二次元美少女と恋をしたいっ!←そんなことさせないですよ?

ハタケシロ

第29話 小さな変化

最初、寝ていた俺たちの場所は、女子組川の字で俺が離れ小島の1人だった。

そう。そのはずだ。

俺はちゃんとジェントルマンだから、桃たちに嫌な思いや、警戒されたくないがために、1メートルはちゃんと間を空けてある。あっ因みに隣は柏木だ。

女子組の川の字は真ん中が霧咲で、その上から見たら左に柏木。その逆の右側には桃という配置だ。うん。その配置のはずだ。

なのにだ。な・の・に!

なぜか今、俺の隣でスースーと寝息を立てているのか、はたまた、スースーと言ってるだけなのかは分からないが、隣にいるのは物理上、どう考えてもおかしいとしか思えない桃だった。

端っこと端っこ同士のはずなのにどうして桃が隣に?という疑問がふつふつと沸き上がる。いや、俺だってバカじゃない。ちょっとやそっと考えればこわなこと分かることだ。こんなもの疑問でも何でもない。

寝相が悪いだけだろう。たんに、桃は。













いや、おかしいーだろっ!!!

人間二人という障害を乗り越えて、さらに1メートルの廊下川を渡って俺の隣に来る寝相ってなんなんだよっ!!

「桃お前、起きてるだろ」

声をかけてみる。
俺の推理が正しければ、起きているはずだ。この確信犯は。俺はト〇ズがなくても探偵になれるんじゃなかろうか?

「……ん。……はぅ……」

返事とも、寝息とも、寝言とも取れる返答が返って来た。

ハハ、バカだな桃。返事をした時点で起きてるということがバレバレだぜ!

う〜む。ちょっと遊んでみるか。

「なんかテカってるな。これは……涎か?」

「……!!」

顔を埋めて、俺が言っただけで付いていない涎を拭おうとする桃。拭き取ったのか、それとも付いて無いと分かったのか、安心して寝てるふりを再開する。

「そう言えば、俺のヒロインたちがキスが上手くない男はちょっとね〜みたいなことを言ってたんだよなー。ヒロインたちとそういう機会があるかも知れないし、上手くなっておきたいな。おや?こんなところにちょうどいい唇がアルジャナイカ。どれ、練習シテミッカナー」

棒読みで、自分で言ってても気持ち悪いなと思う言葉を並べて、おちょくってみる。さすがに、これは桃でも我慢できなくなってマイ布団にリターンするだろう。

俺が喋っている最中、あきらかに嫌な顔、もしくは引いている顔をしていた桃だったが、途中から俺の予想とは裏腹に身体全体をモジモジとさせて、ついには唇を俺に差し出すように顔を俺に出してきた。

これは、まずい。ほんとうにまずい。たぶん、桃の良心に拍車がかかったのだろう。俺の願いを聞いてあげようという良心が。それは、申し訳がない。俺の罪悪感がハンパない。今すぐ、訂正もしくは、やらないように仕向けよう。

「とも思ったが、寝ている(3次元の)女の子にすることじゃないしなー。うん。やめやめ、寝よう」

俺はこう言って、上手く躱した。うん。躱した。
俺の機転って素晴らしい!いや、自分でこういう状況を作ったわけでもあるんだけど。

「私は……いいですよ?」

目をパッチリと開けて、蒼い瞳で俺のことを見つめる桃。その目には一切の迷いがないように思えた。


つか、



起きてるー!桃さん起きてるー!!
もう、なに?さっきまでの下手くそ演技はなんだったんだよ!!

「いや、俺が言ったのは冗談だから。間に受けるなって」

至って真剣な表情の桃に対して、起きてるじゃん!という事実は置いて、ちゃんと冗談であるということを説明する。

「冗談って……私は本気なんですよ?」

そう言うと、桃は起きあがり、あろうことか、俺の上に馬乗りになった。……え?なにこれ?もしかして俺このままボコられる感じですか!?そんなに、冗談言ったの不味かったですかね!?

