老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

312話 決着!!

「おおっと、周囲に植物によって造られた壁が出現!! 
 それぞれの壁から蔦が四方八方、ナオ選手に襲いかかる!」

「プラントバインド、あの蔦は力で千切れるものではないですから、拘束されると厄介ですよ!」

「ナオ選手、その両手に炎の力を宿して手刀で切り刻んでいくぅ!!」

「これはコウ選手の日頃の戦い方から、インスピレーションを得たのかもしれませんね」

「おおっと? コウ選手が姿を現し大規模魔法の詠唱を始めたぞぉ、これは流石に……」

「罠、何でしょうが、これを放置するわけにもいきませんからねぇ」

「ナオ選手一瞬躊躇しましたが、全身を闘気で纏って一気に接近を図るー!?
 っと、その闘気ごと拳を大地に撃ちつけたぁ! これは上手い!
 爆風と大量の土砂がコウ選手に襲いかかる! 
 たまらず詠唱を中止してまた距離を取る!」

「そうは行かないとばかりにナオ選手、張り付きますよ!」

「ラッシュ! ラッシュ!! ラーーーッシュ!! 凄まじい連撃がコウ選手を襲う!
 一気にここでナオ選手が試合の主導権を握ったぞー!」

「完全なタイマンでの体術の技量はナオ選手が圧倒してますからね……しかし、これは……」

「躱す! いなす! まるで柳のごとくだぁ! 
 当たらない! 当たらないぞぉー!!」

「完全に攻撃を捨てて防御に徹してますね。そしてこれは……」

「ユキムラさん、これ?」

「そうですねソーカさん。ある地点に誘導しています」

「そうこうしているうちにコウ選手リング際に追い込まれていくー!」

「ここか!?」

「おおっと!! 攻め込んでいたナオ選手の身体が上空に跳ね上げられた!
 グラビティトラップ! そこに待つはプラントネット! ナオ選手ついに植物の網に捕まった!」

「違う! 幻術だ!」

「なんと!? いつの間にかコウ選手の背後にナオ選手が!?
 これは勝負あったか~!! ナオ選手の豪腕がコウ選手にスマッシュヒット!?」

「いや、潜り込んだ! これは、一本背負いだぁ!」

 ユキムラが興奮して立ち上がる。

「地面に叩きつけられた一瞬の隙に三角絞め! 完璧に入りましたよ!」

「レン!」

 レンが即座にリングに飛び込んでレフェリー役をする。

「ナオ! ギブアップ?」

「だ、誰がコウなんかに……」

「ナオ、わかっているでしょ? コウならそこから魔法を打ち込めるのよ?」

 いつの間にかリングにはソーカも集まっていた。
 その言葉でナオはパンパンとコウの足を叩く。

「勝者!! コウーーーーーーーーーー!!」

 カンカンカンとゴングが鳴り響く!
 この激闘を制したのはコウだった!

「……負けた……」

 がっくりと項垂れるナオ。一対一なら絶対に負けないと思っていた。

「魔法だけだと、どうせ負けたの認めなかったろ?
 だから、最後は身体で勝とうと思ってたんだ……」

 コウが手を差し伸べる。少し躊躇したがその手を掴んで立ち上がる。
 周囲からは盛大な拍手と歓声が鳴り響く。

「……それで、コウは私に何をさせるの?」

 ナオの言葉を受けてコウは懐から小さな箱を取り出す。
 ナオの前に片膝を立てて跪くと、目の前でその箱を捧げるように静かに開く。
 中には美しい宝石をあしらった指輪が入っている。

「俺との結婚を考えて欲しい」

 コウはナオの瞳から目を逸らさずに真っ直ぐとそう口にする。

「断ってもいい、考えてくれればいい。俺の望みはそれだけだ」

 ヴァリィの鼻血が噴出する。かっこよすぎだろ。
 女性陣もぽーーーっとした瞳で成り行きを見守っている。

「……これは貰っておく。ちゃんと、ちゃんと考えて答えを出します」

「ありがとう」

 先程よりも盛大な拍手と歓声がリングに響き渡る。
 全員が二人の周囲で前途ある二人の幸せを祈らずにはいられなかった。



「あーーーーーー……コウはかっこよすぎだろ……」

 盛大なセレモニーを終えて一旦解散となったが、自室で悶える男が一人。ユキムラだ。

「いやいやいや、あんなのソーカ見ちゃったら、アレ以上のことしなきゃあかんやん……」

 日本語も混乱している。

「あんなこと自然にできるなんてどんだけイケメンキャラなんだよ……」

 自分もとんでもないイケメンなのに何を言っているのか。

「ハードル上がりすぎだろ……レンとヴァリィに相談しなきゃなぁ……」

 他力本願である。
 少なくとも、魔神との戦いを終えるまではそういったイベントは無いが、大変に高いハードルを課せられたことは間違いなかった。
 ユキムラの苦悩が一つ増えてしまうのでした。




 結局休日の二日目も、イベントの後にみんなでどんちゃん騒ぎになってしまう。
 あのイベントを見せられたら仕方ない面もある。

「ほんっっと素敵だった! いいなぁーいいなぁー……」

 アリシアも昼のイベントにきゅんきゅんしてしまっていた。

「ナオちゃんもよくすぐにオーケーしないで我慢したわねぇ」

 メリアの質問もぐいぐい来る。しかし、この質問は誰しもが聞きたかったこと。
 周囲のみんなが耳をダンボにして聞いている。

「……やしいじゃないですか……」

「ん?」

「負けたままじゃ悔しいじゃないですか!」

 あーーーーーーーーー。
 周囲の人間も全員理解した。
 絶対的優位な状態での敗戦。そこからあまりに見事なプロポーズ。
 負けず嫌いのナオは主導権を完全に盗られるのが我慢できなかったのだ。

 ナオはこの日から心に決めた。
 いつの日か、コウを完膚なきまでに叩きのめして、自分と結婚させるんだ。と。




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