3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

87章 騎士拝命

 「ここに女神の盾一同に騎士の称号を与えることを宣言する。
 なおこの称号は4国合同の声明として布告される、今後ともこの世界のために、
 女神の力となることを切に期待する」

 「謹んでお受けいたします、国家の繁栄と世界の安寧に力を尽くすことをここに誓います」

 「いまここに国家の剣となり盾となる騎士が誕生した。世界に繁栄と安寧を!」


 なんだかむず痒くなりそうな叙勲式典は無事に終わった。
 バッツの作ってくれたスーツっぽい礼服もバシッと決まっている。
 女性陣もスーツスタイルで揃えられていてカッコいい。
 バッツも珍しくフリフリなどつけない漆黒のスーツ姿でこれでグラサンでもつければどっかの映画俳優かなってぐらいかっこよかった。
 まぁ、彼の趣味は治ることないけどね、せっかくカッコいいのに残念なことだ。

 なんにせよ肩のこるイベントは終わった。
 これで心置きなくダンジョン攻略へ突入できる。
 明日からのダンジョン攻略の前夜祭として英気を養うという名目で宴を開催する。
 女神の盾商会の従業員にとって宴は特別な意味を持っていた。
 ワタルの作る料理を食べる機会なのだ。
 宴の噂を聞きつけて女神の寝屋のメンバーまで乱入してくるため会場はイステポネの領地となる。

 「ワタル様、リク様、カイ様、クウ様、カレン様、バッツ様の騎士拝命のお祝いと明日からのダンジョン攻略の成功を願って、乾杯!!」

 かんぱーーーーい!!

 場に集ったのは200名を超えている。
 女神の盾商会も今では立派な大規模商会になっている。
 もちろん丁稚的な子どもたちも多いので実際の労働者はそこまで多くはない。
 それでもこれだけの人数の人間が集まってトラブル一つなく商会運用を行えているのはゲーツの手腕とワタルへの信仰心であろう。
 今日もワタルの料理を口にした多くの人間の信仰心が高まっていくのは間違いがない。
 恐るべしワタルの料理である。
 今では4大陸の王全てを虜にしているのだ、世界制覇を成し遂げたと言ってもいいのかもしれない。
 からあげや串焼きなどありふれた料理がどうしてここまでおいしく出来るのか、
 ワタルの奇跡を知る者達は不思議でならなかった。
 普通の鶏肉を調味液に漬け込んで衣をつけてあげる。
 ワタルが行っているのはこれだけだ。
 調味液もありきたりな素材しか使用していない、誰にでも手に入るものだ。

 それなのに何故、カリッと香ばしく揚がった衣、噛みしめると中から溢れ出す肉汁、
 絶妙な塩加減と鼻をくすぐる香辛料。この世にこれほど美味しい唐揚げがあるだろうか?
 ここにある!!
 そして熱々の唐揚げをゴクリと飲み込んだ喉にキンキンに冷やしたエールをあおる。
 くっはーーーーーーーー・・・・・・・・・
 身体に染み込む、キンキンに冷えてやがる!!
 熱々の唐揚げとキンキンのビールのコンボが止まらない!
 男性陣から絶大な人気を誇る組み合わせだ。

 女性陣に人気なのはこの世界では珍しい炭酸水に白ワイン、そこにレモンスライスだ。
 のどごし爽やかですっきりとした味わい。ついつい飲み過ぎてしまう。
 それに合わせるのはブルスケッタ。
 ワタルの焼いたサックサクのパンの上に女神の盾商会特製の新鮮な野菜を乗せ、その上に特製生ハムが乗せてある。いろんな種類があるが特に生ハムのブルスケッタが一番人気だ。
 ワタルは食材の熟成などもお手のものだからこの生ハムだけでも人々をうならせるほどの一品だ。
 そこに野菜のうまみを最大限に引き出し合わせているのだ、うまいに決まっている。
 パン、野菜、肉が口の中で一つになって世界を作り出す。
 その感動は飲み物を飲むと爽やかに広がり消えていく、そうするとまた次の味わいがはっきりするのだ。
 この日ばかりは全ての女性もダイエットなど気にしていられない。明日から頑張ればいいのだ。
 次にこの食事を食べるために努力する。
 そして少し進んでしまう飲酒も素敵なパートナーとの出会いを演出してくれる。
 女神の盾商会では家族を作った人間への手当や休暇制度などもあるため、安心して家庭を作ることが出来る。現に元奴隷の人たちも幾つものカップルが誕生し結婚もしている。
 ワタルが繋いだ縁はこうして未来永劫紡ぎあげられていくのだった。

 宴は盛り上がり続けているがワタル達はそれなりなところで退席する。
 バッツは最後まで付き合うつもりみたいだ、皇子、上手く逃げるんだよ。

 明日のダンジョン攻略があるのでゆったりとお風呂で疲れを抜く。
 ほんの少し酔っているけど、その分お湯に身体が溶けていくような気分の良さがある。
 他のメンバーもゆったりとお風呂に浸かっている。
 ワタルはもう諦めていつもどおり皆に身体を洗ってもらう、
 こういう点でワタルへの男性陣の嫉妬は消えることはないであろう。

 「こらクウ今日はダメだって言ったろ!」

 「えー、いいじゃーん。ワタ兄だってちょっとその気になってるじゃん」

 「ワタルはえっちだなぁ」

 「もう、だめですよクウ! ワタルさんが困ってるでしょ!」

 「えー、あんまり困ってない感じになってきたよー」

 「・・・・・・ちょっとだけだよ」

 「あの、ワタル様今日は皆の日になるのですがー・・・・・・」

 「わかった! みんな可愛がってやる!」

 もちろんちょっとだけになんてならないのは全員わかっていたことであった。
 翌日に疲れが残らないバイアング様に感謝です。


 そりゃ、僻まれるよワタル。 



 
  

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