3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

25章 燃え上がる戦い

 いくら生活魔法で温度を抑えても足元にはいたるところにマグマだまりがあるのだ、暑い。とても暑い。
 どれくらい暑いかというと、侵入して5分もしないうちに先生コンビが私たちは戻ってるから頑張って。と帰ってしまうくらい。暑い。

 「あーつーいー」

 北国育ちのリクたちは暑さに弱い。生活魔法で冷やした風を当ててはいるが、
 足元からモワモワと上がってくる熱気を完全に防ぐには至っていない。
 生活魔法を止めると、皮膚がやけどする。それくらい暑いんだ。

 「暑い禁止、口にだすと暑くなる」

 「さーむーいー、寒くならない、ワタ兄の嘘つき」

 「生活魔法じゃなくてもう一度水魔法で……」

 「さっきやってひどい目にあったろ、やめとけ」

 あまりの暑さに水魔法で氷を創りだした。
 その結果すぐに溶け出す氷の水分が蒸発して熱風となった。
 一瞬の涼しさの後はますます蒸し暑くなった。

 「クウ敵はどんな感じ」

 「あっちの大きなマグマ溜まりの中にいる、あとはあの丘の上かな?」

 マグマの中とか……どうしよう……

 「あの丘の上に行って大岩を落としてみるとか?」

 「ワタルもうなんでもいい、早くこの部屋クリアしよう」

 本当に暑いの嫌いなんだな、ただシャツばたばたするのやめて、見える見える。
 ただでさえ汗でくっついた姿が非常に眼福過ぎて困っているんだから。

 「取り敢えずマグマの中の敵に気をつけながら丘に登ろう」

 「ああ~~~~~~い~~~~~~」

 だめだ、早くクリアしないと。

 丘の上には真っ赤なゲジゲジがいた。結構たくさん。
 なんか真っ赤な岩石を食べてる。
 僕、虫嫌いなんだよね。

 「さっさと倒して進もう」

 いつも通り盾をフリスビーみたいに投げつける、風魔法を纏わせると切れ味がすごく増すとわかったので使う。
 ゲジゲジの硬い甲羅のような甲殻も真っ二つ。
 げぇ体液がジュージュー言ってる。酸なのかな? 岩が溶けてる。

 「体液に気をつけろ! 溶けるかも、あと溶解液だかを吐いてくる可能性も高い!」

 言うのと同時に液体を吐き出してくる。
 魔法盾で防ぐ。これなら防具へダメージがない。
 吸収できるか試したけどダメだった。

 「最近魔法でばかり戦っているので私も前に出ます。身体を動かさないと忘れてしまいそうで」

 「わかった無理しないようにね」

 カイの槍捌きも美しい、一流の使い手の動きは美しいものだと最近気がついた。3人共最初に比べると動きが洗練されている。クウは別格だがリクやカイも素晴らしい動きを魅せている。
 火ムカデの突進を地面にやりを突き立て空中へ避け、そのまま頭部へ槍の一撃、正確に節々に槍を突き刺していく。
 一体、また一体とムカデは姿を消していく。

 「ワタ兄マグマ溜まりから出てくるみたい」

 クウに言われて眼下の縁を見るとサハギン? 真っ赤なサハギンみたいなモンスターがマグマから上がってきている。
 ゴツゴツとした鱗が強力な耐熱性を生んでいるんだろう。
 僕達に気がついたようで背後から登ってくる。
 このままだと挟み撃ちになってしまう、残すところ5体ほどだがどうするか、

 「クウ、後ろの時間稼ぎ頼める?」

 「まーかせーといてー」

 気合が入ってるんだか入ってないんだかよくわからない返事をしながらファイアーサハギンに斬りかかっていった。
 その間にゲジゲジ君たちを倒さないとね。僕も攻勢に出る。
 盾を投げて一気に接近して斧で頭を叩き潰す。横から吐き出された体液を魔法盾の方で防ぎ槍で口を塞いでやる。
 こいつら生命力が強いらしく頭潰してもしばらくビタンビタンと大暴れするから細かくしてやる、しばらくすると光となって消えていく。
 一気に攻勢に出て叩き潰してすぐにクウの援軍へ向かう。
 クウはうまく多人数に囲まれないように立ちまわっている。
 数も減っている。流石!
 しかし太ももあたりにやけどのような傷がある。

