絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第百九十五話 攻略作戦、終盤Ⅰ
バルダッサーレはリリーファー『聖騎士』の中で北叟笑んでいた。
「あれがインフィニティ、最強のリリーファーか。なんだ、思ったより普通のリリーファーではないか。こんなものにレパルギュアの港は陥落させられ、ヘヴンズ・ゲートを守っていた聖騎士はやられたというのか……。さらには『大会』における赤い翼殲滅もあいつが行った……と」
ぶつぶつと呟いているが、これはあくまで戦略を立てるための大事なプロセスであるとしていて、いくらほかの人間から奇妙な行為だと揶揄されても彼がし続けるプロセスであった。
声に出して、問題をはっきりさせるとともに改めて理解する。
それは彼の中で大事としていることであったのだ。
それを整理して、彼は大隊に命令する。
「どうしようとも構わない。目的はインフィニティ含む前方四機のリリーファー。作戦はいつも通り。そして……破壊しても、お咎めなしであることはいつもと同じだ」
ニヒルな笑みを浮かべて、バルダッサーレは行動を開始した。
崇人はコックピット内部で考える。頭の中にはたった一つのことが凡て占有していた。――どうやってあの三十機を倒すか、その作戦を考えていたのだった。
「三十機に対してこっちは僅か四機……勝てるのか?」
普通の戦闘ならばその数量差が逆転することはないだろう。二倍までならともかく、彼らと聖騎士団は凡そ八倍もの差をつけられている。仮に地下の洞窟にいるメンバーが戻ってきたとしても、戦力差は然程縮まないだろう。
「どうする……」
ならばどうするべきか。どのように八倍もの戦力差(あくまでも一機の強さは凡て同等として考えると)をどのように埋めるべきか、それは作戦の質で問われる。要は相手よりも高い作戦の質ならば、その差が八倍から四倍、四倍から二倍に埋まる可能性だって大いに有り得る話だ。
だからこそ、彼は考えていた。この戦いに勝つための方法を。この戦いに勝つためのプロセスを。
負けるなんてことは考えたくないし、考えるつもりもなかった。
「……どうすればいい、どうすれば……!」
『タカト、避けろ!!』
だが、その思考はマーズの叫びによってかき消された。
刹那、インフィニティは聖騎士からの右ストレートをモロに受けた。
コックピットが受けた衝撃をなるべく抑えるために水平に保つ。が、それをしてもコックピットが大きく揺れることは避けられない。
「ぐは……!」
崇人はコックピットからの衝撃をモロにうけた。
だからといって、そんな簡単に諦めるほどやわな人間でもなかった。
「フロネシス、『エクサ・チャージ』だ!!」
『了解しました』
崇人の言葉にフロネシスは短く応答する。
そして、充電を終えた砲口から荷電粒子砲『エクサ・チャージ』が発射された。
「――甘い」
だが、それで簡単に倒れる相手でもなかった。バルダッサーレはそうつぶやくと、彼のリリーファーに装着されていた大きなシールドを取り出した。盾やシールドというよりは調理に使うまな板のような、ただの板だった。しかしまな板めいた素材ではなくて、別の素材で作られたものであるが。
エクサ・チャージがシールドに当たると、それは無効化したように吸収されてしまった。あれほどあった莫大なエネルギーが凡てだ。
「……馬鹿なっ!! どういうことだ、あれは!!」
『恐らくエネルギーを吸収する素材で開発されたのではないでしょうか』
「エネルギーを吸収する……!?」
『私のデータベースにはそのようなもの存在しませんが……恐らくそうであるとみられます。ですが、まさかエクサ・チャージを吸収できるとは思いもみませんでした。マスター、これは厄介な敵ですよ。いつもより慎重にいかないといけないかもしれません』
とはいったものの、インフィニティに乗って崇人が戦った経験なんて両手で数えられる程度であるし、しかも彼はつい最近まで病人だった。リハビリをしたとはいえ本来の実力が戻っているとも思えなかった彼は、やはり不安でいっぱいだった。
