老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

182話 それぞれ

「まぁ、言うまでもないけど。やることは同じだ。
 まずは周囲のマッピング、海底洞窟も含めてソーカとタロお願い。
 俺は周りの店から材料を買ってそのまま作成作業に入る。
 レンはヴァリィとGUの配備と各種製品説明、時間が余ったら人材発掘よろしくね~」

 新しい街でやることはある程度パターン化されてきている。
 タロもタブレットのようなマッピング装置を器用に使う。
 今更だがタロは各種採取も採掘も釣りもなんでもこなす。
 文字入力だってお茶の子さいさいだ。

 あと3日もするとベイストの街からサナダ商会の人間が来る。
 それまでにもできることをしっかりと行っていく。
 一応この街での商売の開始は7日後を予定している。
 それまでに周囲で調達できるものを把握して、供給できる商品を考えていかないといけない。
 ここは貿易港を持つ交易都市なのでもととなる材料は豊富に確保できると考えていた。
 そして周囲の商店を調査して想像通りだとわかりユキムラはとりあえずホッとする。

「これなら、基本的に何でも作れるな。ん? ところでこの頃すでにサナダ街で商品作ってたよなぁ……」

 ユキムラはプラネテル王国からの輸入品を中心に扱うお店を何軒か見て回った。
 結果としてはサナダ街製の商品は一つも見当たらなかった。
 そして驚くことに店員や船員に聞いてもプラネテル王国にサナダ街なんて街は無いと言う返事だった。
 そしてファス村は知っている人間に数名出会えた。

「これは、この空間は独立してるってことなのかな。まぁ終わればなんとか上手いことやってくれるんだろう」

 ユキムラは楽観的だ。もちろん、このことで苦労するのはアルテスなのだが、そんなことユキムラの知ったことではないのだ。

 大口の買い物をして名前も売ってきたユキムラは工房で作成を始める。
 まずは工房での作業道具を一揃え作っていく。
 作業道具は持っている高級な鉱石などを利用してハイスペックな物を作っていく。
 ヘパイトスの鍛冶場も設置する。
 これだけでこの空間が異質なハイクオリティな空間になる。
 もちろん壁紙を特製の魔道具にしたのもあふれ出る力をこの建物内にとどめておくためだ。
 防犯の意味合いも大きい。
 あっという間に各種作業場を完成させる。
 一番の売れ筋である一般魔道具、生活用品を手慣れた手つきで大量生産していく。
 素材があれば一気に作成できる。まさにスキルさまさまである。
 ユキムラは作業に没頭する。
 その顔は単純作業を繰り返しているとは思えないほど生き生きとしている。
 ユキムラにとってこういう時間は、幸せなのだ。



 ソーカはホバードードを走らせている。タロはふた手に分かれて自らの脚で風になっている。
 周囲のマッピングも順調に進んでいく。ギルドで依頼の確認もしてある。
 冒険者としての実績もしっかりと各地で稼いでいく。
 採掘、採取、狩猟、釣り、様々なポイントを探し、そこから取れるもの、発生するモンスターなどなど事細かに記入していく。

「うわー、タロ早いなぁー。負けないぞー!」

 お互いのデータは常に同期しているので相手のスピードもわかる。

「お、でかいのいるな。あっ依頼にあったジャイアントグリズリーね。っちゃお」

 俯瞰視点で依頼のある魔物は狩っていく。
 フィールドに居る魔物はすでに白狼隊の敵には成りえない。

「さーて、剥ぎ取り剥ぎ取りっと♪」

 一刀のもとに切り伏せ剥ぎ取りを鼻歌交じりで行う系女子ソーカ。
 これぐらいじゃないとユキムラの嫁は務められない。
 一通り剥ぎ取りを終えたら探索の続きだ。
 こうして恐ろしい速度で周囲のMAPが完成していく。
 海底洞窟も同じようにサクサクとマッピングが進められていくのである。



 レンとヴァリィはGUの実働を近くの草原で領主や衛兵隊長、ギルド長などの前で実践している。

「ほら、もう、大人しくして。よいしょっとぉ!!」

【ギャオ!! ガオ!!】

 ヴァリィが敵を担いで戻ってきた。
 事前に森でジャイアントグリズリーにマーキングをつけといた奴を確保してきたのだ。

「じゃ、ジャイアントグリズリー!?」

 ヴァリィに罪はないのだが、このジャイアントグリズリーは幼体だった。
 幼体でありながら成体と間違えるほどの巨躯だったのだ。
 理由はすぐに分かる……

 ドドドドドドドドドドドドド……

「な、ナンだこの音は??」

「ん? あら、なんか別のを釣ってきちゃったみたいね~」

 今目の前のジャイアントグリズリーを捉えてきた森から、巨大な灰色の塊が走ってくる。

「ば、馬鹿な!!? 森の悪魔グレードシルバーベア!?」

「ヴァリィさんどうやらエリアボスっぽいですね」

「丁度いいじゃない、GUの性能を見せるには」

「あ、あんたたちなんてことをしてくれたんだ!?
 こ、こんな街に近いところにあんな!!」

 ギルドマスターや兵士長は半ば狂乱状態で叫んでいる。

「これ、大丈夫なのよねその落ち着き方だと?」

 ハルッセンは落ち着いてレンとヴァリィに問いかける。
 しかし、レンは見逃さない。指先は恐怖で震えている。

「それではこのリングを付けて『脅威を排除せよ』と命令してください」

 ハルッセンはレンの持つ台座から指輪を外し、言われるがままにリングを付ける。
 ジャイアントグリズリーとグレートシルバーベアはヴァリィが一人で相手をしていた。
 まるで遊ぶかのように棍でその攻撃をいなし続けている。
 ギルドマスターも兵士長も開いた口が塞がらない。
 絶対に触れてはいけない森の悪魔、小さい頃からそう教え込まれた魔物を一人の男がとんでもない技術で完全に押さえ込んでいるのだ。

 ハルッセンは震える手を隠しながらリングをつけて目の前にGUに命令する。

「脅威を排除せよ」

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