女神と契約した俺と悪魔と契約した七人の女の子
10
榊原と共に放課後を過ごした翌日の朝。
あれ? 何か如何わしい言い方……。まぁ、いっか。
学校に着くと俺を今か今かと待ち侘びていたかのように榊原が俺の椅子に座っていた。榊原は自分の髪の毛先を自分の指でクルクルと巻いている。
「おはよう。榊原さん」
とりあえず話しかけてみる。顔をこちらに向け、俺を一瞥。
「ふんっ、下僕」
鼻を鳴らし、俺とは逆方向を向いた。
何その? 鼻で返事するの。そこまで俺を見下してるの? というか今まで不思議ちゃんで天然な奴だと思ってたのに一気に偏見の目で見てしまうよ。
天然な奴というか地味で暗い奴だと思って、仲良くできると思ってたのに。
「まぁー下僕と言われていることは置いとくとして、何故俺の椅子に榊原さんは座っておられるのでしょうか? どいて貰えないでしょうか?」
社会の礼儀を学んでいる俺は上からでは無く、おしとやかに慎み深く、下からものを述べた。これぞ、正に日本人が古来から学び受けた物の一つだ。
「少し大事な話がある」
ほらね、成功だったろ。もしもここで俺がべらべら長ったらしいことを言って、文句をタラタラと言っていたら殴られていただろうね。
まぁー俺はそれがご褒美なんですけど……って、待て待て。いつから俺はドMキャラになった?
落ち着くんだ、俺。今日はどうやらおかしい。
身体の調子が朝早くから悪いと思ってたんだ。変な物とか何か食ったっけ? う〜ん。思い当たる節はねぇーな。
「ねぇー。聞いてるの?」
不機嫌そうな表情でこちらを見つめる俺にだけはドSなメイドさん(俺のメイドでは無いけれど)はイライラを隠せなかった。
「あの、生理とか?」
「ち、違うっし! このバカ!」
ほっぺたを思いっきり、ぶっ叩かれた。いてぇーよ。心配してやったというのに。顔がめっちゃくっちゃ赤くなっている。可愛い所もあるみたいだ。今度からはこのネタを頻繁に使って彼女をおちょくってやろう。
「ごめんごめん。悪かった悪かった。それで大事な話とやらはどうしたんだ?」
むぅーとこちらを赤面になった榊原が睨んでいたが、俺がしっかりと話を聞いていた事が功を奏したのか彼女の表情はいつも通り無表情に戻った。その無表情っぷりはどこか天然そうで、ぼぉーっとしている様にも見えるが脳内はどうせ『雪様』という文字で一杯一杯なのだろう。
いつかは俺の名前もその中にいれてほしいものだ。
「今、変な事考えてたでしょ?」
「はぁ? 考えてねぇーし」
顔が少し赤くなる。俺は何を考えてるんだが。
俺が好きなのは――だけだ。
彼女に何故か袖を引っ張られ、連れて行かれる。
「良いから来て」と。彼女は言った。何を考えているのかさっぱり分からない。しかしその目はどこか何かを決心したかのような目だった。
「ど、どういうことだよ? 榊原?」
グーのパンチが俺に目掛けて飛んできた。
どうにかこうにか回避する。
チッという舌打ちが聞こえた。
「あ、あぶねぇーじゃねぇーかよ」
「あのさ、昨日言ったよね? 馴れ馴れしく呼ぶなって。
呼んだら殺すって」
こいつめんどくせぇー奴だな。なんだいなんだい。
一緒に放課後マ○クした仲なのに呼び捨て駄目なのかよ。
俺の中では落とした消しゴムを拾って貰った時から友達という等式が出来てるんだけどなぁー。
榊原の自己解釈能力上はまだこれも友達条件になってないらしい。
放課後マ○クはハイレベルだと思うんだけどなぁー。
ちなみに赤色と黄色のハンバーガー屋は関東ではマック、関西ではマクドと呼ばれるのが主流らしい。
まぁー例外もいるけどな。ソースはヤフーの知恵袋。
「ところでお前はクレヨンしんちゃんっていうアニメを知っているか? ドラえもんと連チャンである金曜日のゴールデンにあってるアニメさ」
「知ってるけど? なに?」
榊原は何言ってるのこいつという顔でこちらを見ている。
「アレの番組に鼻水をいつも垂らしているボーちゃんっていうキャラいるだろ?」
「う、うん」
戸惑いながら榊原が答える。
「あのキャラって色々と謎が残るんだけど、実はコミックス10巻でお母さんが出てるんだぜ。いつも映画とかアニメとかではボーちゃんのお母さんとか家族だけ出ないから心配してたけどな」
「う、うん……。それで何かそれは意味があったのかしら?」
「ちょっとした雑談だよ。別に良いだろ。俺達はクラスメイトなんだからさ。それに俺等友達だろ?」
「私は友達なんて要らない」
「そんなこと言わない! 友達ってのは……確かに要なくても生きていける。だけど居たほうが絶対に良い!
