連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜
第2話:軋轢
「今日も平和だね〜っ」
「ニャーッ」
東からの曙光を浴びながら、ミズヤはサラを抱いて城の廊下を歩いていた。
魔法道具となったボードはミズヤの懐にしまってあり、今は色の変化もない。
「あっ、ラナさんだ。あんまり近付きたくないねっ」
「ミャー?」
「僕、あの人苦手だよ〜っ……」
廊下の曲がり角を行った先で、次の突き当たりで誰かと話すラナを見つけたミズヤ。
ラナはジャージに鉄製の腰巻に携えたドライブ・イグソーブ2丁が見え、自主訓練をしたのか、これからするのかといった所だろう。
ミズヤはくるりと来た道を返し、またテクテクと歩き始めた。
「外で演奏でもしたいねーっ。朝食が終わる時間が来たら、外で弾きに行こうね、サラっ」
「ニャーッ」
「サラは何かしたい事ある?」
ふるふると首を横に振るサラ。
ミズヤは短く「そっか」と返し、城内の散歩を続けた。
すると、またもや知ってる人物に出会う。
 
「おお、ミズヤ。奇遇だな」
声を掛けたのはトメスタスだった。
寝間着のままで、片手をポケットに突っ込みながら、スリッパを進ませてミズヤの方に寄ってくる。
髪もボサボサで、寝起きですぐ来た事が伺えた。
ここまでズボラだと、ミズヤも引いてしまった。
「と、トメスタスさん……。せめて髪ぐらい整えて来てくださいよ……」
「はっ? あー……そうだよな。お前知ってるか? 俺達皇族が付けてる髪飾り、アレは皇族の証だから付けてなきゃいけないんだ」
「今、付けてないじゃないですかぁ……」
「アレ留めにくいし、面倒なんだよ。それより、一緒に朝メシ食おうじゃないか。まだお前と一緒にメシ食ったこたないぞ?」
「そんな軽いノリで皇族とご飯食べるって、いいのかなぁ〜……」
と言いつつも、ミズヤもクオンとはよくご飯を食べるのだった。
それはケイクやヘリリアも同席する事が多いが、ケイクに次いでクオンと喋るのが多いため、フレンドリーな皇族なのはお察しである。
トメスタスはミズヤの肩を掴み、笑顔で言う。
「よし! 今日は俺が奢るぞ!! 付いて来い!」
「はーいっ」
「ニャーッ」
そんなユルい感じで、2人と1匹は食堂へ向かうのだった。
◇
「で、クオンはどうなんだ? 男は出来たか?」
「出来てないと思いますにゃーっ。もぐもぐ」
むしゃむしゃと胡麻ドレッシングのかかった千切りキャベツを頬張り、横に居るトメスタスの質問に答える。
ミズヤも四六時中クオンと居るわけではなく、クオンが時間を見計らって男と密会して居る可能性は、なきにしもあらずなのだ。
無論、クオンはそんな事をしないし、隠し事はすぐ顔に出るから隠し通すこともできないが。
「ふむ……お前は確か、その猫がアルトリーユの王女で、前世の恋人だったか?」
「そうですよーっ。ねぇ、サラ?」
「ニャーッ」
ミズヤの前でホッケを食べるサラが顔を上げて返事を返す。
トメスタスはまた唸り、箸を茶碗の上に置いて腕を組んだ。
「だとすると……ケイクか。アイツは堅いからなぁ……クオンも堅いし、恋愛が進まんだろう」
「クオンの事より、トメスタスさんはどーなんですか? 女性と恋愛とかしてます?」
「いや、俺は西大陸の姫と婚約しているからな。俺は戦力だし、バスレノスから出られなくて中々会えんのだがなぁ……」
「そうなんですか〜」
「クオンも他国の王子だか殿下だか、名前だけ偉そうな奴に引き取られてしまうのか……。とも思ったが、我が偉大な両親は娘が第二王女という弱い立場だからって政略結婚させるつもりはないそうでな。この国の貴族なら結婚できる可能性もあるぞ」
「ほぇ〜っ」
政略結婚と聞いてもパッとせず、ミズヤは味噌汁を啜りにながら適当に返すのだった。
結婚といえば、もう1人居る。
「ラナさんはどーなんですか?」
「あぁ、姉上はなぁ……。あの性格だし、本人は一生軍人とか抜かしてるし、無理だろう。鍛える事しか知らん脳筋だからな」
「……確かに、高飛車な性格で強さを求めるだけの人だけど、美人だし、縁談とかは来るんじゃ……?」
「縁談はまぁ、来るぞ。弱小国がバスレノスと連携を図ろうと、ウチの行き遅れを引き取りたいと躍起になるが、これは全てラナの目につく前に国が処分するからな。だってなぁ……何の意味もなく弱小国と連携取ったって仕方ないだろ? そんなわけで、哀れな我が姉は日々鍛錬ばかり積むメスゴリラに成長し――」
メキョッ!!!
「――おおふっ」
ズダンッ!!!
