シスコンと姉妹と異世界と。
【第106話】日常の終わり
「ごめんね、変なこと聞いて。お姉さん気持ち悪かったよね。ごめんね、ごめんね。腹切ってお詫びするから」
「いやいや、そんな卑屈にならないでくださいよシャロンさん……。しかも腹切るとか物騒なこと言わないで……」
現在、実家に帰った日から3日後の放課後。食堂で人と待ち合わせ中。実家では風呂入ったあとには特に、これといったことも起きなかったので何もあれ以上語れることは無い。と言うよりも、母さんが起きたあと「何でいるの??」と記憶喪失になっていたので、何も聞くに聞けなかったのだ。
「で、今日は何で俺が呼ばれたんですか?」
「あれ、説明してなかったか。ダメなお姉さんでゴメンね? 泣いて詫びるから」
「変に注目集めるからやめて下さいって!」
特に理由が説明されることの無いままに俺はシャロンさんと待ちぼうけを食らっていた。このままでは危険なふたり、修羅場なふたりとして浮名を流すことになりそう。
だがそれは避けたい。なぜなら、既にふたりの女性とも噂になってしまったからだ。サニーさんやアリスさんがたまにお弁当を作ってきてくれて、それをありがたく頂いているところを何者かに目撃あるいは激写され、教室では男子共が異端審問会よろしく詰問・尋問、寮に帰れば姉妹からの拷問(特に弁明の機会は与えられなかった)とまぁ散々な目に遭わされた。
アリスさんといる時に激写されたわけだが、被写体になったアリスさんが、カメラ目線でウインクをキメていたのが印象深かった。アリスさんが撮らせたのか、はたまた偶然カメラを見付けてポーズしたのか。本人しかそれは分からない。ちなみに俺は目を閉じ大口開けて「あーん」の待ち体制だった(おそらくこの写真のせいで被害が拡大した)。
「どうしたの、なんか顔色悪いよ?」
「あ、いえ、何でもないです……。にしても、ヴィオラさん遅いっすね」
「まぁ学園長は私人でもあり公人でもあるから多忙だからね。文字通りの公私混同人間だから」
「はははっ、言えてますね!」
「誰が公私混同人間ですってぇ?」
「ぴぃ!?」
「あ、ヴィオラさん」
「まったく……。それはまあいいや。それより待たせてごめんなさいね。待たせた分のお代は持つわよ」
「あっ」
「げっ」
「げっ、って言った」
「いや、2人で飲み物1杯ずつかな、って思ってたからね? 予想の4倍くらいの領収書だったからビックリしちゃったわ。4000円って」
「結構待ってたんで、飲み物だけじゃ味気なくてなにか甘いものでもと」
「いただいちゃいました」
「ま、まぁいいわ。これくらいどうってことないわ学園長ですから。……、交際費として経費扱いにすればいいもん」
「ケチだこの人!」
「ショーくん、そこは堅実派と言うのがせめてもの……」
「どっちもどっちよ。わたしだって任務に出ることはあるけど、ちゃんと学校に手数料引かれるんだから。ある意味では自腹と変わらないわよ」
「国立だから税金も入ってますよね?」
「それはこの際目を伏せるべきだと思うの」
「公人が板に付きすぎてる……。最早役人だわな」
「で、学園長。わたし達が呼び出された件についてなんですけと……、退学ですか?」
「へ!? いやいやいや、俺やばい事なんもしてないっすよ! それともシャロンさんには心当たりが!?」
「まぁまぁショーくん、落ち着いてってば。退学とかそんなんじゃないの。任務のお願いよ」
「「任務ぅ?」」
「そ。任務。に・ん・む」
「して、その内容は……」
「魔物討伐っ! どう? それっぽいでしょ!?」
ヴィオラさんはそう言って子供の様に笑顔が弾けた。さすがに少女か、まだ。
「まぁ、任務っぽいっすね」
「そうだね」
「なによふたりとも、反応薄くなーい?」
「いや、わたしの得意魔法から言えば、暗殺の依頼かと思いましたので」
「ゔぇっ」
「そんなに驚くことじゃないと思うんだけど……」
「まぁ、そりゃそうかもしんないすけど……」
「そんな物騒じゃないから。魔物よ魔物っ。なんかね、火を操るんだってさ。それで村一つが完全に焼失したってんで、こっちまでその話が来たわけ」
「火を操る……」
手堅くドラゴンとかそういうかんじかな?
「出発はいつです?」
「ん、あした」
「はやっ」
「そりゃそうよ。村一つ消えてるんだもの。これ以上の被害は国としても看過できないってことだわ」
「さすがに僕ら学生だけって訳じゃないっすよね?」
「勿論。国直属の部隊も出ることになるわ。あなたのお父さんもね」
「もしかして父さんが俺を?」
「正解。ご指名入りました〜」
「ったくあの親父……」
嬉しいことしてくれるじゃんか。異世界生活モリモリって感じするじゃんよ。
「したら学生は俺とシャロンさんのふたりっすか?」
「ショーくんはわたしとふたりが良かったの? 幾ら長期間ふたりっきりとはいえ、身体目当ての関係は嫌よ?」
「そんなつもりじゃないっすよ!? 変なところでポジティブなのやめてくださいってばっ!」
なんなのこの人もう……。ある意味アリスさんより大変だわ。やり取りとしては退屈しないし楽しいけどさぁ。
「他にも人員はこちらに任せるとのことだから、任務に同行して欲しい人間がいたら今日中に声を掛けること。そして明日の午前10時、学校に集合すること。いいわね?」
「は、はい!」
「かしこまりました」
こうして俺の日常は暫くの間、役人の掌の如く非日常へと切り替わることになった。
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