絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~

巫夏希

第六十四話 協力

 ピークス-ループ理論はメリア・ヴェンダーが提言した理論の事である。エネルギーを循環させることで、限界値以上の値を引き出していくという理論だ。崇人の昔いた世界ではそんなことは有り得ない。等価交換――字を当ててごとく、『等』しい対『価』で『交換』するそれが大前提として成り立っているのだ。
 だが、この世界は崇人の居た世界とは違う。魔法もあるし、このような巨大ロボットもある。少し科学が進んだだけの世界かと思えば、様々なイレギュラーな存在もあるから、ピークス-ループ理論だとか、無限のエネルギーを生み出すとかそんなことは崇人も今となってはあまり驚かなくなってしまった。

「PR型エンジンは、ピークス-ループ理論を導入して、初めてエネルギーの循環とそれからの無限のエネルギーを引き出すことに成功したエンジンだ。……まあ、とはいえ処理にも限界はあるから厳密に言えば無限ではないのだろうけれど」

 名前詐欺には間違いないかな、とケイスは呟く。
 それを聞いて崇人は不満気な表情を浮かべる。

「……それで、そのPR型エンジンを見てどうすればいいと?」
「そこからが本題さ」

 ケイスはそう言うと、ニヤリと笑った。

「ぼくらはこのエンジンを使って何か恐ろしいことを行おうとしているのではないか……そう考えているのだよ。その恐ろしいことは、きっと僕らが考える斜め上をいくに違いないけれどね」

 ケイスがそう言うと、ぼんやりと外を眺めた。小高い丘にある塀に囲まれた町。それこそが機械都市カーネルだった。カーネルは、直ぐそばまで迫っていた。

「別に嫌なら嫌で構わない。ただ、僕らもカーネルに潜入するのは事実だ。仮に鉢合わせたときに無駄な戦いで無駄な血を流すのも嫌だからね……」
「なるほど。つまり、今回の同盟は鉢合わせや無駄な戦いを抑えるため、更にはお互いの利権が合致するだろうとそちら側が睨んだから……そう解釈して相違ないな?」

 崇人の言葉に、ケイスは頷く。どうやら交渉が成立したようだった。

「それでは、既にステーションに待機させている。彼らと合流しよう。僕が保証する。これで彼らはなにも君たちには手出ししてこないということをね」


 ◇◇◇


 その会話が終わってからステーションに着くまではそう時間はかからなかった。
 サウスカーネル・ステーションはカーネルの南にある。カーネル・ステーションを態々通過したのは二つの理由が挙げられる。
 ひとつは、直接乗り込んでは『戦争』とみなされ、ヴァリエイブルが圧倒的に不利な状況に立つこと。
 二つ目としては、サウスカーネル・ステーション近辺には軍事基地があるから、リリーファーをそこから乗ればよいなどといった軍事的利便が良いということだ。
 サウスカーネル・ステーションへ降り立った崇人たちハリー騎士団とケイスは、駅舎を出て北へ向かった。一直線に伸びる道路を進むと、目の前に異様な光景が広がっていた。
 それは人がたくさんいる光景。
 人数にして一個小隊レベル。
 それが一列に並んで、崇人たちを待ち構えていた。

「なんだ、あれは……?」

 崇人が怪訝な顔でそちらを見ると、ケイスが一歩前に出て、崇人たちの方を向く。

「あれこそが、僕たち『新たなる夜明け』の面々だ」

 崇人たちが『新たなる夜明け』の列に近づいていくと真ん中に立っているひとりの男がこちらに近付いてきた。
 黒いウェットスーツに身を包んだ男だった。首元にはボビンのような筒があり、それは隊員全員のウェットスーツについているようだった。男の顔は思ったより若いものだった。

