負け組だった男のチートなスキル
第三十六話 本当の脅威
男は死んでいた。
当然と言えば当然だ、何せ男自身には特別な身体能力はないのだから。
「呆気ねえな」
本当の所、男にはあの槍を遮る方法があった。
コウスケは、手に咬みついた魔物から『吸収』を使って『生物支配』を抽出した後、それを使用して槍の軌道線上の障害物をどけたのだが、コウスケの命令が届きそれを実行したということは、恐らくこのスキルは最新の命令が実行されるスキルなのだろう。ならば、あの時男が動揺せずに、命令を上書きしていたらこういう結果にはならなかったはずだったのだ。
コウスケは男の眉間に刺さった槍を手で抜き、男の身体を焼却した。
このままだと、返って魔物が寄り付く可能性があったからだ。
「ここは?」
里の住人からそう声がかかった。ようやく気が戻ったようだ。
「魔物を束ねていた男のいた場所だ」
「あ、あんたは……」
その男はコウスケの顔を見るなり、少し眉を顰めた。おかしい。確かあの里は人種差別をしないと聞いていたのだが。
その男は、コウスケの前に転がる焼死体を見て腰が砕けて倒れた。
「そ、それは……」
「さっきも言ったが、こいつが魔物をここら一体に侍らせていた男だ」
「こいつが……」
コウスケの言葉を聞いた男は、ジッとその死体を見つめた。今まで苦労してきたのだろう。その目には憎しみが灯っている。
「じゃあ、俺はこの辺で」
これ以上この場にいる理由はない。
「待ってくれ、あんた名前は」
「コウスケだ」
「コウスケ……ありがとう、そしてすまない」
その男はそう言って歩いて行った。
その言葉の意味がまるで分からなかったが、コウスケは気にしないことにしてこの場から離れようとしたところで、あの男の叫び声が聞こえた。
「うあああああああ、な、なんでこんな奴が!」
ただ事じゃないことぐらいすぐにわかった。
急いで後ろを振り返り、状況を把握しようとするコウスケ。
あの男は、洞窟前で座り込んでいた。何かに脅えるように。
「く、くるなああああ」
座りながら必死に叫び後ずさろうともがく男。視線は洞窟の中を向いていた。つまりまだ生き残った魔物があの中にいるのだろう。
このままではあの男が殺されてしまうと判断したコウスケは、直ぐに『強化』を使ってその場に移動するが、突如としてコウスケの胴体に何かが当たり、そのまま弾き飛ばされた。
そして、木に衝突する。
「げほっ、ごほっ、な、なんだ?」
腹部に強いダメージを受けたコウスケは苦し気に呻きながらも、その攻撃を受けた場所を見つめていた。そこには、相変わらず腰を抜かした男が倒れこんでいて、何かを脅えながら見ていた。そこに長い何かが洞窟内から飛び出ている。恐らくあれがコウスケを弾き飛ばしたのだろう。
コウスケのダメージは『強化』によって防御力が上がっていたものの、内臓にまでダメージが到達していた。それほどさきほどの攻撃はとてつもない威力だったのだ。
「く、くるなああああ――」
その男は断末魔を上げ、泣き叫んでいたが、もうどうしようもない。その言葉を最後に男の姿はなくなった。洞窟内に引き込まれたのだ。もう助かる見込みはない。その間にでも体を休ませておこう。
「厄介だな」
木にめり込んだ自分の身体を起こしてコウスケは洞窟を見据える。
日が嫌いなのか、その何かは一切出てこようとはしない。それとも大きすぎる身体のため出てこれないかだ。
とにかく、あの何かは火に耐性があることは確かだった。なぜなら、あの洞窟にいたということはコウスケの密閉火炎放射も食らっているはずなのだ。それでも生きているということは耐性があるしか考えられない。
「そうか……」
そんな事を考えるとようやくさっきの魔人族の男との件で合点がいった。
今思えば、あの男があの魔物たちを使っても、洞窟を塞いでいた壁を壊せるわけがないのだ。恐らくあの男は、今洞窟内にいる何かにも『生物支配』を使っていたのだろう。それが死んだことで無効化され、暴れまわっているということか。
