(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~
ヤマアラシのジレンマ・前編
「ヤマアラシのジレンマ?」
営業時間も半分が過ぎた午後三時過ぎ。俺は暇になったので同じくカウンターに出ていたメリューさんと話をしていた。
「そうですよ、ヤマアラシのジレンマ。哲学用語だったと思ったのですけれど、『自己の自立』と『相手との一体感』という二つの欲求によるジレンマらしいですよ」
「ヤマアラシとは、どのような生き物なのかな?」
メリューさんの言葉を聞いて、俺はスマートフォンを操作する。この空間、なぜか知らないが電波が通る。ケーブルを引いているとかそういうわけではない。何故かはあまり考えないほうがいいだろう。魔法的何かが働いているのだろう。
スマートフォンブラウザでヤマアラシを検索して、メリューさんにそれを見せる。
「ふうん……思ったよりかわいい生き物じゃないか。これがいったいそのジレンマに合致するというのかな?」
「ヤマアラシは針が体中にあるでしょう? だから二匹のヤマアラシが身体を温め合おうとしても針が刺さってしまうかもしれない。だから、相手と一体になれない。もしなろうとするならば針を抜去せねばならない。けれどそれは『ヤマアラシにとって自己の否定』と成り得ます。……たぶんきっと、そう言うことなんだと思いますよ」
カランコロン、とドアに付けられた鈴の音が聞こえて、俺とメリューさんは立ち上がる。
休憩モードから一転、仕事モードへと変更になる。
「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ」
入ってきた男はどこか俯いていた。なんというか、やる気が見られない感じ。見ているだけで危なっかしいというか。
そのままカウンターの席に腰掛ける男。
男は溜息を吐いて、ふとメニューを探す素振りを見せる。
俺は男の前に水の入ったコップとおしぼりを置いて、言った。
「ああ、ごめんなさい。このお店は『あなたが一番食べたいもの』を出すお店になっています。ですから、もう調理は始まっているんですよ」
「ふうん、そうですか」
まるで心そこにあらず――そんな雰囲気を感じ取った。
けれど客は客だ。冷静に対応せねばならない。
そう思って俺は、いつものようにメリューさんのいる厨房へと向かった。
厨房に向かうと、メリューさんは云々と何か考え事をしているようだった。火をつけていないところを見ると、まだ調理は始まっていないらしい。……メリューさんにしては珍しい。
「メリューさん、どうなさったんですか?」
俺の声を聞いて踵を返すメリューさん。
「……ああ、ケイタか。いや、ちょっとな……」
「料理が思いつかないとか?」
「そんなことは無い。既にいくつかのパターンは完成している。あとは調理すればいいだけだ」
「それなら、料理を作ってくださいよ。そう時間もかけられないでしょう」
「解っている……。解っているのだが、ちょっとな。あの少年、何かおかしいとは思わないか?」
それを聞いて俺は首を傾げる。
まあ、おかしいというか――ちょっと暗いかな、って感じはあるが。
営業時間も半分が過ぎた午後三時過ぎ。俺は暇になったので同じくカウンターに出ていたメリューさんと話をしていた。
「そうですよ、ヤマアラシのジレンマ。哲学用語だったと思ったのですけれど、『自己の自立』と『相手との一体感』という二つの欲求によるジレンマらしいですよ」
「ヤマアラシとは、どのような生き物なのかな?」
メリューさんの言葉を聞いて、俺はスマートフォンを操作する。この空間、なぜか知らないが電波が通る。ケーブルを引いているとかそういうわけではない。何故かはあまり考えないほうがいいだろう。魔法的何かが働いているのだろう。
スマートフォンブラウザでヤマアラシを検索して、メリューさんにそれを見せる。
「ふうん……思ったよりかわいい生き物じゃないか。これがいったいそのジレンマに合致するというのかな?」
「ヤマアラシは針が体中にあるでしょう? だから二匹のヤマアラシが身体を温め合おうとしても針が刺さってしまうかもしれない。だから、相手と一体になれない。もしなろうとするならば針を抜去せねばならない。けれどそれは『ヤマアラシにとって自己の否定』と成り得ます。……たぶんきっと、そう言うことなんだと思いますよ」
カランコロン、とドアに付けられた鈴の音が聞こえて、俺とメリューさんは立ち上がる。
休憩モードから一転、仕事モードへと変更になる。
「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ」
入ってきた男はどこか俯いていた。なんというか、やる気が見られない感じ。見ているだけで危なっかしいというか。
そのままカウンターの席に腰掛ける男。
男は溜息を吐いて、ふとメニューを探す素振りを見せる。
俺は男の前に水の入ったコップとおしぼりを置いて、言った。
「ああ、ごめんなさい。このお店は『あなたが一番食べたいもの』を出すお店になっています。ですから、もう調理は始まっているんですよ」
「ふうん、そうですか」
まるで心そこにあらず――そんな雰囲気を感じ取った。
けれど客は客だ。冷静に対応せねばならない。
そう思って俺は、いつものようにメリューさんのいる厨房へと向かった。
厨房に向かうと、メリューさんは云々と何か考え事をしているようだった。火をつけていないところを見ると、まだ調理は始まっていないらしい。……メリューさんにしては珍しい。
「メリューさん、どうなさったんですか?」
俺の声を聞いて踵を返すメリューさん。
「……ああ、ケイタか。いや、ちょっとな……」
「料理が思いつかないとか?」
「そんなことは無い。既にいくつかのパターンは完成している。あとは調理すればいいだけだ」
「それなら、料理を作ってくださいよ。そう時間もかけられないでしょう」
「解っている……。解っているのだが、ちょっとな。あの少年、何かおかしいとは思わないか?」
それを聞いて俺は首を傾げる。
まあ、おかしいというか――ちょっと暗いかな、って感じはあるが。
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