絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第三十八話 期限は二日後
「そんなことが……実際に出来るとでも思っているのか!? 別世界への干渉だなんて……ふざけている」
崇人はそれを自分で言って、非常にくだらないことだと思っていた。しかし、だからといってここで正直に告げると、凡てが水の泡になりかねない。戻るなら、この世界と元の世界の間に悪い関係は持ち込みたくない。そう思っていたからだ。
「……そうか。残念なことだよ。だがね、一つ気になる情報を、聞いたものでね、それも君に聞いてみたい」
リーダーは崇人に近付き、耳元でこう囁いた。
「――なんでも最近、外世界から来た人間が確認されている。それも、その人間がリリーファーに乗り込んだと聞くよ。……もしかして、その正体というのは……君かな?」
それを聞いて、崇人は固唾を飲んだ。
このリーダーと自らを名乗った人間は、凡てを知っているのだ。つまり、これは凡てテストに過ぎない。素直に従えばよしとしたのだろうが、警戒した場合はどうするのか。無理矢理にでも服従させるのか、否か。
「さぁ……答えてみてよ。ねえ?」
崇人はリーダーの猫なで声に、最早理性を保つことなど出来なかった。
そして、崇人はゆっくりと――頷いた。
対して、リーダーは小さくため息をついて、
「……なんだ。やっぱり知っていたんじゃないか。まったく、君には手を煩わせてしまうね。初めに君を捕まえる時にも、そして今の詰問においても」
リーダーはシニカルに微笑む。
「それは……恐らく元の世界を守るためだろう。安心したまえ、未だ私たちは確実にその方法が見つかったという訳ではない。だが……見つければ直ぐに侵攻を開始する。なにも、奇襲をするという訳ではないがね。奇襲は私の流儀にそぐわない」
「テロ集団がそう言っても変わりゃしないけれど?」
「……生意気な口を言えるのも今のうちだぞ、タカトくん。今君は捕虜となっている。そして……彼らの世界で仲介役を勤めてもらうのだからな……!」
そう言ってリーダーは高らかに笑い、そしてそのまま『消えた』。一瞬の間、目を逸らしていただけにもかかわらず、完全に消えてしまった。
「……お前、このことを知っていたんだな?」
未だ椅子に座り、下手くそな口笛を吹く男に言った。
「ああ、知っていたよ。けれど、それは言うなとリーダーに口止めされていたからね……。俺は、君に悪いことはしないと言った以前にこの『赤い翼』の一員だから、規律には従わなくてはいけない」
「規律、ねえ……。ともかく、俺は至極イライラしているのは確かだ。どうして、そんなことをする?」
「それは先程も言ったが、俺は組織に身を置いているのでね。そんなことは無理なんだよ」
崇人は長いため息をついた。
一先ず、このことをどうアーデルハイトたちに伝えればいいか――そんなことを考えることしか、今の崇人には出来ないのであった。
◇◇◇
その頃。
ヴァリエイブル軍は本格的にティパモール殲滅作戦を開始した。
先ず、リリーファーが先行して出撃し、ティパモールを一掃する。
その後、重兵器を用いて歩兵軍隊が『ゴミ掃除』をするということであった。
「……思うんだけれど、『赤い翼』を倒すためだけにこれをする必要があるのかしら?」
「正直なところ、ないと思いますけれどね」
アーデルハイトとマーズはリリーファー内にある通信機器でそんな話をしていた。
おそらくは、殆どの人間がこの作戦に違和感を抱いていることだろう。しかし、それに不平不満を言うものはいない。なぜなら、それがそういう国で、そういう時代だからだ。
「……まあ、上の言うことを従えってのは確かにこの国の規律っちゃ規律だが……こいつはちょっとやり過ぎな気がするのだよ」
「ですが、逃げるわけにもいかないでしょう?」
「そうだ。お互いがお互いを監視するために、二人も起動従士を呼んだのだから。きっとそんな汚いことを考えているのだろうよ。上層部とやらは」
「そんなもんですか。ペイパスも似たようなもんですがね」
「お互い、変な上司を持つと苦労するね」
「そうですねえ」
そう言って、通信を終了した。
◇◇◇
大会会場は騒然となっていた。
何故ならば、ヴァリエイブル訓練学校のメンバーが五人中四人棄権することで、これから行われる試合が事実上の決勝戦となってしまったからである。だからとはいえ、残った人間が気を抜くことなどはない。
