異世界八険伝

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31.北の大迷宮2

 ボクたちは5階と6階の間にある階段で休憩中だ。

 階段は全部で30段くらいある。階段の最上段には入口へと戻る帰還の転移結晶が設置されている。この構造は1階を除き全ての階層共通らしい。

 今は階段の中程に集まり、お風呂代わりにボクの水魔法による裸シャワーでさっぱりした後、これから3時間くらい寝る予定だ。

 ちなみに、レベルはレンちゃんだけアップ。敏捷を上げたらしい。

 ◆名前:レン
 年齢:14歳 性別:女性 レベル:9 職業:剣士
 ◆ステータス
 攻撃:6.20(+3.00 +3.00)
 魔力:0.30
 体力:4.40
 防御:3.85(+4.50、魔法防衛+2.50)
 敏捷:6.00(+2.50 +2.50)
 器用:1.45
 才能:2.00(ステータスポイント0)


「皆さん、寝惚けて階段を転げ落ちないでね! 特にアユナちゃん――」

 って、もう寝てるし! 安全のためにロープで縛っておこう。ボク優しい。



 ★☆★



「おはよう!皆さん、よく寝れたかな? 」

「ねぇ、私はなんで縛られてるの!? 」
「何となく縛りたくなったから――」

「私はオムツの怒りが少し静まりました」
「まぁ、オムツは湿って泣くだけだよね――」

「あたしも耳鳴りが収まったかも! 」
「1度耳鼻科で検査した方が良いよ――」

「皆さんの目が恐い……よし! 次は6階です、気合いを入れていこう! 」



<06階>

 この迷宮はフロアボスの属性に応じた構造になっている。例えば、1-5階層は5層が木属性だから「森」がテーマだった。

 木火土金水の順序――つまり、6-10階層は「火山」をテーマにした階層を進むことになる。


「センパ~イ! 暑いんですけど! 」

「凄く偉い猫のロボットが、ある男の子に言った言葉があるの。それをアユナさんに捧げよう! 『夏は暑くて当たり前。時には汗を流すことも必要だ』ですよ! 」

「夏というより、火山だよ、これ! 」

「アユナちゃん、その前に猫が喋ってることをツッコんでください。その猫はたぶん魔人です」

「そんなドラ猫のことより、あたしの足元がグツグツと煮え滾っているんだけど! え、やだっ! 押さないでよ! 」

 6-10階まで続く火山の階層。暑いというよりは熱い。体感気温は50度を超えているだろう。慣れるとか、無理なレベル。でもそこは親切設計の迷宮だ。階層間の階段は常温の18度になっているらしい。

 ちなみに、暑さのお陰なのか魔物がほとんど出ない。暑さは人と魔物、共通の敵である。

「じゃあ、サクッと次の階段まで走ろう! 」

「「「はい! 」」」

 久しぶりに3人の声が揃った気がする。


「左右の分岐を、右! 」

「左中右の分岐を、中! 」

「左右の分岐を、左! そのあと、右折! 」

「左右の分岐を、右! 」

「左右の分岐を、左! そのあと、右折! 」

「左中右の分岐を、左! そのあと、左折! 」



 ボクたちはひたすら走った。距離は10kmくらいあったかもしれない――魔物も宝箱も全部スルー。1時間で走りきった。って、マラソン大会かっ!

 今は、6階と7階間の階段でボクの水シャワー中だ。全員をたっぷり洗ってあげて、今は自分シャワー。あぁ、肌に染み入る冷たい水! 気持ちいい!! みんなはボクの足元で、裸のまま寝転がってシャワーのおこぼれをもらっている。クピィも走ってないけど暑さは苦手な様子。

 ずっとこうしていたいけど――魔力が勿体ないと言うことで、シャワーは30分で終了~。


「で、次も走るの? 」
「私、もう走るのやだ! 」
「リンネちゃん、どうします? 」


<07階>

 ここも引き続き高温のフロアだ。実は1つ考えていたことがある。『神は乗り越えられない試練なんて与えない』という御言葉があるように、この火山フロアにも攻略法があるのではないか、ということだ。

