連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜

川島晴斗

第11話:模擬戦③

 それから5セットほど同じ模擬戦を続け、休憩に入る。
 模擬戦は全てミズヤが勝利した。
 彼は武器を本来考えないような使い方を行うため、その動きについていくこともできず、しかも魔法系統最強の【無色魔法】を使うため、同じ武器を持っていたとしても勝てないのだ。

 かといって、他の3人が弱いわけではない。
 ある程度の攻撃は対応できるし、連携だって無いわけじゃない。
 ただ、ミズヤ・シュテルロードという人間が強過ぎるだけで――。

「何が悪いんですかね……」
「クオンは攻撃に集中し過ぎると、周りが見えなくなるからね。それだけ直ればね〜っ」
「むうっ……」

 勝者からのアドバイスを聞き、水の入ったボトルを置いて寝そべった。
 それは反抗する子供のようであるが、負けて悔しいと思う少女が可愛くてミズヤも笑う。

「お前いっそ、【無色魔法】も禁止でいいんじゃないか?」
「それでも勝てなかったでしょ……。単純に剣戟、回避力、俊敏性、状況把握力で君達に勝ってるんだからね」
「……その言い方ムカつくな」
「え〜?」

 イラついたケイクに空のボトルを投げられ、難なく避けるミズヤ。
 彼の言うことは間違いでなく、単純にミズヤはポテンシャルが高く、3対1でも勝ててしまうだけである。
 現に、一番動いているはずのミズヤは疲れも見せずにサラを抱えているのだから。

「ヘリリアさんは不意打ちに弱いから、そこは訓練してね」
「うう……ど、どうすれば……」
「単純にイメージトレーニングしかないかなぁ……」

 そうして全員にアドバイスを与え、ミズヤはサラを撫で回す。
 戦うよりも動物と戯れている方が、彼の性に合っていた。

「……さてぇ、みんな休憩したよね? 次やるよーっ」

 ミズヤの合図に、クオンが立ち上がる。
 次は1対1の魔法戦だった。
 この戦いはミズヤが固定で、他3人がローテーションする形になっている。
 魔法戦は危険であり、死んでも大丈夫なミズヤだけは固定で、手加減もする。
 残る3人は殺す気で掛かるものの、勝率は低かった。

「今日は、勝ちますからね」
「どうですかにゃ〜?」

 ミズヤもサラを置き、広間中央へと歩いていった。
 クオンもその後に続き、右手には刀を、左手には長い布を持っている。
 彼女の持ち物から、戦いはこれが本番なのだというのは明らかだった。

「……いつでもどうぞ」

 ミズヤは右手に刀を、左手にはドライブ・イグソーブを持ち、クオンに向けて呟いた。
 その声はいつもの優しいトーンではなく、暗く、威圧するような声。
 これは仮にも殺し合い、ミズヤも本気を見せて戦うのだった。

 クオンは緑色の布を首に掛け、刀を両腕で持つ。
 2つの武器を手にするミズヤと戦うには細い1つの剣など役に立たないように思われるが――

「【羽衣天韋】」

 伝説の武器を使う以上、弱いわけがないのだった。
 首に掛けた布が羽衣のように彼女の身に浮遊し、彼女自身も飛び上がった。

 ――ギィン!

「ぐうっ……!」

 だが、飛んだ直後、彼女の元に飛来したミズヤが刀を振るう。
 10数mはあった距離を一瞬で詰め、斬撃を浴びせたのだ。
 クオンは辛うじて刀で防ぎ、続くドライブ・イグソーブの刃をも受け止める。

 甲高い金属音が鳴り響いた。
 2つの刀が弾き合い、クオンは後退して距離を取る。
 そこへ間髪入れずにミズヤは衝撃波を放つも、クオンは最小限な動きで避け続け、

「【青龍技】【静音吸引せいおんきゅういん】」

 尚且つ、一部の衝撃波を刀で受け、魔力吸収まで行うのだった。
 ドライブ・イグソーブの衝撃波が無駄だと判断したミズヤは、手のひらを前に出して30m四方のパネルを生み出す。

「【無色魔法カラークリア】【力の四角形フォース・スクエア】」

 感情のない声で魔法名を呟くと、パネルからは目に見えない空気を押し出す圧力が現れる。
 ゴウット空気が唸り、クオンを吹き飛ばさんと迫った。

「【緑魔法カラーグリーン】【鎌鼬ウィーズルズ・スラッシュ】」

 対して、クオンは風を生み出した。
 あらゆるものを切り裂く暴風をもってミズヤの【力の四角形フォース・スクエア】に対抗する。

 風と空気、見えない攻撃同士がぶつかり合う。
 しかし、【無色魔法カラークリア】と【緑魔法カラーグリーン】を使う2人には空気の流れが感じ取れた。

(ッ――やはり、魔法の威力では勝てませんか)

 徐々に押されている事を感知したクオンは次の手を思考する。
 この【力の四角形フォース・スクエア】を避けて左右に旋回しても魔法を撃たれてしまう。
 一旦下がってもそれは同じ。
 ならば、

(攻める――!)

 クオンは考えをまとめ上げると同時に、魔法を解除して左回りに旋回した。
 攻撃が無意味になってミズヤが【力の四角形フォース・スクエア】を解きながら迫る。

(逃げない……?)

 一見、逃げながら遠距離攻撃で仕留めにくるものだと思っていたクオンには意外な事で、それでも特攻をやめようとはしなかった。

「【黄魔法カラーイエロー】【雷撃サンダー】!」
「【空天意】」

 雷撃を放って迫るクオン、透過して避けるミズヤ。
 2人の距離はゼロになり――

 ギィン!

 再び2つの刃が交じり合った。
 そしてすぐに突き出されるミズヤのドライブ・イグソーブの刀を躱す。
 目を見開き、相手の動作を一挙一動見逃さずに対応していく。
 剣戟、時には蹴りを放つミズヤの攻撃を躱していく。
 逆にクオンの攻撃もまるで当たる事なく、

 冷めたミズヤの視線は変わることが無かった。

 それはクオンが初めて彼と出会った時に見た瞳と同じで――

(もう怖くないですけどね――!)

 ギャリンと刃が鳴り、ミズヤを推していく。
 クオンは両手、ミズヤは片腕という力の差が生んだものだ。
 逆にドライブ・イグソーブを向けてくるも、クオンはそのデカイ重機を蹴り、防いで見せた。

「はぁ……?」

 そこで初めて、ミズヤの表情が変わった。
 その反応こそ、今日初めて彼の気を引いたものだった。
 普段は絶対に見せない威嚇するような態度、それが殺人鬼キラーとなったミズヤの状態。
 クオンは臆することなく、彼の腹筋めがけて膝を入れる。

 ――刹那、クオンを襲ったのは静寂だった。
 音がなく、寂しく、何も感じない静寂。

「え――?」

 驚きが声に出て、そこで初めて自覚した。

「――勝てると思ったの?」

 静寂を打ち破る、暗鬱とした声。
 その声を発した彼の魔法刀に、体を貫かれていることに。

「……え、あっ……」

 後から襲ってくる痛みに、少女は顔を歪めた。
 ドライブ・イグソーブは蹴って避けさせていた――なのに何故自身の目の前にあるのかというと――。

(……やっぱり、【無色魔法】は強いですね……)

 目の前には浮遊するドライブ・イグソーブがあり、それによって自身が貫かれているのを自覚すると、クオンの意識は途切れるのだった。

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