シスコンと姉妹と異世界と。
【第54話】下ごしらえ〜ホテル編〜
「ショーくん!!」
「あ、アリスさん!?」
「ローズちゃん!?」
「「なんでここに……」」
「「……背中を流そうと……」」
「「え?」」
永い沈黙……。
「とりあえず……どうしようか?」
「……どうしましょう?」 
「ショーいるか!? 背中を流しに来た……ぞ……」
「「あぁ……」」
「な……」
御挨拶しっぱなしのショーを見て固まるエリーゼ。
「お前たち……これはどういうことだ? なぜ、なぜショーが、その……色々、全開なんだ……」
「それは……かくかくしかじか……」
______。
「なるほど……とりあえず、タオルをかけようか……」
「ほいっと」
「お前はその……見てもなんとも思わないのか?」
「さっきわたしが入った時に1回見せつけられてるからね〜。それより2人もそんなに恥ずかしがることもないのに。家族なんだから別に何度か見たことくらいあるでしょ?」
「そうなんですけど……もっと小さい頃とかだったし……」
「そうだな……。確かに恥ずかしがる必要は無いか……。まぁ、とりあえず、起きるまでそっとしておくとしよう」
「でもどうして、アリスさんがここに?」
「いやー、昼間に馬車から落馬したじゃん? なんか気になってね」
「わ、わたしもそうだぞ! 一緒に風呂に入りたかったとかそんなじゃなくて、どこか庇うような歩き方をしていたから!」
昼間の落馬って何……? お姉ちゃんは微妙なところだけど、我欲に走ったのはわたしだけ、ってこと?
「お兄ちゃんのマナがなんか変だったから……気になって」
「心配かけまいとして隠してたんだろうけど、やっぱ打撲とかしてたみたいだしね〜」
「ホント、無駄に強情なんだから……」
「急に男らしくなっていくものだな……。なんか不思議な気分だ」
「「だねぇ……」」
「まぁ結果がこれじゃ、まだまだ1人前の男には程遠いけどな」
「確かに」
「お兄ちゃんらしいけどね〜」
______。
……んあ。アリスさんに背中流してもらって、ローズが入ってきて全裸ですっ転んで……。ああ、部屋に戻されたのか。この後頭の下の柔らかな感触といい、服は着せられたようだし。
スベスベして……甘い香り……。
このままで堪能しよう膝枕。
「ひゃっ……まだ寝てるか……」
この声は姉さんか……。珍しいな。てっきりアリスさんかローズかな、なんて思ってたけど。
「ほんとに……逞しくなったな。でも無理はするなよ。家族の前で強がる必要は無いんだからな」
そう言いながら頭を撫でてくれる。なんかホッとするというか、ちょっと恥ずかしいような……。
「今日の昼間の落馬にしたってそうだ。わたしたち3人ともお前に違和感を感じてたんだからな。だから治癒魔法を2人はかけようとしたみたいだ」
さすがに、ごまかしきれてなかったか……。まぁ、アリスさんにはバレバレだったみたいだしなぁ。
「ふふっ。女の勘、ってやつかもしれないな。アリスのやつもえらくお前を気に入ったようだしな……。嬉しいような嬉しくないような、なんとも言えない感じだ。弟は姉のものだし、まだまだ他所へやるつもりもないんだがな」
……。
「絶対にお前はわたしが護るからな……。あと、出来ればもう少しわたしに甘えてくれていい……。わたしはお前の姉なんだからな」
そう言いながら姉さんは、俺の頬に優しく唇を落とした。
「2人には内緒だぞ? あいつらはまだ風呂だからな」
こんなに優しく温かな時間は久しぶりで、心がほどけていくようだった。泣いたのは記憶が戻ってからは、これが初めてだった。
「ありがとう……姉さん……」
「ショー!? いつから起きて……いや、いい。落ち着くまでそうしていろ」
俺は姉さんの膝の中で散々泣いた後、そのままもう1度眠りについてしまった。
______。
「お待たせ〜エリーゼ。お風呂空いたよ」
「お姉ちゃん、お待たせ。あっ」
「ああ。少し静かにしてやってくれ」
「なんかお兄ちゃん、赤ちゃんみたいに安心しきった顔してる……」
「お姉さんには敵わないな〜……」
「まぁこんなわけだから、わたしは夕食の後に風呂に入るよ」
「起こすわけにもいかないもんね〜」
「でも、もうそろそろご飯じゃない?」
「そうだな……」
「ショーくーん、起きて〜」
アリスがショーの頬をきゅーっと引っ張る。
「お兄ちゃん、ご飯だよー」
ローズがショーの鼻をキュッと摘む。
「凄い顔だな」
エリーゼがその様子を見て笑う。
「………………んが」
ショーの目が開かれ、こちらを見回す。
「…………おは、よう?」
「「「おはよう」」」
「……夕飯終わっちゃった?」
「大丈夫だよ♪ ほら、いつまでもエリーゼの膝枕に甘えてないで起きて!」
「そうそう! 膝枕ならいつでもやってあげるから! もーわたしお腹空いた!」
「よっ!」
「あっ……。もう、いいのか?」
「うん! また今度お願い! 俺も腹減ったから!!」
「それじゃ、クラリスも待ってるだろうし行きましょう。館内が混み合う前に早めに移動した方がいいでしょ」
メイド喫茶ホテルでの夕食って、どんなもんなんだろうか……。
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