とはいえ、その何かの正体を確かめない限り間合いも取れず、下手に近づくことが出来ない。
「ライトニング」
バチバチと槍に赤黒色の電気が纏う。
久々の雷魔法。それをこの場で試してみた。「サンダー」でも良かったのだが、魔法はイメージが大事だと言うことで、サンダーだと落雷を思い浮かべてしまうため、こっちの単語にしたのだ。にしても、雷さえ色が変化しているのは、やはり種族の変異が原因なのだろうか。
そのままコウスケは槍を洞窟内に槍を投擲した。当たる可能性は極めて低いが、当たったらそれでいいし、当たらなくても槍が洞窟を照らしてくれるはずだ。少なくとも、赤黒い炎よりは光を発している。
「……なんだあれは」
薄暗いながらも洞窟内にいる物体の輪郭を捉えることが出来た。だがコウスケの脳内図鑑にあんな生物は存在しない。
となれば、『鑑定』するしかない。
名前 キマイラ
種族 第一合成魔獣
スキル 毒 対魔法 剛力
キマイラ。どこかで聞いたことがある名前だった。それがどこかは思い出せないが。
種族を見る限り、合成された魔獣ということ。スキルは特に多くはないが、初めてみるものばかりだということだ。
にしても、合成魔獣というのは何なのだろうか。人の手によって作られたと言う意味なのか、自然に発生した突然変異種なのか。今の情報だけじゃ分からない。
「魔法は効かねえのか」
対魔法は間違いなく魔法耐性があるスキルだ。それならコウスケの炎魔法を耐え抜いた理由として納得できる。
「ガリリリルルルルルルルル」
姿が見られたことが分かったのか、キマイラは変わった鳴き声を発した。だが洞窟の外に出ようとはしない。姿を見て分かったことだが、身体が大きすぎるが故に出られないのだ。
今なら遠距離攻撃で仕留められるのではと槍を手元に戻して投擲するが、暗いため当たったかどうか分からない。そして何も声を発さないということは、ダメージは通っていないようだ。。
「サンダー」
コウスケはすかさず洞窟目がけて雷魔法を唱えた。キマイラを狙ったわけではない。魔法が効かないのはスキルで確認済みだ。
コウスケの放った雷魔法は洞窟の入り口にぶち当たり岩が砕ける。もう一度同じように岩にぶち当てて入り口の岩を砕く。さらにもう一度。
そうしている内に、洞窟の入り口は砕けた岩によって崩壊していた。とはいえ生き埋めにしようというわけではなく、キマイラを外に出そうという作戦の上での行動だ。生き埋めにするのは簡単だが、あのキマイラが埋められただけで死ぬとは思えない。それにあのまま洞窟内で戦うわけにもいかない。あれほど大きくて力の強い魔物と洞窟内で至近距離で戦うほどコウスケは脳筋ではない。
「ガグリリリリリルルルル」
やはり埋められただけでは殺せなかったようだ。再び変わった鳴き声を発しながらキマイラは地上に姿を現した。
「なるほど、それで合成魔獣か」
キマイラの姿が露わになったことで、合成魔獣の名前の意味がようやく理解した。
そのキマイラの姿形は、ハッキリ言ってしまえば大きなライオンだ。だが少し異なる部位を持っている。一番の特徴はライオンにはまずないであろう、長くて太い尾だ。あれほど大きな尾は、あの迷宮で見たドラゴンの尾を彷彿とさせるほど大きい。さきほどコウスケがもらった打撃はこの尾によるものなのだろう。
あとの特異的な部位と言えば、羽が生えているということだろうか。もちろんライオンに羽は生えていないし、ここまで大きい個体で羽なんて意味があるのかさえ分からない。
一つ言えることは、あの迷宮で倒したドラゴンほどの力を持っている可能性があるということだ。対峙して分かる。まるで一人では勝てる気がしない。
「何でこんなのを出しちまったんだろう」
今更後悔するコウスケ。里のためにここまでする必要は正直なかった。最低、魔物を討伐しておけば解決していたのだ。こうなることは予想外だし、割に合わない。
「はぁ、やるしかねえよなぁ」
目の前に立ちはだかる困難にコウスケは目を向けた。
