シスコンと姉妹と異世界と。
【第82話】貸し出し権⑧(サニー編)
「……姉さんっ」
「ひゃい!?」
「はは、変な声でた」
「お前は何がしたいんだ……」
「ごめんごめん。ちょっと手伝って欲しいんだよね」
「わたしに出来ることなんて何も……」
「あるからこうして頼んでるんだから。それに、俺は姉さん以外には頼みたくないんだよ」
「……そこまで言うなら……。うん、手伝ってあげよう」
「じゃあちょっと用意するから」
「しゃあ岩石共ッ、整列しやがれ! 巨岩傀儡!!」
とは言ったものの、やったことは岩石に適切な方向から空気弾をぶつけて動かしただけなんだけど。
「おお……すごいな……」
「姉さんに手伝ってもらうのはここからだよ。はい」
「この剣でどうしたらいいんだ?」
「この岩を纏めてぶった斬るのさ」
「無理だ!」
「大丈夫。俺と姉さんなら出来るって。ほら、構えてみて」
「あ、あぁ……」
「じゃ、ちょっと失礼」
「ななな……急になんだ抱きついたりして……」
「あれ、いい匂い。シャンプー替えた?」
「う、うるさい! やるなら早くやるぞ!!」
「へいへい。じゃあ姉さん、集中」
「ああ……。で、ここからどうしたらいい?」
「上段構えで一気に断ち切る感じでいくからね」
「分かった」
「はっ」
「綺麗だ……」
刀を光が包み込みその輪郭を変遷させる。そして20m程の一口の剣となった。その刀身は実体を失っているが、キーンと甲高い音を響かせながら、淡く十字を象り輝き先へと伸びている。
「輝十字の福音、ってとこかな」
「この術の名前か?」
「そ。2人の愛の結晶の名前。ちょっと長いけどね」
「シャイニンクロス・ゴスペル……どういう意味なんだ?」
「外国の言葉で、輝く十字の福音って意味だよ。まぁこの剣の見た目をそのまま言葉にしたんだ」
「なるほど……だが、これで切れるのか? 刀身が無くなっている状態なんだろう?」
「それは大丈夫! じゃ、やるよ。ちゃんと姉さんが『切れる』って信じてくれないと切れないから」
「ああ。ショーに全て委ねるよ。よし、……行くぞッ!」
「「輝十字の福音ッッ!!」」
ケーキ入刀が如く剣を振り下ろすと、思った以上に手応えなくスッと両断してしまった。
「じゃあこのままもっと小さくしていこうか」
「ああ」
数歩スライドして一刀両断。スライドして一刀両断。何回かこの工程を繰り返した。
「とりあえずこんなもんで良いだろう」
「そっか。じゃコイツは小さくしよう」
だいたい20センチくらいに刀身を縮める。
「まぁ切り出しはそれ使って姉さんやって〜。僕はマナ使ったから疲れまちた」
「ショーが離れたら消えちゃうんじゃないのか?」
「姉さんがその形をちゃんと頭の中に描いとけば大丈夫。それに消えても元の刀に戻るだけだし」
「じゃああとは頼んだ! ……おやおや」
「任務中に何してるのかなー?」
「お兄ちゃんってば楽しそうにお姉ちゃんと密着して……」
「必殺技開発に勤しんでいたね」
(ショーくん、後で覚えといてね☆)
「ステラさん……」
「ショーくんが悪い」
「そんなぁ……」
そんなこんなで、温泉前の一仕事を終えたのだった。レオンさんの苦労は俺らの10倍だったと、後日散々聞かされることになるのはまた別の時に。
______。
「ここがうちの自慢の温泉旅館、『湯の華亭』になりま〜す」
「ひゃーカッコイイー☆」
「風情があるね……」
「高そう……」
外見は巨大な遊廓という感じではなく、昔ながらの風情ある作りの三階建て旅館だった。それでも塗る所は金で塗られてるし、豪勢の範疇からは抜け出さない高級旅館なんだろう。
「どんなご飯が出てくるんだろ……」
「え?」
「え?」
「今日は日帰りだったはずだぞ?」
「嘘でしょお兄ちゃん……」
「ま、まぁともかく入ろうか」
姉さんが慌てた様子で促す。互いに冷や汗かいたから早くサッパリしたいという思いで一致することだろう。
「湯の華亭へ、ようこそいらっしゃいました」
若女将さんと思しき女性が1人と仲居さん3人が出迎えてくれた。
「マリー姉ぇ、久しぶりー」
「久しぶりーアリス」
「知り合いなんすか?」
「叔母よ〜」
「わっか!!」
「あら嬉しい」
「マリー姉はさんじゅ……」
「四捨五入しないで。25です。まだピチピチです」
「んんっ」
後ろの仲居さん(おそらくマリーさんより歳上なんだろう)から『早く本題に入れ』的な合図が……。
「あ、そうだ……今日は泊まっていってくださいな。土砂崩れを片付けて頂いた責めてものお礼ということで」
「でも……」
「外泊許可を取らないといけませんので……」
「レオンさんを走らせてあるから心配しなくて平気ですよ」
レオンさんって分隊長だったよな? いつからデュボワ家の使いパシリになってるんだか……。
「マリー姉もこう言ってるし、お言葉に甘えましょ?」
「そうしましょうか〜」
「だね。クタクタだし」
「早くお風呂入って羽根伸ばしたいしね☆」
「それじゃあお世話になります」
「そんな、畏まらなくてもいいのよショーくん」
「なんで俺の名前を」
「あなた達3人のお母様とは縁があるのよ。それじゃ部屋な案内するわね」
「へぇ。世間は狭いっすね〜」
急遽粋な計らいで泊まることになった。それは当然、これから俺の気苦労が待ち受けることを意味していた。
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