3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

100章 アルス ザ ブート キャンプ

 帝都は近々開かれるオークションに向けてお祭りムードを高めていた。
 一方で女神の盾のメンバーは帝国兵たちと日々訓練に明け暮れていた。
 皇子の計らいで帝国兵の中でもエリートが揃う近衛兵との訓練の機会を得ることが出来た。
 皇子からしてもこのような貴重な訓練は両手を上げて賛成であった。
 剣聖と呼ばれる皇子自身、また身分を隠してはいるがサウソレス王も皇子の友人という形で訓練に参加していた。
 サウソレス王もジークフリード皇子もこの世界において間違いなく屈指の使い手だ。
 さらにサウソレス王は自らの懐刀である四星も訓練に参加させていた。
 四星とはサウソレス国軍の中でも特に武芸に優れた4名に与えられる通名で、
 元S級冒険者なども含まれる。実力は保証済みだ。
 事実女神の盾のメンバーと互角に打ち合える人間は数少なかったが四星は充分にその役目をこなした。
 宮廷魔術師や上位冒険者の魔法使いによる勉強会なども同時に行われ、
 魔法技術の向上や鍛錬も日々繰り返されていた。
 イステポネやノーザンラクトからも高名な武芸者、魔道士が多数参加しており、
 これほどの人員が一同に集まることはそうそうにあることではなかった。
 すでにノーザンラクトへの転移魔法陣は設置しており、いつでもノーザンラクト黒竜の巣への侵攻は出来る状態ではあった。
 リク、カイ、クウは事が済むまでホイス村へは顔を出さないと今は訓練に集中していた。
 熟練の武芸者との立会は若い女神の盾メンバーにとって大変有意義でためになるものであった。
 しかし、絶対的な身体能力が劇的に向上するわけではなく、しかも、日々その技術を吸収していく女神の盾のメンバーの成長の速さは眼を見張るものがあり二週間ほどでまともに相手ができる人間がいなくなってきてしまった。
 その事自体は素晴らしいことだが、相手の能力は未知数。女神の盾のメンバーには焦りが見えていた。
 まもなくオークションも開催されるとあって帝都は完全にお祭り状態になっていた。
 流石に連日の特訓に一行にも、そして何より他の参加者にも疲労の色が見え始めており、
 オークション警備の関係上三日間の訓練の休暇が言い渡されることに成った。

 「皇子のおかげで技術的な面は成長した。そうはっきりと言える」

 「もう手がボロボロだよ・・・・・・女の子なのに・・・・・・」

 「腕がまた太くなった・・・・・・バッツ洋服直して・・・・・・」

 「毎日毎日頭と体を使うからご飯が美味しくて、たくましくなってしまいました。ワタルさんの料理おいしすぎます・・・・・・」

 「久々に詰め込まれた二週間でした、ワタル様も皆さんも上達には眼を見張るものがあります」

 「そうよぉもうバッティでも皆の相手は苦労するはぁ、まだ経験でなんとか出来てたのにちょっと嫉妬しちゃう!」

 「私は逆に引き締まったよ。ここまで苛烈に体を酷使したことはなかったからね」

 たしかにユウキの体は以前のダイナマイトバディは維持しているが、ウェストやヒップが引き締められより洗練された美しさを放っている。芸術品と言ってもいいような域に達している。
 何故胸が落ちない!! っていう目線をカイが送っていたのには気がつかないふりをしてあげるのが紳士のルールだ。
 まぁこういう発言をしてしまうのが女性社会での経験が短いユウキの至らないところだ。

 その日はみんなでお祭り騒ぎな帝都を楽しんでゆっくりと過ごすことにした。
 露天やセールを楽しんで久々にすっきりと楽しんだ。
 夜は拠点で皆で食卓を囲み、バッティは夜の酒場へと消えていった。
 ワタルは皆としっぽりとお風呂を楽しんだ。ユウキも最初は恥ずかしがっていたが、
 郷に入っては郷に従うという感じで少し慣れてきた。
 むしろあまりの見事なユウキのプロポーションに他の女性陣が気後れする感じだ、
 なんにせよ絶世の美女5人に囲まれてまるで雑誌の背表紙の男のように風呂に入るワタルは万死に値する。

 風呂から上がり帝都の絶景を見ながらベランダで涼んでいるワタル。
 女性陣もそれぞれ炭酸果実酒を楽しんでいる。
 ワタルは一時の充足感と同時に今後への焦りも感じていた。
 3人の大切な友人を助けてあげたい、でも皆を危険に晒すわけにはいかない。
 勝算のない戦いに身を投じる訳にはいかない。
 なんとかしないと・・・・・・

 【ワタルよ】

 そんな時アレス神からの呼びかけがあった。

 【明日、この大陸の女神の塔へ来るが良い】

 それだけを告げてアレス神の気配は消えた。
 バッツに連絡を入れ明日女神の塔へと向かう旨を伝える。
 藁にもすがる思いでアレス神の呼びかけに望みをかける。


 塔へ入るとアレス神が語りかけてくる。

 【ベルは今一生懸命何かを調べている、私が問いかけても応じないほど集中している。
 お主達も不安であろう。私も出来ることをしよう。この塔の中でなら時間の流れは外と異なる。
 さらに疲れることもなく致命傷を受けた場合は外へ転移して治療もしよう。腹も減らないぞ!
 さぁ! 思う存分に戦うがいい、相手は私が全力上げて用意した。頑張ってくれ】

 あの玄武の試練を知るメンバーは明らかに顔色が悪くなる・・・・・・

 「い、嫌だ・・・・・・もうあれはいやだ・・・・・・」

 「あ、開かない!! 開かないよワタ兄!!」

 入ってきた塔の入り口は内側から開くことは無かった・・・・・・

 この日から後に地獄と呼ばれる日々が開始されるのであった。
 

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