老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件
63話 ラブコメとおじゃま虫
ユキムラは日課のマラソンができるか確かめるために、馬車から外に出る。
昨日までの吹雪が嘘のように止んでおり、光を反射する雪が眩しすぎる。
ユキムラは目の雪焼け防止のためにサングラスをしている。
お馬さんにもつけている、レンズではなくマスク状になっているのでお馬さんも快適そうにしている。
「流石に走れないかなこれは」
やろうとすればやれなくはないが、周囲は1mほどの積雪が結界の外にずーっと続いている。
体操や素振りなど出来ることをその中でこなしていく。
昨日はソーカの襲撃がなかったのでいつもよりゆっくり眠れた。
レンに感謝である。
「おはようございますユキムラ様」
「ああ、おはようソーカ」
「隣よろしいですか?」
「ああ、もちろん。少し体動かしたらちょっと打ち合おうか」
「はい!」
武術の訓練時などはソーカの誘惑はない。
当然だ、命を左右する鍛錬にそんなものを持ち込んだら、さすがのユキムラも怒る。
ユキムラ自身はソーカの美しい剣筋に見惚れている。
なんというか華のある動きを魅せる女性だった。
変に突っ走らないで普通に距離感を詰めていけば、ソーカは最も有利な場所にいるのに、残念ながらそれは見えていない。
「それではお願いします」
「よろしくー」
ユキムラはコンソール表示などを切ったシステムの補助のない状態でソーカの正面に立つ。
ソーカはロングソードよりは少し短めの木剣を持っている。
普段使っている武器と似た作りだ、短剣と長剣の間くらいの長さの剣。
ユキムラは基本なんでも使うが、今はスタンダードなロングソードくらいの木剣を構えている。
ゆらゆらと揺れるソーカの剣、攻撃のタイミングが計りづらく何度も苦労させられている。
ユキムラはピタっと止まっている。
相手からするとこの状態のユキムラに攻撃すると気がつくと首元に剣を当てられている。
VOのシステム補助がなくてもユキムラはカウンターを得意としていた。
ゲームの動きを実際の身体で再現するイメージで体を動かすと、やはりいちばんしっくり来るそうだ。
VOシステム補助を受けるとその鋭さは別世界になる。
何度も何度も繰り返した、倒され剣を突きつけられているやり取りがソーカの頭をよぎる。
迷いを捨てるようにソーカが動く、ゆらゆらと揺れていた剣先が突然ユキムラへと襲いかかる、ユキムラは事も無げに払う、ソーカもそれは想定済み、
「な……!」
珍しくユキムラが声を出す、
ソーカが弾かれた剣を再び振り下ろすと思いきや投げつけてきたのだ。
しかも初撃から投げたモーションがほとんどわからず目の前に剣が迫っている。
ユキムラは一瞬の動揺を抑える。
冷静であることが戦いにおいて最も大事、ユキムラは飛来する木剣を冷静に叩き落とす。
ソーカは織り込み済みであったように、同時にもう一本の木剣を懐からユキムラへと投げつける。
2段構えの武器の投擲だ。一投目よりも二投目の方が鋭く弾くことは出来ない。
身を捩り二刀目をなんとか避ける。
僅かな体勢の崩れ、その瞬間木刀を持つ手首を掴まれていた。
二刀を投げられ一瞬の迷いがユキムラの反応を鈍らせてしまった。
「てやーー!!」
小手返し。何度かソーカに身をもって教えたことはあるが、こんなタイミングで、しかもこういう入り方をされ、返す手段がすでに見つからなかった。
視界に広がる空、組み伏せられ首元に短剣を当てられていた。
「……まいった」
「ぃヤッターーーーー!!」
ユキムラの上から素早く立ち上がり、ぴょんぴょんと跳ねながら全身で喜びを表現するソーカ、
「二本とも投げてくるとはなー、斬りつけてくれば対応できたんだけど……」
「普通にやってたら今まで通りですから、なんとかして裏をかけないかなと!」
「まぁ、やられといて言うけど、さっきの方法は俺以外にやらないでよ、もし甲冑とか着てたら投げられた剣は避けないだろうし武器を失うだけになるから」
「……」
ソーカが黙り込んでしまう、少し言い過ぎたかなとユキムラが心配すると、ソーカは耳まで真っ赤だ。
泣かしてしまった! ユキムラは混乱する!
