老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

290話 レン、奔走する

 レンの毎日は内政モードになると非常に忙しくなる。
 人材の雇用から育成、運用。
 頼りになる人材を育てるまでは一手に全てをこなす必要がある。

 レンはコウとナオの教育係として、上流家庭の家庭教師などを長くやっていたバルドーという男性を最初に雇用した。
 レン達もなんども王様などと会見経験もあり、嫌がるユキムラにもある程度の礼儀作法は学んでもらったが、本格的な使用人レベルのことは教育するノウハウに欠けていた。
 レンやソーカも少し踏み込んだ教育を見てみたいという事もあって早くからプロの協力を仰いだ。
 腕利きの家庭教師を終身雇用的に雇う投資はかなり凄い金額だが、お金には変えられない価値がある。

 サナダ商会の店員は募集を遥かに凌駕する応募が来た。
 選考にはレン、ソーカ、ヴァリィ、タロが尽力をしたが、途中からタロが選んだ人物は皆優秀で幹部候補生になりえる実力を兼ね備えていることがわかると、タロを一次審査、二次審査を落選した人の中から店舗での単純な作業に従事してもらう人を拾い上げる。という形でスピードが上がった。
 人事選考はいつの時代も非常に頭を悩ませる問題なので、タロの存在は非常にありがたかった。

「やっとお昼の時間が取れました……」

「おつかれ~、今、温め直すから待っててねー」

「すみません師匠、そんなことやらせてしまって」

「いやいや、レンは俺の何倍も働いているから感謝してるよほんとに」

「師匠もヴァリィさんやソーカネーチャン達と衛兵の方々や司祭の方々との訓練にお忙しいじゃないですか」

「デスクワークのほうが大変だろ、しかもこっちは時間的に短いし。
 昨日も机で寝てたろ? ちゃんとベッドで寝てくれよ。
 キーミッツさんに事務仕事得意な人に手伝いに来てもらえるよう話しておいたから」

「あ、昨日ベッドに運んでくれたの師匠だったんですか……
 すみませんご迷惑かけて、本当にありがとうございます!」

「こちらこそ、ありがとう。レンがいてくれて助かったよ」

 美味しそうな香りと暖かな湯気を立てる食事がレンの前に置かれる。
 今日はポークカレーと野菜スープ、それにフルーツの盛り合わせだ。
 カレーは白狼隊のメンバーも全員大好きだ。
 ユキムラは結構辛めでチキンカレー好き。
 ソーカはフルーティなポークカレーが好き。
 ヴァリィは激辛ビーフカレー好き。
 レンは辛さは控えめのポークカレー好き。
 タロはココナッツミルクを使ったカレーが好きだ。
 カレーなんかは大量に作って小分けに保存してあるので基本的にそれを食べることが多かったりする。
 スキルを使えば長い時間煮込む必要もない。
 やはり煮込み料理にスキルは便利だ。
 料理スキルが高い人間が作れば、かなりの上質のカレーまで作ることが可能なのも白狼隊の食事がとても美味しい理由の一つだ。
 超一流の料理人が作った料理には及ばないが、それでも十二分に皆が満足できている。

「ユキムラさーん、レン見ませんでしたー?」

「ソーカ、しーー……」

 レンは食後溜まっていた疲れと満腹感からか、ユキムラと現状の説明中にウトウトし始めてしまった。そのまま落ちるように寝てしまったのでユキムラの膝の上で寝息を立てている。

「疲れてるんだよ、そっとしてあげよう。どうしたの?」

 ソーカは少し羨ましそうにレンを見つめてたが慌てて小声で用件をユキムラに伝える。

「あ、教会から事務方の人間が来てくれたので、どの仕事にあたってもらうかの確認を……」

「ふぁーい、そしたら事務所に通してもらえますかぁー……」

「あれ、レン起きちゃった? ごめんね」

「いえいえ、すみません。すっかり充電できましたから頑張ってきます!」

 にっこにこの笑顔で答えるレン。
 ソーカを見てニヤリと笑うことも忘れない。

「起きてたなーあいつめー……」

 ソーカの恨み節はユキムラには聴こえない。
 扉の影でずっと覗いてインスピレーションを高めたヴァリィ先生の次回作は、さらなる意欲作になりそうだ。

 レンはすぐに職務へ戻ると、的確な指示で事務方の仕事をテキパキとこなしていく。
 教会から派遣された人員が優秀なこともあって、サナダ商会の人員の教育も進み、少しづつサナダ商会第一店舗経営や、今後の商会経営の中核をなす人物が育っていく。

 スキル訓練などもユキムラ達の協力の下どんどん開発が進んでいく。
 製造班、素材回収班、販売員、そして組織運用の裏方と、普通の職場では考えられない速度で人材育成が進められる。人材育成という言葉が正しいのかわからない。
 すでに、改造手術と言ってもいいかもしれない。
 最初からユキムラに対する忠誠心はすでに信仰の対象レベルまで高いために、皆の成長も非常にすばらしいものだった。

 ようやくレンがいなくても商会の運営が可能になってくるころ、ユキムラは聖都ケラリスからの招待を受けることになる。

 この国のTOPである教皇直々のお誘いの手紙が、大司教自らユキムラの元へともたらされた。

  

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