二次元美少女と恋をしたいっ!←そんなことさせないですよ?

ハタケシロ

第14話 変態不良と笑わない不良。

ーー最近

ーーうざいのが

ーー近くにいる


「あんたまたいんの?」

この問は何度目だろうかと自分でも思う。

昼休み、私はあまり学校の奴らには知られてない憩いの場に来る。

校舎から離れているためか、はたまた、ただたんに知られてないだけかは知らないがこの憩いの場には人が来ない。

憩いの場には私が作ったベンチもあるし、木陰やそよ風が気持ちよく吹くから私は気に入っている。

そんな場所で食う昼飯は旨い。学校で唯一の楽しみと言っていいだろう。

だが、そんな私の、私にとっての憩いの場はこいつのせいで憩いの場にならなくなりつつある。

「ーー瀬尾」

スマホの画面を鬼の形相で見て、たまにニヤニヤしながら弁当を食っているその姿、いや、その面は正直気持ち悪いというか、引く。

「別にいいだろ。ここは学校の敷地内で俺は生徒なんだからさ」

「ほざけ」

こいつがこの憩いの場で昼飯を食うようになったのは、ここで瀬尾が友達になってくれと言ったあたりからだ。

別にこいつのことはどうも思ってない。ただのオブジェクトぐらいにしか思ってない。けど、こいつ一人ならどうもしないんだが、この場には他に二人もいる。

「陽向くん。今日のお弁当どうですか?」

「ん?普通に旨い」

「陽向さん!私も食べてください!」

「おう。弁当は貰うわ。だからブラウスのボタンは留め直せよ」


二つも弁当を食うのかというツッコミをしたい気もするが、とにかく、ただ、……うざい……!

なんなんだこいつらは?
どうしてこの私の聖地でイチャコラしてんだこら。

まぁいい。
昨日更新されたアニメでも見るか。



柏木に振られた次の日。

「友人部」部室に俺と桃、霧咲が丸テーブルを囲むように座っていた。

ちなみに、友人部には長テーブルと丸テーブルがある。長テーブルは椅子とセットで使うもので、丸テーブルは座敷で使うものだ。教室、しかも特別教室を丸々部室にしてるぶん、友人部は領土が広い。

二人の顔を見るが、二人共なかなかに真剣な表情だ。俺は張り詰めた空気のなかで声を出す。

「じゃあ始めるか!第一回!柏木を友達にしよう大作戦!!」

「「…………お、おーう」」

「あ、あれ?」

元気良く掛け声をしたというのに、なにこれ?
この温度差!なんか恥ずかしいわ!

電車でロリ声声優のキャラソンが流れた時くらい恥ずかしいわ!いや、まじであの時は死ぬほど恥ずかしかった。俺が周りを確認しようとチラット見たらみんな「ヒィ」だの「ハヒィ」だの言ったんだよな〜。俺の顔がキモいからってあれはないぜ全く。

「なんとなく霧咲が乗り気じゃないのは分かるけど桃お前!なんでお前は乗り気じゃねーんだよ!」

昨日俺に協力するとか言ったじゃねーかよ!

俺の言葉に桃は申し訳なさそうに口を開く。

「い、いえ、あの、なんというか昨日、一晩考えたら葛藤が……」

「なんで葛藤するんだよ」

「3次元の友達を作ることはいいこと……3次元の友達を作ることはいいこと……でも……女の子」

だめだ。桃のやつ完全に自分の世界に入っちまった。目が虚ろでなんか怖いって。

「んで霧咲はなんで乗り気じゃねーんだ?」

霧咲に昨日の1件を話したあなたりから、なんかテンションが見るからに下がってんだよな〜。いつもなら「お茶飲みますか?」って聞くくらいの感じで、「パンツ見ますか?」って聞いてくんのに。つかな俺は3次元の女の子のパンツには興味ないことを早く分かってもらいたい。二次元美少女と中学生のになら興味があるということを。

「変態さんですね」

「虚ろな目をしながらも、俺の心を読むのやめてくれない?」

それとな、変態さんですねっていうセリフはなもっと無表情で言わないと!

「でなんでなんだ?霧咲」

レ〇プされた二次元美少女のごとく、あからさまにテンションが下がっている霧咲にもう一度聞く。

ちなみに俺は幼馴染系のNTRとか見ると辛くなるからあんまり見ないようにしている。俺にだって聖なる欲くらいはあるからな?
ん?3次元?なにそれ?2次元しかみねーぞ俺は。

「いやーその、陽向さん、積極的だなーと思いまして」

かき消えるような声でことばを紡ぐ霧咲。
その表情は今にも泣きそうだった。
なんで泣きそうなんだよ。やめてくれそんな顔をするのは。

なんで積極的なのかだって?
そりゃ、

「初めて趣味をがっつり話せるやつに出会ったからに決まってんだろ?」

柏木は正直、むちゃくちゃ怖い。もう、ほんとに怖い。でも、あいつは俺と同じオタク趣味を持っていた。怖いは怖いけど、同じ趣味を持ってる奴と出会えたというのは嬉しい。

「やっぱさ、同じ趣味を語れるっていうのは嬉しいことなんだよ。俺はそれを味わいたい。そして……」

「「そして?」」

「無茶苦茶熱く嫁たちを語る」

俺が熱意を込めて言ったら、場がシーンとなった。
なんでシラケるんだよ!

