二次元美少女と恋をしたいっ!←そんなことさせないですよ?

ハタケシロ

第47話 夏の終わり

俺の答えを聞いた桃の顔は、笑顔と言えばいいのか、とにかく、穏やかな表情をしていた。



「お前ってさ。ずるいよな」

「なんのことですか?」

花火大会終了後、来た道を戻る他の客に紛れながら、俺は桃を背負っていた。

他の客に紛れると言っても、花火大会が終わってからもずっとベンチに座っていた俺たちは、少なくなった人通りを歩く。

そのせいか、雑音が少なく、いつも以上に桃の透き通った声が聴こえる。

「鼻緒が切れたせいで、俺があの場から逃げることができなかったじゃねぇか。なにあれ?計算か?」

「計算じゃないですって。それに、鼻緒が切れていなくても陽向くんは逃げないですよね?」

桃の問に俺はすぐに答えることが出来なかった。

俺の読んでるラノベや見ているアニメでは、鈍感主人公やチキン主人公がはぐらかしたり、逃げだしたりしているのがある。
俺ははぐらかしはしなかったものの、もしも逃げ出せる状況だったらどうなのか分からない。

逃げ出す主人公はアホだなと思っていた俺だが、実際自分に同じような状況が訪れると、主人公の気持ちがわかる気がした。

だから、すぐに答えることが出来なかった。

「どうだろうな」

少しの間の後、俺はそう答えた。

「…………」

少しの間に、桃も思うところがあったのか、すぐには何も答えなかった。

「陽向くんは逃げ出さないと思います」

けれど、力強く桃はそう言った。

「私の願望かもしれませんけどね」

「……そうか」



ゆっくりと歩いているせいか、波の音がよく聞こえる。
ザザーザザーという音は人の心を落ち着かせる効果があるのかもしれない。

「陽向くん。お願いしてもいいですか?」

少し話して以来、静かだった桃が言う。
すごくか細い声だ。

「なんだ?」

「背中をお借りしてもいいですか?」

「背中?」

現在進行系で貸している気もするが、そういう事じゃないことくらい俺でも分かる。
なんとなく、貸してもらいたい理由も俺には分かった。

「いいぞ」

「ありがとうございます」

「ちなみになんだが、何に使う気だ?」

「言わせる気なんですか?」

「悪い」

会話はそれだけだった。

ちょっと経ち、再び波の音が聞こえるようになった頃、背中から桃の泣く声が聞こえてきた。

「普通告白した男の背中で泣くか?」

「しょうが…ない……じゃ……ないですかぁ……」

初めて、桃の泣き声を聞いた。
嗚咽を我慢し、なんとか泣くのを我慢しようとしても溢れ出る涙。
背中に冷たいものが広がる。

「我慢しようと……ぐずっ……したんですけど……やっぱり……我慢できなくて……」

「…………」

俺は告白したことは無い。
だから、どうして桃がこんなにも泣くのかが分らなかった。
なんで桃は俺なんかに告白して涙を流しているのだろう。

「どうして泣くんだ?」

「ふられたからに……決まってるじゃ…ないですか……!……大好きな人にふられたからに決まってるじゃないですか……!」

俺の背中に顔をうずめ、周囲に響かない声量で桃はそう言った。




そうだ。俺は3次元の女の子を、桃をふったんだ。


「陽向くん。参考までにふった理由を教えてもらってもいいですか?」

泣きやみ、息の整った桃が聞いてきた。

「それは……悪い」

ふった理由な確かにある。
けど、これを桃に言うのは。

「あの時のことと関係があるんですか?」

「……多少は」

あの時のこととはきっと、桃たちが俺の家に泊まりに来た時のことだろう。
つか、よく察せるもんだ。

「私が嫌いでふったわけではないんですよね?」

「それは……ない」

「今の間はなんですか!?」

「冗談」

「ふぅ。いつもの陽向くんですね」

「あぁ。いつもの俺だ」

告白という、目に見えない何かの一線を超えてしまったけど、案外普通に接することができるものなんだな。
俺だけがそう思ってるのかもしれないけど。

「悪い。桃をふったのは俺自身に問題があるからなんだ。だから、桃にふった理由を話すことはできない」

「なんで謝るんですか?別にふった理由を絶対聞きたいわけではないですよ。ただ」

「ただ?」

「私のことを嫌いじゃなくて良かったです!」

桃の声音から、桃の表情が今どんなものかがなんとなくわかった。

「あれなんですね!3次元だからっていう理由ではないんですね!強制調教のしがいがありましたよ!」

「強制調教ってなんだ!?すげー怖い単語がでたぞ!?それとな、桃が3次元である限り付き合うことはないから安心しろ」

「なにも安心できないんですけど……。ふふっ、これはまた調教……しつけないとだめですね! 」

「言い直せてないからなっ!?」

しつけってなんだ!?
俺はペットかなにかか!?
それは霧咲の役目だろ!

「まぁいい。俺はやっぱり二次元美少女と恋をしたい!」

「何を言ってるんですか?そんなことさせないですよ?」

霧咲さんや、柏木さんにもさらに協力してもらいましょうと言っているが、更にってなんだ?とくに霧咲の更にってなんだ!?
あれが更にどうなるって言うんだ!?

「陽向くん。いつか、いつかでいいので、ふった理由を教えてくださいね」

「おう。教えれれば。いつかな」

「はい……!」






































「夏休み明けも部活あるので、ちゃんと来てくださいね?」

「分かってるよ」

一応言っておきますけどね?桃さん?
あの部作っの俺なんですよ。

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