シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第3話】ついに異世界へ



 ふと気づくと、俺は裸で、膝を抱えてベッドの上に鎮座していた。某アイドルグループの子が以前やっていたアレである。

 「今のイメージは……」

 姉との喧嘩に負けて、拗ねていたうちに眠ってしまったのだろうか、変な夢を見てしまったような気分だ。

 またしても全裸。

 (ん? またしても……?)


 全裸で向かい合い、自称神様と対話に臨んでいた事が鮮明になる。

 「そうだ、俺は草場翔一だったんだ。まさか今までずっと忘れてたなんてな……」

 ショー・ヴァッハウは、12歳を迎えたこの日、前世から今に至るまでを思いだした。草場翔一であった時のことから全て。

 「お兄ちゃん、入るよー?」

 ノックと声と同時に、一つ歳下の妹のローズ、ローズ・ヴァッハウが部屋に押し入ってきた。

 「返事くらい待てよ……」

 「お姉ちゃんにコテンパンにやられて、またいじけてるお兄様を慰めに来てあげたんですよーだ」

 「べ、べつに、いじけてねーよ」

 「ほらほらー、泣きたいならわたしの胸に飛び込んでおいで〜」

 「そこまでは必要ねえって」

 「やっぱいじけてたんじゃんか」

 ローズはわざとやっているのだろうか、ケラケラ笑いながら自慢のバストを強調させつつ、こちらを茶化してくる。母譲りの赤毛ロリ巨乳である。年相応の顔付きであるのに対して、身体は女性的主張を惜しげも無く披露している。

 素直に飛び込んでみたいところではあるが、ギリギリで理性が勝った。ファインプレー、俺。

 「今日はお兄ちゃんの誕生日なんだから、主役が晩餐に出ないでどーすんだってことで、わたしが引っ張り出してこい、ってなったの〜」

 唇を尖らせながら、肩まで伸びた髪を掻きあげ、愚痴る。

 「悪かったよ、面倒かけて。それじゃ、メシ行くか」

 「あっさりし過ぎてなんか拍子抜け。今までならもうちょい引きずるのに。なんかあった?」

 妙に鋭いところを突いてくる。これが女の勘というのだろうか。まだ11だと言うのに、なかなか将来が頼もしい妹である。身体的にも、精神的にも。

 「心境の変化、かな。いや、ごめん、もう落ち着いてるし大丈夫」

 ここは素直に謝るのが吉だろう。男が口で女に勝てるわけがないのである。実際のとこ、姉に剣でも負けてこの状況になったのではあるが。

 今日、晴れて12歳になった俺は、昼過ぎに三つ上の姉、エリーゼ・ヴァッハウに手合わせを頼んだ。が、まるで歯が立たずに終わり、全裸で膝を抱えるハメになったのである。

 この世界の魔法の仕組みについて思い出した今なら、勝てそうなものだが、純粋な剣の腕はどうしようもない。経験の差だろうか。

 「…………」

 「…………」

 「…………遅い! いつまで待たせるんだお前は!! わたしが折角、昨日の夜から下ごしらえして作ってやった料理なんだぞ! 冷めたらどーするんだ!」

 (エリーゼ姉さん、そこ?)

 (お姉様、かわいい……)


 エリーゼ姉さん、ほっとっとタイムである。男がウジウジしてんな!方面で怒鳴られる覚悟でいたのだが、やはり姉は、ちょっと斜め上に抜ける節がある。ツンデレ。いい。

 「母さんの邪魔しなかった、姉さん?」

 「ショー!! どういう意味だそれ! 扱きが足りないか!?」

 「ほらほら、ショーもエリーゼも喧嘩しないの。それこそ、エリーゼが折角作った料理が冷めちゃうわよ」

 ヴァッハウ家のビッグマム、ローラ・ヴァッハウの降臨である。

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