「暑さの解決法は3つあると言われています」

 誰もそんなこと言ってないけど。伝聞法の方が説得力あるかと思いまして。


「1つ目は魔法。2つ目は(     )。3つ目は根性です。では問題。カッコに入る単語は何でしょう? 」

「ハイ、センパイ! クピィデス! 」
「アユナさん、意味がわかりません。暑すぎて頭が沸きましたか? 」

「先生! 答えは科学ではありませんか? 」
「レンさん、前々から感じてましたが、あなたはボクと同じ世界から――まぁ、ハズレです。もっと現実を見ましょう! ゼァーイズントアンエァーコンディショナー」

「先輩、もしかしたら――装備でしょうか? 」
「優秀なメルさんが居てくれてボクは嬉しいよ! そう、正解は装備やアイテムです」

「誰が今から買いに行くのよ! 」

「レンさん落ち着く。ボクの勘ですが、階層の宝箱には暑さを防ぐ装備やアイテムがあるような気がするのです」

「確かにあり得ますね! 」
「まぁ、先生の答えも正しいかもね」
「なっとクピィ! 」

「はい、全員の言質をいただきました! もし宝箱がスカっても先輩を責めちゃだめですよ? では、メインルートに近い宝箱を2つ狙います。また走りますよ? 距離は――6階層より短いはずです」


「入口すぐ右折! 次は左折! すぐ右折! 」

「左右の分岐を、左!すぐ右折!」

「ずっと2km直進、そのあと右折で宝箱! 」


[鑑定眼!]

[水の羽衣:身に付けると耐火耐熱効果がある]

「おぉ! 耐火耐熱だって!! 」

「「「欲しい!!! 」」」

 とりあえず若い順ということで、アユナちゃんが着ました。笑顔が咲き誇る! 頭が沸いてたもんね! 良かったね!


「500m戻って左右の分岐を、左! 」

「2km直進で左右の分岐。左が階段、右が宝箱! まずは右に行くよ! あと少し頑張ろう! 」


[鑑定眼!]

[水の羽衣:身に付けると耐火耐熱効果がある]

「同じだね。おそろい」
「今度はリンネ先輩、ですよね? 」
「フンガァ! フンガァ~! 」

「いただきま~す! レンさん落ち着く。では、このまま2km直進して階段に! みんな頑張って!! 」


 30分後、ボクたちは7階層をクリアし、8階層への階段で休憩中。と言っても、また皆が裸になっての水シャワー中だ。メルちゃんとレンちゃんとクピィにはたっぷりと水を掛けて冷やしてあげました。

 今はだいたい夜の8時です。シャワーしながら進んでも1階層あたり2時間ペース。ボスフロアを1時間と考えると、今後は――。
 8階クリア……夜10時
 9階クリア……夜12時
 10階クリア……夜1時

 1時ということは、前の休憩後からちょうど9時間が経つ計算。そしたら、10階層のボス戦後に少し長めに寝ますかね。

 そんな話をしていたら、レンちゃんの目が虚ろになってきた。メルちゃんは体力あるから大丈夫だけど、レンちゃん1番レベルが低いし――よし、水の羽衣をレンちゃんにあげよう!

 こうしてレンちゃんは生き返りました。ボク優しい。



<08階>

 この階層は少し趣が異なっている。

 道幅が20mほどに広がり、分岐がない10kmほどの道が蛇行して続く。道の両脇にはグツグツとマグマ溜まりのような場所がある。道の真ん中辺りを歩けば、暑くて耐えられないという訳ではない。どうやら魔物が現れる条件が充たされているようだ――。


「いる! います! いますよ! 」

 アユナちゃんのこの反応は、精霊さん発見?