横目を見ると、アレスもアシュヴィンもガネーシャも苦戦しているようだった。
――即ち、今助けてくれる味方など無いに等しい。それを意味していた。
「厄介だな……ほんとうに」
崇人は独りごちる。
フロネシスはそれに応えることはなかった。
『……ならば、作戦を変えてみましょうか』
「いや、」
そこで崇人はひとつの作戦を考えついた。
これならば、倒せることが出来るかもしれない。
崇人はそう自信を持って、フロネシスに訊ねた。
「なあ、フロネシス。エクサ・チャージを地面に放つことは可能か?」
『ええ。可能です。砲口は下にも向けることが出来ますから。でもこのまま放ちますと、皆さん地下に落下することになると思いますが……』
「それがいいんだよ」
シニカルに微笑むと、崇人はフロネシスに作戦を説明し始める。
それを聞いたフロネシスは理解すると、言った。
『……なるほど。それならば何とかなりそうですね。そしてそれは、私も考えていた作戦の中にあります』
「おっ? そうなのか。だったら気が合うな、まったく」
崇人は呟いて、一つ溜息を吐いた。
そして、インフィニティは行動を開始した。
◇◇◇
地下。クラインに乗った起動従士十名はヘヴンズ・ゲートの目の前で戦慄が走っていた。
当然のことかもしれない。ヘヴンズ・ゲートと呼ばれる門から腕が飛び出て、飲み込まれていったのだ。恐ろしいと思うに違いない。戦場は普通に思う彼らであっても、ここまでイレギュラーな場所になると違和を感じるのは当たり前である。
「応答! 応答願います!」
吸い込まれたリリーファーに続き、あれから四機がヘヴンズ・ゲートに吸い込まれた。
このまま自分もその場所に吸い込まれてしまうのだろうか。コルネリアはそんなことを考えると震えが止まらなかった。
今残っている六機のうち二機がハリー騎士団、四機がメルキオール騎士団だ。ということは吸い込まれた四機は全部メルキオール騎士団の起動従士が乗ったリリーファー、ということになる。
彼らも気が気ではなかったに違いない。突然現れた異形に驚いているに違いなかった。
そんな静謐な雰囲気が立ち込めていた地下空間だったが。
ひとつ、欠伸が聞こえた。
その雰囲気に似つかわしくないものだった。
なぜこのタイミングでそんなものが聞こえるのか? 彼らは疑問を浮かべる暇すらなかった。
今はただ、その門の中へ意識を集中すべきだと思ったからだ。
「起きたばかりのエネルギー補給には足りないわね……。まったく、足りないわ。帽子屋ももう少し手回ししてくれればいいのに。あいつのことだから、私が起きる時間を解ってこの有様なのだろうけれど」
エネルギー補給。帽子屋。
この空間にはあまりにもイレギュラーな言葉。
それが門の向こうから聞こえてきた。
声だけを聴くならばどこかのお嬢様のような美しい声だった。声域でいうならアルトだろうか。しかし低いとも高いとも感じさせない、そんな声でもあった。
そして。
ぬるり、とヘヴンズ・ゲートの中から『それ』は出てきた。
それは黒いゴスロリチックなドレスを着た女性だった。髪は金髪縦ロールがそれぞれ右と左に一本づつある。
奇妙ななりだった。少なくともヴァリエイブルでは見たことのない人間だ。背格好からして年齢はコルネリアやヴィエンスよりひとつかふたつ幼いくらいだと思われるが、しかし彼女が放つオーラはそれをはるかに上回る何かを感じた。
それは、こちらを見て笑みを浮かべる。
そしてドレスの両端を釣り上げて、頭を下げた。
「はじめまして、えーと……あなたたちはリリーファーという存在でいいのかしら? まあ、よく解らないけれど人間が生み出したコピーの最高傑作よね。それを初めて、それもこんな間近で見ることができるなんて面白いわね。やっぱり長生きしているといろんなモノが見れるし、それに『眠って』いるといろんなものを一気に楽しめるからワクワク感も半端ないわね! ……あっと、話がずれてしまったようね。えっと、私は『アリス』っていうの。よろしくね」