当然と言えば当然だ、何せ男自身には特別な身体能力はないのだから。
「呆気ねえな」
本当の所、男にはあの槍を遮る方法があった。
コウスケは、手に咬みついた魔物から『吸収』を使って『生物支配』を抽出した後、それを使用して槍の軌道線上の障害物をどけたのだが、コウスケの命令が届きそれを実行したということは、恐らくこのスキルは最新の命令が実行されるスキルなのだろう。ならば、あの時男が動揺せずに、命令を上書きしていたらこういう結果にはならなかったはずだったのだ。
コウスケは男の眉間に刺さった槍を手で抜き、男の身体を焼却した。
このままだと、返って魔物が寄り付く可能性があったからだ。
「ここは?」
里の住人からそう声がかかった。ようやく気が戻ったようだ。
「魔物を束ねていた男のいた場所だ」
「あ、あんたは……」
その男はコウスケの顔を見るなり、少し眉を顰めた。おかしい。確かあの里は人種差別をしないと聞いていたのだが。
その男は、コウスケの前に転がる焼死体を見て腰が砕けて倒れた。
「そ、それは……」
「さっきも言ったが、こいつが魔物をここら一体に侍らせていた男だ」
「こいつが……」
コウスケの言葉を聞いた男は、ジッとその死体を見つめた。今まで苦労してきたのだろう。その目には憎しみが灯っている。
「じゃあ、俺はこの辺で」
これ以上この場にいる理由はない。
「待ってくれ、あんた名前は」
「コウスケだ」
「コウスケ……ありがとう、そしてすまない」
その男はそう言って歩いて行った。
その言葉の意味がまるで分からなかったが、コウスケは気にしないことにしてこの場から離れようとしたところで、あの男の叫び声が聞こえた。
「うあああああああ、な、なんでこんな奴が!」
ただ事じゃないことぐらいすぐにわかった。
急いで後ろを振り返り、状況を把握しようとするコウスケ。
あの男は、洞窟前で座り込んでいた。何かに脅えるように。
「く、くるなああああ」
座りながら必死に叫び後ずさろうともがく男。視線は洞窟の中を向いていた。つまりまだ生き残った魔物があの中にいるのだろう。
このままではあの男が殺されてしまうと判断したコウスケは、直ぐに『強化』を使ってその場に移動するが、突如としてコウスケの胴体に何かが当たり、そのまま弾き飛ばされた。
そして、木に衝突する。
「げほっ、ごほっ、な、なんだ?」
腹部に強いダメージを受けたコウスケは苦し気に呻きながらも、その攻撃を受けた場所を見つめていた。そこには、相変わらず腰を抜かした男が倒れこんでいて、何かを脅えながら見ていた。そこに長い何かが洞窟内から飛び出ている。恐らくあれがコウスケを弾き飛ばしたのだろう。
コウスケのダメージは『強化』によって防御力が上がっていたものの、内臓にまでダメージが到達していた。それほどさきほどの攻撃はとてつもない威力だったのだ。
「く、くるなああああ――」
その男は断末魔を上げ、泣き叫んでいたが、もうどうしようもない。その言葉を最後に男の姿はなくなった。洞窟内に引き込まれたのだ。もう助かる見込みはない。その間にでも体を休ませておこう。
「厄介だな」
木にめり込んだ自分の身体を起こしてコウスケは洞窟を見据える。
日が嫌いなのか、その何かは一切出てこようとはしない。それとも大きすぎる身体のため出てこれないかだ。
とにかく、あの何かは火に耐性があることは確かだった。なぜなら、あの洞窟にいたということはコウスケの密閉火炎放射も食らっているはずなのだ。それでも生きているということは耐性があるしか考えられない。
「そうか……」
そんな事を考えるとようやくさっきの魔人族の男との件で合点がいった。
今思えば、あの男があの魔物たちを使っても、洞窟を塞いでいた壁を壊せるわけがないのだ。恐らくあの男は、今洞窟内にいる何かにも『生物支配』を使っていたのだろう。それが死んだことで無効化され、暴れまわっているということか。