残ったのは、ヴァリエイブルのヴィエンス・ゲーニックと西ペイパスのファルネーゼ・ポイスワッドだった。
『それでは……これから、個人戦の決勝戦を開始します! ヴァリエイブルのヴィエンス・ゲーニックと、西ペイパスのファルネーゼ・ポイスワッド、それぞれ入場です!』
「残り物には福がある、とはいうが……まさかこうなるとは思わなかったな」
ヴィエンスはリリーファーの中で独りごちる。おそらくは、ファルネーゼとやらもそういう気持ちで戦うのだろう。初めはヴァリエイブルとの連戦が想定されていたのだろうし、戦う選手も違っていた。
「エスティも、みんなも、いったいどこへ行ったってんだ……? まあいい。俺は一先ず戦えばいいんだ」
そう言って、ヴィエンスはコロシアムへ出た。
そこには全身を白に塗られたリリーファーがあった。おそらくは、それが敵なのだろう。
「さて……戦いますか……!」
そう言って、ヴィエンスの乗り込んだリリーファーが一歩踏み出した、たったそれだけのはずだったのに。
気がつけば、ヴィエンスの乗ったリリーファーが、地面に顔を付けていた。それがどうしてそうなっていたのかは、乗っていた張本人ですら理解できなかった。
「……どういうことだ?!」
彼が叫んでも、それがどうしてかは、まったく解らなかった。
部屋に戻っても、メンバーは誰も居なかった。団体戦は二日後に行われる。もし、二日経ってもメンバーが誰ひとり帰ってこなければヴァリエイブル訓練学校は棄権ということになる。
「どいつもこいつも……何やっているんだ」
苛立つが、実は彼が一番蚊帳の外に居るという事実は――まだ彼は知らない。
◇◇◇
その頃、『赤い翼』アジト。
「リーダー、ヴァリエイブル軍がリリーファー二機を用いて作戦を開始したらしいです」
「やつらめ。ついに始めたな……。配置につけ!」
その言葉に、男は小さく敬礼をした。
そして、アジト全体にサイレンが鳴り響く。
「……なんだ?」
それは、アジトの一部屋に監禁されている崇人にも聞こえていた。
「これは全体連絡とかをするときに使うサイレンだ。……どうやら、お前の味方が攻撃を開始したらしいな。……逃げるんじゃねえぞ」
「逃げられるとでも思っているのか?」
崇人はシニカルに微笑むと、男は口元を緩め、銃を持ってその部屋を後にした。
しかし、崇人はじっとしろと言われ、素直にそう出来るほどの人間ではなかった。
崇人はそれを自分で言って、非常にくだらないことだと思っていた。しかし、だからといってここで正直に告げると、凡てが水の泡になりかねない。戻るなら、この世界と元の世界の間に悪い関係は持ち込みたくない。そう思っていたからだ。
「……そうか。残念なことだよ。だがね、一つ気になる情報を、聞いたものでね、それも君に聞いてみたい」
リーダーは崇人に近付き、耳元でこう囁いた。
「――なんでも最近、外世界から来た人間が確認されている。それも、その人間がリリーファーに乗り込んだと聞くよ。……もしかして、その正体というのは……君かな?」
それを聞いて、崇人は固唾を飲んだ。
このリーダーと自らを名乗った人間は、凡てを知っているのだ。つまり、これは凡てテストに過ぎない。素直に従えばよしとしたのだろうが、警戒した場合はどうするのか。無理矢理にでも服従させるのか、否か。
「さぁ……答えてみてよ。ねえ?」
崇人はリーダーの猫なで声に、最早理性を保つことなど出来なかった。
そして、崇人はゆっくりと――頷いた。
対して、リーダーは小さくため息をついて、
「……なんだ。やっぱり知っていたんじゃないか。まったく、君には手を煩わせてしまうね。初めに君を捕まえる時にも、そして今の詰問においても」
リーダーはシニカルに微笑む。
「それは……恐らく元の世界を守るためだろう。安心したまえ、未だ私たちは確実にその方法が見つかったという訳ではない。だが……見つければ直ぐに侵攻を開始する。なにも、奇襲をするという訳ではないがね。奇襲は私の流儀にそぐわない」
「テロ集団がそう言っても変わりゃしないけれど?」
「……生意気な口を言えるのも今のうちだぞ、タカトくん。今君は捕虜となっている。そして……彼らの世界で仲介役を勤めてもらうのだからな……!」
そう言ってリーダーは高らかに笑い、そしてそのまま『消えた』。一瞬の間、目を逸らしていただけにもかかわらず、完全に消えてしまった。
「……お前、このことを知っていたんだな?」
未だ椅子に座り、下手くそな口笛を吹く男に言った。