だから俺と友達となろう!」
「友達ね。私は要らない。そんなもの。私には雪様が居てくれれば、それでいい。貴方の力も本当は借りたくない。
でも猫の手も借りたいぐらい、今本当に私には力が無い。だから手を借して欲しい」
「俺は君に手を貸さない。貸したくない。自分から俺はお願いするぜ。俺に頼ってくれ、榊原。俺を頼ってくれ。
全く使えないぼっち野郎かもしれないけど、俺は無能かもしれないけど、俺はお前も皆皆が平和な世界を待ち望んでいるんだ。誰も苦しまない世界を。誰も悲しまない世界を……俺は作りたい」
「貴方は無能なんかじゃない。私の方が無能よ。
本当に間抜けだった。悪魔の力を借りるなんてね」
「あ、悪魔……? 何を言ってるんだ? 何か寝ぼけているのか?」
「悪魔――その言葉通りの悪魔よ。悪魔」
「だから悪魔って何だよ!」
「放課後詳しく教えるわ。だから今はここまでで良い?」
しっくりは来なかったが、榊原がそういうのなら仕方ない。俺はこくりと頭を動かした。
でもさ、それなら何故俺を呼び出したんだ。
元々放課後で良かったはずだろ。多分だけど、俺の席に座っているのが何か理由があったとかそういうことだろうな。
「あ、そう。あのさ、昨日から思ってたんだけど何故俺に先輩の秘密を明かしたんだよ? 俺が知ったらべらべらと言う可能性だってあるのに」
そう、俺は昨日榊原と夢にも見た放課後マ○クというリア充イベントを見事に制覇した後、ずっとずっと考えていたのだ。先輩の秘密を教えた理由を。
しかしどんなに探ってみても利益というものが分からなかった。もしかして俺とお近付きになりたかったからわざわざ口実を作る為に……。
彼女は俺を「ぶち殺してやる」という目で睨んできた。
どうして彼女は俺の考えていることをいつもいつも分かってるいるのだろうか。彼女はもしかしたらそんな体質なのかもしれない。
とりあえず、謝っておくか。意味は分からんが。
――悪かったな。
すると彼女の表情が少しだけ、ほんの少しだけだが緩んだ気がした。まぁー気がしただけど。
「別に下僕は知らなくていいこと。それに下僕には友達いないから話す相手がいない」
あ、はい。分かりました。
俺は心の中でそう言った。要するに俺に言っても誰にも言わないから安心ってことなのか?
だけど……そうとは限らないだろ。
「居るぞ。俺には友達。お前だよ、榊原」と俺は心の中で呟いた。
その後もずっと連れ回され連れて来られたのは体育館裏。バレー部かバスケ部かもしくは何かの部の元気の良い声が聞こえてくる。早朝練習だろう。
本当にご立派な事だ。わざわざ朝から練習するなんて、俺には真似出来ないぜ。
「お、おい……わざわざここまで来なければ行けなかったのか?」
「うるさい。ねぇ、少し黙って。下僕」
何か冷たくあしらわれたんだけど。
「……………………」
「……………………」
二人共沈黙が続く。わざわざここまで来たというのに何も無いんじゃ来た損になっちまう。
「おい。何だよ? 何かあったんだろ?」
「あ、その……。一回殴っていい?」
「いやだよ。バァーか」
「バカ? ねぇー貴方。本気でそれ言ってる?