「??どうして、そんなに青ざめて…いえ、覚悟を決めた顔をしてるんですか?」

「やるんなら人思いにやってくれ。楽に…そして素早くやってくれ……」
 
「え?……あっはい。じゃあその……いただきます」

いただきます?

がサッバサっ

んんん?

「ちょっと待てぇええ!!どうして服を脱いだ!?」

「え?いや、だって……普通はこうするんじゃ無いんですか?経験がないので分からないんですけど……」

「いやいや、俺も初めてだけど違うと思うぞ!?」

どこの世界に上裸(女ver.)で人をボコるやつがいる!?俺の見たヤンキー漫画じゃそんなやつ居なかったぞ!?

「え、いや、でもこうしないくていいんですか?その……見たくないんですか?」

「いやいや、やられるのになんで見なきゃいけねーんだよ!それに、3次元の女の子の裸なんざ……ハッ!」

「いろいろと酷いうえに、傷つきますね。まぁでも、陽向くんはこうですもんね。分かりました。着衣でやりましょう」

ふぅ。ついに覚悟を決めたか桃。よし、俺も覚悟を決めよう……。女の子とはいえ、痛いだろうなぁ。ああ暴力はほんとにやだ。

「えと……どう…すればいいですか?」

「いや、普通に手でやればいいんじゃね?グーで」

「グーですか!?」

「は?普通はグーだろ」

「え?グーなんですか?」

「そうだろ」

「そうなんですか?」

こいつ、殴り方とか知らないのか?まぁ無縁そうだからな桃は。いや、俺も無縁だからね?喧嘩は怖い。

「でも、その、握れなくないですか?その……いろいろと」

「何を握る必要があるんだよ?」

「え?」

「え?」

「「うん?」」



……いろいろと誤解しているということが分かった。

「その、まぁ、とりあえず降りてくれないか?」

いろいろと噛み合ってないということが分かってから、恥ずかしいのか桃は、前髪を垂らし、顔を見せないようにしている。そして、俺の言葉を聞いて首を縦にコクンと、頷き……

「いえ!ここまで来たら逆に退けなくなりました!」

「は?何言って……」

「だから、退けなくなったんです!私は!」

そして、さっき脱ぎ、着衣した服をまた脱いだ桃。
さっきは直視してなかった桃の上半身だが、今はちゃんと目に映る。

…………

『アハハ!なに期待してんのさー!!』

『何その顔うけんだけど』

『気にすんなってネットには上げないからさ』

『マジ辛かったんだけど。ここ1ヶ月』

『お疲れー!!』

『『アハハ!!アハハ!!』』

…………

ちゃんと、目に映ってしまったのか、思い出したくもない、ことを思い出してしまう。

「陽向くん!逃げないでく」

「桃っ!!」

大きな声を出してしまった。
その声に驚いてか、桃はビクッと身体を震わせて、俺を見る。

「やめろ。そういうのは」

声を荒らげるなんて最低だな、俺は。

「退けなくなったからとか、雰囲気とか、そんなんで軽率なことは辞めろ」

こんなことで声を荒らげるなよ。

「ご、ごめんなさい。でも私はっ!」

「それは勘違いだ。ほらっ他の二人を起こすかもしれないからこれ以上は」

「……そうですね」

「分かって貰えると助かる。それと大きな声を出して悪い」

「い、いえ」

「よし、寝よう。服は着ろよなちゃんと。6月とはいえ風邪引くかもしれないしな」

「そうですね」

気まずい雰囲気の中、服を着て、元寝ていた場所に戻る桃。

俺も気まずい雰囲気とは感じていたけど、何も言葉は浮かばず、言えず、そのまま寝に入った。

(あわよくば、夜這いをしようとタイミングを伺ってたんですけど……)

(とてもじゃないけど、そんな雰囲気じゃない)

((寝れない……))



翌日は、いつも通りに、いや、いつものように接しようと俺と桃はしていたと思う。

夜よりも気まずい雰囲気があったが、そのうち無くなるだろう。

考査が本格的に始まるまでには無くなるかな。
考査が終わる頃には無くなると信じたいな。

夏休みが始まる頃には……

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