首を傾げて、アリスと名乗った少女は微笑んだ。その微笑みはまさしく少女のそれだった。
「あれがインフィニティ、最強のリリーファーか。なんだ、思ったより普通のリリーファーではないか。こんなものにレパルギュアの港は陥落させられ、ヘヴンズ・ゲートを守っていた聖騎士はやられたというのか……。さらには『大会』における赤い翼殲滅もあいつが行った……と」
ぶつぶつと呟いているが、これはあくまで戦略を立てるための大事なプロセスであるとしていて、いくらほかの人間から奇妙な行為だと揶揄されても彼がし続けるプロセスであった。
声に出して、問題をはっきりさせるとともに改めて理解する。
それは彼の中で大事としていることであったのだ。
それを整理して、彼は大隊に命令する。
「どうしようとも構わない。目的はインフィニティ含む前方四機のリリーファー。作戦はいつも通り。そして……破壊しても、お咎めなしであることはいつもと同じだ」
ニヒルな笑みを浮かべて、バルダッサーレは行動を開始した。
崇人はコックピット内部で考える。頭の中にはたった一つのことが凡て占有していた。――どうやってあの三十機を倒すか、その作戦を考えていたのだった。
「三十機に対してこっちは僅か四機……勝てるのか?」
普通の戦闘ならばその数量差が逆転することはないだろう。二倍までならともかく、彼らと聖騎士団は凡そ八倍もの差をつけられている。仮に地下の洞窟にいるメンバーが戻ってきたとしても、戦力差は然程縮まないだろう。
「どうする……」
ならばどうするべきか。どのように八倍もの戦力差(あくまでも一機の強さは凡て同等として考えると)をどのように埋めるべきか、それは作戦の質で問われる。要は相手よりも高い作戦の質ならば、その差が八倍から四倍、四倍から二倍に埋まる可能性だって大いに有り得る話だ。
だからこそ、彼は考えていた。この戦いに勝つための方法を。この戦いに勝つためのプロセスを。
負けるなんてことは考えたくないし、考えるつもりもなかった。
「……どうすればいい、どうすれば……!」
『タカト、避けろ!!』
だが、その思考はマーズの叫びによってかき消された。
刹那、インフィニティは聖騎士からの右ストレートをモロに受けた。
コックピットが受けた衝撃をなるべく抑えるために水平に保つ。が、それをしてもコックピットが大きく揺れることは避けられない。
「ぐは……!」
崇人はコックピットからの衝撃をモロにうけた。
だからといって、そんな簡単に諦めるほどやわな人間でもなかった。
「フロネシス、『エクサ・チャージ』だ!!」
『了解しました』
崇人の言葉にフロネシスは短く応答する。
そして、充電を終えた砲口から荷電粒子砲『エクサ・チャージ』が発射された。
「――甘い」
だが、それで簡単に倒れる相手でもなかった。バルダッサーレはそうつぶやくと、彼のリリーファーに装着されていた大きなシールドを取り出した。盾やシールドというよりは調理に使うまな板のような、ただの板だった。しかしまな板めいた素材ではなくて、別の素材で作られたものであるが。
エクサ・チャージがシールドに当たると、それは無効化したように吸収されてしまった。あれほどあった莫大なエネルギーが凡てだ。
「……馬鹿なっ!! どういうことだ、あれは!!」
『恐らくエネルギーを吸収する素材で開発されたのではないでしょうか』
「エネルギーを吸収する……!?」
『私のデータベースにはそのようなもの存在しませんが……恐らくそうであるとみられます。ですが、まさかエクサ・チャージを吸収できるとは思いもみませんでした。マスター、これは厄介な敵ですよ。いつもより慎重にいかないといけないかもしれません』
とはいったものの、インフィニティに乗って崇人が戦った経験なんて両手で数えられる程度であるし、しかも彼はつい最近まで病人だった。リハビリをしたとはいえ本来の実力が戻っているとも思えなかった彼は、やはり不安でいっぱいだった。
横目を見ると、アレスもアシュヴィンもガネーシャも苦戦しているようだった。
――即ち、今助けてくれる味方など無いに等しい。それを意味していた。
