老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

185話 森からの刺客

「うー……飲み過ぎたわー……」

「ヴァリィ……なんか体からお酒のエキスがにじみ出てきそう……」

 ヴァリィは朝には食堂のテーブルの上に突っ伏していた。
 食堂全体がお酒で満たされているような匂いを発していたのですぐに窓を開けて換気をする。
 外の風が気持ちいのでそのまま窓を開けて朝食とする。

「あー、レモンがさっぱりとしてキンキンに冷えた炭酸がおいしいぃぃぃ……」

「珍しいねヴァリィがそこまでお酒残るの」

「いやー、あの娘強くてついね……」

「はい、ヴァリィさん解毒ポーションですよ。『解毒アンチドーテ』っと」

「ありがとーすっごい楽になったわぁ~」

 キッチンからソーカが朝食を持ってくる。

「はい、皆さんはトーストとハムエッグ、ヴァリィさんは卵雑炊梅風味ですよー」

「きゃーソーカちゃん優しいーいい奥さんになるわよー、ねユキムラちゃん」

「うん、楽しみにしてる」

「ちょっ……あらあら、なんか立派になっちゃってまぁ……」

 おちょくるつもりが直球の返しを食らってカウンターになってしまった。
 ソーカは赤い顔で照れ照れでモジモジしている。

 ありふれた日常を終えてユキムラ達は採取やらスキル指導やら商会準備やらに明け暮れる。
 商店が開くとあっという間に人気商店となる。
 王国への輸出も盛んに行われているらしい。
 本来ならサナダ街があって向こうから輸入されるはずなんだが、時空転移の誤差が起きているのだろう。
 サナダ商店2号店を任せられるほど人材を育成できれば白狼隊は次の街、ダンジョン都市センテナへと移動する予定だった。

 順調に行けば……

 ガーンガーンガーン

 そんな日々を過ごしていた昼下がり、緊急事態を伝える街の鐘が鳴り響く。

「白狼隊の皆様南東の門までお越しいただきたい!! グレートシルバーベアが、ベアが攻めてきました!!」

 サナダ商店に飛び込んできた伝令から事態を告げられる。
 店番をしていた店員はすぐに白狼隊へと連絡を入れる。
 メンバーはそれぞれ活動していたがすぐに街へと戻る。
 そこで見たのはGUと渡り合っているグレートシルバーベアの、群れだ。
 エリアボスと思われたベアが4頭。しかも驚くべきことにGUと互角に戦っている。

「へー、GUと渡り合えるモンスターなんているんだ……」

「凄いですね」

 あくまでものんきな白狼隊。しかしタロは別の事実に気がついていた。

「バウ!! ワウワウ!!」

「どうしたのタロ? 森がおかしい?」

 街の南東に位置する森の主のいた森に暗雲が立ち込めている。

「タロの不機嫌さ……こいつらアンデッドなんじゃ?」

「きな臭いね。こいつらを片付けてすぐに調査へ行こう!」

 ユキムラの指示で白狼隊が戦闘に参加する。
 見た目では分からないが、ベアの瞳は狂気の炎が宿っていてまともではない……
 アンデッドではないが闇の者が絡んでいそうだ。
 GUが抑えている戦闘を観察する。

「ちょっと変な感じがするし、GUが圧倒できない程度には強いから気をつけよう」

「師匠GUを戦闘モードにしたらどうですか?」

「ああ、そっか今制限モードか。試してみるか『GU戦闘モード許可』」

 ユキムラがマスター権限で制限モードを解除する。 
 各GUが武装を取り出す。
 2体はスタンダードな剣と盾、2体が両手剣、2体は槍、2体が弓、そして後の2体が回復役だ。
 ベア達を一箇所にまとめるとバランス良く隊列を作る。

「ちょっと様子見てみようか……」

 ユキムラもGUがどのようにPT戦をするか興味がある。
 ベア達は不機嫌そうにガリガリと地面を前足で掻いている。

【グフ……ゴアアアァアッァァァァァ!!!!】

 一気にGU達に突っ込んでくる。
 弓兵がベア達に正確無比な一撃を放つ、見事に攻撃は当たってはいるが突進の勢いは削れない。
 足を狙ったり頭を使った攻撃を行っているが狂ったベア達の勢いは止まらない。
 前衛にでた盾兵ががっしりと突進を受け止める。
 ズズズと踏ん張る足がずれるが見事に突進を受け止めきった。

「おお、あれは俺には無理だなぁ……」

「大盾ならできるかもしれないわねぇ……」

 白狼隊も感心してしまう。

 動きが止まったベアたちに槍兵の猛攻が降り注ぐ。
 同時に両手剣、突進攻撃を止めた兵士も剣撃を浴びせる。
 3方向からのコンビネーション攻撃、息もぴったりだ。

「10人編成って安定感が凄いわね」

「確かに、役割分担がはっきり分かれていて、勉強になりました」

 ヴァリィとソーカは興味深そうに戦闘を分析している。

「なんかプログラムがキチンと働いて敵を倒してくれると、自分で倒すよりも感動するなぁ」

「あ、師匠それ、凄いわかります!」

 開発狂の二人しか理解されない嬉しさがあるようだ。
 4体のベアはそのままGUの猛攻に晒され、為す術無く魔石へと変化していく。

「おお、全く危なげないね。今の敵は【穢れ】憑き並だったよね。これで安心要素が増えたね」

 ユキムラも今回の結果に大満足だ。

「さて、それじゃあ原因を探りに行かないとね」

 怪しい雰囲気の森へと白狼隊は突入していく。
 ホバーボードで森へ近づいていくと森の様子は明らかにおかしくなっていた。

「この間はこんな気配なかったわよー……」

 ヴァリィも首を傾げている。

「ん? あそこがおかしいな……」

 俯瞰MAPで異常点を見つける。もやもやとした空間。まるでMDの入り口のようだ。

「師匠、これって……」

「罠かもしれないけど、行くしかないよね。たぶんあいつらはここからでてきたんだと思うし……」

 それから全員で歪みへと突入する。
 皆の予想通り内部へと侵入すると外界から隔絶されたような気配がする。

「外部との連絡は取れません、MDなんだと思います」

 レンも色々と試したが外界とのつながりは途切れているようだった。
 タロの機嫌も悪い、死臭はしないがまとわりつくようないやーな雰囲気が居心地が悪い。

「森系のMD何だと思う。空もあるけど、実際は擬似空間になってそうだ。
 ダンジョンと言っても平面MAPで広いことが多いから気合を入れていこう」

 ユキムラもここにMDがあるなんて知らなかった。この世界のオリジナルMDだと思われた。
 思いもかけずMD攻略に巻き込まれる一同であった……。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品