「……お初にお目にかかる。ハリー騎士団の方々、私は『新たなる夜明け』のリーダーである、ヴァルト・ヘーナブルという。以後、お見知りおきを」

 ヴァルトは頭を下げて言った。それを聞いて、崇人たちも頭を下げる。

「お……いや、私はヴァリエイブル帝国国王直属騎士団の一つ『ハリー騎士団』騎士団長のタカト・オーノだ」

 崇人が仰々しい(初めてのことなので、少々ぎこちなく見える)挨拶を済ませると、ヴァルトは煙管を取り出してそれに火をつけた。

「これから仕事をするパートナーというのもあるし、そういう仰々しいことは無しにしよう……と思うのだが、どうかな?」
「ああ。それはいい」
「心が広いようで、感謝する」

 ヴァルトと崇人の短い会話も終わり、崇人を先頭にして彼らは歩き出した。
 暫く歩いていくと、リリーファーが既に収められている南カーネル基地へと到着した。サウスカーネル・ステーションから歩いて十分あまり。住宅街の中に突如としてそれは出現した――ただしそれは、如何にも普通にある雑居ビルの形として、だが。
 雑居ビルに入ると、カウンターにいる女性が崇人の方へと向かってきた。

「ハリー騎士団の皆様ですね。……えーと、奥の方々は?」
「協力を取り付けた面々だ。仕事をする上でやりやすいと思ったので、今回協力に至った」

 左様ですか、と女性は言って崇人にカードを手渡す。

「こちらはカードキーとなります。そちらのエレベータへはそれを使うことで乗り降りが出来ます。では」

 そう言って、女性は再び窓口へと戻る。
 崇人たちは女性に頭を下げ、エレベータへと向かった。


 ◇◇◇


 エレベータに乗り込んで、数秒もすれば目的の階へと到着した。扉が開くと、そこには巨大な空間が広がっていた。
 リリーファーが格納されていて、既にスタンバイが完了しているようだった。インフィニティにアレス、イエローニュンパイ、アクアブルーニュンパイ、グリーングリーンニュンパイが既に鎮座していた。

「もう出撃は完璧よ」

 その光景に目を奪われていた崇人に近づいてきたのはルミナスだった。
 ルミナスはリリーファーの方を指差すと、小さく微笑んだ。

「まあ、今回の作戦に必要はないと思うけれど。あくまでも調査……ってのが前提で、うまくいけば話し合いで解決。誰も血を流さないのが一番なのだけれど……まあ、そうもいかないでしょうし」
「いやいや、早速それをいうのもどうかと思うぞ。可能性は最後まで信じてやれよ」
「騎士団長サマがそういうのならば構わないけれど……そんな甘い考えのままでいると痛い目見ると思うわよ?」
「肝に銘じておく」

 そう言って崇人は胸で十字架を切る。別に崇人はそういうのに興味はないのだが、そういうのはついついやってしまうものだ。

「そういえば……後ろにいるむさい集団はなによ?」

 むさいと言われ、少ししょぼくれてしまう新たなる夜明けの面々。
 それを見て、崇人は慌てて答える。

「新しいメンバーだ。誰もリリーファーを扱えることが出来るらしいんだが……何かないかな」
「そう急に言われても何も……」

 ルミナスは一瞬考えるが、すぐに何かを思い出したらしく、ポンと手を叩いた。

「そうだ、あったよあった。リリーファーはリリーファーでも、『二人で操縦できるリリーファー』だよ!」

 まあ機能性の問題で直ぐに廃止されてしまったんだがね、とルミナスは続ける。

「機能性ってどういうことだ?」
「ほら。二人組で操縦するってことはそれなりに二人の意志が協調されていないといけないわけで。そうなれば例えば双子とかそういうのじゃないと難しいのよ。操縦が」
「なるほど。……双子といってもそう都合のいいのが」

 いるわけがない、と崇人が言おうとした、ちょうどその時だった。『新たなる夜明け』の面々からちょうど二本の腕が見えた。
 それを見て、崇人はニヤリと微笑んだ。

「案外、居るもんだな」

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品