シスコンと姉妹と異世界と。
【第113話】討伐遠征③
到着し、まず案内されたのが今いる大きめのテント。十五人くらいは入れそうなくらい大きな造りだ。今はそれぞれ隊の人たちも聞き込みだったりで大半が出払っているらしかった。
「私は到着の旨を大佐に伝えて来ますので、ここで暫く寛いでいてください」
そう言うとフィーナさんはスタスタと出ていってしまった。やっぱ軍隊ってそういう連絡とか大事なんかね。
「そういえばさ……、よく姉さん落ちなかったね?」
「落とそうとしてたのか!?」
「だってあんなにはしゃいでたじゃん?」
「わたしだってそんなときもあるっ」
なんだってこんな任務の時にその気を起こしたのか……。これがまあサニーさんやヴィオラさんが、驚きの余り目を剥くくらいのはしゃぎ様だった。俺の上で。
「湖が見えたっ」だの、「魚が飛んだっ」だの、「鳥の群れだっ」とかなんとか……。見るもの全てに食いつく勢いで実況なさっていた。
「任務から帰ったら、騎手でも目指したら? 今回ので騎乗の天才の片鱗を見せたと思うし」
「馬か……。可愛いし面白そうだな」
「ショーくんも机上の天才だもんね?」
「アリスさん!? 発音一緒でもバカにしてるのはなんとなく分かりますからね!」
「そんな事言っちゃダメだよアリス。ショーくんだって、何かしらの手段を使って入学出来てるんだから」
「裏口入学みたいなこと言うの止めてくれません!? ヴィオラさんからもなんか言ってやってくださいよっ」
味方は学園長であるヴィオラさんだけだ。
「ん? 試験の前の日にわたしの靴を舐めていなかったっけ?」
味方はいなくなった。
「この人たちダメだ……。やっぱローズが一番だよ……」
「えっちょっ、お兄ちゃん恥ずかしい……」
ローズに泣きつくと、仕方ないなぁと言わんばかりの溜息をつかれたが、そんなに嫌そうな顔もされなかった。ので、ぎゅっと抱き枕よろしくキツめにハグ。
「そんなに強くしなくても逃げないってばぁ……」
「あのー……」
この声は間違いなくフィーナさんである。モロ妹に抱きついている姿を見られた。どうしたらいいんだろう……。
「あ、ごめんなさい。お兄ちゃん今ちょっと寝ちゃって……」
任務中なのに寝ちゃいましたよダメ兄貴。
「エリーゼのこと背負ってたから疲れちゃったんでしょ」
「ど、どういう意味だ!!」
アリスさんの、俺をフォローしつつの姉さんへの一撃。
「ほら、重いよーって」
「そ、そんなことないっ、はずだ……多分……」
魔法使ってるんだから重くないですよー。重いと感じてたら皆のペースについていけるわけもないし。
「でしたら、三十分程寝かせてあげましょうか。ショーくんが起きたら、私に報せてください。一応やることがあるので」
「分かりました。ありがとうございます」
シャロンさんが返事した。久しぶりに声を聞いたような気がする。こっち来てからあんまり喋ってなかったけど、人見知りしてたのかな?
「さ、ショーくん起きようか」
ヴィオラさんに促される。
「助かりました、色々。ローズもありがとな」
「いいのいいの」
「でも実際重くて疲れてはいるんでしょ?」
「いや、んなことはないっすよ……多分」
「そこは断定した方がいいんじゃない?」
サニーさんの忠告はごもっともだったことを俺はすぐに思い知った。
______15分後。
「よし。それじゃあフィーナさん探して声掛けてくるから、皆は動ける体制整えといて」
ヴィオラさんがそう言い残して出ていく。こういう時に率先して動くのはやっぱ学園長だから、なのだろうか。ヴィオラさんに連れるようにして、皆もテントの外へと出ていく。姉さんにはっ倒された俺はすぐ動くのキツイんですけど。
「大丈夫……?」
「あ、サニーさん。まあなんとか……」
「こんなに真っ赤になって……」
「あっ、痛みが……」
サニーさんが心配そうに俺の頬を撫でる。すると撫でられたところの痛みがかなり和らいでいった。
「ふふっ。女の子には癒しの力があるのよ?」
「魔法じゃないんすか?」
「もー。そんな無粋なこと言わないでよー」
「すいません。でも、ありがとうございます。優しいですねサニーさんは」
「いや、そんなつもりじゃっ。か、勘違いしないでよねっ」
お、おう……。サニーさん、言うなりパーッと出ていってしまった。一人テントに取り残された俺。にしても急にツンデレ出してきよったでおい……。ぐうかわかよ。
「行きますかね……」
テントの外に出ると、もう皆装備を整えて臨戦態勢って感じだった。フィーナさんは逆に軽装になってない? 鎧が無くなってるんですけど。
「それじゃ、全員揃いましたし出発するとしましょうか」
「「「どこに??」」」
全員が口を揃えて首を傾げていた。
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