シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第73話】文化祭⑩




 「結構人が入ってるんですね〜」

 「一応エリーゼは学内でも有名人だからねぇ」

 「ああやって親衛隊もいることだしな」

 「あ、ホントだぁ〜」

 「サニーさんたちは当然か……」

 「で、どうショーくん、ここのステージは」

 「まだ演奏始まったわけでもないですし……。あ、でもあのマイク……透明?」

 「あれね、ただのガラスだよ。あれに向かってエリーゼには歌ってもらって、その振動をシンクロさせてボリュームを出すって手筈なの。まぁそのへんは魔法が上手いことやってくれると信じてるけど……」

 「確証は無いんですか??」

 「あとはエリーゼ次第っていうかね〜。エリーゼが感情を爆発させて歌いあげれば、ステージもそれに応えてくれると思うの。逆のパターンもあるんだけどね」

 「歌に反応して魔法がいろいろと変化するってことですか??」

 「簡単に言えばそれであってるわ、ローズちゃん」

 「そう言えば結局お姉ちゃんは何歌うの? お兄ちゃん知ってる?」

 「ん? あー1曲は分かるよ。ちょっと練習付き合ってたし」

 「え、知らなかった! ずるーい!!」

 「恥ずかしいから秘密にしてくれ、って言われてたんだってば。許してくれって〜」

 「リハーサルわたしがで聞いた時は驚いたわよ〜、色んな意味でホントに。でももう1曲は本番まで秘密だ、って言って唄ってないからどうなるかなって思ってるのよ」

 「へぇ〜楽しみ!! 聴いた曲はどんな感じだったんですか??」

 「わたしが聴いた感想を言えば、我が校の卒業式で皆で歌いたいなと思えるものだったな」

 「むぅ……気になる〜。お姉ちゃんはやくー」

 「噂をすれば、そろそろ用意ができたみたいよ」

 アリスさんがそういうのと同時に、体育館の電気が消え舞台が照らされているだけとなった。

 そこに、ドレスに着替えて文字通りにドレスアップした姉さんが登壇。会場に来ている人たちが一斉に拍手で迎え入れる。

 「騎士課程所属の、エリーゼ・ヴァッハウです。拙いわたしの為にこんなにも素敵な舞台を用意していただき、心より感謝致します。それでは早速ですが1曲歌わせていただきます」

 ドレスは当初母さんから借りようとしたらしいのだが、ある部分がブカブカになってしまったので結局、オーダーメイドで新たに仕立てたらしいことは俺の中での最重要極秘案件である。

 シンプルに母さんと姉さんが話してるのを偶然立ち聞きしてしまったのが運の尽き。俺としてはツッコミを入れたりイジったりしたい衝動に駆られたのだが、まぁ今回はやめといた。



 「______翼をください」



 俺が姉さんに授けた曲は『翼をください』だった。姉さんに何かないかと助けを請われ、人前で歌うならコレだろ、という思いつきで提案した。

 歌詞をそれぞれ2枚の紙に書いて俺が歌って、姉さんが読みながら聴いて、歌って。そんなこんなで完成に近づけていったのだった。

 思い立った理由としては、俺自身高校の合唱コンで歌ったのもあるし、某ロボットアニメや某軽音アニメでも歌われた曲だったこともある。

 そうは言ってもアレンジとか音楽関係のことはよく分からんから、フツーの、合唱コンで歌った時のから他人と伴奏を引き算したものを伝えた。

 姉さんの歌声に合わせてマナが反応し舞台上が青く煌めいたり、終盤には姉さんに翼が生えた。流石にびっくりした。

 翼をください、を歌い終えると体育館は大喝采に包まれた。スタンディングオベーションの嵐は5分間にわたって響き続けた。

 その後一旦10分間の休憩時間が設けられた。姉さんのノドの具合との兼ね合いもあるんだろうが、お客さんもさっきの歌について泣いたり感想を互いに言い合ったりしている。ウチもその例に漏れなかった。

 「なんか、ジーンと来ちゃった……」

 ローズがそう言いながら俺の手を握ってくる。

 「ホントに姉さん上手いんだな〜」

 「ロックよねぇ〜」

 ロックではないでしょう、とツッコミを心の中で入れた。

 「この曲はショーくんが作詞したものなのか? いくらなら我が校に売っていただけるだろうか?」

 「いや、正確には俺が作詞した訳じゃないんで……。どっかの誰かが作ったんでしょう」

 「そうか……録音とかしていつでも聴けると嬉しいな」  

 録音はなぁ〜。ゲームの世界じゃないから記録結晶とかがあるわけでもないし、ましてやCDなんて以ての外だ。

 「録音……アリスさんなにか出来そうですか?」

 「さすがに録音はなぁ〜。録るものも聴くものも無いからどうにと出来ないだろうね現実問題として」

 「やはりそうだよなぁ……」

 「ごめんねヴィオラ。力になれなくて」

 「いやいや、全然気にしないでいいんだ。頭でわかっていた事だが、それが少し漏れてしまっただけだから気に病むことは無い」

 「そだねー」

 「あ、姉さんステージに帰ってくるかな?」

 「ほんとだ。おねーちゃーん!!」

 こっちに気付いて手を振ってくれた。かなり姉さんも気恥しいんだろうな、ってのは伝わってきた。

 「それでは、本日最後の曲となります。聞いてください。______キミのとなりで」




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