「どうしても……今日は勝ちたくて、勝ったら言おうって思ってたから……」
さっきまでの凛々しい戦士であるソーカはそこにはいなかった、一人の可愛らしい娘のソーカがいた。
ユキムラはあわわあわわしていた。しょうがないね、初めてだもんね。
「ユキムラ様……ユキムラさん。
私……一番初めに貴方に助けてもらった時から、あの、その……ずっと……」
ごくり。ユキムラは自分が飲み込むつばの音がこんなに大きく聞こえた瞬間を初めて体験する。
「その、ユキムラさん!」
「ふぁい!」
まっすぐとユキムラの目を見るソーカ、ユキムラも釣られてソーカの瞳を見つめる、涙をため、強い決意を秘めたその美しい瞳。ごくり。ふたたびからっからの喉が悲鳴を上げる。
「す、す、す、「ワンワンワンワン!!!」
馬車からタロが飛び出してくる、ユキムラの足元でうーうーとプリティに唸っている。
ユキムラはすぐに俯瞰モードを頭のなかで呼び出す、
「しまった。囲まれている!
レン、馬を守れ! ソーカ、防壁は大丈夫だと思うが視界が悪い注意しろ!」
「はい!」
訓練されたソーカはすぐに頭脳を戦闘モードへと切り替える。
こっそり覗いていたレンは馬房周辺により強力な防御結界を張って馬を守る。
俯瞰視点には雪を盛り上げながら接近してくる影が8体。
ズガーン!
結界に当たり地面がビリビリと揺れる。
「スノーボアか、しかも親玉もいるな。雪が邪魔だな、ソーカ上から出て周囲の雪を消す、親玉は俺が受け持つ、あぶれたやつを頼む!」
素早く馬車の上に登り防御結界の上部から周囲に魔道具をばらまく。
すでに武具は装着している。
ソーカもしっかりと戦闘用スタイルへと変身している。
雪の上に落ちた魔道具を中心に炎が激しく燃え盛る、ドカンドカンと結界に体当たりをしていた魔物たちは一旦距離を取る。
みるみる馬車周囲の雪が蒸発していく。
雪の壁がすっかり消えて行くと、白い猪が7頭、特に大きな猪が1頭グフグフと興奮したような呼吸をして立っていた。
雪国の暴れん坊スノーボアとジャイアントスノーボアとのご対面だ。
昨日までの吹雪が嘘のように止んでおり、光を反射する雪が眩しすぎる。
ユキムラは目の雪焼け防止のためにサングラスをしている。
お馬さんにもつけている、レンズではなくマスク状になっているのでお馬さんも快適そうにしている。
「流石に走れないかなこれは」
やろうとすればやれなくはないが、周囲は1mほどの積雪が結界の外にずーっと続いている。
体操や素振りなど出来ることをその中でこなしていく。
昨日はソーカの襲撃がなかったのでいつもよりゆっくり眠れた。
レンに感謝である。
「おはようございますユキムラ様」
「ああ、おはようソーカ」
「隣よろしいですか?」
「ああ、もちろん。少し体動かしたらちょっと打ち合おうか」
「はい!」
武術の訓練時などはソーカの誘惑はない。
当然だ、命を左右する鍛錬にそんなものを持ち込んだら、さすがのユキムラも怒る。
ユキムラ自身はソーカの美しい剣筋に見惚れている。
なんというか華のある動きを魅せる女性だった。
変に突っ走らないで普通に距離感を詰めていけば、ソーカは最も有利な場所にいるのに、残念ながらそれは見えていない。
「それではお願いします」
「よろしくー」
ユキムラはコンソール表示などを切ったシステムの補助のない状態でソーカの正面に立つ。
ソーカはロングソードよりは少し短めの木剣を持っている。
普段使っている武器と似た作りだ、短剣と長剣の間くらいの長さの剣。
ユキムラは基本なんでも使うが、今はスタンダードなロングソードくらいの木剣を構えている。
ゆらゆらと揺れるソーカの剣、攻撃のタイミングが計りづらく何度も苦労させられている。
ユキムラはピタっと止まっている。
相手からするとこの状態のユキムラに攻撃すると気がつくと首元に剣を当てられている。
VOのシステム補助がなくてもユキムラはカウンターを得意としていた。
ゲームの動きを実際の身体で再現するイメージで体を動かすと、やはりいちばんしっくり来るそうだ。
VOシステム補助を受けるとその鋭さは別世界になる。