もしも本気で思ってるんだったら、とりあえず殺す。思ってなくても殺す。沈黙でも殺す。
さぁー貴方はどうする?」
「とりあえず榊原さんに謝ります。すいませんでした」
本当にワケが分からない。絶対こいつ生理だろ。白状すればいいのに。
「まぁーいい判断ね。で、話があるわ。下僕山」
「もうツッコむのダルいから言わないけど話はなんだよ?
榊原さん」
「下僕山。お嬢様が昨日ストーカーに被害にあった」
「へぇ〜。それで?」
「何、その態度。気に食わないわね」
「元々俺はこんな態度だ。それでストーカーが何かしたのかよ?」
「お嬢様の靴箱に紙が入っていた。『好き』と書かれていたらしい。本当に怖い」
「それは絶対にラブレターだ!」
「ラブレター? 知らない人から貰えば、それはただの怪文書。この下僕山」
全国の男子諸君。気軽に好きな女の子にラブレターを出すのはやめようね。相手からは嫌われます。
もしかしたら白馬の王子様がなんたらかんたらと抜かすファンタスティックな女の子はいるかもしれないけれど。
ちなみに俺も中学生の頃、ラブレターを貰った事がある。後ろでこそこそと会話する男子達の笑い声を今でも覚えている。俺はめちゃくちゃ嬉しかったのに。
あの時、俺が「やめろよぉー」とか言って喋りかければ、友達が出来たのかな。絶対にいじられキャラというキャラになるのがオチだと思うけど。
「そうだな。悪かったな。確かに知らない人からの手紙なんて、ただの怪文書だ。つまり榊原、お前が言いたいことはこのラブレターを渡した人物を見つけろということなのか?」
「つまりはそういうことね」
「それでどうする気だ? そいつをボコボコにでもするのか?」
「そんなことするわけ無いでしょ。ただ、雪様に報告するのよ。誰がそんなことをしているのかをね」
「そんなことって?」
「実はラブレター以外にも食べ物とかも入ってるからいつも私が食べる羽目になって……」
「それで胸が大きくなったと」
「違う違う! 感謝はしてるけど違う!
もうそんなことはしてほしくないと言うだけよ」
「なるほどな。要するに俺はそいつの正体を暴いて、そいつに説教をすればいいわけか。どこかの上条さんの如く、言ってやるぜ! そして幻想をぶち壊すぜ!」
「はいはい。まず貴方のその二次元脳からぶち壊しましょうね。ところで、っと。もうチャイムが鳴るわ。
とりあえず、放課後集合ね」
そう言って、彼女は俺を置いて教室へと戻り始める。
何歩か歩いた後、彼女は後ろを振り向く。ショートの黒い髪が可愛らしく揺れ、胸も一緒に揺れた。
「教室では絶対に喋りかけないで! これは命令よ!
先輩命令!」
「先輩も何も俺と榊原さんは同級生じゃないか。何を言ってんだが……」
「雪様護衛隊の先輩じゃない。貴方は別に雪様の彼氏では無いことは理解してるでしょうね。雪様は貴方の事なんて、実際は何とも思ってないの? 分かってる?
