(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~
遣らずの雨・結
「ほんと大変なんですよぅ……」
なぜか勇者は魔王に絡みだした。シュールである。シュールな図だ。
魔王はどうにか乗り切ろうとして先ほどカルーアミルクと一緒に出したコロッケに手を出した。きつね色にこんがりと揚がっているそれは、どうやら魔王も見たことのない代物だったらしい。
「……ところで、これはいったい何なのだ?」
魔王が尋ねる。
俺はそのまま、メリューさんから聞いた言葉を返す。
「それはコロッケですよ。正確に言えば揚げ物ですね。おいしいですよ? 確かタネはジャガイモ……馬鈴薯だったかな。それにひき肉を混ぜているんですよ」
「馬鈴薯にひき肉? ……ほほう。それは面白い」
そう言って魔王は箸を奇麗に使って――やはり学があるのだろう、魔王だし――丁寧に一口分コロッケを切った。断面は白いジャガイモと、それにアクセントとして見える茶色のひき肉。まさに絶妙なバランスで入っているといえる。そしてコロッケにかかっているソースが断面から滝のように流れ、ジャガイモへ染みていく。
そしてそれを口へと運んでいく魔王。
口に入れてしっかりと咀嚼し、口全体でコロッケの味を味わう。
「うむ、美味い」
「おいしいの? だったら私にもちょうだい」
そういったのは勇者だった。口を大きく開けて魔王にコロッケをねだっている。
一応言っておくが、この二人――RPGの常識だったら最終的に戦う相手だぞ?
「あーん、ほら、あーんってして」
勇者は言う。
魔王ももう我慢できなくなったのか――もう一口分切り分けてそのまま魔王は勇者にそれを差し出した。
勇者はぱくり、とコロッケを頬張り同じように咀嚼する。だが、女性だからか魔王に比べると少し奇麗だ。
「美味しいー! こんなコロッケ、初めて食べたわ。馬鈴薯の美味しいこと!」
「……ああ、そうだな」
なんか、夫婦みたいになっていないか。
まあ別にいいか。少なくとも、俺がその世界に関与する意味はないのだから。
◇◇◇
結局魔王と勇者はべったりくっついたまま帰っていった。まあ、お互いがお互い入った場所が違うし、あのままくっついても強制的に離れることになるのだけれど。前は厄介だと思っていたあの扉だが、今考えるとそれが正解なのかもしれないな。
「いやあ、何とかなったね」
メリューさんはそう言って厨房から出てきた。
「何とかなった……って、魔王と勇者がああいう関係になったってことが、ですか?」
「ああ、そうだよ。そうしないとあの世界は滅亡しちまうからね」
「……というと?」
「考えてみればわかる話だよ。勇者が魔王を倒さないと世界は平和にならない。しかしそれは人類の主観の上での話。魔王も魔王で魔物の主観で考えて行動している。人間が毒であると考えている。……まあ、あの魔王はどちらかというとそうは思っていないのかもしれないがね。きっと魔物にそそのかれたのだろう。そういう知識を幼少から植え付けられたのだろう。よくある話だよ」
「それじゃ、あれが正解だと? 魔物と人間が手を取り合う世界がハッピーエンドだと?」
「魔王を倒した勇者を、国王はどう思う?」
唐突の質問に俺は少しだけ考えて――答える。
「そりゃ歓迎するだろうよ。魔王は人間にとって最大の敵だ。それを倒したんだから――」
「――裏返せば人類の最強の敵にもなりうるよな?」
「――――え?」
「人類には誰もかなわなかった最強の存在、魔王。それを倒した勇者は人類最強とは思わないか? もし何かあったら勇者が魔王の代わりにとって代わるかもしれない。そう恐れる可能性だって考えられないか?」
それを聞いても、俺は信じられなかった。
だってそんなことはない。ハッピーエンドで終わるはずだ。
「ケイタ。あの世界は人が住んでいる世界だ。連続性のある世界だ。ゲームのようにドラゴンを倒して王女を救って、そして竜王を倒す。そして物語は終わり。そんなわけじゃないんだよ。ハッピーエンドでいったん物語は終わるかもしれない。けれど世界は続いていく。主人公の物語は『一区切りついた』だけで一生終わることはないのだから」
メリューさんは少しだけ悲しい表情をして――再び厨房へと戻っていった。
思えば俺は、メリューさんとティアさんの過去をあまり知らない。
なぜメイド姿なのか。なぜ喫茶店を開いているのか。
俺がそのことを知ることになるのは――少しだけあとの話になるのだけれど、それはまた、別の話。
