老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

55話 王都からの使者

「師匠、王都からの使者が来るとジュナーの街から連絡が入りました」

 ユキムラがヌクヌク内政モードでにっこにこで過ごしているとレンから連絡が来た。
 ユキムラのテンションはだだ下がりだ。

「なんか無礼があったら難癖つけられて王都から攻めてきたりしない?」

「しません、普通にしていれば大丈夫です。ただ村長から師匠に管理者が変わるというだけですから」

「貴族が出てきて無理難題を」

「ありません、執政官とお付きが数名来るだけです。
 それに我がプラネテル王国は貴族制は取っておりません」

(全くこの人は見惚れるほどかっこいい時とポンコツな時の差が激しい。
 ま、それも魅力であったり……僕がしっかりしなければ)

 と、決意を新たにするレンでありました。
 レンは13歳になっていた。師匠であるユキムラと肩を並べて冒険するまで後2年だ。
 季節はすっかり春。
 サナダ街にも季節の変化とともに変化が訪れるのでありました。

「王都からの使者として参りましたコームと申します。
 まずは旧ファス村、現サナダ街のご領主就任おめでとうございます。
 我がプラネテル王国プラネテル・ハワード3世国王より認可状でございます」

 今日は文官モードのソーカがうやうやしく書状を受け取る。

「プラネテル王国、並びに国王様への感謝の証として我がサナダ街からも右の品を献上いたします」

 レンが品目を読み上げる。
 読み上げられた品目が進むたびにコームが目を見開いて驚いていた。
 通例に背かぬように粛々と式は進んでいく。
 ユキムラはうんうんと頷いておとなしく座っているだけでよかった。

「ユキムラ殿今後共、王都との有益な通商が続くことを祈っております」

 すべて滞りなく終わり、コームと握手を交わす。
 これで堅苦しい形式張った会は終わりだ。

「さて、コーム殿やっと肩のこる事は終わりました。
 軽く席を用意しておりますので、お付の方々もどうぞこちらへ」

 ほんとに13になったばかりなのかと思ってしまうほど、立派にレンは秘書的な働きをこなしていく。
 武官としてはガッシュ、ソーカが上に立ってやっている。
 文官としては村長とレン、その下にガッシュとソーカと言った具合だ。
 すべての統括的なところにレンがいてその更に上にユキムラがいる。
 サリナなどは製造に打ち込んでいてまつりごとには参加しない。

 サナダ街は意外と能力至上主義で適材適所を何よりも大事にしている。
 セカ村やサド村から移住してきた人たちは今自分たちの村の復興に汗水を流している。
 自分たちの村を取り戻してくれたユキムラに感謝をしつつ、生まれ育った街を再生させ豊かにさせるためにみんな自ら働いている。
 すでに基礎となる道路建設や仮宿舎などの建築も進んでいる。
 重要な衛星生産拠点になることは間違いない。

 それとサナダ街はあまり収入差がない、みんなで稼ぎ、みんなに使う。それがユキムラの信念だった。
 最低限生活に必要なものは街として作ったり輸入してベーシックインカムのように、町の人々に与えていく。

 それでも皆の労働意欲は高い、すごく高い、異常に高いと言っていい。病的だ。
 レアガチャにハマる日本人のように労働にハマっているのだ。
 本当はサナダ街は非常に闇が深い街なのかもしれない……

 勤労こそ喜び。危険な響きを掲げる町の人々によるサナダ街の生産能力は莫大だ、そこから加工され出来上がる魔道具も、火打ち石でわらに火をつけている世界にガスコンロを持ち込む。
 そんなメチャクチャな性能になっている始末だ。
 瞬く間に周囲の街へ、王都へ、そして国外にもチラホラと広がっている。
 しかし、この街ほどの生産力は他国では絶対に出来ない。

 この街の最も恐ろしい能力は、資源の減少なく資源を取り出すことが出来る。
 まるで禅問答みたいなことが可能なことに裏打ちされている。
 どんなレアなものでも何度でもチャレンジして掘ることが出来るのだ。
 ゲームではありがちなことだが、それを実行するとこれほどチートな事はない。

 なお武具に関しては一部を輸出禁止としている。
 普通の鉄の剣などは出荷している。
 純度が違うし加工技術も圧倒的なので、現在流通しているようなものがなまくらと言っていいほどの差がある。
 しかしサナダ隊などに与えている武具は国宝級の伝説の武具にも匹敵する。
 そんなものをおいそれと市場に流すなんてことは厳しく禁じている。
 今回一本だけ王都へ献上した。
 ユキムラ的には王国を敵に回したくないので牽制も兼ねていたりする。
 うちの街はこんなものを作れる程なんですよ、だから愚かなことは考えないでね、とね。
 もうVOとは全く別なお話になっているから、楽しいのと同時に不安にもなっていた。

 舞台はコームと食事をしている場面へと映る。

「しかし、この街はなんというか。もう異質としか言いようがありませんね!
 この食事のパン1つとってもまるで赤子の頬のように柔らかく、甘く、旨い!」

 コームは目立った特徴のない平凡な40歳位の文官だが、今は街自慢の酒類を嗜んで少し饒舌になっている。元来真面目な人間で悪い気分はしない、楽しんでくれているんだなとユキムラは笑顔だ。

「街を守る衛兵は訓練が行き届いており、何よりなんですかあの防壁は!
 不敬を厭わず言えば、王都よりも強固で巨大だ。
 ユキムラ殿は何を目指しておられるのか?」

 目の奥が光ったような気がする。
 思ったよりもこの人はやり手なのかもしれない。
 VO内でギルド間戦争なんかでも、内政と言われる交渉を繰り返してきているユキムラはすこし褌を締める。

「この街の人々に安全で快適に過ごして欲しい、それだけですよ」

 代わりに答えようとしたレンを手で制して答える。
 大人同士の儀礼として自分が答えるべきだと思ったからだ。

「それに、私はこの世界に生きる全ての人に安全で快適な暮らしをしてほしいと思っています。
 今後もどんどん王都にも物資を提供していきます。
 民が笑顔で暮らしていく街を作り、いずれはこの世界をそうしていこうではないですか?」

「おお、おお! わが国王にしかとその言お伝えする。
 ユキムラ殿は義に熱い方だとしっかりと!」

 その後気分が良くなったコームや付き人が満足するまで和やか歓談は続いていくのでした。


 




 

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