「火の精霊さん? サラマンダーとか? 」

「下位のサラマンダーくんは6階でも見たけど、上位精霊イフリートさんがいるんですよ! 」

「上位精霊イフリート――私も聞いたことがあります。契約出来たら凄いですね! 」

「頑張ってみるね! 」

 暑い暑い言いながらも、アユナちゃんは煮えたぎるマグマ溜まりのような所へ走っていった。



 数分後――泣きながら戻ってきた。

「子どもとは……うぅ……契約……出来ないって……うっ……言われました……うぅぅ……」

「あらら。人間のお仕事とは違うんだろうけど、精霊ルールもいろいろあるんですね」

「仕方ないからサラマンダーくんと契約してきた。おいで! サラマンダーくん! 」

 そう言って召喚してくれたものの、暑いからとすぐに精霊界に還されるサラマンダー。仕方ないからと契約され、暑いからあっち行けと邪険にされる――不遇の極み、人間にもあるあるだ。


「さぁ、とりあえず、また走りますよ!! 」



 ★☆★



「前方100m、魔物が3匹居ます、蛇2と牛1? 」

 案の定、魔物が居た!

「観てみるね! 」


[鑑定眼!]

 種族:ファイアースネーク
 レベル:13
 攻撃:3.40
 魔力:5.85
 体力:3.15
 防御:2.20
 敏捷:4.45
 器用:1.50
 才能:0.70

 種族:ファイアーヴァッカロン
 レベル:14
 攻撃:3.95
 魔力:3.50
 体力:3.40
 防御:4.65
 敏捷:2.20
 器用:0.70
 才能:0.65

「蛇はファイアースネークでレベル13、牛はファイアーヴァッカロンでレベル14。ステータスは平均4くらい! メルちゃん、レンちゃんお願い! 」

「はい! 」
「任せなさい! 」

 2人は徐々に差をつめると、メルちゃんが先制で風弾をそれぞれに1発ずつ飛ばす。

 牛は被弾してぶっ飛び、レンちゃんが首を刈る――。

 蛇は1匹被弾、1匹は回避に成功するが、それぞれにメイスとサーベルが襲いかかり――あっという間に戦闘は終了した。

 その後もレベル15前後の魔物が現れたが、2人は余裕で倒していく。


 やがてボクたちは9階への階段に到達。予定よりも1時間も早いペースを維持している。話し合いの結果、シャワーをした後に1時間くらい仮眠を取ることにした。




<09階>

 油断。比叡山延暦寺で1200年以上燃え続ける不滅の法灯に燃料の菜種油を――と言うのはさておき、階段にて裸で眠る美少女4人組にも等しく訪れるフラグのことを指す。

『うわっ! なんだこりゃ!? 』


 ボクたちは、突然放たれた男の悲鳴で飛び起きた。

 火山ステージの階段の使用方法として、シャワー後には当然の如く、裸で眠る。

 その楽園に突如現れた魔人たち――いや、クピィは反応していない。

 泣き叫ぶアユナちゃん。怒り狂うメルちゃんとレンちゃん。動揺しながらも顔を覆う手の隙間から観察を続ける男たち4人。そこに、唯一無二の冷静なボク。流れは必然性を伴う。選択肢は極めて少ないからだ。

 9:1=撲殺:謝罪、である。


「お話があります」

 ボクは精一杯の冷徹な声で交渉の場に立つ。

 背後には、完全フル装備に戻った仲間たち。
 目前には、罪悪感とニヤケ顔が入り交じった男たち。

『不可抗力です! 階段を降りたらいきなり女の子が裸で寝ているなんて、誰が想像できるでしょうか? 』

 一瞬。ボクたちの怒りが空気を冷やす。そこはさすがに9階層までくる手練れ――身の危険を察したのか、即時前言撤回する。

『とは言え……階段は休憩場所。火階層の階段ならば裸で涼んでいる方々も居るだろうと予見して……階段を降りる前に声を掛けるべきでした……本当にすみませんでした』

『『すみませんでした! 』』


 謝罪、しかしそれは求められる結果ではなく、交渉の前提条件に過ぎなかった。

 まず、ボクは彼らから事情を聴く。

 彼らの目的地は9階層。9階には宝箱が3つあり、そのうちの1つが必ず火魔法の書であるという。初級70%、中級25%、上級5%の確率だそうだ。それを目当てに3日に1回は9階層に訪れるのだと。そう言う彼らのパーティ名は“炎好き好き倶楽部”。名前の割に、とても寒い――。