なぜか勇者は魔王に絡みだした。シュールである。シュールな図だ。
魔王はどうにか乗り切ろうとして先ほどカルーアミルクと一緒に出したコロッケに手を出した。きつね色にこんがりと揚がっているそれは、どうやら魔王も見たことのない代物だったらしい。
「……ところで、これはいったい何なのだ?」
魔王が尋ねる。
俺はそのまま、メリューさんから聞いた言葉を返す。
「それはコロッケですよ。正確に言えば揚げ物ですね。おいしいですよ? 確かタネはジャガイモ……馬鈴薯だったかな。それにひき肉を混ぜているんですよ」
「馬鈴薯にひき肉? ……ほほう。それは面白い」
そう言って魔王は箸を奇麗に使って――やはり学があるのだろう、魔王だし――丁寧に一口分コロッケを切った。断面は白いジャガイモと、それにアクセントとして見える茶色のひき肉。まさに絶妙なバランスで入っているといえる。そしてコロッケにかかっているソースが断面から滝のように流れ、ジャガイモへ染みていく。
そしてそれを口へと運んでいく魔王。
口に入れてしっかりと咀嚼し、口全体でコロッケの味を味わう。
「うむ、美味い」
「おいしいの? だったら私にもちょうだい」
そういったのは勇者だった。口を大きく開けて魔王にコロッケをねだっている。
一応言っておくが、この二人――RPGの常識だったら最終的に戦う相手だぞ?
「あーん、ほら、あーんってして」
勇者は言う。
魔王ももう我慢できなくなったのか――もう一口分切り分けてそのまま魔王は勇者にそれを差し出した。
勇者はぱくり、とコロッケを頬張り同じように咀嚼する。だが、女性だからか魔王に比べると少し奇麗だ。
「美味しいー! こんなコロッケ、初めて食べたわ。馬鈴薯の美味しいこと!」
「……ああ、そうだな」
なんか、夫婦みたいになっていないか。
まあ別にいいか。少なくとも、俺がその世界に関与する意味はないのだから。
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結局魔王と勇者はべったりくっついたまま帰っていった。まあ、お互いがお互い入った場所が違うし、あのままくっついても強制的に離れることになるのだけれど。前は厄介だと思っていたあの扉だが、今考えるとそれが正解なのかもしれないな。
「いやあ、何とかなったね」
メリューさんはそう言って厨房から出てきた。
「何とかなった……って、魔王と勇者がああいう関係になったってことが、ですか?」
「ああ、そうだよ。そうしないとあの世界は滅亡しちまうからね」
「……というと?」
「考えてみればわかる話だよ。勇者が魔王を倒さないと世界は平和にならない。しかしそれは人類の主観の上での話。魔王も魔王で魔物の主観で考えて行動している。人間が毒であると考えている。……まあ、あの魔王はどちらかというとそうは思っていないのかもしれないがね。きっと魔物にそそのかれたのだろう。そういう知識を幼少から植え付けられたのだろう。よくある話だよ」
「それじゃ、あれが正解だと? 魔物と人間が手を取り合う世界がハッピーエンドだと?」
「魔王を倒した勇者を、国王はどう思う?」
唐突の質問に俺は少しだけ考えて――答える。
「そりゃ歓迎するだろうよ。魔王は人間にとって最大の敵だ。それを倒したんだから――」
「――裏返せば人類の最強の敵にもなりうるよな?」
「――――え?」
「人類には誰もかなわなかった最強の存在、魔王。それを倒した勇者は人類最強とは思わないか? もし何かあったら勇者が魔王の代わりにとって代わるかもしれない。そう恐れる可能性だって考えられないか?」
それを聞いても、俺は信じられなかった。
だってそんなことはない。ハッピーエンドで終わるはずだ。
「ケイタ。あの世界は人が住んでいる世界だ。連続性のある世界だ。ゲームのようにドラゴンを倒して王女を救って、そして竜王を倒す。そして物語は終わり。そんなわけじゃないんだよ。ハッピーエンドでいったん物語は終わるかもしれない。けれど世界は続いていく。主人公の物語は『一区切りついた』だけで一生終わることはないのだから」
メリューさんは少しだけ悲しい表情をして――再び厨房へと戻っていった。
思えば俺は、メリューさんとティアさんの過去をあまり知らない。
なぜメイド姿なのか。なぜ喫茶店を開いているのか。
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