老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

284話 瘴気の間

 大聖堂内にある執行部会議室。
 上質な椅子と堅牢な机が存在感を訴えている。
 大司教が議論が白熱すると机をバンバンと叩くために非常に頑丈な作りにしているというのは後でこっそりと教えてもらったユキムラであった。

「なるほど、そんな事が……判りました。すぐに衛兵で遠征部隊を組んで殲滅に当たります!」

 デリカが立ち上がる。

「あ、デリカさん。もうすでにうちのメンバーが原因は抑えてますので、俺も行ってちゃっちゃと終わらせるつもりなんで……」

「そ、それでしたら私も絶対に着いていきます! 何と言われようと着いていきます!」

「ずるい!! ずるいぞデリカ! お主は隊長であろう!?
 ユキムラ殿の戦いを見に行くのが目的だろう!! ずるいぞ!
 よし! ワシも絶対に着いていきますぞ! 絶対です!!」

「なら、一緒に行きましょう!」

「おお!!」

「「いいですなユキムラ殿!?」」

「ははははは……」

 完全にユキムラは蚊帳の外である。

「師匠、もう連れて行くしか無いですよ。こういう人たちに説得はするだけ無駄です。
 今回はいつものダンジョンでもないですから危険も少ないでしょうから……」

 小声でレンが助言してくれる。
 しかし、助言されるまでもなくユキムラは二人の様子を見てすでに諦めていた。
 武具を用意する暇はないから、身を守るエンチャントをした腕輪でも与えておけばフィールドモンスターレベルなら問題にならないだろう、そんなことを考えていた。

「それでは、ささっと行って終わらせてきましょう。
 レン、後のことは頼んだよ」

「はい、おまかせください師匠!」

 レンはユキムラに頼られると本当にうれしそうにする。
 レンにとっていつまでもユキムラは尊敬すべき師匠なのだ。
 ユキムラもレンがいるから安心してすべてを任せて戦場へと向かえる。
 ダッゾ達とコウとナオはレンと一緒に街へと残る。
 ユキムラ達はすぐに準備をして森へと向かうことになる。

「さぁユキムラ殿! 早く早く!!」

 誰よりも早く準備が終わったのはキーミッツだ。
 荘厳なローブに手をかけるとバッと剥ぎ取る。
 そこには武闘着に身を包んだ筋骨隆々なおじーちゃんの姿が!

「いつでも準備できてますぞ!」

「あ、はぁ……えーっとそれでしたらこちらをつけてください」

 ユキムラはアイテムボックスから適当なエンチャント付きの腕輪をキーミッツに手渡す。
 キーミッツの装備は道着にトンファー、それぞれがかなりの業物である。
 それでもユキムラから渡された腕輪はそれらを遥かに凌駕するアイテムだ。

「うおおおお、凄まじい力が身体をめぐりますぞ!」

「お待たせいたしましたユキムラ殿!」

「あ、デリカさんもこれつけてください」

 デリカは聖騎士の鎧に両手持ちの長刀使い。同じくかなりハイレベルな代物だ。
 この国のTOPに近い聖騎士の装備でも、今まで各国で特別なダンジョンをくぐり抜けてきたユキムラ達の装備の足元にも及ばない。
 サブ装備の腕輪一つでも別次元の強化を受けることになる。
 具体的には、武具破壊不可、装備自動修復、攻撃力300%UP、防御力300%UP、魔法攻撃力200%UP、魔法防御力200%UP、状態異常耐性100%UP、闇耐性50%UP、不死特攻50%、自然体力回復力200%UP、自然魔力回復力200%UP、緊急時防壁展開。こんな感じだ。
 説明すると大騒ぎされるのは目に見えているのでユキムラはあえて説明していない。

「ユキムラ殿! 馬を準備させましたので……」

「あ、えーっと。足はこっちで用意するのでついてきてください」

 ユキムラは大聖堂前の中央通りに出ると自動車を取り出す。
 周囲の人々はすでにはけていたが、それでも大聖堂前には常に一定の人はいる。
 突然現れた巨大な鉄の馬車に驚く人々。
 さらに馬が引かずとも走る馬車にただただ驚くしか無い。
 乗っている人間もそうだ。

 衛兵や司祭達は自分たちも着いていくと譲らなかったが、ユキムラの鶴の一声で皆しぶしぶデリカとキーミッツ二人だけの同行を了承する。
 もう、ユキムラとしては面倒が減るからこれでいいや、と諦め気味だ。
 今のユキムラが、それで行きます。と言えば逆らえる人物はこの国にはいないのだ。

「こ、これは神の馬車かなにかですか?」

「魔道具の一種ですよ。もちろんいろんな工夫はしてありますけど」

「これが……魔道具……」

「簡単に言えば馬車でいう車輪の部分を地面の凹凸などに対する対策である種の鉱物を加工した弾力性と耐久性の有る物で覆いまして、それを受ける軸部分にそれぞれの車輪を回転させる力を加える魔道具を装着します。それぞれの車輪に対する力や回転速度を……」

 GUに運転を任せて、現地につくまでユキムラの講義は延々と続くことになる。

「あ、見えてきましたね」

 街道から森へ入って枯れ木地帯までの道は後の事を考えてヴァリィ達が整備してくれていたので直近まで車で侵入できるようになっていた。
 ヴァリィ達はすでに原因の囲い込みと隔離を済ませていたので、コテージを展開してゆったりと休憩していた。
 突然森のなかに現れる建造物に静かに二人は感嘆する。

「通信で伝えていた、大司教のキーミッツさんと聖騎士のデリカさんです」

「あら、素敵なおじ様たちね。はじめまして。白狼隊ヴァリィと申します」

 いいウインクだ。

「同じく白狼隊ソーカです。こちらがタロです」

「これは可愛らしい」

 タロの嬉しそうに振られる尻尾に、思わず二人共ほっこり笑顔である。
 
「一番強いのはタロなんですよ」

 ユキムラの一言で笑顔が多少ひきつった。

「ここが、原因かぁ……」

 地面の一画が大きく裂けて、独特の臭気と陰湿な空気が溢れている。

「こんな街の側にこんなに濃い瘴気が……」

 キーミッツも顔をしかめる。

「それじゃ、行きましょうか」

 軽いノリでずんずんとユキムラがひび割れた裂け目に入っていく。
 当たり前のように他のメンバーもついていく。
 同行者の二人はしばし呆けてしまったが、急いで後に続く。
 洞窟状になっている未知のダンジョンに、まるで散歩するみたいに侵入するユキムラ達にまたしても常識を覆されてしまう。

 驚きの連鎖は、今後も続いていく。


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