(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~
料理の修行志願?・後編
結局、そのあと少女はその条件を飲んだ。
メイド服に着替えて、メリューさんの隣で料理を作っている。修行をしている、とでもいえばいいだろうか。あいにく今日は客も来ないし、たまにはこういうことがあってもいいかもしれない。
少し暇ができたので、キッチンへ向かってみる。すると、メリューさんと少女――リューシュが話をしていた。
リューシュは野菜を切っていた。下ごしらえ、という状態だろうか。メリューさんは鍋を使って何かスープを作っているように見えた。
「あれ、メリューさん。料理の修行はどうなったんですか?」
「料理を教えるより、先ずは細かいことを教えてあげないといけない。下ごしらえに皿洗い、雑用と思えることかもしれないが、いつかは教えるつもりだよ。……だが、今日中に教えないといけないな」
「お願いします!」
リューシュは言って、メリューさんに頭を下げる。
「まあ、先ずは昼飯にするか」
メリューさんはそう言ってまたスープを煮込み始めた。
いったいメリューさんは何を考えているのだろうか、そんなことを思いながら、ただ俺はメリューさんを見つめていた。
昼飯が完成したのはそれから十分後のことだった。掃除をしていたサクラと、今日はお休みだったシュテンとウラもカウンターに集結している。
「へえ、料理の修行ですか」
サクラはリューシュの頭を撫でながら、そう言った。それにしてもサクラは子供に懐かれることが多いなあ。伊達に妹と弟が三人居る家庭で育っていない。
そして今俺たちの前に置かれているのは、スープと塩むすびだった。塩むすびは女性陣には二つ、そして俺には三つおかれている。スープもそれなりの量があるので、それで問題ないだろうという結論に至ったのかもしれない。
「……美味しそう。いい香り」
リューシュはスープの器をもって、ゆっくりとその香りを嗅いだ。
スープには豚肉が入っていて、それ以外にも根菜を中心とした野菜が入っていた。おそらくスープの味付けのベースは、マキヤソースだろうか。
そしてリューシュはゆっくりとそのスープを啜った。
「美味しい……」
感嘆交じりの声が漏れた。
「そりゃ、当然、美味しいに決まっているじゃない。私が作っているものだからね。その塩むすびだって、スープだって、懇切丁寧に作っている。はっきり言ってしまえば、その塩むすびだけでも『美味しい』と言えるようなものを作らないとダメ、ということかな」
それを聞いたリューシュは胸を打たれたような衝撃を受けた――ように見える。あくまでもそう見えるだけだ。
「……美味しい。美味しい、とても、美味しい! メリューさん、この味付けを教えてください!」
それを聞いたメリューさんの目は丸くなっていた。
もっといえばきょとんとした表情になっていた。まさかそんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。まあ、それは俺だって思っていなかったけれど。
「……別にいいけれど、それはただ、配分を考えるだけの話。つまり、初歩中の初歩だけれど。それでもいいの?」
こくり、と何度も頷いた。
それを見たメリューさんもまた、大きく頷くのだった。
◇◇◇
後日談。
というよりもただのエピローグ。
結局、リューシュはメリューさんお手製の塩むすびのレシピだけ習得して元の世界へ帰ることとなった。いくらこの世界の時間感覚が別世界とはまったく違うものだからといってずっとここに居ることはあまりよろしくない。メリューさんがそう決めたことだった。
その後、彼女がどうなっているかは解らない。母親に色んな料理を教わっているのだろうか。或いは母親と一緒に料理を作っているのかもしれない。
きっと、時折料理をしている最中に見せるメリューさんの笑顔も彼女のことを思い返しているのだろう。そんなことを思いながら、今日も業務に励むのだった。
メイド服に着替えて、メリューさんの隣で料理を作っている。修行をしている、とでもいえばいいだろうか。あいにく今日は客も来ないし、たまにはこういうことがあってもいいかもしれない。
少し暇ができたので、キッチンへ向かってみる。すると、メリューさんと少女――リューシュが話をしていた。
リューシュは野菜を切っていた。下ごしらえ、という状態だろうか。メリューさんは鍋を使って何かスープを作っているように見えた。
「あれ、メリューさん。料理の修行はどうなったんですか?」
「料理を教えるより、先ずは細かいことを教えてあげないといけない。下ごしらえに皿洗い、雑用と思えることかもしれないが、いつかは教えるつもりだよ。……だが、今日中に教えないといけないな」
「お願いします!」
リューシュは言って、メリューさんに頭を下げる。
「まあ、先ずは昼飯にするか」
メリューさんはそう言ってまたスープを煮込み始めた。
いったいメリューさんは何を考えているのだろうか、そんなことを思いながら、ただ俺はメリューさんを見つめていた。
昼飯が完成したのはそれから十分後のことだった。掃除をしていたサクラと、今日はお休みだったシュテンとウラもカウンターに集結している。
「へえ、料理の修行ですか」
サクラはリューシュの頭を撫でながら、そう言った。それにしてもサクラは子供に懐かれることが多いなあ。伊達に妹と弟が三人居る家庭で育っていない。
そして今俺たちの前に置かれているのは、スープと塩むすびだった。塩むすびは女性陣には二つ、そして俺には三つおかれている。スープもそれなりの量があるので、それで問題ないだろうという結論に至ったのかもしれない。
「……美味しそう。いい香り」
リューシュはスープの器をもって、ゆっくりとその香りを嗅いだ。
スープには豚肉が入っていて、それ以外にも根菜を中心とした野菜が入っていた。おそらくスープの味付けのベースは、マキヤソースだろうか。
そしてリューシュはゆっくりとそのスープを啜った。
「美味しい……」
感嘆交じりの声が漏れた。
「そりゃ、当然、美味しいに決まっているじゃない。私が作っているものだからね。その塩むすびだって、スープだって、懇切丁寧に作っている。はっきり言ってしまえば、その塩むすびだけでも『美味しい』と言えるようなものを作らないとダメ、ということかな」
それを聞いたリューシュは胸を打たれたような衝撃を受けた――ように見える。あくまでもそう見えるだけだ。
「……美味しい。美味しい、とても、美味しい! メリューさん、この味付けを教えてください!」
それを聞いたメリューさんの目は丸くなっていた。
もっといえばきょとんとした表情になっていた。まさかそんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。まあ、それは俺だって思っていなかったけれど。
「……別にいいけれど、それはただ、配分を考えるだけの話。つまり、初歩中の初歩だけれど。それでもいいの?」
こくり、と何度も頷いた。
それを見たメリューさんもまた、大きく頷くのだった。
◇◇◇
後日談。
というよりもただのエピローグ。
結局、リューシュはメリューさんお手製の塩むすびのレシピだけ習得して元の世界へ帰ることとなった。いくらこの世界の時間感覚が別世界とはまったく違うものだからといってずっとここに居ることはあまりよろしくない。メリューさんがそう決めたことだった。
その後、彼女がどうなっているかは解らない。母親に色んな料理を教わっているのだろうか。或いは母親と一緒に料理を作っているのかもしれない。
きっと、時折料理をしている最中に見せるメリューさんの笑顔も彼女のことを思い返しているのだろう。そんなことを思いながら、今日も業務に励むのだった。
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