老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

112話 そこには経験値が詰まっている。

「木遁 樹状呪縛陣」

 ユキムラがニンジュツを発動すると地面から木々が凄まじい速度で敵に絡みついていく。

「フレイム・ストーム」

 すぐにレンが炎魔法を起こす、敵たちに絡みついた木々が炎を受けて激しく燃え盛る。
 相乗効果のある組み合わせのあるスキル、魔法だ。

「耐えたのよろしくー」

「わかりました!」「わかったわー」「ワン!」

 ユキムラが敵を拘束して、拘束した端からレンが燃やして残った奴らをソーカ、ヴァリィ、タロが蹴散らしていく。
 やはり弱点属性があるというのは非常に攻略する側からはやりやすい。
 この方法で湯水のように湧いてくる敵もそれ以上のスピードで殲滅していく。

「し、師匠! そのニンジュツはあの本に載っていなかったのですがなんというか、かっこいいじゃないですか! ずるいですよ! ソーカねーちゃんには教えてるんですよね!?」

「似たようなのあるじゃん、プラントトラップとかリーフストームとか、ああいう火魔法と連携できるのならなんでもいいんだよ?」

「いや、なんというか。心が踊るんですが!?」

 レンは目をキラキラとさせている。

「わかったよ次のに載せとくよ、あんまり選択肢増やしすぎると扱いきれなくなるぞー」

「やった! そこは頑張ります!」

 男の子のサガである。

「この奥から大量に出てきている感じね~」

 ヴァリィが指差す通路から次から次へとモンスターがそれこそ雪崩のように襲い掛かってくる。

「そろそろ近いかもね、みんな体力魔力は問題ない? 問題ないならこのまま突っ込むよ」

「平気です師匠!」「大丈夫です!」「おっけー」「わーおん!」

 ユキムラは頷くと敵を蹴散らしながら、廊下の先の空間に飛び込む。
 今までの部屋よりもふたまわりほど大きな部屋、そして一面の魔物、魔獣達。
 そして一際大きな魔物が3体。

「あー、ジャイアントロックガーゴイルにロックゴーレム、それに泥田坊か……めんどくさいな」

「あ、師匠の本に載っていたやつですね! 泥田坊は取り巻きで回復魔法を使う泥坊主を大量に呼び出すから、他のボスと同時に出ると非常にやっかいでしかも本人の耐久力が無駄に多いって……」

「ああ、しかも相方の中ボス二体が攻防に分かれていてそこも厄介だ……。
 さすがに魔法全部封じる戦法は愚策だし……レン! 召喚出すよ火系片っ端から!」

「わっかりましたー!」

「その間3人で防衛をよろしく、召喚終えたら一気に殲滅! 順番は泥田坊、ガーゴイル、ゴーレムで雑魚は防衛時に出来る限り減らしてこう!」

 皆からの確認は待たずにユキムラはバフの掛け直しとアイテムを触媒にして石像を召喚する。
 神を象った石像を呼び出し周囲に持続効果をもたらすスキルだ。
 ユキムラが呼び出したのは消費MP軽減、自然MP回復力上昇効果がある。

「サラマンダー召喚! フレイムバード、ゴーレム召喚、からの融合! ファイアーゴーレム! サラマンダー召喚! 炎の魔剣士の召喚! もういっちょサラマンダー召喚、そしてサラマンダー3体を触媒に上位精霊召喚 イフリート!」

 ユキムラもレンもキャストタイムを考慮しながら流れるように現行出せる火系の召喚をこなしていく。
 現れた者たちは敵の中にずんずんと突っ込んで敵を蹴散らしていく。

「火炎旋風棍!! からの~狂乱炎龍乱舞ー!」

 ヴァリィも大技を惜しみなく放っている。炎を纏う棍を高速に回転させて巨大な炎のリングを敵に投げつけ、その多数のリングが絡み合うように巨大な爆発を生んでいる。

「乱れ唐獅子牡丹」

 ソーカが抜刀すると前方にいる敵の上半身と下半身がお別れする。
 それでは終わらずボタンの花が咲く様に巨大な火柱を上げて周囲の敵を巻き込んでいく。

「アオーーーーーーン!!」

 タロが甲高い声で遠吠えするとその影から白きオーラが狼として具現化する。
 それぞれの白きオオカミたちは炎を纏って敵集団へと襲いかかる。
 腹を撃ち抜かれるもの、喉をかみちがられるもの、燃え盛る爪の斬撃に討ち滅ぼされるもの……
 タロと対峙して無事で済む魔物などいない。

「みんな、準備オーケーだ。泥田坊を潰すぞ!」

 今でも泥田坊の周囲に多数浮かぶ泥の塊のような物、泥坊主が召喚獣にやられた魔物に回復魔法を飛ばしてなかなか押し切れていない。回復役は最優先で潰す。戦いの基本だ。

「レン! 道作るよ!」

「ハイ! ダブルキャスト! トリプルキャスト! マジックバースト! 魔力増幅陣! どうぞ!」

「フレイムドライブ!」

 レンがユキムラに次々にバフを掛ける。次の魔法を一回だけ強化するタイプのバフや発生した陣の中にいる他の人間が使う魔法が強化されるスキル。一人では出来ない強化だ。
 強化されるだけされたユキムラの魔法は巨大なレーザーのように泥田坊の周囲を撃ち抜く。
 それだけでその射線状にいた魔物は消し飛び、取り巻きである泥坊主も消え失せる。
 泥田坊は表面からグズグズとマグマのように泥が煮立っているが、まだ体力は十分に残っていそうだ。

「タロ! 悪いんだけど他のに邪魔させないように援護よろしく、それじゃ皆一気に行くよー」

 ユキムラの号令で全員が動き出し泥田坊を狙う。

「マジックソード! ファイアーエンチャント、ソードダンシング!」

 ユキムラの出した魔法剣が炎を纏って文字通り踊るように泥田坊へと降り注ぐ。
 突き刺さった魔法剣は切り裂くだけでなく爆発四散する。

「双刃 鬼神炎斬 つむぎ 鬼神爆炎翔」

 ソーカの双刀から放たれる斬撃に触れた泥田坊の身体から炎が舞い踊り、その炎が身体を締め上げて爆散しながら空中へと打ち上げられる。連続技だ。

「よいっしょー棍術 大噴火!!」

「あ」

 ヴァリィが敵の下に潜り込み激しく大地に棍を叩きつける、大地は激しくひび割れそのひび割れからマグマ化した岩石が敵に襲いかかる、真下に潜り込んで使ったので効率よく泥田坊を打ちつける。

「ヴァリィ、今日の夜追試ねー」

 ユキムラの冷酷な一言がインカムから伝えられる。

「え、ちょっ、なんで~!?」

「ヴァリィさん、その技、火と土属性ですよ……」

 レンの無慈悲なツッコミである。
 あ。って言ったのもレンだった。
 追試というのはユキムラが作った超難易度クイズを全問正解するまで、ユキムラ先生のありがたい戦術論を聞くことができるイベントだ。やったねヴァリィ!

「とどめ! 阿修羅火炎鳳凰落!!」

 ユキムラはいつの間にか巨大なハンマーのような武装へと装備換装して空中に浮いた泥田坊を叩き落とした。浮かび上がる刻印が泥田坊の身体を燃やし尽くす。
 炎の文様が消えた時、泥田坊は美しい泥玉に変わっていた。
 それが泥田坊の死亡した姿だ。

「解体は後にして次へ行こう、回復とか気をつけてね」

 息をつく暇なく召喚獣が相手をしてくれている残り二体との戦闘へと移っていく。


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