「厄介だな……ほんとうに」
崇人は独りごちる。
フロネシスはそれに応えることはなかった。
『……ならば、作戦を変えてみましょうか』
「いや、」
そこで崇人はひとつの作戦を考えついた。
これならば、倒せることが出来るかもしれない。
崇人はそう自信を持って、フロネシスに訊ねた。
「なあ、フロネシス。エクサ・チャージを地面に放つことは可能か?」
『ええ。可能です。砲口は下にも向けることが出来ますから。でもこのまま放ちますと、皆さん地下に落下することになると思いますが……』
「それがいいんだよ」
シニカルに微笑むと、崇人はフロネシスに作戦を説明し始める。
それを聞いたフロネシスは理解すると、言った。
『……なるほど。それならば何とかなりそうですね。そしてそれは、私も考えていた作戦の中にあります』
「おっ? そうなのか。だったら気が合うな、まったく」
崇人は呟いて、一つ溜息を吐いた。
そして、インフィニティは行動を開始した。
◇◇◇
地下。クラインに乗った起動従士十名はヘヴンズ・ゲートの目の前で戦慄が走っていた。
当然のことかもしれない。ヘヴンズ・ゲートと呼ばれる門から腕が飛び出て、飲み込まれていったのだ。恐ろしいと思うに違いない。戦場は普通に思う彼らであっても、ここまでイレギュラーな場所になると違和を感じるのは当たり前である。
「応答! 応答願います!」
吸い込まれたリリーファーに続き、あれから四機がヘヴンズ・ゲートに吸い込まれた。
このまま自分もその場所に吸い込まれてしまうのだろうか。コルネリアはそんなことを考えると震えが止まらなかった。
今残っている六機のうち二機がハリー騎士団、四機がメルキオール騎士団だ。ということは吸い込まれた四機は全部メルキオール騎士団の起動従士が乗ったリリーファー、ということになる。
彼らも気が気ではなかったに違いない。突然現れた異形に驚いているに違いなかった。
そんな静謐な雰囲気が立ち込めていた地下空間だったが。
ひとつ、欠伸が聞こえた。
その雰囲気に似つかわしくないものだった。
なぜこのタイミングでそんなものが聞こえるのか? 彼らは疑問を浮かべる暇すらなかった。
今はただ、その門の中へ意識を集中すべきだと思ったからだ。
「起きたばかりのエネルギー補給には足りないわね……。まったく、足りないわ。帽子屋ももう少し手回ししてくれればいいのに。あいつのことだから、私が起きる時間を解ってこの有様なのだろうけれど」
エネルギー補給。帽子屋。
この空間にはあまりにもイレギュラーな言葉。
それが門の向こうから聞こえてきた。
声だけを聴くならばどこかのお嬢様のような美しい声だった。声域でいうならアルトだろうか。しかし低いとも高いとも感じさせない、そんな声でもあった。
そして。
ぬるり、とヘヴンズ・ゲートの中から『それ』は出てきた。
それは黒いゴスロリチックなドレスを着た女性だった。髪は金髪縦ロールがそれぞれ右と左に一本づつある。
奇妙ななりだった。少なくともヴァリエイブルでは見たことのない人間だ。背格好からして年齢はコルネリアやヴィエンスよりひとつかふたつ幼いくらいだと思われるが、しかし彼女が放つオーラはそれをはるかに上回る何かを感じた。
それは、こちらを見て笑みを浮かべる。
そしてドレスの両端を釣り上げて、頭を下げた。
「はじめまして、えーと……あなたたちはリリーファーという存在でいいのかしら? まあ、よく解らないけれど人間が生み出したコピーの最高傑作よね。それを初めて、それもこんな間近で見ることができるなんて面白いわね。やっぱり長生きしているといろんなモノが見れるし、それに『眠って』いるといろんなものを一気に楽しめるからワクワク感も半端ないわね! ……あっと、話がずれてしまったようね。えっと、私は『アリス』っていうの。よろしくね」
首を傾げて、アリスと名乗った少女は微笑んだ。その微笑みはまさしく少女のそれだった。
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