3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

98章 絶望

 プロポが去ったあと、誰一人動けずにいた。
 圧倒的な力の差、能力の差をまざまざと叩きつけられた。
 女神の盾のメンバーは、自覚はなくとも今までの戦闘を乗り越えて自分たちの戦闘能力に自信を持っていた。それが、井の中の蛙であったことを思い知らされたのだ。
 しかも、プロポは一切の手出しをしてこなかった。
 完全になめられていたのだ・・・・・・

 ぎりっ

 悔しさにワタルの奥歯が軋む。
 いつからか握りしめていた拳は血が通わず真っ白になっている。
 それは他のメンバーも同じだ。
 表現こそ違えども皆の心のなかには屈辱と自らの慢心への怒りであふれていた。

 「奥へ・・・・・・行こう・・・・・・」

 ワタルは震える声で絞り出すようにそうつぶやいた。

 重い足取りで最深部ダンジョンコアのある部屋へと移動する。
 龍脈の力はその残渣程度しか感じられなかったが、ダンジョンコアは無事だった。
 宝もそのままにしてあった。

 「そういえば、ウェスティア帝国のダンジョンの宝、皇子様に渡しに行かないとね・・・・・・」

 クウの発言も元気が無い。

 「ユウキ、このダンジョンの宝はユウキに選択権があると思うけどどうする?」

 「ジークフリード皇子にはお世話になったからウェスティア帝国にお渡しするよ」

 「わかった」

 『俺もまたここでのんびりと暮らすとするよ』

 「青龍さん、お元気でね」

 『カイとは繋がりもあるから暇な時にでも遊びに行くよ』

 青龍と別れを告げてダンジョンから脱出する。
 ダンジョン内の黒はダンジョンマスター権限で探ったけど全滅していた。

 「今俺達に出来ることは絶望することじゃない、相手が圧倒的に強いことがわかったんだ、
 それを乗り越えられる力を手に入れよう」

 ワタルはリーダーとしてこれからパーティに必要な目的をしっかりと定めないといけなかった。
 正直プロポと自分たちの差がどの程度の距離なのかもわからないほどの差がある。
 それでもセイを助けてバルビタールを倒すために進まないといけない。

 ダンジョンから外に出るとまだ日は高かった。ダンジョン内で数日は経過しているはずだ。
 とりあえずウェスティア帝国のダンジョンの宝と魔王の島の宝を皇子に届けるために帝都へ向かう。

 「帝都についたら私は一度仲間を連れて島へ戻るよ。もう一度あの場所を仲間たちの場所にしてあげないと」

 「今は何人くらい仲間は残っているの?」

 「全員合わせても数住人ってところだな、前途多難だけど先代との約束だからな」

 「そしたら俺とカイとカレンで建築や土壌改良なんかで手伝うよ、ここにも転移魔法陣引いておけば皆ですぐ戻ってこれるし」

 一面ボロボロになってしまった魔王島、ワタルは直ぐに城のそばの一画を整地して仮の建物を作る。

 「な、なんというかワタル君は規格外だな」

 ユウキもあまりのスピードに引き気味だ。

 「もう慣れてきたよ、こんな感じで生活する建物や農場なんかも皆揃ったら話し合いながら作るよ」

 「魔道具は私たちにお任せください、今回の宝の魔石なんかも手に入るはずですから」

 「重ね重ね恩に着る。ありがとう」

 ある程度の建築を終えて帝都に設置した魔法陣へ転移を行う。
 帝都に借りた女神の盾商会の地下の魔法陣へ一瞬で転送する。
 地下へ続く階段へ上から足音が聞こえる。
 現れたのは女性のスタッフだった。

 「お帰りなさいませワタル様」

 ワタル達に気がついて恭しく頭を下げる。

 「帝都からワタル様達がお戻りになられたら城へ来て欲しいとのお触れがございました。
 先触れを出しておきますので皆様も馬車をご用意いたします」

 テキパキと要件を伝えて動くスタッフ。ゲーツの教育のレベルの高さが伺える。
 程なくして馬車が到着し一行を乗せ王城へと出発する。
 王城ではジークフリード皇子が皆の到着を迎えてくれた。

 「まずは無事の帰還を喜ぼう、しかし、どうやらいろいろと話せばならないことがありそうだな」

 皇子は皆の顔に浮かぶ不安と悩みを察して優しい声で語りかけてくる。
 この一点を見てもこの人物が優れた施政者となりえるだろうことが伺える。
 場所を移しお互いの情報を交換する。
 今回現れた新たな敵プロポ、そしてその圧倒的な実力。
 女神の盾の実力を知るジークフリード皇子は驚きを隠せなかった。

 「そなた達が捉えることも出来ない動きなら、私にも当然捉えることは出来ないだろう、
 それほどか、今回出会った敵は・・・・・・困ったな」

 最後のセリフが一番単純に皆の気持ちを代弁していた。
 この世界では間違いなく指折りの強さを持つ自分たちをして、
 相手の実力が計り知れないほど上、しかもそれは最終的な敵の先兵に過ぎない。
 この絶望的な情報を突き付けられてしまったのだ。

 「・・・・・・まずは少しいい話をしましょう。帝国のダンジョンと魔王島のダンジョンの宝物の管理を帝国にお任せいたします」

 重い雰囲気をユウキが取り繕ってくれた。

 「おお、それはありがたい。サウソレスやイステポネをうらやましく思っていた宰相たちが喜ぶ」

 少しわざとらしくもあったが場の雰囲気を変えていこうという軽口であった。
 それでもそういったことがこの場には必要であった。
 そのまま宝の譲渡と管理の依頼、魔王島の復興へ赴くことを伝えこの日の会見は一旦終了となった。

 今回ワタルたちが選んだ魔道具はマジックボックス(大)と空中を高速移動できる翼だ。
 この二点を女神の盾で運用すれば物流において他の商会に圧倒的な優位性を持てる。

 その後帝都での仕事はバッツたちに任せてワタル、カイ、カレン、ユウキはユウキの仲間とともに魔王島へ移動した。
 魔王島の生き残りは魔人が20人ほど、魔物たちが40体ほどと無残な状態だった。

 「これでも先代の最初よりはるかにましですじゃ」

 魔人の一人が笑顔で言ってくれたことが皆の救いであった。
 それからはワタルの土壌改善、カイの建築、カレンの魔道具設置。
 すでに慣れた手法でみるみる町が作られていく。
 むしろ以前よりも遥かに快適な空間を用意することができた。
 それらの作業が終わり仮の魔王住居にて休憩をしていると女神が降臨した。

 【ワタル、お疲れ様です】

 

コメント

  • ノベルバユーザー298925

    「数住人」とありますが数十人の誤字かな?

    0
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