絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~

巫夏希

第二百五十五話 第一回戦Ⅰ

 次の日。
 全国起動従士選抜選考大会は、第一回戦を迎えた。
 一回戦……とはいうものの、実際には大会システムが変更されたことにより、トーナメント形式ではない。

「一回戦の競技は……キュービック・ガンナーだな。この前言ったとおりのルールだ。解っているな?」

 崇人の言葉に、メンバーは頷く。
 彼らに聞かずとも、もうルールは頭に入っているのだ。だから、何を言わずともよかった。

「よし……それじゃ、頑張ってこい。これから始まるのはお前たちが主役の戦いだ。何が起こるかは解らない。だが、対処するのはお前たち自身だ。しかしそれはあくまでも大会の範疇におけることに関して、だがな。それ以外に関しては俺やマーズがいる。いいか? 全力で勝ってこい!!」

 その言葉にメンバー全員、大きく頷いた。



「何というか、変わったね。彼女たち」
「おっ、マーズ。体調は大丈夫なのか? お前があれほど体調が悪いって言うから代わりに担当しているんだぞ。だったら、マーズが復活したということを報告しておこうか?」
「いいや、まだちょっと本調子じゃないね……。申し訳ないけど、もう少しだけリーダーの仕事やってもらえる?」

 マーズに言われて、崇人は小さく溜息を吐く。

「……まあ、別に大丈夫だが……。ほんとうに大丈夫か? 病院とか行かなくても問題ないか?」
「大丈夫よ。少し休めば多分治るわ」

 崇人はそれを聞いて、壁にかけられた時計を見た。

「……昼休憩の時には戻ってくるよ。それまでゆっくり休んでいてくれ」
「ありがと……」

 そして崇人は部屋を後にした。
 マーズは誰も居なくなった部屋でひとり、考えていた。
 自分に突然起きた異変。これはいったいなんだというのか。つい少し前までは健康体だったというのに。

「ほんと……困っちゃうね……。なんでこんなことになっちゃうんだろう」

 マーズはそう言って、身体を丸める。今まで自分は特になにも問題がなかったというのに、どうしてこうなったというのか――マーズの頭の中では疑問でいっぱいだったのだ。
 でも、それを問える人間など誰ひとりとしていなかった。メリアですら最近は忙しいからという理由でまともに取り合ってくれない。まあ、それに関しては今まで彼女がいろんな差し出がましいことをしたからというおまけつきではあるが。
 しかしながら彼女も、何の考えも至っていないというわけではなく、いくつかの仮定を導いていたのだ。
 それを確かめるためには――。

「やっぱり検査が必要……なのかもね」

 でも今の彼女は動きたくなかった。出来ることならここから動くことをせずに、ただぼうっとしていたかった。
 とりあえず、先ずは一眠りしよう。
 そう思った彼女は――微睡みの中へと落ちていった。


 ◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇


 ところ変わって、会場。
 第一回戦であるキュービックガンナーが開始されようとしていた。
 昨日まで広がっていたコロシアムのだだっ広い土地の真ん中には、白い立方体が置かれていた。それこそリリーファーがすっぽりと入ってしまうくらい大きなものだ。

「ここに入って競技をするってわけか……。なんというか、今年は初めてだから大変だよなあ……」

 崇人は立方体を眺めながら呟く。

「立方体のステージ……ってことは、中身はなにもないがらんどうの状態、ってことですよね。ということは隠れ蓑が全くない状態とも言えますよね」

 シルヴィアの言葉に崇人は頷く。
 シルヴィアの状態分析は完璧だった。立方体に一度入れば出ることは許されない。出口は封印され、どちらかが勝つまで出ることが出来ないからだ。

「……そう。だからこそ難しい。それでいて高いテクニックを要求される……。それがキュービック・ガンナーの肝だな」

 まるで一度やったような物言いだが、崇人は一度もやっていない。要は適当なアドバイスだった。
 とはいえそれを言ってもらうのは彼女たちにとってすごいラッキーなことでもある。実際にやったことがないとはいえ、そのようにシミュレーションすることができる。せめて実際に練習することが出来れば……と思うがそれは今思ってもどうしようもない事実である。

