老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

162話 絆・再び

 VOの魔法は即時発動で次の発動までのリキャスト時間がある魔法・スキル、発動まで詠唱もしくは準備時間があって発動後すぐにまた詠唱を開始できる魔法・スキル、多数の発動条件があってそれをクリアすると発動するタイプ。大きく分けるとこの3つにわけられる。
 どう見てもほぼ同じ技にJOBを変えて技名を変えた物もたくさんある。
 それでも別技扱いなので上手く利用すればマシンガンを打ち続けるように魔法やスキルを発動し続けられる。
 この世界ではJOBがなくなっていたので過去のVOでマスターした全てのスキルを使えるユキムラはそれこそMPが続く限りスキルを放ち続けられる。
 数え切れないスキル・魔法の特性や派生、詠唱時間、再詠唱時間、それらを頭に叩き込んでいるユキムラの攻撃は波のように降り注ぐ。

 すでに扉の前からドラゴンは移動させられレンたちも部屋に入れているが、ユキムラの全開ソロ戦闘に目を奪われていた。ユキムラも「ちょっと任せてー」、と軽い調子で待機させている。

 飛び交う魔法が詠唱時間、即時発動を組み合わせて途切れること無くドラゴンの装甲を次から次へと破壊していく、周囲を移動しながらいつの間にか巨大魔法陣が展開されて大規模魔法が完成している。
 ブレスは動き続けることで回避し、尾による攻撃はきちんとカウンターを合わせる。
 発動位置を変えることで着弾タイミングを変えたり、強力な攻撃で移動させた先に設置型魔法が展開されていたり、やられている方が気の毒になるほど容赦の欠片も存在しない。

「師匠は……僕達が足かせになっているんじゃ……」

 思わずレンがこぼしてしまう。それほどの圧倒的蹂躙に見える。

「なに言ってんだよレン、見た目の派手さにごまかされないでしっかりとみなよ。
 安全第一でやってるからこうなってるんであって、皆がいたらもうとっくに倒せてるよ」

 レンがユキムラから言われた事を念頭に戦闘を観察すると、結局ダメージソースは大規模魔法に頼ることになっていることに気がつく。その大規模魔法発動までの時間稼ぎに不断な攻撃を続ける必要がある。

「直接攻撃系の大技で攻めてもいいけど、隙はでかいし、こんなに巨体相手だと相手の攻撃を防げないからこんなチマチマした方法を取ってるだけだよ。見た目は派手だけど、外装剥がす程度で本体はさほど傷ついてないよ。昔はこうやって延々と時間をかけてボスを狩ったものだけど。
 今は皆が居るから、そのほうが楽だなーって今つくづく思ってるよ……」

「師匠……」

「と、言うわけで1人でやるなんて言いましたが。7秒後に大魔法が発動するので皆さんご協力をお願いします!」

 ユキムラに必要とされていることを再確認した白狼隊のメンバーはパーティのちからを合わせてドラゴンを撃破する。

「さて、レン。頑張って解体してね。今日の夜は焼肉するから期待してるよ」

「レン、頼んだわよ」

「レン、何も言わないけどドラゴン肉だからね、何も言わないけどジュル」

 大層なプレッシャーを与えられて解体作業へと挑むレン。
 その手が震えている。
 そっとユキムラが震える手に手を添えてくる。

「冗談だよ、いつもどおりやればレンなら大丈夫だ」

「師匠……そしたらヨダレ垂らしてるソーカねーちゃんをどっかに連れてってください。気が散ります」

 にくーにくーと叫ぶソーカを引きずってユキムラが奥の通路へ消えた後、ばっちりとレンはドラゴン肉を切り出すことに成功する。
 もちろんそれ以外の素材も超貴重品が目白押しだ。
  タロがまた龍玉を欲しがったので上げると謎の光を吸収していた。すごいなータロは。

「おつかれー、ドラゴン素材も揃ってきたから竜化装備も作れそうだねー」

「竜化? ドラゴンになれるんですか?」

「龍のもつエネルギーを利用して短時間身体能力をあげる。名付けて竜化。
 HPもMPもステータスも一時的に増大する代わりに使用には時間経過が必要。
 まぁ、ボス戦とかで切り札的に使うんだよ」

「なんですかそのとんでもない技は……」

「またユキムラちゃんが聞いたこともないことを言い出したわ……」

「ドラゴン自体が伝説級の魔物だからねぇ、かなり素材使うから、多分今回のを集めても一人分ぐらいしか作れないからねぇ……」

「ワン! ワンワン!!」

「お、タロに作ろうか! タロが竜化したらかっこよさそうだもんなー」

「ああ、でも師匠それが良いかもですよ。僕達の命数はタロにかかっているって言ってもおかしくないんですから!」

「ああ、たしかにね。そしたらヴァリィ、今夜デザインよろしくー材料は作っとくから」

「は~~い」

「ユキムラさん、夜ご飯は……」

「そうだね、今日はこの階探索したら少し早いけどゆっくりしようか」

 ドラゴン肉の焼肉という餌に釣られた全員、ユキムラさえも探索スピードが上がる。

「ユキムラさん、次行きましょう、次!」

「ソーカちゃん目が血走ってるわねぇ~」

「ソーカねーちゃん食べ物のことになると怖いからね……」

「あの勢いがほんの少しでも恋愛に向けばもっと発展しそうなのにねぇ~」

「それが出来ないからソーカねーちゃんなんだよ」

「たしかにねぇ~~」

 それでもさり気なくユキムラの手を引いていたりはするぐらいには進んでいるソーカなのであった。






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