絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第百六十話 三賢人
レティアの言っていることはレインディアの知っている真実とあまり変わり無いことであった。
しかしながら、彼女が言っているのはあくまでも仮説だ。証拠も証言もない薄っぺらい理論だ。
その仮説は周りから見ればあまりにも馬鹿げていて、滑稽だ。そしてその仮説を信じるのはとても馬鹿らしいことだった。
もしその仮説を発言したのがレティアではなかったのなら、その発言を口にした人間は早々に処罰されていただろう。国王暗殺を実行した人間の肩を持つことになるのだから、当然のことと言えるだろう。
この発言はレティアであるから、許される発言なのかもしれない。
「……あなたは本当にお父様を」
「それ以上はおやめください、レティア様……いや、国王陛下。これ以上事をほじくり返して何になりましょうか」
レインディアはそう言って、レティアにそのことは言わせないようにした。何処で聞かれているかも解らないのに、犯人と思われる人間の味方でいるなどと国王自らが言えば大問題に発展するだろう。
もっというなら信用問題に発展していく。その位を欲しいがためにその位に就いていた人間を暗殺するなどよくあるケースだ。即ち犯人を擁護するということは何らかの疑義がかけられてしまうことだって、十二分に有り得る話だ。
「……ここには誰も来ていないわ。それに、何を今更恐れる必要があるのですか。私は、お兄様が戻って来るまでの臨時とはいえ、国王になりました。国王とは一番位の高い存在です。敵だってもちろん多いでしょう。でもそんなことは解りきった話ですよ」
レティアはもう、かつてレインディアと話していた頃の彼女ではなかった。
彼女は彼女なりの生き方を考えていた。そして、彼女はそう遠くないうちに国王になり民の先頭にたつことになると考えていた。
だから彼女は様々なビジョンを考え付いていた。
その中の一つが、今だ。実質そのプランを考えたのは僅か数時間前になるが、それでも彼女は気になった。
――レインディアがラグストリアルを殺さねばならなかった理由、を。
「ねえ、話してはくれないのですか。あなたはほんとうに……ほんとうにお父様を殺したんですか?」
「それ以上話しても無駄だと思いますよ、国王陛下」
声が聞こえた。ため息を一つついて、レティアは振り返る。
そこに居たのは一人の男だった。しかし身長はとても小さく、レティアの腰ほどしかない。金髪で、眼鏡をかけていた。眼鏡の奥に見える瞳が恭しい笑みを浮かべていた。
レインディアはその男の名前を知っていた。
リベール・キャスボン。
ヴァリエイブルに昔からある政治運営代行並びに政治運営に関するサポート団体『三賢人』のトップを務める男だ。
リベールはニヒルな笑みを浮かべて、レティアの隣に立った。
「いけませんよ、陛下。このような悪しき魂を持った人間と話をしていれば、あなたにもその汚れが移るかもしれません」
「国王陛下を侮辱するつもりか!」
「おやおや……。先代の国王陛下を暗殺するという、それこそ最大かつ最悪の侮辱をしたあなたがよくそれを言えますね」
リベールはそう言って、牢屋の扉に近付く。牢屋を眺めると、レインディアがリベールを睨み付けていた。
「おお、怖い怖い。やはり人を簡単に殺すことの出来る人間は、何処か頭のネジが抜けているのかもしれませんね」
そう自己完結して、リベールは一歩下がる。
「そうそう、レインディア。あなたが一向に言っていた、ラフター・エンデバイロンのことですが」
リベールは眼鏡をくいっと上げて、
「――死んだそうですよ」
静かにそう言った。
「……へ?」
「信じられないのは私たちだって一緒だ。なぜ彼が死んでしまったのかは、いまだ調査を続けているからなんとも言えんがね」
「どうして死んでしまった……。いや、偽装の可能性も考えられる。ラフター・エンデバイロンを一回『殺した』ことにしておいて……」
「ですので、」
レインディアの言葉を強引に打ち切って、リベールは手を掲げた。
「ここで処刑を実施してしまおうかと」
刹那、リベールの手から、轟轟と燃え盛る炎がその牢屋へと吹き出した。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
悲鳴が地下に鳴り響いた。レティアはそれが煩くて、聞きたくなくて、耳を塞いだ。
だが、リベールは強引にそれを引っペがそうとする。
「現実から目を背けてはいけません。現実を見つめるのです」
「あなた……レインディアには明確な証拠なんてなかったはずよ! あくまでもお父様の死体と隣り合って気絶していた、ってだけで……!!」
「それが、立派な証拠ですよ。ほかにそれっぽい人間も出てこないし、それに今は戦時中だ。だれが殺そうたって疑問には思わない」
「あなた……!」
「じゃあ、何だって言うんです。このまま元国王陛下を殺害した罪に問われている人間を、そのまま牢屋に放り込んでおけとおっしゃるのですか。そしたら、国民は国王陛下を、我々『三賢人』を、国全体を批判することになりましょう。場合によってはデモ行為に走る輩が出てくるかもしれませんね」
「……!」
残念なことに、リベールの言っていることは真実であったし、理論づけて説明する形としては最高の説明であった。
だが、彼女は納得いかない。まだレインディアは何かを語ろうとしていたからだ。
もしかしたら――リベールはそれを隠したかったのか?
