シスコンと姉妹と異世界と。
【第47話】下ごしらえ②
最高の目覚めだ。フカフカと柔らかな感触と甘い匂いに包まれての朝。ん? 身体横にして寝ちゃってたのかな。左腕が痺れてるような……。
「ん……ショーくん、えっち……」
(…………は?)
これはこれは、一体どういうことでしょうねぇ?
それに、どんな寝言なんでしょうねぇ?
左腕に巻きつくようにしてアリスさんが寝ていた。半裸で。前より露出が多いというか過激というか。とりあえず白のブラジャーがお目見えしている。って何堂々と見ちゃってんだ俺!? これは1回目、初犯だから大丈夫。何が大丈夫なんだろうと自分でも思うけど。
まぁ下は当然ここに来るまでに穿いてないわけが無いだろうし大丈夫だろう。確認するのは後が怖いからやめておくが。
こんな状況ではあるけど、こんな気待ち良さげに寝てるアリスさんを起こすのは気が引けるしな。変に動くといろいろ当たって状況の悪化は免れないだろうし。
マ●オみたく小さくなれたら……。あっ、小さくなるにはダメージ受けなきゃなのか。ダメージったら、姉さんによる木刀ラッシュかローズの魔法攻撃か。だめだ。生命の灯火が小さくなっちゃうや。
時間は……4時半? さすがに起きるのには早すぎるな。こういう時はアレだ。初志貫徹。寝よう。
とりあえず布団を頭まで被って外からアリスさんが見えない様にしてみる。となるの必然的に中は2人っきりの密室のような空間になる。寝てれば気にならないから良しとしよう。
アリスさんが目を覚まし次第、2人の隙をついて逃げ出してもらおう。そうしよう______。
(……!!)
布団を剥がされた。つまりは起きろということ。ん、起き上がれない。あ、そうか、アリスさんがいたんだったな。そりゃ無理だわ。
「ショー、朝だぞ、起きろ?」
怒りの業火を背負った姉さんが笑顔でこちらを見ている、気がする。背中が焼けるように熱く感じる。視線が物理干渉したら、腸ぶちまけててもおかしくないだろうな……。
(まぁ、女の子の添い寝で目を覚ませるんだ。もう我が生涯に一遍の悔いなし)
おそるおそる、目だけ開けてみる。
(うわっ?!)
顔近!! 超至近距離に姉さんの顔があった。俺の上に馬乗りになってるようだ。……顔を離そうとはしてくれないらしい。キスしろ、ってこと?
と思って動こうと試みたら、なんだろう、首筋に点の圧力を感じた。どうやら頸動脈に指を立てられているらしい。
「質問する。昨晩、ここで何があったんだ?」
アリスさんをちらりと見やりながら俺に問いかけてくる。頸動脈触れてる段階で尋問であり拷問のような気がするけど。
「……愛してるよ」
何故この言葉を選んでしまったのか自分でも整理が付かない。状況的に言えば、愛人と一夜を過ごして目を覚ましたら奥さんがいた、そこへ「愛してるよ」は馬鹿もいいところだと思う。
「…………」
(…………? 姉さん死んだ?)
黙ったまま姉さんが動かなくなってしまった。馬乗りになったままだから更に身動きが取れなくなってしまった。しかもそのポジションは色々とマズイ気がする。______非常に嫌な予感がする。
「お兄ちゃん……何してるの?」
最高の名推理だよ、クソ!! 小五郎のおっちゃんも銭形警部も用無しなくらい完璧だよ。なんだよ刑事のカンってか!
「見ての通り動けなくなってる。起きたらまずアリスさんが隣で寝てて、それを見た姉さんが馬乗りになった状態で失神してる」
「お姉ちゃんがなんで馬乗りになったのか分からないけどだいたい分かった」
「どうしたらいいかな……」
「死ねばいいんじゃない?」
血の気が引いた。めっちゃキレてるじゃん。アレだよ、目が笑ってない笑顔。氷柱が1本天井から俺の眉間を狙うように成長を始めた。
「あの、ローズさん。なんか伸びてきてるんですけど……」
「そう? わたしには縮んでいってるように感じるけど」
寿命かな? 多分その事だよな。
「…………」
目を閉じて諦めのポーズ。もう抵抗のしようがない。だって腕掴まれた上に、腰の上に人が居るんだもん。
あぁもう眉間まで30センチ無くなってきた。色々な思い出が走馬灯のように駆け巡ってくる。印象的なのはやっぱゾラさんの……。
「うぇ?」
「おはようショーくん」
氷柱が消えたと思ったら、アリスさんが手刀でそれを薙ぎ払ったようだった。にしてもよく素手で叩き切ったな。それはそれで怖えーよ。その腕で俺の腕つかんでたんだから。下手したらねじ切られてた……? その線はないと信じたい。
「あ、おはようございます」
とりあえず顔だけ向けて返事をする。頭を下げるのはむずかしいからせめて、と思ったんだけど。
「ショーくんのえっち」
見ちゃダメだったんだよ忘れてた!! 再犯だからな……しかも保釈されたその日に再犯したような感じ。絶対アウト。でもローズとアリスさんの前では初犯のまんまか。ならいっか。
「あ、あ、あ、アリスさんが……どうして?」
さすがにローズも狼狽えるしかないようだった。そりゃ格好も格好だし、素手で氷柱たたっ切るんだから余計にな。
「どうして? ……ここで寝てたから」
「なんでここで寝てたんだ、と聞いているんだ! 部屋に鍵は掛けたはずだぞ?」
おうわ! 姉さん復活。
「え? 普通に空いてたよ?」
(俺のせいか……)
2人が風呂から帰ってきた後、俺がモーリスと話したりしてから戻ったから俺の閉め忘れ、ってことになる。脱線して追求が来るのは避けねば!
「なんで、……添い寝してたんすか?」
「それはね……」
そんな顔を赤らめてもじもじされると、こっちがなんだか恥ずかしくなってくる。
「1番落ち着いたのがショーくんだったの。最初はエリーゼの所にしたんだけど、寝返り打つときの肘が凶器的で失格」
失格ってなんだよ……。寝相選手権なんかいつの間に? しかも姉さん予選落ちだし、残念。
「ローズちゃんはおっぱいがイイんだけど、なんか自分がお姉さんになってるようでなんか違うな、って。で、ショーくんならそれなりに大きいし甘えてる感があってしっくり来ちゃったんだよね。最初はそれで満足して帰ろうと思ったんだけど、寝ぼけたショーくんが服の裾掴んで離してくれなくて。赤ちゃんみたいだなーって思ってたら眠くなっちゃって、そのまま。で、今に至るってわけ」
よく分かりました。むにゅ。しかも俺は優勝らしい。むにゅ。喋ってる間にも姉さんとアリスさんの柔らかな女性的感触が……。考えまいとしても、さすがに健全な男子としては意識せざるをえないというか……。
そんな俺の気持ちには気付かず、3人は問答をしばらくの間続けていたのだった。
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