3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

89章 ダンジョン進軍中

 ウェスティア帝国の大ダンジョンの下層へ侵入すると部屋の作りや道の作りが複雑になっていて、
 どうしても突然の会敵や戦闘中の乱入が多くなる構造になっている。
 カレンとワタルによる精霊魔法での哨戒も分岐が多くなり見落としなどが生じる。
 不意打ちの選択肢が減っているので普通の探索よりは遥かに安全性と効率化は図られている。

 「まずいですね、先の通路から6体さらに合流してきます」

 「またぁ? めんどくさいなぁ・・・・・・」

 「だめだよクウ早くやっつけてこ!」

 「リクとクウは今いる奴らの殲滅を、俺とカイが新しい方は足止めしておく、カイあれやってみよう」

 この間冷気で魔法で作った水がちゃんと凍ったことからヒントを得た魔法だ。
 イメージは通路いっぱいの水が押し寄せる浪だ。

 「アクアウェーブ」

 魔法によって作られた大量の水が敵が向かってくる通路へ濁流をなして流しこむ、

 「ダイヤモンドダスト」

 風魔法と水魔法で威力よりも出来る限り温度を落とした風をその波の中に混ぜ込む。

 「おお、想像以上だね」

 結果。通路一面の氷の塊が完成する。もちろん敵も巻き込んでいる。

 「なんかハメ技みたいだね」

 「でもワタルさん相手が魔法使ってくればなんとか出来ると思いますよ」

 「奇襲にしても濁流は気配がでかすぎるからね」

 呑気にそんな話をしているともともと居た敵の殲滅が終わったようだ。

 「なんか寒いと思ったらワタルはこんなの作ってたのかー」

 「ワタル様これどうしますか?」

 「バッツぶっ壊してみる?」

 「あらー、そしたら張り切っちゃおうかしら」

 「ワタ兄わたしもやりたい」

 「えーずるーいボクもやるー」

 「そしたら3人でお願い致します」

 女神の盾のパーティメンバー近接3人組の合わせ技。
 3人の放つ剣撃には闘気と竜気がふんだんに練りこまれており、
 触れるものを分子のチリへと変えていく、巨大な氷塊であろうとその破壊からは逃れられない。
 端からバリバリとかき氷になっていく氷塊、そしてついでのように粉微塵にされてしまう魔物たち。
 弱肉強食だ。許せ。

 何度か【黒】化した魔物にも出会うが、せっかく集団戦がこのダンジョンの優位性なのに【黒】化した魔物が一緒にいる奴らを襲いかかるため他の奴らから攻撃されてお互いボロボロとかになっていたりする。他のダンジョンでもこういう感じで爆発的な増加が防がれているってのもあるんだろう。
 ダンジョンが侵入を拒んだ上でさらにこうやって数を減らされる。
 ダンジョン内での大繁殖の危険性はかなり減っているってのはこの世界の冒険者にとってありがたいことだね。

 まぁ、でもたまに【黒】が圧倒したうえで犠牲者が【黒】化してしまうパターンもある。
 ワタル達が出会った魔物達も【黒】が4体にまで増えていた。

 「俺、バッツ、クウで一体ずつ抑える。リク、カイ、カレンで一体づつ殲滅してくぞ!」

 ワタルの指示にバッツは強力な一撃を振るいながらワタルにおどける、

 「別に倒してしまっても構わないんでしょぉー?」

 「よーし私も負けない」

 皆の士気は非常に高い。
 ワタルは安心して背中を皆に預ける。
 ワタルの目の前の敵は蟷螂型の【黒】だ。
 両腕には巨大な刃を持ち、三角形の顔に巨大な眼球、正直キモイ。
 ワタルはあまり虫が好きではなかった。
 鎌のような形状の腕から次々と攻撃が振るわれてくる、ワタルは魔法盾と自らの盾を自由自在に操り、
 目にも止まらない斬撃を正確に受け続ける。
 基本的には他のメンバーが敵を倒して多対1の状況を作り出す時間稼ぎが仕事だ。
 隙さえあれば自分も倒してしまおうという考えがワタルにもあるが、
 敵の苛烈な攻撃がなかなか隙を与えてくれない。
 寄生されて他の【黒】を生み出したのも実はこの個体だったりする。

 あまりに一方的に攻撃され続けてワタルもだんだんフラストレーションが溜まる、
 体力が尽きることのない連続攻撃にもだんだん慣れてくる。
 魔法を構築しながら魔法盾でシールドバッシュ、突撃で片手の刃を弾き飛ばす。

 「いつまでも、調子に乗ってんじゃねー!! アーススパイクからのファイアーランス!」

 敵の足元から土の槍を打ち出し、同時に炎の槍も反対から迫る。
 敵の4本の足に土のやりが突き刺さり腕や背中にも炎の槍が突き刺さる。
 ブスブスと肉が焼ける音がするが、同時に不快感を覚えるタイプの匂いもする。
 虫も食べられるものもあるというが、さすがのワタルの食指も動かない。
 欠損部分は素早く【黒】が覆っていく。
 それでも動きは鈍くなり攻撃のスキは増えていく。

 「直ぐに【黒】で修復されるのをなんとか出来ないもんか・・・・・・」

 【黒】の一番厄介なところはダメージを与えても【黒】がカバーをして復活してしまい、
 体力が尽きることもないので戦い続けていると段々と体力的にこちらが不利になる。
 今のところ腕などを刎ねた場合は直ぐに超高温の熱や闘気によって消滅させているが、
 もっと効率のよい方法はないだろうかとワタルは模索していた。

 ワタルや女神の盾のメンバーはすでに【黒】に包まれた部位も斬る事ができる。
 ただこれは超絶絶技であって、誰でも出来ることではない。
 その時ワタルはふと思いつく。
 武器をあるものに変更してみる。

 「杖術、乱れ百花」

 カッコいい必殺技名だけど、簡単にいえば棒でメッチャクチャ殴ってる。超殴ってる。
 出来る限り【黒】で覆われていないところを狙うけど、とりあえずメッチャクチャ殴りつける。

 「Gyarorororoooooo・・・・・・」

 明らかに動きが鈍る、切り落とされたわけではないので【黒】も広がっていかない。
 打ちのめされた部分はどす黒く変色している。
 生きている部分の生命活動に依存する【黒】はこういう挫滅や打撃に弱いのかもしれない。
 死体を動かしている【黒】も頭や心臓を失っている死体では動き出さないっていうのは実験済み。
 無理やり生体として動かせる部品がないといけない。
 もちろん死体同士で欠損を補ったりもするから一概には言えないけど、
 それでもどうやら斬撃よりも打撃のほうが効果的に思える。
 いままで動きが鈍ったことのない目の前の蟷螂は明らかに動きが鈍くなり精細を欠いている。
 さらに打撃を加えていく、切った時と違い潰した部位を【黒】で覆っても動きが改善していない。

 「こいつら打撃に弱いかもしれない、皆斬るんじゃなくて叩く感じで戦ってみてくれ!」

 ワタルがそう声をかけた時、すでに敵はあと2体になっていた。
 5人ですでに一方的な展開だった敵とワタルが対峙している敵だ。

 そしてここからその2体の不幸が始まるのであった。


 

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