老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

178話 出発

 ペアリングをつけて、ラブラブが溢れ出るユキムラとソーカだが、サナダ商会としての仕事や採取、鍛錬に関しては、手を抜くこと無くしっかりとこなしていく。
 それでも周囲にはどうしようもなく溢れ出る幸せオーラに満ち満ちている。

「はぁ……、若いっていいわねぇ~ヴァリィも燃えるような恋がしたいわぁ~」

「僕はまだ未成年ですからそういうのはよくわかりません」

「レンちゃんもいいもの持ってるんだから将来モテモテで大変ねぇ~」

「からかわないでくださいよ。それに僕は師匠のお側に仕えるんですから……」

「まったく、そういうとこは師匠に似なくていいのよ。
 ま、レンちゃんは上手くやっていきそうな気がするわ」

 商品の作成をしながら二人はそんな世間話に花を咲かせる。
 ユキムラとソーカとタロは今日は外回りの素材集めだ。
 商店の店員も増やして一部採取や素材加工、製品作成にも携わってきている。
 ユキムラ、ソーカ、タロそれぞれが採取の人員を引き連れて引率のように各地に採取のツアーに出ている。
 ベイストの街でもスキル発現は進んでいて生活様式も大きく変化していた。
 GUも暇にかまけて結局10体を配備している。
 2体の医療用GUや街内を歩いているGUは簡単な命令なら聞いてくれれるので重いもの持ち上げたりと町の人に可愛がられている。
 ゴツゴツとしたデザインから丸みを帯びたデザインに変更したのが功を奏したようだ。
 ヴァリィのデザイン面での助言は的確でユキムラ達は非常に助かっている。

「レンさんヴァリィさん、領主の使いの者から、こちらの手紙を渡されました」

 作業場に店員をしている従業員がやってくる。
 レンはその手紙を受け取ると内容を確認する。

「どうやら、のんびりしてられるのもおしまいみたいですね」

 その手紙にはセンテナ、シズイルの街から了承したと言う返事が来たという知らせだった。
 旅の始まりを告げる知らせだ。
 レンはすぐにユキムラたちへと連絡を取り、各町へと出立する準備をする。
 すでにこの国へ来て半年が経過している。
 あと2年半後の惨劇に抗うために、ユキムラ達は各地をめぐる。
 すでに対策はほぼできているので随分と緊張感が無いのは否めないが……

「とりあえずベイスト店での商品作成は問題ないです。数名はシズイル店、センテナ店へ準備ができたら指導にあたって欲しいと考えています」

「指導に当たれるスタッフも増えているからー、あとは自然と広がっていくと思うわー」

「GUも全て問題ありません。あとユキムラさん、パトスさんが今晩全員で食事でもいかがかと打診がありました」

「喜んで伺わせてもらうって伝えておいて。それじゃぁ出発は明日。早朝に出て昼過ぎにはシズイルにつくようにしよう」

 ユキムラの指示で全員が動き出す。
 旅の準備もバッチリだ。
 今回は水陸両用の車を用意している。陸上走行は120キロくらいまで達成している。
 水上では流石に30キロくらいだ。
 海底洞窟を利用した通路を使うので水上運用は念のためである。
 宿泊設備を省いてコンパクトにしている。
 本来半日でベイストとシズイルを行き来できるはずはない。馬で4日ほどだ。
 その理由が海底洞窟内を慎重に移動しなければならないからだ。
 魔物を跳ね飛ばして車で移動すれば数時間で移動できてしまう。

 今後の予定はこうだ。
 シズイルの街にGUを配備。サナダ商店二号店展開。
 領主同士のホットラインを設置。情報の共有を行っていく。
 スキル開発をある程度行って指導者レベルが出たらセンテナの街へ移動。
 基本的にはシズイルと同じ。
 海底洞窟MD攻略。
 その頃には連絡が来ているであろうウラスタの街へ移動し同様に行う。
 最後がフィリポネア首都。
 海底洞窟MDの宝の提出などをフィリポネア共和国ギルド本部で行う。
 こんな流れになるはずだ。
 順調に行けば一年ほどで終わると予想している。

  この街で過ごす最後の夜は領主の館で盛大に送られることになった。
  小さな食事会だと思っていたら街をあげての送別会だったのがサプライズだった。
  海岸から打ち上げられる花火、たくさんの料理と屋台、音楽や踊り。
  街全体をあげてサナダ商会に対する感謝の気持ちが溢れている素敵な会だった。

「パトスさん、びっくりしましたよ。でも、本当に嬉しかったです。ありがとうございます」

「礼を言うのはこちらの方だ。君たちのお陰でこの街は本当に暮らしやすくなった。
 今までも楽しく暮らしていたが、これからはもっと笑顔で過ごすことができる街になった。
 領主としてこんなに嬉しいことはない。本当にありがとう。
 これからも他の街でも幸せを分けてあげて欲しい。頑張ってくれ」

 ユキムラは握った手からパトスの熱い情熱をもらったような気がした。

「素敵な人ですねパトスさん」

「そうだね、住民をそして街を愛している。領主さんは素敵な人が多いね」

「師匠も立派な領主だったじゃないですか」

「うーん、俺はやりたいことやってただけだからなぁ……皆が頑張ってくれてたんだよ!」

「そういう形の領主も有りだと思うわよー。要は住んでいる人間が幸せであればいいのよ」

 サナダ白狼隊のメンバーのベイストの街での最後の夜はとても温かく優しい一夜になった。




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