「ああ、知っていたよ。けれど、それは言うなとリーダーに口止めされていたからね……。俺は、君に悪いことはしないと言った以前にこの『赤い翼』の一員だから、規律には従わなくてはいけない」
「規律、ねえ……。ともかく、俺は至極イライラしているのは確かだ。どうして、そんなことをする?」
「それは先程も言ったが、俺は組織に身を置いているのでね。そんなことは無理なんだよ」
崇人は長いため息をついた。
一先ず、このことをどうアーデルハイトたちに伝えればいいか――そんなことを考えることしか、今の崇人には出来ないのであった。
◇◇◇
その頃。
ヴァリエイブル軍は本格的にティパモール殲滅作戦を開始した。
先ず、リリーファーが先行して出撃し、ティパモールを一掃する。
その後、重兵器を用いて歩兵軍隊が『ゴミ掃除』をするということであった。
「……思うんだけれど、『赤い翼』を倒すためだけにこれをする必要があるのかしら?」
「正直なところ、ないと思いますけれどね」
アーデルハイトとマーズはリリーファー内にある通信機器でそんな話をしていた。
おそらくは、殆どの人間がこの作戦に違和感を抱いていることだろう。しかし、それに不平不満を言うものはいない。なぜなら、それがそういう国で、そういう時代だからだ。
「……まあ、上の言うことを従えってのは確かにこの国の規律っちゃ規律だが……こいつはちょっとやり過ぎな気がするのだよ」
「ですが、逃げるわけにもいかないでしょう?」
「そうだ。お互いがお互いを監視するために、二人も起動従士を呼んだのだから。きっとそんな汚いことを考えているのだろうよ。上層部とやらは」
「そんなもんですか。ペイパスも似たようなもんですがね」
「お互い、変な上司を持つと苦労するね」
「そうですねえ」
そう言って、通信を終了した。
◇◇◇
大会会場は騒然となっていた。
何故ならば、ヴァリエイブル訓練学校のメンバーが五人中四人棄権することで、これから行われる試合が事実上の決勝戦となってしまったからである。だからとはいえ、残った人間が気を抜くことなどはない。
残ったのは、ヴァリエイブルのヴィエンス・ゲーニックと西ペイパスのファルネーゼ・ポイスワッドだった。
『それでは……これから、個人戦の決勝戦を開始します! ヴァリエイブルのヴィエンス・ゲーニックと、西ペイパスのファルネーゼ・ポイスワッド、それぞれ入場です!』
「残り物には福がある、とはいうが……まさかこうなるとは思わなかったな」
ヴィエンスはリリーファーの中で独りごちる。おそらくは、ファルネーゼとやらもそういう気持ちで戦うのだろう。初めはヴァリエイブルとの連戦が想定されていたのだろうし、戦う選手も違っていた。
「エスティも、みんなも、いったいどこへ行ったってんだ……? まあいい。俺は一先ず戦えばいいんだ」
そう言って、ヴィエンスはコロシアムへ出た。
そこには全身を白に塗られたリリーファーがあった。おそらくは、それが敵なのだろう。
「さて……戦いますか……!」
そう言って、ヴィエンスの乗り込んだリリーファーが一歩踏み出した、たったそれだけのはずだったのに。
気がつけば、ヴィエンスの乗ったリリーファーが、地面に顔を付けていた。それがどうしてそうなっていたのかは、乗っていた張本人ですら理解できなかった。
「……どういうことだ?!」
彼が叫んでも、それがどうしてかは、まったく解らなかった。
部屋に戻っても、メンバーは誰も居なかった。団体戦は二日後に行われる。もし、二日経ってもメンバーが誰ひとり帰ってこなければヴァリエイブル訓練学校は棄権ということになる。
「どいつもこいつも……何やっているんだ」
苛立つが、実は彼が一番蚊帳の外に居るという事実は――まだ彼は知らない。
◇◇◇
その頃、『赤い翼』アジト。
「リーダー、ヴァリエイブル軍がリリーファー二機を用いて作戦を開始したらしいです」
「やつらめ。ついに始めたな……。配置につけ!」
その言葉に、男は小さく敬礼をした。
そして、アジト全体にサイレンが鳴り響く。
「……なんだ?」
それは、アジトの一部屋に監禁されている崇人にも聞こえていた。
「これは全体連絡とかをするときに使うサイレンだ。……どうやら、お前の味方が攻撃を開始したらしいな。……逃げるんじゃねえぞ」
「逃げられるとでも思っているのか?」
崇人はシニカルに微笑むと、男は口元を緩め、銃を持ってその部屋を後にした。
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