(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~
勇者の晩餐・前編
その人がボルケイノを訪問したのは、ある夜のことだった。
鎧、兜、盾と全身を青に包んだ少年だった。腰に剣を携え、胸元にはその格好には若干不格好なハートのペンダントがかかっていた。
少年はカウンターに腰掛けると、兜を外して隣の椅子に置いた。
少年は俺よりも少し年上に見えた。
まあ、それはどうだっていい。別に客が子供だろうが老人だろうが普通に接して普通に対応するのが仕事だ。
「メニューを見せてもらえないかな」
ボルケイノ定番のやり取りがやってきたので、俺は営業スマイルを一つ。
「申し訳ございません。このお店は、メニューが一つしかありません。それは、あなたが今食べたい料理です」
「……俺が、今一番食べたい料理……?」
それを聞いて目を丸くする男。ま、当然だろうな。それを聞いて困惑しなかった客は誰一人としていなかった。
ボルケイノには、その人が一番食べたい料理しか作ることが出来ない。それは即ち、無限にメニューが存在していることの裏返しではないか、ということになってしまうけれど、それについては別にどうだっていい。
暫く考えて、少年は告げた。
「……じゃあ、何か美味しい食べ物は無いかな。実はちょっとこれから重要なことがあってね、気持ちを落ち着けておきたいんだ」
「気持ちを落ち着けたい……ですか。まあ、少々お待ちください。多分、そう遠くないうちに……」
「ケイタ! ちょっと来てくれないか!」
「わかりました! ……お客様、少々お待ちください」
そう断りを入れて、俺は厨房へと向かうのだった。
厨房にはメリューさんが立っていた。シルバーのテーブルにはいつも通り食べ物が置かれている。
それは、ホワイトシチューだった。白いスープの海に、ニンジンや鶏肉、じゃがいもなどが沈んでいる。時折海に散らばっている黒い点々は胡椒だろうか。いずれにせよ、正統派という感じがして、とても美味しそうだ。不揃いに切られた野菜もどこか手作り感をにおわせているし。
「……これを持っていけ。あと、これも」
さらにメリューさんはテーブルにお皿を置いた。そのお皿は平皿で、その上には大きなフランスパンが乗っかっていた。もっとも、この世界ではフランスは無いからそう呼ぶのではなく、おそらくはバゲットと呼んだほうが近しいかもしれないけれど。
いずれにせよ、これを急いでお客さんのところにもっていかねばならないだろう。あっという間に温くなってしまう。特にこういうスープ物の料理ならば猶更。
そう思って俺はトレーにその二つの皿を置いて、カウンターへと戻るのだった。
鎧、兜、盾と全身を青に包んだ少年だった。腰に剣を携え、胸元にはその格好には若干不格好なハートのペンダントがかかっていた。
少年はカウンターに腰掛けると、兜を外して隣の椅子に置いた。
少年は俺よりも少し年上に見えた。
まあ、それはどうだっていい。別に客が子供だろうが老人だろうが普通に接して普通に対応するのが仕事だ。
「メニューを見せてもらえないかな」
ボルケイノ定番のやり取りがやってきたので、俺は営業スマイルを一つ。
「申し訳ございません。このお店は、メニューが一つしかありません。それは、あなたが今食べたい料理です」
「……俺が、今一番食べたい料理……?」
それを聞いて目を丸くする男。ま、当然だろうな。それを聞いて困惑しなかった客は誰一人としていなかった。
ボルケイノには、その人が一番食べたい料理しか作ることが出来ない。それは即ち、無限にメニューが存在していることの裏返しではないか、ということになってしまうけれど、それについては別にどうだっていい。
暫く考えて、少年は告げた。
「……じゃあ、何か美味しい食べ物は無いかな。実はちょっとこれから重要なことがあってね、気持ちを落ち着けておきたいんだ」
「気持ちを落ち着けたい……ですか。まあ、少々お待ちください。多分、そう遠くないうちに……」
「ケイタ! ちょっと来てくれないか!」
「わかりました! ……お客様、少々お待ちください」
そう断りを入れて、俺は厨房へと向かうのだった。
厨房にはメリューさんが立っていた。シルバーのテーブルにはいつも通り食べ物が置かれている。
それは、ホワイトシチューだった。白いスープの海に、ニンジンや鶏肉、じゃがいもなどが沈んでいる。時折海に散らばっている黒い点々は胡椒だろうか。いずれにせよ、正統派という感じがして、とても美味しそうだ。不揃いに切られた野菜もどこか手作り感をにおわせているし。
「……これを持っていけ。あと、これも」
さらにメリューさんはテーブルにお皿を置いた。そのお皿は平皿で、その上には大きなフランスパンが乗っかっていた。もっとも、この世界ではフランスは無いからそう呼ぶのではなく、おそらくはバゲットと呼んだほうが近しいかもしれないけれど。
いずれにせよ、これを急いでお客さんのところにもっていかねばならないだろう。あっという間に温くなってしまう。特にこういうスープ物の料理ならば猶更。
そう思って俺はトレーにその二つの皿を置いて、カウンターへと戻るのだった。
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