トメスタスは白目を剥きながら椅子ごと仰向けに倒された。
おデコに青い痣ができ、泡を吹いている。
彼はただ、頭を殴られただけだ。
ありえない音がしたが、頭を殴られたのだ。
「……悪かったな、メスゴリラで」
トメスタスを殴った拳をプラプラさせながら、ラナはトメスタスのお腹を踏みつける。
哀れな皇族の姿にミズヤは苦笑するのみだが、そんなミズヤの隣にラナは腰掛ける。
「私はこの愚弟のように、グズでろくでなしな人間が嫌いだ。しっかりしていない、真面目じゃない、それだけで嫌気がさす。私達は皇族、国の民が不安を抱えているというのにお気楽でいる事は許されない。クオンでさえ国に対して真摯に向き合っているというのにな」
「クオンは気負い過ぎですよねぇ……。今度、東の街に調査に行こうって言われました。自ら行こうとするんだから、凄いですよね」
「無茶し過ぎなんだ……。それで何回も交戦している。お前が居れば体は安全だと思うが、心はわからん。悩みがありそうだったら相談に乗ってやれ」
「はい……」
ラナの言葉を聞き、ミズヤはゆっくり頷いた。
その顔にはいつもと違う、少し複雑な笑顔を見せている。
クオンには相談に乗ってもらってばかりで、ミズヤが相談に乗る事はなかったから。
考えてみると、ミズヤの見るクオンはいつだって国や人の事を考えていた。
国のため、ミズヤのため、自分の事は後回し。
そんなクオンを喜ばせるには、やっぱりお菓子かなって、彼は思うのだった。
「でも、ラナさんも意外と兄弟想いなんですね」
「……そう見えるか?」
ミズヤの言葉が意外だったのか、ラナは目を見開いて聞き返した。
ミズヤはその反応に首を傾げてしまうも、素直な思いをラナに伝える。
「ラナさん、よくクオンのこと心配してるし、トメスタスさんともよく絡んでますよね?」
「クオンの事はそうだが、トメスに関しては一方的に殴ってるだけだ。コイツがくだらない事ばかりするからな」
「それが、兄弟のスキンシップなんじゃないですか?」
「…………」
正論とも伺えるミズヤの言葉に、ラナは考え込んだ。
自身がトメスタスをどう思っているのか――それについては、真剣に考える必要がありそうだったから。
「……ひとまず、朝食を取ってくる。ここの席は空けておいてくれ」
「はーいっ。じゃあサラ、ここで待機っ」
ラナが席を立った後に、ミズヤはサラを持ち上げてポンっと置いた。
気絶したままのトメスタスを踏み付けながら、ラナは朝から浮かない顔で朝食を取りに向かったのだった。
「ニャーッ」
東からの曙光を浴びながら、ミズヤはサラを抱いて城の廊下を歩いていた。
魔法道具となったボードはミズヤの懐にしまってあり、今は色の変化もない。
「あっ、ラナさんだ。あんまり近付きたくないねっ」
「ミャー?」
「僕、あの人苦手だよ〜っ……」
廊下の曲がり角を行った先で、次の突き当たりで誰かと話すラナを見つけたミズヤ。
ラナはジャージに鉄製の腰巻に携えたドライブ・イグソーブ2丁が見え、自主訓練をしたのか、これからするのかといった所だろう。
ミズヤはくるりと来た道を返し、またテクテクと歩き始めた。
「外で演奏でもしたいねーっ。朝食が終わる時間が来たら、外で弾きに行こうね、サラっ」
「ニャーッ」
「サラは何かしたい事ある?」
ふるふると首を横に振るサラ。
ミズヤは短く「そっか」と返し、城内の散歩を続けた。
すると、またもや知ってる人物に出会う。
 
「おお、ミズヤ。奇遇だな」
声を掛けたのはトメスタスだった。
寝間着のままで、片手をポケットに突っ込みながら、スリッパを進ませてミズヤの方に寄ってくる。
髪もボサボサで、寝起きですぐ来た事が伺えた。
ここまでズボラだと、ミズヤも引いてしまった。
「と、トメスタスさん……。せめて髪ぐらい整えて来てくださいよ……」
「はっ? あー……そうだよな。お前知ってるか? 俺達皇族が付けてる髪飾り、アレは皇族の証だから付けてなきゃいけないんだ」
「今、付けてないじゃないですかぁ……」
「アレ留めにくいし、面倒なんだよ。それより、一緒に朝メシ食おうじゃないか。まだお前と一緒にメシ食ったこたないぞ?」
「そんな軽いノリで皇族とご飯食べるって、いいのかなぁ〜……」
と言いつつも、ミズヤもクオンとはよくご飯を食べるのだった。
それはケイクやヘリリアも同席する事が多いが、ケイクに次いでクオンと喋るのが多いため、フレンドリーな皇族なのはお察しである。
トメスタスはミズヤの肩を掴み、笑顔で言う。
「よし! 今日は俺が奢るぞ!! 付いて来い!」
「はーいっ」
「ニャーッ」
そんなユルい感じで、2人と1匹は食堂へ向かうのだった。
◇
「で、クオンはどうなんだ? 男は出来たか?」
「出来てないと思いますにゃーっ。もぐもぐ」
