3人の勇者と俺の物語

穴の空いた靴下

160章 問題提起

 「俺が何もしなくたってこの世界は消滅するんだよ、それこそ神のきまぐれでな」

 「なに言ってるんだ? 追いつめられて妄言を吐くのは悪者の常だからな」

 「哀れな、自らの頭で考えることを与えられなかったのか……
 もう聞いているんだろ? この世界は神に造られたものだというのは、
 ならば、この世界を壊すこともできるとなぜわからない、当たり前の道理だろ?」

 「……だが、女神はこの世界を愛していると言ってくれた!
 この世界を救って欲しいと俺たちに頼んでくれた!
 俺はそれを信じる!!」

 「……羊達はそう言われて騙されてきたのだ、
 神の気まぐれで消された世界が無いとお前は断言できるのか?」

 「……少なくともこの世界の女神様はそんなことはしない!!」

 「つまり、この世界が良ければ、他の世界なんてどうでもいいんだな」

 「違う!! そんなことは言っていない!」

 「違くはないだろう? 現実に神とやらの気まぐれで消された世界なんてそれこそ星の数ほどある、
 飽きた、上手くいかない、なんとなく。そんな理由で消された世界、そしてそこに住んでいた者達、
 そんな行為を肯定するような娯楽は滅ぼさなければいけないんだよ」

 「やっていることはお前も同じじゃないのか!? お前の勝手な考えのせいで消された世界だってあるだろう!」

 「ん? 今の発言だと、俺と神達がやっていることが同じだと認めた事になるぞ?
 それに俺は一つ一つの世界になど興味が無い、
 俺がやろうとしていることは神達を殺し、この傲慢な遊びを止めることだ!」

 一貫して冷静な話し方をしていた【絶対者】が語彙を強めて神を殺すと発現する。
 ワタル達は二の句を継げづにいたが【絶対者】が話を続ける。

 「自分たちが満たされ滅びることがない、だから不幸な者共を作り出し、
 生にしがみつき必死にあがくさまを見て楽しもう、
 そんな下衆な楽しみに喜びを持って無駄に生きるなら死んだほうがいいのだよ我々は……
 しかし、ワールドクリエイターは一つだけいいことをしてくれた。
 不滅である我々を滅ぼす可能性を作ってくれた。これには感謝しないとな」

 「ワタル、この人がなに言ってるかわからないよ……」

 リクをはじめとするこの世界ぐらいの水準の人々には理解に苦しむ内容だが、
 ワタル、ユウキはこの人物の話す内容に一定の納得がいってしまっていた。
 ゲームというものがそれに近いんだろうなと二人は思っていた。
 確かにシュミレーションゲームとかはうまくいかないとリセットをして最初から始めたり、
 自分の意思で人の生死を左右したり、建物破壊したり、好き勝手やっている。
 もし、そのゲームの世界が実在してその中に必死に生きている人がいたら?
 そんなこと真面目に考えることはなかった。
 しかし、言ってみれば自分がゲームのキャラクターになった今はその行為の意味がわかってしまう。

 「ワタルと言ったな、お前は俺が言っていることが少しでもわかっていそうだな」

 「……ああ……ゲームの中のキャラクターのことを考えたことなんてなかったな……
 だからといってそのプレイヤーを殺そうっていうのは乱暴すぎないか?」

 「それだけではないからな、傲慢がすぎるのだよ我々は、全てに満たされソレに満足していればよかったものを、自分たちの欲求を満たすためだけに他者を苦しめるのを見て楽しむ、
 自らが苦しめばいいではないか、しかし、絶対に自分は安全な場で他の命の尊厳を弄ぶ、
 救えないのはその現実から目をそむけ神が如く振る舞う。
 こんな輩共は滅びたほうがいいんだよ……」

 【絶対者】が見せる物悲しそうな表情は、彼がただ自身の快楽や悪意だけで自らの行為を決定しているわけではないと思わせた。

 「あなたはそうして作られた世界でしあわせに生きている人たちについてはどう思うのですか?」

 ユウキがここで初めて口を開く。

 「ふむ、貴方は理性的に物を考えられるようだな。
 その点は私も大いに悩む点だ。確かに幸せを掴む魂がそこに存在している。
 だから私はこの世界の群体はそのままにしておくつもりなのだ、
 私は神さえ殺せればいい、世界はそのまま、いや、遥かに大きな世界を哀れな魂に提供する。
 その準備がプログラム配布、そしてそれはまもなく成就する。
 もう、終わっているのだよ私の役目は、結果を自らの目で見ることなくこの世を去るのは残念だがな」

 「どういうことですか……?」

 「私が一部の愚か者どもに提供しているプログラムはそれ自体が中枢、【世界樹】に多角的干渉を可能にし、そのコントロールを乗っ取るための第一段階、そして私が目指すのは全ての神の世界の結合と神の抹殺。その種はすでに芽を出している。更に私を【中央】へ送ってくれるのだろう?
 ありがたい、それこそ私が望んでもかなわなかった悲願」

 いつの間にかワタルに渡されていた転送装置をその手に掲げていた。

 「!? いつの間に!?」

 「私は全てを把握し、理解する、そして再現する」

 ワタルは自らの持つ転移装置を確かめる。
 そしてそれが確かに手元にあることを確認する。

 「全ての遮断と言いながら、【中央】へ送る。コレが矛盾していることになぜ気が付かない?」

 転送装置をしげしげと見つめながら誰に言うでもなくつぶやくように話す【絶対者】。

 「【中央】にガルゴ氏が触れたことですでにハードルはクリアしていたが、
 これでさらに盤石だな。さて、哀れな魂達、君たちの役目は私をコレで【中央】へ送ることらしいな、
 私はそれに喜んで従おう。どうやら発動にはそこの君のコマンドが必要なようだ。
 流石に魂のコピーは気が引ける。君自らこの戦いに終止符を打ち、
 そして神々を滅ぼす戦いの幕を下ろそうではないか!」

 両手を広げ戦う意思のないことを表す【絶対者】、
 女神の盾の誰一人、突然の話に動くことも出来ず立ち尽くしてしまった……

 

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