レティアはそれを訊ねようとしたが――既のところでやめた。
(ここで訊いたら私も消されかねないわね……。『元国王陛下を暗殺した死刑囚が脱走して、国王陛下を暗殺』……そんなプロットが出来上がっているのかもしれない)
ともかく、結論からいって。
今その話題を持ち出すのは、あまりにも早計だということである。
「……どうなされましたかな、女王陛下」
「いや、なんでもないわ。さっさと登りましょう。この場所はじめじめしていて、あまり好きじゃないから」
レティアは考えていることが悟られないように、なるべく無表情でそう答えた。
対して、階段を登ろうとしていたリベールは微笑み、
「そうでございましょう。牢獄が好きな人間など、そうおりませんよ」
そして階段を再び登っていった。
それを見て、暫くして彼女も階段を登っていった。
◇◇◇
「三賢人? レインディア? ……済まない、もう少し噛み砕いて話してくれないか?」
マーズはセレナとヴァルベリーのいた部屋から離れ、ハリー騎士団の会議室にいた。とはいえ今メンバーは皆休息中であり、会議室にいるのはマーズと崇人だけだった。
とりあえず今までにあったことと、セレナから聞かされた事実を凡て話したが、崇人は急に情報が詰め込まれすぎたので混乱しているようだった。
「……そうだったな、申し訳ない。私だってその情報を聞いて落ち着かないのだ。納得しきれていない部分もあれば、理解しがたい点もある。しかし……ここではそれを言っても、まったく意味がない」
「とはいえ、そのレインディア……ってのが殺害した、ってことになっていて、さらに大臣も殺したのではないか……か。怖いね、まったく」
「彼女はよくやってくれる人だったんだが……人は見かけによらない、のだろうか」
実際、そのイメージは彼女とはかけ離れているものではあるのだが、『死人に口なし』という言葉があるとおり、レインディアがそれに反論することなど出来ないのであった。
「……そういえば、これからどうするつもりなんだ? 作戦とか、なんも聞いていないし。このままその……『ヘヴンズ・ゲート』、だっけ? そこへ侵攻するという考えでいいのか」
「今の所はね」
マーズの言葉に、疑問を抱きつつも崇人は頷く。
しかしながら、彼女が言っているのはあくまでも仮説だ。証拠も証言もない薄っぺらい理論だ。
その仮説は周りから見ればあまりにも馬鹿げていて、滑稽だ。そしてその仮説を信じるのはとても馬鹿らしいことだった。
もしその仮説を発言したのがレティアではなかったのなら、その発言を口にした人間は早々に処罰されていただろう。国王暗殺を実行した人間の肩を持つことになるのだから、当然のことと言えるだろう。
この発言はレティアであるから、許される発言なのかもしれない。
「……あなたは本当にお父様を」
「それ以上はおやめください、レティア様……いや、国王陛下。これ以上事をほじくり返して何になりましょうか」
レインディアはそう言って、レティアにそのことは言わせないようにした。何処で聞かれているかも解らないのに、犯人と思われる人間の味方でいるなどと国王自らが言えば大問題に発展するだろう。
もっというなら信用問題に発展していく。その位を欲しいがためにその位に就いていた人間を暗殺するなどよくあるケースだ。即ち犯人を擁護するということは何らかの疑義がかけられてしまうことだって、十二分に有り得る話だ。
「……ここには誰も来ていないわ。それに、何を今更恐れる必要があるのですか。私は、お兄様が戻って来るまでの臨時とはいえ、国王になりました。国王とは一番位の高い存在です。敵だってもちろん多いでしょう。でもそんなことは解りきった話ですよ」
レティアはもう、かつてレインディアと話していた頃の彼女ではなかった。
彼女は彼女なりの生き方を考えていた。そして、彼女はそう遠くないうちに国王になり民の先頭にたつことになると考えていた。
だから彼女は様々なビジョンを考え付いていた。
その中の一つが、今だ。実質そのプランを考えたのは僅か数時間前になるが、それでも彼女は気になった。
――レインディアがラグストリアルを殺さねばならなかった理由、を。
「ねえ、話してはくれないのですか。あなたはほんとうに……ほんとうにお父様を殺したんですか?」
「それ以上話しても無駄だと思いますよ、国王陛下」
声が聞こえた。ため息を一つついて、レティアは振り返る。
そこに居たのは一人の男だった。しかし身長はとても小さく、レティアの腰ほどしかない。金髪で、眼鏡をかけていた。眼鏡の奥に見える瞳が恭しい笑みを浮かべていた。
レインディアはその男の名前を知っていた。
リベール・キャスボン。
ヴァリエイブルに昔からある政治運営代行並びに政治運営に関するサポート団体『三賢人』のトップを務める男だ。