貴方はあの人のただのコマ。まぁ、私もだけどね。
だけどこれだけは忠告。貴方は絶対に雪様を見捨てないであげて」
彼女はそのまま早歩きで戻っていく。
俺が彼女を追いかけて、喋りかけるも彼女は俺を無視した。果たして、何を言いたかったんだが。
忠告忠告ね。俺は何ですか。雪先輩の奴隷か何かですかね。もう、全く意味がわからない。
だけどいいさ。放課後になれば色々と謎が残りそうだな。
それまでに色々と対策を練らないとな。
それと昼休みには桜の元に行ってみるとしよう。
誤解は早く解かないとならないからな。
あれ? 何か如何わしい言い方……。まぁ、いっか。
学校に着くと俺を今か今かと待ち侘びていたかのように榊原が俺の椅子に座っていた。榊原は自分の髪の毛先を自分の指でクルクルと巻いている。
「おはよう。榊原さん」
とりあえず話しかけてみる。顔をこちらに向け、俺を一瞥。
「ふんっ、下僕」
鼻を鳴らし、俺とは逆方向を向いた。
何その? 鼻で返事するの。そこまで俺を見下してるの? というか今まで不思議ちゃんで天然な奴だと思ってたのに一気に偏見の目で見てしまうよ。
天然な奴というか地味で暗い奴だと思って、仲良くできると思ってたのに。
「まぁー下僕と言われていることは置いとくとして、何故俺の椅子に榊原さんは座っておられるのでしょうか? どいて貰えないでしょうか?」
社会の礼儀を学んでいる俺は上からでは無く、おしとやかに慎み深く、下からものを述べた。これぞ、正に日本人が古来から学び受けた物の一つだ。
「少し大事な話がある」
ほらね、成功だったろ。もしもここで俺がべらべら長ったらしいことを言って、文句をタラタラと言っていたら殴られていただろうね。
まぁー俺はそれがご褒美なんですけど……って、待て待て。いつから俺はドMキャラになった?
落ち着くんだ、俺。今日はどうやらおかしい。
身体の調子が朝早くから悪いと思ってたんだ。変な物とか何か食ったっけ? う〜ん。思い当たる節はねぇーな。
「ねぇー。聞いてるの?」
不機嫌そうな表情でこちらを見つめる俺にだけはドSなメイドさん(俺のメイドでは無いけれど)はイライラを隠せなかった。
「あの、生理とか?」
「ち、違うっし! このバカ!」
ほっぺたを思いっきり、ぶっ叩かれた。いてぇーよ。心配してやったというのに。顔がめっちゃくっちゃ赤くなっている。可愛い所もあるみたいだ。今度からはこのネタを頻繁に使って彼女をおちょくってやろう。
「ごめんごめん。悪かった悪かった。それで大事な話とやらはどうしたんだ?」
むぅーとこちらを赤面になった榊原が睨んでいたが、俺がしっかりと話を聞いていた事が功を奏したのか彼女の表情はいつも通り無表情に戻った。その無表情っぷりはどこか天然そうで、ぼぉーっとしている様にも見えるが脳内はどうせ『雪様』という文字で一杯一杯なのだろう。
いつかは俺の名前もその中にいれてほしいものだ。
「今、変な事考えてたでしょ?」
「はぁ? 考えてねぇーし」
顔が少し赤くなる。俺は何を考えてるんだが。
俺が好きなのは――だけだ。
彼女に何故か袖を引っ張られ、連れて行かれる。
「良いから来て」と。彼女は言った。何を考えているのかさっぱり分からない。しかしその目はどこか何かを決心したかのような目だった。
「ど、どういうことだよ? 榊原?」
グーのパンチが俺に目掛けて飛んできた。
どうにかこうにか回避する。
チッという舌打ちが聞こえた。
「あ、あぶねぇーじゃねぇーかよ」
「あのさ、昨日言ったよね? 馴れ馴れしく呼ぶなって。
呼んだら殺すって」
こいつめんどくせぇー奴だな。なんだいなんだい。
一緒に放課後マ○クした仲なのに呼び捨て駄目なのかよ。
俺の中では落とした消しゴムを拾って貰った時から友達という等式が出来てるんだけどなぁー。
榊原の自己解釈能力上はまだこれも友達条件になってないらしい。
放課後マ○クはハイレベルだと思うんだけどなぁー。
ちなみに赤色と黄色のハンバーガー屋は関東ではマック、関西ではマクドと呼ばれるのが主流らしい。
まぁー例外もいるけどな。ソースはヤフーの知恵袋。
「ところでお前はクレヨンしんちゃんっていうアニメを知っているか? ドラえもんと連チャンである金曜日のゴールデンにあってるアニメさ」
「知ってるけど? なに?」
榊原は何言ってるのこいつという顔でこちらを見ている。
「アレの番組に鼻水をいつも垂らしているボーちゃんっていうキャラいるだろ?」
「う、うん」
戸惑いながら榊原が答える。
「あのキャラって色々と謎が残るんだけど、実はコミックス10巻でお母さんが出てるんだぜ。いつも映画とかアニメとかではボーちゃんのお母さんとか家族だけ出ないから心配してたけどな」
「う、うん……。それで何かそれは意味があったのかしら?」
「ちょっとした雑談だよ。別に良いだろ。俺達はクラスメイトなんだからさ。それに俺等友達だろ?」
「私は友達なんて要らない」
「そんなこと言わない! 友達ってのは……確かに要なくても生きていける。だけど居たほうが絶対に良い!