「……なんだ、陽向さんですね」

ん?今の発言はどう言う意味で言ったのかな?霧咲。

「……ですね。陽向くんはやっぱり陽向くんでしたね!」

うん。その発言の意図はなにかな?桃。

「馬鹿らしかったですね。こんなことで悩むなんて」

「うん。陽向さんは調教しきれてないから3次元なんかに興味がないのに」

ほう。霧咲、俺が3次元に興味がないことを分かっていたのか。じゃあ今度からはパンツ見せようとするなよな。調教とか言っていたのは気のせいだろう。

二人はなぜか、さっきとは打って変わってパァと顔が明るくなり、見るからにやる気に満ち溢れていた。やる気を出してくれたのはありがたい。

「で、どうやって友達にするか考えはあるんですか?」

「あぁ。ギャルゲーのヒロインと思って柏木を落とす」

「お、落とす……?具体的にはなにを?」

「柏木の行動範囲から日常生活のありとあらゆる柏木の情報をまずは集めてそれから攻略していく。そうだなとりあえず尾行から始めるか」

「陽向くん。それじゃただのストーカーですよ?」

「3次元の女の子を尾行してなんでストーカーになるんだよ?」

「その無垢な瞳でほんとに疑問に思ってるところがなんか怖いですよ」

だいたいストーカー行為なんて好意を持ってる奴にしかやらないだろ。

「陽向くんの作戦じゃダメですね」

「なんでだよ。どこがダメなんだ、どこが」

こめかみを抑えて話す桃。

「分かりました。私が考えます。陽向くんには任せられません」

「いいって俺がかんが」

「留置所にいる陽向くんを迎に行きたくありません」

なんで俺が捕まるかのように言うんだよ。俺は犯罪は犯さねーよ。

「陽向さんよりは篠原さんが考えた方がいいと思う」

霧咲!お前まで!

「友達になるというよりは、まず友人部に入ってもらった方がいいでしょう」

「ん……そうだな。そのほうがいろいろ都合がいい」

「はい。友人部に入ってもらえれれば、趣味の会話も出来ますし、会話しているうちに自然と友達になれると思いますし」

さすがだな。確かに友人部に入ってくれれさえすれば、趣味の会話も部室を使えば堂々とできる。それに、会話とかいろいろしていれば自然と友達にもなれるだろう。オタク友達に。

「友人部に入れさせるためにはどうする?」

「そうですね。いきなり言っても絶対入らなさそうなので徐々に誘うしかないでしょうね」

「だよな」

友人部に入ってくれ!って言ってもまた一蹴されるだけだろう。もうあんな怖い思いは俺もしたくない。

「友人部に入ってもらうためには少なからず柏木さんとコミュニケーションを取らないとダメだとは思います」

「そっからか」

ゲームとは違ってやっぱ簡単には行かないか。

「どうやってコミュニケーションをとるかが問題だな」

クラスも違ければ、選択授業で一緒のものもない。それに、不良と一般生徒という違いもあって、全然関わりがないぞ。困った。

「陽向くん。不良同士ですからね?はたから見れば」

「?」

「自覚がないのが怖いんですよね」

いやいや、俺と柏木は一般生徒と不良の違いがあるだろ?

「あの、いいですか?」

ちょこんと手を挙げて発言しようとする霧咲。その仕草は世の男どもが見たら見とれてるだろう。

「いいぞ霧咲」

「お昼ご飯を一緒に食べるのってどう……かな?」



……昼飯を一緒に食べる?


「いいな、それ」

「はい。たしかにいいですね!」

いいこと言うな霧咲!
接点があまりなくても昼の休み時間なら会える。
しかも昼飯を一緒にとなればコミュニケーションも取れやすくなるだろう。



そんなこんながあって俺達は今日までこうして憩いの場に来て昼飯を食っている。いつも昼飯を一緒に食っている智和にはいろいろと事情を説明しておいた。目を見開いて驚いてたなあいつ。まぁ桃と同じ部活に入ってるのに驚いたんだろう。あいつのことだから言いふらしたりはしないだろ。そこんとこは信用できる。……今のところの唯一の友達で親友だからな。

不思議に思ったのが、俺一人だけが柏木と一緒に昼飯を食べるものだと思っていたのに、桃と霧咲も一緒に昼飯を食べると言ったところだ。それと弁当を作ると言い出したこと。

まぁ一人だと間がもたないだろうからありがたかったけどな。

最初のうちは憩いの場にある四人がけのテーブルに柏木が入れるスペースを残したりしていたんだが、柏木は俺らを見ると憩いの場から居なくなった。
桃の助言でまずは憩いの場にいさせるところからやろうということで、俺らは俺らで飯を食っている。

でも最近、柏木は俺らをみかけてもお手製のベンチに腰掛けて昼飯を食うようになった。もう少しで俺達と食べてくれるかもしれない。

「柏木もこっち来て食おうぜ」

「あん?霧咲をか?」

「だ、ダメですよ!私は陽向さんにしか食べられたくありません!」

「霧咲、少し黙ってくれよ、頼むから!柏木もやめてくれ」

最近はこういう会話も出来るようになった。
柏木はほんの少し表情を崩すことも多くなった……と思う。

だって無表情で変わってるのかどうか分かんねーんだもん!スマホを睨みながら見てるが、あれは怒ってるのか?



今日もあいつはいや、あいつらは来てるんだろうなと思いつつも私は憩いの場へと足をすすめる。

最近、あの空間、雰囲気、時間が悪くないものに変わりつつある。まぁ暇つぶしにはいいかなくらいだが。

瀬尾はあの日以来友達になってくれとは言わず、ただ憩いの場で飯を食っているだけだ。もっと言われるものだと思っていたがそうでもなかったらしい。

知り合いは欲しいが友達はいらない。
人とそこまで深くからんでもいいことなんてないんだから。


これからずっと、テーブルとベンチの距離を私は縮めないだろう。

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