むしゃむしゃと胡麻ドレッシングのかかった千切りキャベツを頬張り、横に居るトメスタスの質問に答える。
ミズヤも四六時中クオンと居るわけではなく、クオンが時間を見計らって男と密会して居る可能性は、なきにしもあらずなのだ。
無論、クオンはそんな事をしないし、隠し事はすぐ顔に出るから隠し通すこともできないが。
「ふむ……お前は確か、その猫がアルトリーユの王女で、前世の恋人だったか?」
「そうですよーっ。ねぇ、サラ?」
「ニャーッ」
ミズヤの前でホッケを食べるサラが顔を上げて返事を返す。
トメスタスはまた唸り、箸を茶碗の上に置いて腕を組んだ。
「だとすると……ケイクか。アイツは堅いからなぁ……クオンも堅いし、恋愛が進まんだろう」
「クオンの事より、トメスタスさんはどーなんですか? 女性と恋愛とかしてます?」
「いや、俺は西大陸の姫と婚約しているからな。俺は戦力だし、バスレノスから出られなくて中々会えんのだがなぁ……」
「そうなんですか〜」
「クオンも他国の王子だか殿下だか、名前だけ偉そうな奴に引き取られてしまうのか……。とも思ったが、我が偉大な両親は娘が第二王女という弱い立場だからって政略結婚させるつもりはないそうでな。この国の貴族なら結婚できる可能性もあるぞ」
「ほぇ〜っ」
政略結婚と聞いてもパッとせず、ミズヤは味噌汁を啜りにながら適当に返すのだった。
結婚といえば、もう1人居る。
「ラナさんはどーなんですか?」
「あぁ、姉上はなぁ……。あの性格だし、本人は一生軍人とか抜かしてるし、無理だろう。鍛える事しか知らん脳筋だからな」
「……確かに、高飛車な性格で強さを求めるだけの人だけど、美人だし、縁談とかは来るんじゃ……?」
「縁談はまぁ、来るぞ。弱小国がバスレノスと連携を図ろうと、ウチの行き遅れを引き取りたいと躍起になるが、これは全てラナの目につく前に国が処分するからな。だってなぁ……何の意味もなく弱小国と連携取ったって仕方ないだろ? そんなわけで、哀れな我が姉は日々鍛錬ばかり積むメスゴリラに成長し――」
メキョッ!!!
「――おおふっ」
ズダンッ!!!
トメスタスは白目を剥きながら椅子ごと仰向けに倒された。
おデコに青い痣ができ、泡を吹いている。
彼はただ、頭を殴られただけだ。
ありえない音がしたが、頭を殴られたのだ。
「……悪かったな、メスゴリラで」
トメスタスを殴った拳をプラプラさせながら、ラナはトメスタスのお腹を踏みつける。
哀れな皇族の姿にミズヤは苦笑するのみだが、そんなミズヤの隣にラナは腰掛ける。
「私はこの愚弟のように、グズでろくでなしな人間が嫌いだ。しっかりしていない、真面目じゃない、それだけで嫌気がさす。私達は皇族、国の民が不安を抱えているというのにお気楽でいる事は許されない。クオンでさえ国に対して真摯に向き合っているというのにな」
「クオンは気負い過ぎですよねぇ……。今度、東の街に調査に行こうって言われました。自ら行こうとするんだから、凄いですよね」
「無茶し過ぎなんだ……。それで何回も交戦している。お前が居れば体は安全だと思うが、心はわからん。悩みがありそうだったら相談に乗ってやれ」
「はい……」
ラナの言葉を聞き、ミズヤはゆっくり頷いた。
その顔にはいつもと違う、少し複雑な笑顔を見せている。
クオンには相談に乗ってもらってばかりで、ミズヤが相談に乗る事はなかったから。
考えてみると、ミズヤの見るクオンはいつだって国や人の事を考えていた。
国のため、ミズヤのため、自分の事は後回し。
そんなクオンを喜ばせるには、やっぱりお菓子かなって、彼は思うのだった。
「でも、ラナさんも意外と兄弟想いなんですね」
「……そう見えるか?」
ミズヤの言葉が意外だったのか、ラナは目を見開いて聞き返した。
ミズヤはその反応に首を傾げてしまうも、素直な思いをラナに伝える。
「ラナさん、よくクオンのこと心配してるし、トメスタスさんともよく絡んでますよね?」
「クオンの事はそうだが、トメスに関しては一方的に殴ってるだけだ。コイツがくだらない事ばかりするからな」
「それが、兄弟のスキンシップなんじゃないですか?」
「…………」
正論とも伺えるミズヤの言葉に、ラナは考え込んだ。
自身がトメスタスをどう思っているのか――それについては、真剣に考える必要がありそうだったから。
「……ひとまず、朝食を取ってくる。ここの席は空けておいてくれ」
「はーいっ。じゃあサラ、ここで待機っ」
ラナが席を立った後に、ミズヤはサラを持ち上げてポンっと置いた。
気絶したままのトメスタスを踏み付けながら、ラナは朝から浮かない顔で朝食を取りに向かったのだった。
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