「ちょっと相談させて下さい」

『はい……』



「ボクがメリンダさんから貰った地図には魔法書の情報なんて書かれてないけど? 」
「また、騙されていますか? 」
「嘘だったらその場で100枚におろせばいい! 」
「私……お嫁に行けない……リンネちゃんに貰われるしかない! 」
「謝罪として魔法書を貰って許してあげる? 」
「情報が本当なら、私はそれで我慢します」
「あたしたち4人の裸を見たんだよ? せめて中級以上だよ! 」
「リンネちゃんが貰ってくれるならそれでいい! 」

 会話が噛み合わない小学生は、スルー。



「情報が本当なら、今回の件は魔法書の宝箱の権利を融通してもらうことで水に流せますが? 」

『分かりました! 僕たちも命が大切です。示談成立ということにしていただけると助かります! 』

 と言うや否や、炎好き好き倶楽部の面々は帰路についた。帰りながら、何色の子のサイズがどうだったとか、上級魔法書なんかより得をしたとか、青い子のことを考えると、100回は頑張れるとか話しながら盛り上がる声が聴きとれた。雷でも落とそうかな――。



「では! 魔法書が出るまでは、宝箱を拾いながら走るよ!! 」

「「「はい! 」」」


「まず左右の分岐――メインルートは右だけど、左の宝箱を目指すよ! 左に行き、4分岐に出たら左から2番目へ! 」

「行き止まり2分岐を左! その先を右折したら宝箱があるよ! 」



「残念――ハズレ! けど、9000リル!! 」

 ボーナス900万円っ! 笑いが止まらない!!

「入口まで戻って、最初の2分岐を右へ! 突き当たりを右折、道なりに進むと2kmで3分岐に出る! 」


「先輩! 3分岐まで来ました! 」

「よし、ここを右に行くよ! 突き当たりを左折、その後すぐ右折! 目の前に階段が見えるはずです! 」


「先輩、階段ありました! 」

「左右の分岐、どちらにも宝箱がある、近いのは左。左から行こう!」

「左へ進むと1km先が行き止まり、そこを左折すると宝箱がある! 」



「――またハズレ。もしかして、騙された!? もうっ! 次、行くよ! 」

[ミスリルの塊:魔力を増幅して蓄えたり通したりできる聖銀のインゴット]


「右折して真っ直ぐ2km、そこからジグザグね。右折、左折、右折、左折、右折――その先に宝箱! 」



「出た!! 上級――」

「「「えっ!! 」」」

「なら良かったんだけど、中級!! 」

「「「…………」」」

「ん? ――人の話は最後まで聴きまし――」

「「「リンネちゃんのイジワル! 」」」

 でも、火の中級は貴重品だ。現状で誰も覚えられないのでボクが保管することになった。


 その後、10階への階段まで進むと、まずはたっぷり水シャワー! 生き返る~!!

 さすがにここまで来るパーティは無いだろうとは思いつつも、服をしっかり着てから軽く夜食を食べた。次はボス戦だ――。



<10階>

 ボスは恐らくファイアードラゴン。もしかしたらレッドドラゴン。どちらにしても竜種の中では上位に名を連ねる大物だ!

 生活魔法化しつつあるボクの水魔法が日の光を浴びる日がきた!