とはいえ、その何かの正体を確かめない限り間合いも取れず、下手に近づくことが出来ない。
「ライトニング」
バチバチと槍に赤黒色の電気が纏う。
久々の雷魔法。それをこの場で試してみた。「サンダー」でも良かったのだが、魔法はイメージが大事だと言うことで、サンダーだと落雷を思い浮かべてしまうため、こっちの単語にしたのだ。にしても、雷さえ色が変化しているのは、やはり種族の変異が原因なのだろうか。
そのままコウスケは槍を洞窟内に槍を投擲した。当たる可能性は極めて低いが、当たったらそれでいいし、当たらなくても槍が洞窟を照らしてくれるはずだ。少なくとも、赤黒い炎よりは光を発している。
「……なんだあれは」
薄暗いながらも洞窟内にいる物体の輪郭を捉えることが出来た。だがコウスケの脳内図鑑にあんな生物は存在しない。
となれば、『鑑定』するしかない。
名前 キマイラ
種族 第一合成魔獣
スキル 毒 対魔法 剛力
キマイラ。どこかで聞いたことがある名前だった。それがどこかは思い出せないが。
種族を見る限り、合成された魔獣ということ。スキルは特に多くはないが、初めてみるものばかりだということだ。
にしても、合成魔獣というのは何なのだろうか。人の手によって作られたと言う意味なのか、自然に発生した突然変異種なのか。今の情報だけじゃ分からない。
「魔法は効かねえのか」
対魔法は間違いなく魔法耐性があるスキルだ。それならコウスケの炎魔法を耐え抜いた理由として納得できる。
「ガリリリルルルルルルルル」
姿が見られたことが分かったのか、キマイラは変わった鳴き声を発した。だが洞窟の外に出ようとはしない。姿を見て分かったことだが、身体が大きすぎるが故に出られないのだ。
今なら遠距離攻撃で仕留められるのではと槍を手元に戻して投擲するが、暗いため当たったかどうか分からない。そして何も声を発さないということは、ダメージは通っていないようだ。。
「サンダー」
コウスケはすかさず洞窟目がけて雷魔法を唱えた。キマイラを狙ったわけではない。魔法が効かないのはスキルで確認済みだ。
コウスケの放った雷魔法は洞窟の入り口にぶち当たり岩が砕ける。もう一度同じように岩にぶち当てて入り口の岩を砕く。さらにもう一度。
そうしている内に、洞窟の入り口は砕けた岩によって崩壊していた。とはいえ生き埋めにしようというわけではなく、キマイラを外に出そうという作戦の上での行動だ。生き埋めにするのは簡単だが、あのキマイラが埋められただけで死ぬとは思えない。それにあのまま洞窟内で戦うわけにもいかない。あれほど大きくて力の強い魔物と洞窟内で至近距離で戦うほどコウスケは脳筋ではない。
「ガグリリリリリルルルル」
やはり埋められただけでは殺せなかったようだ。再び変わった鳴き声を発しながらキマイラは地上に姿を現した。
「なるほど、それで合成魔獣か」
キマイラの姿が露わになったことで、合成魔獣の名前の意味がようやく理解した。
そのキマイラの姿形は、ハッキリ言ってしまえば大きなライオンだ。だが少し異なる部位を持っている。一番の特徴はライオンにはまずないであろう、長くて太い尾だ。あれほど大きな尾は、あの迷宮で見たドラゴンの尾を彷彿とさせるほど大きい。さきほどコウスケがもらった打撃はこの尾によるものなのだろう。
あとの特異的な部位と言えば、羽が生えているということだろうか。もちろんライオンに羽は生えていないし、ここまで大きい個体で羽なんて意味があるのかさえ分からない。
一つ言えることは、あの迷宮で倒したドラゴンほどの力を持っている可能性があるということだ。対峙して分かる。まるで一人では勝てる気がしない。
「何でこんなのを出しちまったんだろう」
今更後悔するコウスケ。里のためにここまでする必要は正直なかった。最低、魔物を討伐しておけば解決していたのだ。こうなることは予想外だし、割に合わない。
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