3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

58章 神の与えし試練の場

 あの一件で強硬な女神信者は一掃された。
 トップであるゲーツの豹変に多くの信者が心折した。
 ゲーツ自身は自らを奴隷化してワタルの元へと懇願している。
 カレンが全力で反対している。

 「どうかあの者に与えた用に私に施しを与えてワタル様のお心を晴らしてくださいませ、
 あのような狂信者をワタル様のお側になど遣わせてはなりません!!」

 皆の顔にお前が言うなと書かれていたのは間違いない。
 ワタル自身はいくら非道な行為だったにせよ怒りに任せてしまい、
 あのような残虐な行為を自分がしてしまったことを悩んでいた。

 「残虐などではありません、あの者の行為に対して苦痛をもって処せば良い物を、
 あのような快楽と支配をお与えになったのです。さぁどうか私めにもワタル様!!!」

 さらにワタルは悩むことになる。

 ワタル自身はああいう行動に対して興奮するわけではないのだ。
 ただ、出来る限り自分が接する人には幸せな気分になってほしいと思っている。
 そうされたほうが幸せならしてあげるべきなのだろうか……
 しばらくは彼の命題となる。
 結局クウのいいじゃんやって欲しいっていうんだし。という言葉で救われるのであった。
 それでも血を出したりすることは決して無かった。別にそんな物理的な方法を取らずとも、
 ワタルにはいくらでもやりようがあるのだ。それはそれでちょっと悩むワタルであった。

 ゴタゴタが落ち着いて、やっとダンジョン攻略へと乗り出せるようになる。
 神の与えし試練の場は女神教が管理しており、
 大聖堂のそばに入り口が管理されている。
 侵入には聖騎士として大聖堂の許可を得て入る場合。
 この場合は収集品は全て女神教のものとなる。修行としての侵入。
 もしくは女神教に一定以上の寄付をして、冒険者ギルドに許可を得て進入する方法がある。
 この方法なら収集品は冒険者の物になる。
 もし最深部に到達し宝を得た場合はサウソレスと同じように、
 一品は自分のもの、他はオークションで分配となる。

 ダンジョン攻略の前日、ワタルは皆に頼まれたことの準備をしている。

 「ワタル」「ワタルさん」「ワタ兄」「ワタル様」「ワタルきゅん」

 『どうか今晩はご飯を作ってください!!』

 最近料理をしていなかった。
 いろいろとゴタゴタしていたり、ワタル自身が落ち込んだりしていたからだ。
 料理は気分転換にもなる。
 毎日3食しっかりと食事を作っているとなかなか難しいが、
 たまにする料理は息抜きになる。
 ワタル自身も皆に言われると料理をしたくなり、
 きちんと準備をしたくなった。
 食材はたくさんアイテムボックスに入っているが、
 できれば地元の旬の素材を使いたい。
 季節は一番暑い時期を過ぎてほんの少し涼しくなってきていた。
 食べ物の美味しい季節だ。

 ワタルは妥協せず行こうと決めた。
 野菜は自分が作った品種改良野菜。
 メインはルビーオーク。もちろん、ステーキだ。肉厚に切る。使い切る勢いで。
 副菜は鮭によく似たサムスーン、これと貝類を合わせてサラダにも使う。
 スープはこの地方の名産の豆を冷製スープに仕立てる。
 デザートはシャーベットだ。たぶんシャーベットは存在しないから喜んでもらえるだろう。
 パンも3種類、クロワッサン、バターロール、くるみのような木の実を練り込んだパン。
 完璧なフルコースだ。

 教皇様にお願いしてわざわざギャルソンまで雇った。
 冷蔵庫、温蔵庫も作った。
 こだわるだけこだわった。
 もちろんワインやフルーツジュース、炭酸飲料も。

 やりきった。
 全力を尽くしたディナーは全ての奴隷、孤児に分け隔てなく与えられた。
 ワタルは神になった。

 食事が終わり、感涙にむせび泣く人々を見てワタルの心はすっかり癒やされていた。
 大浴場に浸かり、大欲情して、何もかもスッキリした。

 こうしてワタルとその仲間は最高のコンディションでダンジョン攻略を迎えることが出来た。


 ダンジョンの入口を管理する詰め所に入ると意外な人物がワタル達を待っていた。

 「ご武運をワタル殿」

 わざわざ教皇様ご一行がワタル達を見送りに来てくれていた。

 「ところで彼女は?」

 「誠に申し訳ないのだけど、戻ったら使ってやってくれんか?
 あんなのではあるが、知識、武術、魔術全て超一流だ。
 奴隷待遇で良いから秘書代わりに使って欲しい。」

 カレンはいまだに反対したが、逆の立場ならどう思う? とワタルに聞かれ、
 同意するしか無かった。

 「もう一点、たぶん内部に黒いのが出ておる。十分気をつけてな」

 ワタル達は油断することなくダンジョンへ侵入していく。
 神の与えし試練の場のダンジョンは聖山 エヴェルダストの内部をアリの巣のように走っている。
 最深部は山頂であると言われている。
 山頂へは外壁からは行けない、謎の力が外壁を登らせない。
 飛んだらどうなんだろ? という疑問もあるが【飛べないようにしてるから無理だよ】だそうだ。

 最初の戦闘はロックアントと言われる大きな蟻。
 砂漠の蟻よりも顎が強い。
 ただ、今の女神の盾の敵ではない、一蹴される。
 浅いエリアの戦闘は完全に蹂躙だ。
 ただ、奴がいる。
 ワタル達が【黒】と出会うのにそう時間はかからなかった。
 黒い紋様を持つ蟻が、アリよりも上位モンスターであるカエルの魔物を食べていた。

 「油断するな!」

 ワタルの号令で皆一斉に動く。

 「おらぁ!!!!」

 バッツの強力な袈裟斬り、金属に当たるような音がしたが蟻の腹部を背中から切り裂く!
 傷は直ぐに黒い紋様が塞ぐ、
 ワタルは盾で牽制しながら他のメンバーの動きを助ける。
 自身も魔法盾によるパイルバンカーは今では強力なアタッカーになっている。
 すでに足を2本切り落としている。
 身体から離れた足は超高熱魔法で一瞬で消滅させている、
 あの紋様にくっつけられてしまわないようにだ。

 黒・ロックアントも女神の盾メンバーの苛烈な攻撃により塵になって消えていく。

 「やはり、別格ね~複数でたらワタルきゅん守って!」

 身体をクネクネさせてワタルに抱きつこうとするバッツを、
 ヒラリと避けてワタルはカエルの死体へ近づく。
 カエルの食べられていた場所は戦闘前よりも黒く変色している、
 黒い部分もうぞうぞと動いている。

 「これ、まさか伝染しないですよね?」

 「ワタル様、少し待ってみますか?」

 「ワタルさん、確かめたほうがいいと思います」

 最悪の結果だった。
 ある程度侵食が進むと黒紋様が傷を多いカエルが動き出した。
 これは【黒】が伝染性をもつ完璧な証拠だ。

 すぐにでもこれは通達しなければいけない。
 一行は一度街へ引き返すことにする。

 こうして知らされた事実は4人の王にとって悩みの種となった。

 


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