 しかし、初級レベル――。


「えっと……作戦なんだけど。まずはボクがドラゴンの頭に雷を……」

「「「却下します! 」」」

 何だか最近すご~く息が合ってきて、ボクは嬉しいですよ。


「確かにリンネ先輩が1人で倒した方が、取得経験値2倍の恩恵も大きいのは分かりますよ。でも、強敵との戦いは、経験や技術、連携だけじゃなく、心も強くしてくれる場なんです。ですから今回リンネ先輩はお休み下さい。私たちだけで挑戦させて下さい」

 メルちゃん――貴女をただのバトルジャンキーだと思っていたボクを許して下さい! 改めて、仲間を信じて任せます!

「分かったよ! 信じて任せます! けど、危なくなったら途中参加するからね!! 」

「はい! で、作戦なんだけど――」


 ボクは暇すぎて、不思議生物クピィのボディチェック中だ。体長は10cm、と言うか半径5cmと言うべきか? 卵状の体に、3cmくらいのサラサラな毛がウサギみたいに生えている。足はピンクの小さいのが2本、指は――3本!? そして、なんと! 背中には折り畳まれた翼が!? もしかして飛べるの? 試しに壁に向かって投げてみる? いや、さすがにそれは悪逆非道というものだ。軽く広げてみると、クピクピ騒ぐ。痛いのか気持ちが良いのか分からないから止めておく。耳は小さいがフサフサの狐耳みたいなのがある。目はピンクのビーズみたいなのが2つ。それと、小さい口もある。牙や歯は生えてない――精霊さんだから何も食べないのかな? 糞をしないのが最高だね、キミ! あと、このポケットサイズが堪りません。肩に乗せてよし、頭に乗せてよし、抱いてよし。あれ? オスなのメスなの? ちょっと調――。


「リンネ先輩! 作戦決まりました! 行きますよ! 」

 3人の作戦会議は30分以上を費やして、やっと終わった――んもぅ!間が悪いっ!!



 幅30mはあろうかという通路がひたすら延びている。左右と上部には、燃え盛る炎の壁――そう、通路は炎のトンネルだった。でも、不思議と暑さや息苦しさは左程感じない。何らかの魔法や加護の力さえ感じる。

 炎のトンネルを潜り抜けた所には、また巨大な神殿があった。幅はゆうに500mを超えている。ちなみに高さは50mくらいだろうか。屋内ならば空を飛ばれることもなさそうだ。この中にドラゴンが居るんだね。ボクは心臓をバクバクさせながら足を踏み入れた。皆が緊張していたはず。

 中に入ると暗闇の中に2つの光が灯る。

 近づくにつれ、はっきりとその全容が分かる。

 体長30mを超す赤銅色の鱗を持つ巨大なドラゴンが、2つの光る眼でボクたちを見下ろしていた――。


『ここを通らんとする小さき者共よ。我は10階層の守護竜レッドドラゴンである。汝等の力を示せ! 』


 相変わらずの重低音、ド迫力だ。音が空気を振動させて伝わるというより、声そのものが風弾として鼓膜を叩いてくる。

 負けじとメルちゃんが叫び返す!

「青の召還者メル、挑ませていただきます!」
「赤の召還者レン、同じく戦います! 」
「勇者リンネ様の付き人アユナ、頑張ります! 」

 この名乗り方、毎回やらないといけないのかな、恥ずかしいね。


 ボクは後方、離れて待機中。

 頭にはクピィ、隣にはドライアードが居る。

『リンネ様、相手は上位の竜種ですが……』

「みんな強いし、信じて見ていて下さい」

 ボクは既に大量の魔力を練り上げて、いつでも魔法を撃てるよう準備はしてある。普通に考えて、物理攻撃主体のあの2人と小学生エルフが巨大なドラゴンに勝てるイメージが湧かない。


『ブォォォ~!! 』

 レッドドラゴンに先手を打たれた!

 いきなり炎のブレス撒き散らしとか、即死級だ!!

 メルちゃんが内側に潜り込み、レンちゃんが横に、アユナちゃんが下がって躱す! 3人ともブレス攻撃を読んでいた動き。攻撃の初期動作を分析して対応しているようだ。


 メルちゃんが迫る!