何度も何度も繰り返した、倒され剣を突きつけられているやり取りがソーカの頭をよぎる。
迷いを捨てるようにソーカが動く、ゆらゆらと揺れていた剣先が突然ユキムラへと襲いかかる、ユキムラは事も無げに払う、ソーカもそれは想定済み、
「な……!」
珍しくユキムラが声を出す、
ソーカが弾かれた剣を再び振り下ろすと思いきや投げつけてきたのだ。
しかも初撃から投げたモーションがほとんどわからず目の前に剣が迫っている。
ユキムラは一瞬の動揺を抑える。
冷静であることが戦いにおいて最も大事、ユキムラは飛来する木剣を冷静に叩き落とす。
ソーカは織り込み済みであったように、同時にもう一本の木剣を懐からユキムラへと投げつける。
2段構えの武器の投擲だ。一投目よりも二投目の方が鋭く弾くことは出来ない。
身を捩り二刀目をなんとか避ける。
僅かな体勢の崩れ、その瞬間木刀を持つ手首を掴まれていた。
二刀を投げられ一瞬の迷いがユキムラの反応を鈍らせてしまった。
「てやーー!!」
小手返し。何度かソーカに身をもって教えたことはあるが、こんなタイミングで、しかもこういう入り方をされ、返す手段がすでに見つからなかった。
視界に広がる空、組み伏せられ首元に短剣を当てられていた。
「……まいった」
「ぃヤッターーーーー!!」
ユキムラの上から素早く立ち上がり、ぴょんぴょんと跳ねながら全身で喜びを表現するソーカ、
「二本とも投げてくるとはなー、斬りつけてくれば対応できたんだけど……」
「普通にやってたら今まで通りですから、なんとかして裏をかけないかなと!」
「まぁ、やられといて言うけど、さっきの方法は俺以外にやらないでよ、もし甲冑とか着てたら投げられた剣は避けないだろうし武器を失うだけになるから」
「……」
ソーカが黙り込んでしまう、少し言い過ぎたかなとユキムラが心配すると、ソーカは耳まで真っ赤だ。
泣かしてしまった! ユキムラは混乱する!
「どうしても……今日は勝ちたくて、勝ったら言おうって思ってたから……」
さっきまでの凛々しい戦士であるソーカはそこにはいなかった、一人の可愛らしい娘のソーカがいた。
ユキムラはあわわあわわしていた。しょうがないね、初めてだもんね。
「ユキムラ様……ユキムラさん。
私……一番初めに貴方に助けてもらった時から、あの、その……ずっと……」
ごくり。ユキムラは自分が飲み込むつばの音がこんなに大きく聞こえた瞬間を初めて体験する。
「その、ユキムラさん!」
「ふぁい!」
まっすぐとユキムラの目を見るソーカ、ユキムラも釣られてソーカの瞳を見つめる、涙をため、強い決意を秘めたその美しい瞳。ごくり。ふたたびからっからの喉が悲鳴を上げる。
「す、す、す、「ワンワンワンワン!!!」
馬車からタロが飛び出してくる、ユキムラの足元でうーうーとプリティに唸っている。
ユキムラはすぐに俯瞰モードを頭のなかで呼び出す、
「しまった。囲まれている!
レン、馬を守れ! ソーカ、防壁は大丈夫だと思うが視界が悪い注意しろ!」
「はい!」
訓練されたソーカはすぐに頭脳を戦闘モードへと切り替える。
こっそり覗いていたレンは馬房周辺により強力な防御結界を張って馬を守る。
俯瞰視点には雪を盛り上げながら接近してくる影が8体。
ズガーン!
結界に当たり地面がビリビリと揺れる。
「スノーボアか、しかも親玉もいるな。雪が邪魔だな、ソーカ上から出て周囲の雪を消す、親玉は俺が受け持つ、あぶれたやつを頼む!」
素早く馬車の上に登り防御結界の上部から周囲に魔道具をばらまく。
すでに武具は装着している。
ソーカもしっかりと戦闘用スタイルへと変身している。
雪の上に落ちた魔道具を中心に炎が激しく燃え盛る、ドカンドカンと結界に体当たりをしていた魔物たちは一旦距離を取る。
みるみる馬車周囲の雪が蒸発していく。
雪の壁がすっかり消えて行くと、白い猪が7頭、特に大きな猪が1頭グフグフと興奮したような呼吸をして立っていた。
雪国の暴れん坊スノーボアとジャイアントスノーボアとのご対面だ。
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