絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~

巫夏希

第六十一話 騎士団、始動。(前編)

 次の日。
 崇人たちは改めてヴァリス城の王の間へと招かれた。

「なあ、マーズ。いったいどうしてまた呼んだんだ?」
「なんでも私たち……えーと、なんだっけ? ハリー騎士団か。それにきちんとした任務を授けようとのことらしいよ。真の目的は、インフィニティを守るため……らしいけどね」

 マーズの言葉に、崇人はいかんせん納得がいかなかった。
 しかし、決まってしまったことだ。それを受け入れなくてはならない。
 かくして、崇人はそれに関する不満は一先ず飲み込んでおくこととした。

「やあやあ、遅れて済まなかったな」

 国王――ラグストリアル・リグレーがやって来たのは、それから数分後のことだった。その間、崇人たちはマーズと崇人が一言二言会話を交わしたのみだった。

「ああ、そんな堅苦しい話ではないから気を楽にして」

 そう言って、国王は長机の崇人の目の前に座った(描写されていないだけだが、彼らは椅子に腰掛けている)。

「さてと……それでは本題に入ろうか。『機械都市カーネル』のことは知っているね?」

 それを聞いて、崇人たちは頷いた。
 機械都市カーネル。
 エイテリオ王国との国境付近にある城塞都市のことだ。自治権を与えられているため、カーネルは国同等の権力を持っているということになる。しかしながら、実態はヴァリス王国――ひいてはヴァリエイブル帝国の管轄となっている場所だ。
 街の中心にはリリーファー応用技術研究機構、通称ラトロが存在している。ラトロはリリーファー開発の第一線で活躍する組織のことだ。非政府組織でも非営利組織でもないラトロが、この都市の権力を握っている、つまりは政府機関と同一である。
 各国はラトロが開発したリリーファーを、ヴァリエイブル帝国を介さずに購入することができる(裏を返せば、管轄にあるヴァリエイブル帝国も、対等の立場としてリリーファーを購入しなくてはならない)。カーネルが高度な自治権を得ているのは、こういう世界事情からなるものだった。
 ちなみにリリーファーは各国の研究所でも研究・開発はされている。しかし、彼らラトロの技術開発は群を抜いている。世代でいえば、三つ四つは今の世代より平気で秀でているのだ。

「……機械都市カーネルがどうかなさいましたか?」
「実はだね、カーネルが鎖国をすると全世界に言い放ったのだよ」

 その発言は至極シンプルで、至極残念なことだった。
 機械都市カーネルは、リリーファー開発の第一線にある場所。そして、最新のリリーファーを研究して、販売している場所だ。
 もし、そこが世界との取引をやめると発表すれば、どうなるか――それは崇人たちにも充分に理解できることだった。

「君たちにも解ると思うが……正直言って『アレス』も『ペスパ』も『アルテミス』……これはペイパス、敵国のリリーファーだったな、これも凡てはラトロが開発したパイロット型を、我が国で改良したものとなっている。即ち、リリーファー開発の第一人者といってもいい、ラトロが謂わば独立を宣言している。彼らの戦力は驚異的なものだ。だが、起動従士が居ないだけマシではある。だから君たちには……カーネルに向かい、何かあったらそれを食い止めて欲しいのだ」
「食い止めるって言ったって……」

 崇人が思わずそう言いたくなったが、その前にマーズが手で制した。

「かしこまりました。『ハリー騎士団』、そのご命令をお守りいたします」

 それを聞いて、国王は小さく頷いた。


 ◇◇◇


「どうしてあんな命令引き受けたんだ」

 マーズの家に帰って、崇人はマーズに訊ねる。崇人の表情は口をへの字に曲げて不機嫌というのが一目で解る程だ。

「だって拒否権はないよ。私たちは国王直属の騎士団だ。国王の命令が来たら「はい」と言うしかないね。たとえ『首を切って死ね』と言われても、だ」
「それはおかしいだろ」
「それが騎士道だ」
「俺たちは起動従士だ。騎士などではない」
「だが、騎士団という名を冠している。そしてお前はその騎士団長だ。騎士団長がそうであってどうする? 困るのは私たちなんだぞ?」

 マーズの言葉も、確かに正論だった。
 だが、納得いかない崇人でもあった。
 そんな抽象的な命令は、企業戦士だった時もあまり承らなかった。
 だから、今回も何とかして逃れるか、もしくはもう少し具体的なことが欲しかったのだが――マーズに遮られてしまった。

「まあ、なんとかなるだろ。そんな感じで私はここまで来たからな。女神とかどうとか呼ばれている外部の評価は割とどうでもいいが、今の立場に立ったのは大体運だ。世の中そんなもんだよ」

 マーズは小さく呟くと、どこか遠くを見つめた。
 マーズは、何かを知っているようだったが――崇人は敢えてそれを訊ねなかった。


 二日後。
 崇人たちはヴァリス城地下にあるリリーファーの倉庫に来ていた。
 彼らのリリーファーが正式に配属されるためである。
 崇人はインフィニティ、マーズはアレスと決定している。しかしほかの人間はまだ決定していない。そのためにリリーファーを決定するのだ。

「リリーファーもそうないんじゃないか? なのに、こんなできたばかりの騎士団にあげる余裕があるのか……」

 マーズは道中そんなことを言っていたが、それも実際に倉庫に行けばそんなことも払拭されてしまった。
 そこに並んでいたのは、数多のリリーファーの躯体だった。見た感じ、十機近くは並んでいる。それも、凡て同じ形で、カラーリングだけが異なるものとなっている。滑らかなカーブで構成されているそれは、ほかのリリーファーと同じだったが、それを分類するかのようにカラーリングされている。少なくともここにあるのは十機で、深い青が二機、水色が一機、深い緑が二機、黄緑が一機、茶色が一機、灰色が一機に黒が二機となっていた。

「やあやあ、君たちじゃないか。懐かしいね」

 その声に彼らは振り返る。そこにいたのは大会時にいた整備リーダー――ルミナスだった。

「ルミナスさん、どうしてここに……?」
「やだね。私はもともとここにいる人間だよ。大会時は人が足らなくなるからあっちに居るってだけだ」
「それじゃ、いつもはここに」
「そういうことだね。一応、これからこのハリー騎士団に就くよう言われたから今日から私も同僚だ。よろしくね」

 そう言って、崇人とルミナスは固い握手を交わす。

「ところで」

 話を切り出したのはエスティだった。

「あれは一体?」
「あれはね……量産機だよ。量産型リリーファー『ニュンパイ』という。ああ、全体の名前がそういうのであって、実際はカラーリング毎に名前が異なるけれどね。……さて、リリーファーを持っていないのはこの内誰だい?」

 ルミナスが訊ねると、素直にコルネリア、ヴィエンス、エスティの三人が手を挙げる。

「正直でよろしい。……まあ、この中から一機選んでもらうだけなんだけれどね。カラーリング以外は性能は凡て一緒だし」
「ええっ?」

 その言葉に一番驚いたのは他でもないエスティだった。
 エスティの言葉を無視してルミナスは、

「さあ、選んでくれ。そして、それが君たちと一生付き合う『愛機』になるからね」

 そう言って小さく微笑んだ。

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