 「クウおまたせ! ごめん怪我させた下がって治してもらって!」

 「だいじょうぶ~「大丈夫じゃない! 女の子がそんな怪我しちゃダメだ!」

 戦わせといてどの口が言ってるんだか……

 「ご、ごめん。僕が戦わせといて……」

 「ううん、嬉しいよ」

 天使だ、その笑顔天使です。
 クウはヒラリと丘の上に戻りカイのところで治療を受けている。
 さて、貴様ら、覚悟は良いな!
 僕は久々パイルバンカーソードバージョンと斧を構えて闘気を纏う。
 一番前にいたサハギンに奇襲のパイルバンカー、見事に身体が胸のあたりで真っ二つになる。腕への反動もそこまではない。
 クウを目で追っていて奇襲に気が付かなかったようだけど、これで意識は僕に向いた。
 次の獲物に斧を振るう、深々と斧が刺さる、身体にまとっているごつい鱗も闘気をまとい風魔法で鋭さを増している一撃には耐えられない。
 完全にサハギンが僕に集中する。そうすると示し合わせたようにリク、カイ、クウがサハギンの背後から襲いかかる。
 完全に挟撃の形となった。理想的だね。
 近いところにいる奴らは一瞬動揺したが僕の方に向かってくる。
 ここはちゃんと守る。全面に最大サイズの盾を二枚、その隙間から槍による攻撃。丘の上を取っている利点も合わせてこの壁は突破させないぞ。
 その自慢の鱗も3人に取っては脅威とならない。
 次から次へと屍を増やし、僕の盾を突破できずにいたサハギンも背後から仕留められた。

 「ワタル! 今の感じすごい良かったね!」

 「うん、だけどクウに怪我させちゃった。綺麗に治ったんだねよかった」

 「ワタ兄、心配してくれるのは嬉しいけど、私達もセイを助けるために戦うって決めた、いつまでも子供扱いは失礼」

 「そうですよ、いつまでも無傷は無理です。そのために私も回復魔法の研鑽は続けます」

 「そうか、ごめん。仲間だもんね。頼りにしてるよ」

 「うん!」「はい」「任せて」

 「クウ次に遭遇しそうな敵は?」

 「あっちに20体ぐらいの集団で、なんか結構な速さで動いているのが5・6匹いる。んで多分扉の前の集団10」

 山が邪魔で状況がよくわからない、取り敢えず目の前の山を迂回して20匹の集団の状況を見ることからかな、

 「そしたらこの山迂回して敵の様子を探ろう」

 山の脇を抜けると結構広めの平地だった、20匹の集団は後ろ足で立つタイプのトカゲっぽいモンスター。5匹位サハギンが槍を持って騎乗していた。
 初めての騎乗系モンスター退治か……
 モンスターの集団の側にマグマ溜まりがある、アレを利用しよう。

 「カイ、あのマグマ溜まりの上空に巨大な水の塊作れる?」

 「はい、出来ます」

 「たぶん凄い水蒸気が起きるからその隙に一気に接近して混乱してるあのトカゲたちを倒そう、特に騎乗してる奴らを一気に倒そう」

 みんな無言で頷く。カイの魔法の準備はすでに出来ている、GOだ!
 僕が手を振り下ろすと魔法により巨大な水塊がマグマに落ちる、それと同時に真っ白な水蒸気が爆発のように広がる。
 風魔法で水蒸気の波をこちらへ寄せないようにしながら盾をぶん投げる!!
 他の二人も遠距離攻撃を放つ。
 そして突撃だ!たぶん敵にはこっちの位置はわからないだろう、先手は取れるはず!
 クウの斬撃で霧が晴れるとトカゲが3匹ぐらいまで減っていた。
 思った以上の戦果だ、そのままトカゲを始末する。
 サハギンは一体は息があったが呼吸がうまく出来ないみたいだ、
 体の内部の耐熱性はそこまで高くないようだ。南無。

 「早いの5匹こっちくる、すぐ!」

 見上げると翼竜がこっちに向かってきている、
 あれだけ派手にやったからね。
 盾を投げる、しかしヒラリとかわされてしまう。
 機動性が高い。別の翼竜が突っ込んでくる、魔法盾と爪が交叉する。

 ビシッ!

