恥ずかしいことを頼めるのは、あの少年しか思い浮かばなかった。
クオンは枕を手に取り、すっぽりと胸に埋めて抱きしめる。
それこそ寂しさを補うような仕草だが、彼女は気に留めなかった。
毎日やることがって忙しい日々、それでもクオンは小さな希望を胸に、クスリと笑うのだった――。
「クオン様!!」
「!?」
突然部屋の扉が開かれ、ヤーシャが押し入ってきた。
クオンは思わぬ出来事にすぐさま起き上がり、靴を履いて駆け寄った。
「ヤーシャ、何事ですか……?」
「レジスタンスが攻めてきました! 急いで建物を出てください!」
「なんですって!?」
ヤーシャの口から飛び出した言葉に、クオンの顔は驚愕に染まる。
まだ眠るには早いようだ――。
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