リベールはニヒルな笑みを浮かべて、レティアの隣に立った。
「いけませんよ、陛下。このような悪しき魂を持った人間と話をしていれば、あなたにもその汚れが移るかもしれません」
「国王陛下を侮辱するつもりか!」
「おやおや……。先代の国王陛下を暗殺するという、それこそ最大かつ最悪の侮辱をしたあなたがよくそれを言えますね」
リベールはそう言って、牢屋の扉に近付く。牢屋を眺めると、レインディアがリベールを睨み付けていた。
「おお、怖い怖い。やはり人を簡単に殺すことの出来る人間は、何処か頭のネジが抜けているのかもしれませんね」
そう自己完結して、リベールは一歩下がる。
「そうそう、レインディア。あなたが一向に言っていた、ラフター・エンデバイロンのことですが」
リベールは眼鏡をくいっと上げて、
「――死んだそうですよ」
静かにそう言った。
「……へ?」
「信じられないのは私たちだって一緒だ。なぜ彼が死んでしまったのかは、いまだ調査を続けているからなんとも言えんがね」
「どうして死んでしまった……。いや、偽装の可能性も考えられる。ラフター・エンデバイロンを一回『殺した』ことにしておいて……」
「ですので、」
レインディアの言葉を強引に打ち切って、リベールは手を掲げた。
「ここで処刑を実施してしまおうかと」
刹那、リベールの手から、轟轟と燃え盛る炎がその牢屋へと吹き出した。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
悲鳴が地下に鳴り響いた。レティアはそれが煩くて、聞きたくなくて、耳を塞いだ。
だが、リベールは強引にそれを引っペがそうとする。
「現実から目を背けてはいけません。現実を見つめるのです」
「あなた……レインディアには明確な証拠なんてなかったはずよ! あくまでもお父様の死体と隣り合って気絶していた、ってだけで……!!」
「それが、立派な証拠ですよ。ほかにそれっぽい人間も出てこないし、それに今は戦時中だ。だれが殺そうたって疑問には思わない」
「あなた……!」
「じゃあ、何だって言うんです。このまま元国王陛下を殺害した罪に問われている人間を、そのまま牢屋に放り込んでおけとおっしゃるのですか。そしたら、国民は国王陛下を、我々『三賢人』を、国全体を批判することになりましょう。場合によってはデモ行為に走る輩が出てくるかもしれませんね」
「……!」
残念なことに、リベールの言っていることは真実であったし、理論づけて説明する形としては最高の説明であった。
だが、彼女は納得いかない。まだレインディアは何かを語ろうとしていたからだ。
もしかしたら――リベールはそれを隠したかったのか?
レティアはそれを訊ねようとしたが――既のところでやめた。
(ここで訊いたら私も消されかねないわね……。『元国王陛下を暗殺した死刑囚が脱走して、国王陛下を暗殺』……そんなプロットが出来上がっているのかもしれない)
ともかく、結論からいって。
今その話題を持ち出すのは、あまりにも早計だということである。
「……どうなされましたかな、女王陛下」
「いや、なんでもないわ。さっさと登りましょう。この場所はじめじめしていて、あまり好きじゃないから」
レティアは考えていることが悟られないように、なるべく無表情でそう答えた。
対して、階段を登ろうとしていたリベールは微笑み、
「そうでございましょう。牢獄が好きな人間など、そうおりませんよ」
そして階段を再び登っていった。
それを見て、暫くして彼女も階段を登っていった。
◇◇◇
「三賢人? レインディア? ……済まない、もう少し噛み砕いて話してくれないか?」
マーズはセレナとヴァルベリーのいた部屋から離れ、ハリー騎士団の会議室にいた。とはいえ今メンバーは皆休息中であり、会議室にいるのはマーズと崇人だけだった。
とりあえず今までにあったことと、セレナから聞かされた事実を凡て話したが、崇人は急に情報が詰め込まれすぎたので混乱しているようだった。
「……そうだったな、申し訳ない。私だってその情報を聞いて落ち着かないのだ。納得しきれていない部分もあれば、理解しがたい点もある。しかし……ここではそれを言っても、まったく意味がない」
「とはいえ、そのレインディア……ってのが殺害した、ってことになっていて、さらに大臣も殺したのではないか……か。怖いね、まったく」
「彼女はよくやってくれる人だったんだが……人は見かけによらない、のだろうか」
実際、そのイメージは彼女とはかけ離れているものではあるのだが、『死人に口なし』という言葉があるとおり、レインディアがそれに反論することなど出来ないのであった。
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