 なんと魔法盾に亀裂が入る。同時に鈍い痛みが頭を襲う。
 なるほど、魔法盾はこういうデメリットも有るんだね。
 あの勢いで来る攻撃を真正面で受けすぎた、初めての魔法盾の破壊だった。
 空を飛んでいる敵は厄介だね。
 まぁ、クウも飛んでるけどね、跳んでる敵の背中に乗るとかどういう運動能力してるんだ。翼を切られた翼竜が落ちてくる、もうすでに3体、
 危機を察知して上空で旋回している奴らもリクの投斧とカイの魔法で撃ち落とされた。
 強い。3人娘超強い。
 地面に落とされた翼竜に勝ち目はない。
 残すところボスだけだ。

 「おお、ドラゴン!」

 「なんでテンション上がっているんですか?」

 「ドラゴン戦は一つの登竜門でしょ、これで僕達もドラゴンスレイヤーだ!」

 2足歩行のトカゲと4本足で巨体を支える真っ赤なドラゴン!
 かっこいいね!
 周囲に利用できそうなものもないし、正々堂々正面からの戦いだ!

 「十中八九ファイアーブレスがあるだろうから俺が前に立つ」

 取り敢えずゆっくりと距離を縮めていく、
 トカゲたちはこちらに気がついて突撃してきて、命を散らした。
 ドラゴンは大きく息を吸い込んだ。

 「みんな僕の後ろに!」

 正面に最大巨大化した盾と魔法盾、それに吸収盾を起動する。
 豪炎のブレスが盾に吸い込まれていく。

 「おお、ワタル凄い!」

 ブレスが途切れたタイミングで散開して四方から攻める。
 ドラゴンの鱗は硬かったが、リクは闘気で、カイは魔力で、クウは技術でズタズタにしていく。
 尾を振り回したり、鋭い爪や牙の攻撃も3人と僕を捉えることは出来ない。
 再び吸い込もうとしたとき盾に吸収させたブレスを返してやる。
 むせた。めっちゃ怒って僕に突っ込んできた。その顔面に床で支えるパイルバンカーソードを……こえええええええ!!
 それでもぐっと踏みとどまって僕を喰らおうと大口開けている顔面に叩き込む!!

 「グワァァァオオオォォォォォォ!!」

 下顎がだらりと垂れてドラゴンが悶絶している。
 なんとか成功した。未来予測で正確に軌道を読んでのカウンターパイルバンカー、これは強い!!

 武器の一つを失ったドラゴンだったが、ドラゴンの名前に恥じない大暴れをして、リクの渾身の一撃で首を断たれついに光となった。

 俺だけレベルが上った。

    ■   ■   ■   ■   ■   ■   ■

  イチノセ ワタル
 Lv23→24 【家政婦系勇者】
 HP 460→530
 MP 260→340
 Str 69→75
 Agi 61→70
 Vit 65→75
 Dex 82→94
 Int 65→78
 Luk 43→50

 【スキル】 女神の盾 勇者の卵【孵化】 器用Lv6New! 工夫Lv5New!
 観察Lv7 忍耐Lv7 神の料理人 神のマッサージ師 農畜産業の神 言語理解
 大器晩成() やりくり上手Lv6 魔力操作Lv6 微小魔力操作Lv6
 盾技Lv7New! 生活魔法Lv6 農業魔法Lv10 拷問Lv5 聖剣操作Lv5 罠

 【称号】 聖剣の聖女との絆 苦痛の申し子 ドラゴンスレイヤーNew!

 盾技Lv7 魔法盾をもう一枚操作可能

    ■   ■   ■   ■   ■   ■   ■

 「おお、ドラゴンスレイヤー効果かステータスの伸びが良い!!」

 「ワタルも頼りになってきたね!」

 「ワタ兄頑張ってる」

 「これからも頑張ってくださいね」

 「頑張ります!!」

 「それにしても暑い、次行こ、次。」

 今までの扉に比べると大きく立派な扉を抜けると闘技場のような場所だった。
 どうやらここが最後の戦場のようだ。


 

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