老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

147話 ハイランベルグ家

 今日はハイランベルグ家に豊漁祭という祭りの打ち合わせに来ている。
 豊漁祭とは簡単に言えば忘年会で、一年間の海の恵みに感謝をして大騒ぎをする。
 もちろんサナダ商店は多額の出資や協力を申し出ている。
 カレンがタロに逢いたいからという願いをゲールが断れるはずもないという一面もある。
 タロはたまにフラッとお屋敷にいってカレンと戯れているそうだ。
 最近は内政づくしで看板犬としての役目が退屈なようである。


「タローーー!!」

 ひしっとタロに抱きつくカレン、今日はおめかししている。黄色いドレスが良く似合っている。
 タロは毛も抜けないのでドレスを汚すこともない。本当に出来た犬だ。
 カレンはタロにまたがりぴょーんと防壁を飛び越えて草原の方に散歩に行ってしまった。
 最初はハラハラしていたゲールも一度タロが魔物を倒しているのを見て完全に信頼している。
 屋敷のものが植木の世話をしている時に落下をしてしまって骨折したときも魔法で治して、屋敷の人びとからの信頼も厚い。

「よく来てくれたユキムラ殿。今日は天気がいいので外が見える場に席を設けた。
 仕事の話はさっさと終わらせて寛いでくれ!」

 ゲールが快くユキムラ達を迎える。
 わずか3ヶ月でこの街全体の経済活動を倍以上にし、街に古き良き活気を取り戻してくれたユキムラにゲールは心酔していた。
 そしてこの日のユキムラからの提言はさらにそれを加速させる。


「つまり、皆の生産力が上がるだけでなく、なにもないところから資源を産み出せる……と?」

「多少は異なりますが、端的に言えばそうなります」

「しかし、そのようなこと……いや、疑うわけではないのですが……」

「これは秘中の秘なれどゲールには教えます。私は来訪者なのです」

「な、なんと、伝説の……それならば……」

 来訪者、便利な言葉です。

「ただ、私が来訪者だとわかるときっとこの街は……滅ぶでしょう、カレンの命も……」

「話しません!! 決してこのことは!!」

 こんな感じで脚本レンでうまいことスキル伝達を秘匿しつつ労働力を確保していく。

 帝国という国は領主が居て街があり、街に住むものは領主のために尽くす。
 というシステムが長年続いているために基本的に移住は起こりにくい、出稼ぎで一時的に発達した街や鉱山を有するような都市へと行ったりする。
 ボーリングの街も沢山の出稼ぎ労働者がいた。
 しかし、今はボーリングの街はゴールドラッシュ。
 皆労働者達を呼び戻し、ボーリングの街で働くようになる。
 スキルを用いた仕事はいくらでもある。
 ボーリングの街は過去の賑わいを取り戻していく。

 もう一つの問題が領土問題だ。
 辺境と言って良いボーリングの街周囲は幸運にも他の領地がない。
 そこで鉱石を採掘できる山岳部、森林部をまるごと領土とするのも問題はない。
 管理できる範囲で無理がないように拡大させる。
 もちろん帝都への通達は必要なので大量の献金ワイロ、鉱石や武器防具で目立たぬように領土を拡張させた。
 もちろんこの裏ではレンが暗躍している。

 従業員も確保できれば他の街にもゆっくりと店舗展開をしていく。
 ユキムラの事を崇拝し真に信頼のおける人員を少しづつ増やし、店舗を任せる。
 そしてその街でもまた同志を集めていく。
 何も帝国に反旗を翻したいんじゃない、むしろ逆だ。
 各地を豊かにして帝国全体を強固なものにする。
 そういう大義名分のためにサナダ商店はひっそりと、しかし着実に勢力を拡大させていく。

「南の街はケラリス教国との貿易で非常に豊かなのであまり得られるものが少ないと思います。
 領主であるキーリング侯爵も第一皇子との太いパイプがある人物なのでそこは外していきましょう」

 計画立案はレンに任せっきりだ。帝国内の情報収集を目的とする鴉なんて部隊を作って各地の情報をしっかりと把握している。

「ユキムラさん西方の魔物の巣は壊滅させてきました。リーデルの街の領主が今度お会いになりたいそうです」

「ありがとうソーカ、それにソーカ隊の皆もお疲れ様」

「「「「ハイ!」」」」

「ユキムラさんまでソーカ隊って……もうっ……!」

 ソーカ隊とは商店における物資輸送の際の護衛などを受け持つ自警団のようなもので隊長であるソーカを慕うものが多いのでソーカ隊と呼ばれる。
 ヴァリィは本業の商品開発に夢中なのでヴァリィ隊というムキムキの筋肉の部隊はいない。
 いじられて膨れるソーカだったが、この間のこと思い出してニヤニヤしだす。

 ソーカ隊は今でこそ規律の取れた隊になったが、最初はソーカを侮った力自慢が多く、またソーカの女性としての面を求めて近づいてくるものも多かった。
 それを聞いたユキムラは不機嫌になって、入隊テストといって全員をボコボコにした。

「ソーカも、俺に近いぐらいは強いぞ。でかい口叩くなら腕を磨け、それにな……
 そ、ソーカは俺の彼女だから、そういう目で見ると次は真剣でやりあうからねぁ!」

 あの場面を録画していなかったことはソーカ最大の不覚だったが、そのせいで大切な思い出としていつまでも反芻してニヤニヤしている。
 そんな大きなこと言ったくせに、相変わらず手をつなぐだけでドキマギしているユキムラがソーカはたまらなく好きだった。
 それからしばらく二人はソーカの彼氏、ユキムラの彼女とからかわれてゆでダコみたいになるハメになる。中学生か!?

 辺境に居る貴族はだいたい権力争いに疲れた大らかな人達が多いので、ある程度街を潤わせた上で少しづつユキムラは自らの出自を明かして信者とする。
 そんなことを繰り返していたらゲッタルヘルン大陸の東側三分の一程のエリアの領主は皆サナダ商会という結びつきが出来ていた。

 ユキムラ達がこの地へ降りてわずか1年半ほどだ。

 こうして、ハイランベルグ家は帝国における東のゆうにいつの間にか、なってしまっていたのだった。
 本人の知らない間に……


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