だから俺と友達となろう!」
「友達ね。私は要らない。そんなもの。私には雪様が居てくれれば、それでいい。貴方の力も本当は借りたくない。
でも猫の手も借りたいぐらい、今本当に私には力が無い。だから手を借して欲しい」
「俺は君に手を貸さない。貸したくない。自分から俺はお願いするぜ。俺に頼ってくれ、榊原。俺を頼ってくれ。
全く使えないぼっち野郎かもしれないけど、俺は無能かもしれないけど、俺はお前も皆皆が平和な世界を待ち望んでいるんだ。誰も苦しまない世界を。誰も悲しまない世界を……俺は作りたい」
「貴方は無能なんかじゃない。私の方が無能よ。
本当に間抜けだった。悪魔の力を借りるなんてね」
「あ、悪魔……? 何を言ってるんだ? 何か寝ぼけているのか?」
「悪魔――その言葉通りの悪魔よ。悪魔」
「だから悪魔って何だよ!」
「放課後詳しく教えるわ。だから今はここまでで良い?」
しっくりは来なかったが、榊原がそういうのなら仕方ない。俺はこくりと頭を動かした。
でもさ、それなら何故俺を呼び出したんだ。
元々放課後で良かったはずだろ。多分だけど、俺の席に座っているのが何か理由があったとかそういうことだろうな。
「あ、そう。あのさ、昨日から思ってたんだけど何故俺に先輩の秘密を明かしたんだよ? 俺が知ったらべらべらと言う可能性だってあるのに」
そう、俺は昨日榊原と夢にも見た放課後マ○クというリア充イベントを見事に制覇した後、ずっとずっと考えていたのだ。先輩の秘密を教えた理由を。
しかしどんなに探ってみても利益というものが分からなかった。もしかして俺とお近付きになりたかったからわざわざ口実を作る為に……。
彼女は俺を「ぶち殺してやる」という目で睨んできた。
どうして彼女は俺の考えていることをいつもいつも分かってるいるのだろうか。彼女はもしかしたらそんな体質なのかもしれない。
とりあえず、謝っておくか。意味は分からんが。
――悪かったな。
すると彼女の表情が少しだけ、ほんの少しだけだが緩んだ気がした。まぁー気がしただけど。
「別に下僕は知らなくていいこと。それに下僕には友達いないから話す相手がいない」
あ、はい。分かりました。
俺は心の中でそう言った。要するに俺に言っても誰にも言わないから安心ってことなのか?
だけど……そうとは限らないだろ。
「居るぞ。俺には友達。お前だよ、榊原」と俺は心の中で呟いた。
その後もずっと連れ回され連れて来られたのは体育館裏。バレー部かバスケ部かもしくは何かの部の元気の良い声が聞こえてくる。早朝練習だろう。
本当にご立派な事だ。わざわざ朝から練習するなんて、俺には真似出来ないぜ。
「お、おい……わざわざここまで来なければ行けなかったのか?」
「うるさい。ねぇ、少し黙って。下僕」
何か冷たくあしらわれたんだけど。
「……………………」
「……………………」
二人共沈黙が続く。わざわざここまで来たというのに何も無いんじゃ来た損になっちまう。
「おい。何だよ? 何かあったんだろ?」
「あ、その……。一回殴っていい?」
「いやだよ。バァーか」
「バカ? ねぇー貴方。本気でそれ言ってる?