「……さて、それじゃほかのチームを見ることにするか。なあ、シルヴィア?」
「そうですね……。そうしましょう」

 そして彼女たちはモニターに目を向けた。キュービック・ガンナーはまったく透明でない立方体をバトルフィールドとする。そのため、試合を観戦するためにはカメラを通した映像をモニタで見る必要がある。モニタはコロシアムの中央及び東西南北に設置されており、それぞれのタイムラグは無視できるように配信されている。

「ほー、それにしてもよく考えてるなあ。去年のアナログチックな大会とは大違い!」
「きっと苦情が来たからこうなったんだろうな……」
「おっ、ヴィエンス。おまえいつの間にここに?」
「いつの間に……ってな」

 ヴィエンスは一つ大きな欠伸をする。

「……っと、ついさっき起きた。もちろん朝飯は食ってない」
「おまえ意外とずぼらな性格してるのな。いくら『役職』が無いからって暇しすぎだろ」
「そうか? ま、そのおかげで俺は今年も大会を見ることができるわけだ。騎士道部サマサマだよ」

 ヴィエンスはさておいて、試合を見る崇人。
 試合はちょうど北ヴァリエイブルと西ヴァリエイブルの試合が始まっていた。
 ヴァリエイブルには五つの起動従士訓練学校がある。しかしそれだけではトーナメントにならないので、毎年『バックアップ』からもチームを出している。今年は六名。ちょうどいい人数を用意しているのは裏を返せばそれ以上用意することが出来ないことを意味していた。

「しかしまあ……おもしろそうな構成だこと」

 両者が揃えたリリーファーを見ていくと、それだけで見ていて両者の作戦が見て取れる。北ヴァリエイブルの方はパワータイプのリリーファー、バランスタイプのリリーファー、スピードタイプのリリーファーと揃っているが、対して西ヴァリエイブルは三体ともバランスタイプになる。
 パワータイプのリリーファー『ドゥブルヴェ』は黒いカラーリングのリリーファーである。不格好なほど腕が肥大化しているが、そのためにエンジンも強化されている。ただ持てるアイテムが限られているのは事実である。
 バランスタイプのリリーファー『アッシュ』はまさしくバランスの取れたリリーファーである。黄と赤の縞模様めいたカラーリングはどちらかといえば軍事用ではない風に見える。理由は単純明快、この大会のために造られたリリーファーだからである。とはいえ、昔からあるリリーファーでオペレーティングシステムだけを更新しただけの代物なので、それほど新しい装備は用意されていない。ただ、パワータイプとスピードタイプに比べれば操縦がしやすいことは確かである。
 残るスピードタイプのリリーファー『イクス』は水色のカラーリングをしている。またスピードを最大限出すためになるべく空気抵抗の少ないフォルムとなっている。そのためかバランスタイプに比べてパワーが出ないことが特徴となっているため、瞬発力のみで戦うということが可能な人間――それは即ちトリッキーな人間だともいえるのかもしれない――が操縦することができる。

「これだけを見れば北ヴァリエイブルはスピード・パワー・バランスとリリーファーの種類をうまく取り入れた戦法が出来る……ということだな。そして西ヴァリエイブルはそれしか乗ることが出来ないのか作戦があるのかそれしか乗らないように『教育』されているのか……見事にバランスタイプだけを集めている。これはどうなるか……面白くなりそうなのは確かだな」
『さあ、両者出揃いました!』

 実況が聞こえるのは、ちょうどモニターから――ではなく、頭上に聳える専用席からだ。そこは実況専用として設けられた場所となっており、今もラジオ局やテレビ局が実況を全国に流している。
 崇人もそれを聞いて、そろそろ大会が始まるのだということを理解した。


 ――そして。


『それでは、試合開始ですっ!!』

 第一回戦最初の試合、その開始を告げるゴングが鳴り響いた。

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