3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

158章 決起

 【世界樹】による【絶対者】の誘いこみは順調だったが、
 慎重に事を運んでいるためにまだ時間がかかるそうで、
 実際にこの世界に来る直前に連絡が来る手はずになっている。
 ワタル達はこの事実を世界の王たちに話すことにしたのだが、
 女神がその役をやらせて欲しいと申し出た。
 ワタル達はもちろん断る理由はなかった。
 せっかくなのでワタルは世界の王たちを食事に招待した。
 ワタル達家族全ても一同に呼んだ、もしかしたら最後になるかもしれない食事会。
 ワタルは自分が生まれた地球、日本の料理を用意した。

 「おお、これは見たこともない料理がたくさんあるな」

 「俺とユウキの元の世界である日本の和食と呼ばれる料理です」

 「ボクワタルが作るワショク好き!」

 「刺し身、刺し身、刺し身」

 「カイ目が怖い……」

 「女神様の恵みに感謝である」

 【感謝されるようなことはしていませんけどね……】

 「何をおっしゃるか、我々は民は女神様の加護のおかげで……え?」

 あまりに自然に女神が食卓にいることに教皇は驚きのあまりに持っていたグラスを落とす。
 素早く皇子がグラスをキャッチする。

 「皇子ナイスキャッチ!」

 「シャイア王女茶化さないで下さい」

 2児の母となりさらにすごいことになっているシャイア王女が皇子にちゃちゃを入れる。
 なお帝国ではすっかり元気を取り戻した皇帝が元気に指揮を取っているので前よりだいぶ皇子には時間が取れるようになっていた。
 最近はいい人が出来たらしく時々微笑ましくお出かけしてるようだ。

 「ところで、本日女神様まで一緒に食事とは一体どうなされたのですか?」

 サウソレス王はぐっと貫禄が出てきている。マゴの前ではジジ馬鹿を全開にする。

 【詳しいお話は食事の後で、今は食事を楽しみましょう】

 「流石に教皇様以外の王の皆さんは女神様がいらしても堂々とされてますね」

 「おっほん。お見苦しいところをお見せした……」

 実際に食事が始まると一言も発することなく食事に没頭することになる、
 まさに圧巻の食事であった。
 素材の旨さを限界まで引き出すために味を抑えるのが和食、
 素材の旨さを殺さない限界まで味を入れるのがフランス料理と誰かが言ったとか、
 まさに素材の旨味を100%いや、数倍に引きずり出す、そんな料理だった。
 ワタルの目利きにより選ばれた魚介は美しくお造りとして彩られ舟を飾り、
 家庭の素朴な味である煮物がまるで着飾られた女王のような深みのある味をみせ、
 牛肉の表面を軽く炙った叩きにわさびと醤油であしらったジュレが乗せられる。
 口に入れると全てがとろけ出して混ざり合い、新しい世界に連れて行かれる。
 炊き込みご飯も五目、鯛、タコ、キノコ、と様々な物が小さく手まりずし状に置かれ、
 見た目だけではなく、様々な旨味を濃縮して食べるものの舌を支配していた。
 椀物は味噌汁、お吸い物、豚汁。
 どれも家庭でよく見かけるものだがこの世界の人々には初めて見る物だ、
 全員が3種類から選ぶのではなく3杯とも飲まないと人生を損している、そう思わせる旨さだった。

 「はーーーーーーーーーーーーーーー、旨かった」

 まさに筆舌に尽くしがたい。旨い。この一言が全てだった。

 「気に入ってもらえて良かったです」

 「絶対に日本むこうにいたらこんな料理食べられなかったよ、ワタル君に感謝だね」

 「子どもたちも美味しそうに食べてくれて、パパは嬉しいよ!」

 子どもたちは別室で商会の職員とママたちが代わる代わるお世話をしながら貪るように食事をしている。どれだけ食べるんだよ! ってぐらいワタル特性お子様ランチを食べている。
 バルビタールとセイの子供もシャイア王女の長男、長女、サウソレス王の孫達もワタルの料理に魅了されている。
 流石にワタルも毎日料理をしている暇はないので特別な時以外は商会の料理人の食事を取ることが多い、ワタルの技を学ぶ飲食部門のシェフたちもメキメキと腕を上げている。
 女神の盾商会の調理学校というものもあり、世界中から狭き門を目指して若者が集まる名門となっている。ワタルは講師としても教鞭をとっている。
 女神の盾商会がこの7年で作った上等教育を受けられる学校は大人気だ。
 魔法大学、ここでは魔法だけでなく魔道具作成も学ぶことができる。
 カレン、カイが教鞭をとる。
 冒険者大学、基本的な戦闘方法だけではなく、戦法、戦術論も学ぶことができるため貴族の子供など上流階級の人気も高い、バッツ、リク、クウ、ワタル、ユウキが教鞭を取っている。
 医療大学、医学や衛生関係の高い技術が学べる。すでに医療に従事している人間には優先的に情報を伝える機関紙なども発行しておりこの世界の医療技術の向上に多大なる貢献をしている。
 ユウキが最高責任者としてその知識を遺憾なく発揮してもらっている。
 ワタルが漫画を読むためだけに使っていた女神のタブレットで日本の書籍を何でも読める事が発覚して今でもユウキは勉学にも励んでいる。ワタルは新刊が出るとユウキに土下座して見させてもらっている。
 このように教育部門にも力を注いでいる。
 ゲーツによる人材育成も進んでおり、世界全体の人材の向上に女神の盾商会は貢献している。

 全てはワタルによる自分の愛する人間が住む世界をもっと良くしていくという信念に沿って、
 皆が協力して進んでいる。

 食後には女神様が世界の王たちに今回の件のあらましを説明する。
 全員その言葉一つ一つを噛みしめるように聞き入っていた。
 話が終わると何も言わずワタルの手をがっしりと握りしめる。言葉なんていらなかった。
 そこに託された想いの重さをワタルは痛感した。

 「女神様、たとえ貴方様の直接の加護が得られずとも、我々は貴方様に見ていただいていることを胸に刻み、この世界を大切に生きていきます。今まで本当に有難うございました」

 教皇の言葉に女神は涙を流していた。
 女神教としては何も変わることはない。
 いつも女神は見てくれているのだ、愛すべきこの世界を未来永劫……

 そして、この世界を守る、おそらく最後の戦いになるであろう戦いの知らせはこの宴の翌日にとどくことになる。

 
 

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