 それに合わせてアユナちゃんが光魔法でドラゴンの眼を狙う。シルフやウィルオーウィスプもアユナちゃんを援護している。

 レンちゃんは隠術か、姿が見えない。背後に回ろうとしている様子。これがいつもの勝ちパターン。でも、レッドドラゴンに通用するの?


 ドラゴンの意識が上に集中した一瞬の隙を突いて、メルちゃんの重たい1撃が前肢を叩く。バキッという轟音が響き渡る! 咆哮をあげるドラゴンは尻尾で迎撃を試みる。

 そこに、背後から尻尾の付け根を狙ったレンちゃんの突きと斬撃のラッシュが当たる!

 アユナちゃんは引き続き頭部を魔法で狙い撃ちしている。


 一連の連携にミスはない、でもダメージはどうだろう? ドラゴンは思いっきりタフだからね!


 暴れ回るドラゴンに対し、3人は一旦距離をとる。冷静に分析して次の連携を構築するのはメルちゃんの役割のようだ。次々に指示が飛ぶ。


 ドラゴンも誰が司令塔であるかを見極めたようで、前肢を傷めながらもメルちゃんに突進する!

 3人は既に散開し、3方向から挟み討つ形が完成している。

 戦局は完全にコントロールされていた。


 猛進するドラゴンの牙を俊敏な動きで交わし続けるメルちゃん。横に回ってウインドカッターで肢を狙うアユナちゃん、そしてレンちゃんは背中に乗り移るタイミングを計っている。


 噛みつき攻撃、前肢の薙ぎ払いが悉くかわされたドラゴンは、大きく息を吸い込む動作に入る――このタイミングを3人は待っていたようだ。アイコンタクトで一気に仕掛ける!

 メルちゃんが風弾をドラゴンの口に叩き込むと、アユナちゃんは最大出力の風魔法を傷めた前肢に撃ち込む! 背中に乗り移ったレンちゃんが剣を2本突き立てる! 心臓を目掛けた1本、首元に1本――これはさすがに効いたでしょ!!


 ドラゴンはブレスの動作を中断、レンちゃんを振りほどきにいくが、前肢が引き千切れて横に倒れる――回り込んだメルちゃんが、渾身の1撃を側頭部に叩き込む!!

 そして、短い咆哮をあげて、ドラゴンは息絶えた――。



『リンネ様、杞憂でした。見事な連携でしたね! では失礼します』

 ドライアードは還ったようだ。アユナちゃんの指示もなく。信頼関係は大丈夫だろうか――。


「みんな、完璧な戦いだったよ! お疲れ様! 」

 魔結晶とドロップアイテムを回収した3人を迎える。短時間で全力を出し切ったのだろう、全員が息を荒げて声にならないようだ。

[レッドドラゴンの魂:火魔法レベルを1つ上げる]


「連携は……予定通り……でしたが……長期戦になる……と、もちません……1つズレると……崩壊する……危険な戦いでした……やはり……リンネちゃんみたいに……1発で……仕留められる力が……必要です」

 メルちゃんが苦しそうに感想を述べてくれた。

「それでも、魔人は1撃で倒せなかったし、お互いの長所を生かした連携は必要だよ。アユナちゃんもレンちゃんもバテバテだね! 階段で休みましょう! 」

 今回のボス戦は、完全にシミュレーション通りに運んだようだ。事前に準備された戦いと、唐突な戦いとは全く異なるもの。今後の魔人戦を考えると、臨機応変に戦えるバリエーションは増やさないといけないかもね。


 予定よりも2フロア多く進んだボクたちは、11階への階段でシャワーと食事を済ませ、しっかり服を着てボーナス込の“5時間の爆睡タイム”に突入する。

 ちなみに、全員がレベルを1つずつ上げていた。

 リンネ:レベル20
 メルちゃん:レベル13
 アユナちゃん:レベル11
 レンちゃん:レベル10

 よし、朝6時起きで攻略2日目、頑張るぞ!

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