3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

122章 暗き道

 呼吸するかのように光る道。どこまでもただただまっすぐに続いている。
 自分がどこにいるのかもわからない、どこまでこの道が続いているのかもわからない。
 探知魔法は周囲の壁に邪魔されてしまう、いろいろと試したが謎の黒い壁や床を傷つけることは出来なかった、ワタルとユウキで引き出した結論はこの壁は時間が固定されているんじゃないか?
 ろ言うものだった、分子レベルの運動さえも全く起きておらず、干渉することさえ出来ない。
 もし時間干渉であればプロポの能力も説明がついてしまう、
 時を操る可能性だ。

 ワタルやユウキなんかは漫画とかアニメでたまにある設定なのですぐに理解できるが、
 他のメンバーはどういうことか正確に理解するのは難しい、
 ただ共通して言えるのことは、もし敵がそんな能力を有していたら苦戦は必須。
 むしろ、どうやって戦えばいいかわからないレベルだ。
 時間を止める系の敵を相手にする時は味方が時間を操れるようになるのが王道だ。
 ユウキの概念魔法は物事の概念という哲学的なものに干渉する魔法、理論的には時間という概念に干渉して時間停止や加速なども可能なのかもしれない。
 しかしユウキ自身が概念魔法がどういうものなのか理解出来ていなかった。
 ユウキ自身は錬金術のようなものだと思って使っているのが現状だ。
 しかし、今回敵に時間を操る可能性を提示させられて自らの能力をもっと深く理解しないといけないとユウキは考えていた。

 この無限とも言えるマラソン中もユウキは様々なことを推測、検証、実施して実験する時間を得られた。
 そもそも概念とは何か。という哲学的な思考も現状の苦痛を紛らわすことに役立っていた。
 他のメンバーも魔法とは何かレベルまで振り返っていろいろと考える時間を得ることが出来たのは、
 決して無駄ではなかった。

 「いい加減この道も飽きてきたな、何も仕掛けてこないしこのまま走っていても相手の思う壺な気がする」

 「ワタル君ちょっと試してみたいことがあるんだけどいいかな? 皆にも協力して欲しい」

 「わかった、何をすればいい?」

 「この壁の謎を解きたいんだ、皆には変化を監視して欲しいんだ」

 一同は周囲への警戒を忘れずにユウキの行動を逐一モニターする。
 バッツやリクの全力攻撃でもカイの魔法でも傷一つ変化しない黒壁。
 ユウキはその一部に手をかざす。
 ユウキは謎の壁は時間を停止させることであらゆる外からの干渉を受けないようになっていると予想している。
 時間を停止させるなんてこと現代人であるユウキにはとんでも話だが、ここは魔法の世界。
 壁に干渉して時間軸を戻してしまうように概念を変化させることが出来るはず、
 はず、ではなく。出来る。そう確信していた。
 予想していたのは時間軸の固定だが実際に干渉していくとそうではないことがわかる。
 時間ではなくて次元が違う。こちらの次元からの単純な物理魔法干渉は異次元へは届かない、
 それを利用したシステムだとわかる。ならば次元を超えるバイパスを作ってこちらの次元に固定していけば干渉することが出来るはずだ。
 そんなこんなで壁に干渉して操作してしばらくすると皆の方に振り返る。

 「バッツさん、リクさん、ここを攻撃してもらえますか?」

 ユウキの指示に従いバッツとリクの一撃が壁に放たれる。

 バギィ

 今までびくともしないというか、攻撃が当たる音さえしなかった壁に大きく欠損が出来る。

 「やっぱり、そうしたらこの場からも元の場所へ転移できる。ワタル手を貸して」

 ユウキがワタルの手をとる。

 「今から転移魔法を発動させます、皆さん私達の周りから離れないで下さい」

 ユウキは周囲の空間に干渉して支配下に置いていく。
 同時に外部の情報も得られるようになり転移座標を囚えられるようになる。

 「別次元に近い場所なんですねここ」

 カイが今自分たちが置かれている状況を把握する。

 「この感じ……次元の狭間に近いようですね。メディアスの知識が教えてくれました」

 「バイセツの記憶にもあるわね。バルビタールは次元を翔んだ経験からプロポを作ったのかもねぇ」

 「壁も時間固定というよりは次元固定でした、あの移動も違う次元を通っているのかもしれません」

 「私達の次元魔法とは違うんだよね……?」

 「近いんでしょうが、我々に異次元を操るほどの想像力が足りなかったんでしょうね、
 アイテムボックスもある意味異次元なんですから、理解して信じれば使えるはずですが・・・」

 「女神様の言っていた世界の権限ってのが関係しているのかな?」

 「うーん、正直全部推測でしかないからあんまり追い詰めない方がいい気がする」

 「そうだね、あまり信じこんで想定外の事をされたら対応できなくなる」

 「とりあえずはここから脱出しましょう。座標は確定できました。ワタル君転移をお願いします」

 「ああ、わかった。行くぞ」

 ワタルはユウキが固定した座標へ転移を開く。
 いままで難度も試みて発動しなかった転移魔法が発動する。
 次の瞬間皆は光りに包まれて闇の廊下からその姿を消した。

 転移は成功した。転送先は黒竜の巣手前、山岳地帯が見え始めた地点に作った仮拠点だ。
 しかし、そこに広がる景色に誰もが言葉を失ってしまった。
 雄大な山岳地帯があったはずの場所に巨大な城が佇んでいたのだ……



 

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