もしも本気で思ってるんだったら、とりあえず殺す。思ってなくても殺す。沈黙でも殺す。
さぁー貴方はどうする?」
「とりあえず榊原さんに謝ります。すいませんでした」
本当にワケが分からない。絶対こいつ生理だろ。白状すればいいのに。
「まぁーいい判断ね。で、話があるわ。下僕山」
「もうツッコむのダルいから言わないけど話はなんだよ?
榊原さん」
「下僕山。お嬢様が昨日ストーカーに被害にあった」
「へぇ〜。それで?」
「何、その態度。気に食わないわね」
「元々俺はこんな態度だ。それでストーカーが何かしたのかよ?」
「お嬢様の靴箱に紙が入っていた。『好き』と書かれていたらしい。本当に怖い」
「それは絶対にラブレターだ!」
「ラブレター? 知らない人から貰えば、それはただの怪文書。この下僕山」
全国の男子諸君。気軽に好きな女の子にラブレターを出すのはやめようね。相手からは嫌われます。
もしかしたら白馬の王子様がなんたらかんたらと抜かすファンタスティックな女の子はいるかもしれないけれど。
ちなみに俺も中学生の頃、ラブレターを貰った事がある。後ろでこそこそと会話する男子達の笑い声を今でも覚えている。俺はめちゃくちゃ嬉しかったのに。
あの時、俺が「やめろよぉー」とか言って喋りかければ、友達が出来たのかな。絶対にいじられキャラというキャラになるのがオチだと思うけど。
「そうだな。悪かったな。確かに知らない人からの手紙なんて、ただの怪文書だ。つまり榊原、お前が言いたいことはこのラブレターを渡した人物を見つけろということなのか?」
「つまりはそういうことね」
「それでどうする気だ? そいつをボコボコにでもするのか?」
「そんなことするわけ無いでしょ。ただ、雪様に報告するのよ。誰がそんなことをしているのかをね」
「そんなことって?」
「実はラブレター以外にも食べ物とかも入ってるからいつも私が食べる羽目になって……」
「それで胸が大きくなったと」
「違う違う! 感謝はしてるけど違う!
もうそんなことはしてほしくないと言うだけよ」
「なるほどな。要するに俺はそいつの正体を暴いて、そいつに説教をすればいいわけか。どこかの上条さんの如く、言ってやるぜ! そして幻想をぶち壊すぜ!」
「はいはい。まず貴方のその二次元脳からぶち壊しましょうね。ところで、っと。もうチャイムが鳴るわ。
とりあえず、放課後集合ね」
そう言って、彼女は俺を置いて教室へと戻り始める。
何歩か歩いた後、彼女は後ろを振り向く。ショートの黒い髪が可愛らしく揺れ、胸も一緒に揺れた。
「教室では絶対に喋りかけないで! これは命令よ!
先輩命令!」
「先輩も何も俺と榊原さんは同級生じゃないか。何を言ってんだが……」
「雪様護衛隊の先輩じゃない。貴方は別に雪様の彼氏では無いことは理解してるでしょうね。雪様は貴方の事なんて、実際は何とも思ってないの? 分かってる?
貴方はあの人のただのコマ。まぁ、私もだけどね。
だけどこれだけは忠告。貴方は絶対に雪様を見捨てないであげて」
彼女はそのまま早歩きで戻っていく。
俺が彼女を追いかけて、喋りかけるも彼女は俺を無視した。果たして、何を言いたかったんだが。
忠告忠告ね。俺は何ですか。雪先輩の奴隷か何かですかね。もう、全く意味がわからない。
だけどいいさ。放課後になれば色々と謎が残りそうだな。
それまでに色々と対策を練らないとな。
それと昼休みには桜の元に行ってみるとしよう。
誤解は早く解かないとならないからな。
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