シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第124話】討伐遠征⑭




 「クソッ、逃げ足の早い奴だ」

 姉さんが思わず悪態をついた。俺に抱えられてなければ格好付いたと思うんだけど。

 「街から離れていくわね」

 ヴィオラさんが俯き加減でギリギリ視界から消えない狐を見ながら言った。

 「あれだけ迅速に対応されては、効率が悪いと踏んだのかもしれませんね」

 フィーナさんがそれに応える。

 「あの狐に、そんな知能が?」

 シャロンさんのもっともな疑問。動物にそこまで明確な意識があるのかってこと。まぁなんか面倒くさそうな魔物だし、普通の雑魚魔物とはそのへんの質も違うんだろうか。

 「狐そのものなのか、裏で糸を引く者がいるのかはわかりませんけどもね」

 「森でも火が起きたのはやっぱり、魔法陣を森の中にも用意してたってことでしょ?」

 サニーさん、頭回るんだなぁ。活発なキャラにありがちなおバカ担当というわけではないらしかった。まぁ騎士校受かってるんだからそりゃ当然なのかもしれないけど……。

 「おそらくはそうなると思います」

 「俺のせい……なのかな」

 「? どうしてお兄ちゃんのせいなの?」

 「いやさ、同時多発的に魔法を行使するとなれば大量のマナを消費するわけじゃん、必然的に。で、その餌になったのが俺のマナだからな。あれだけの量を与えてしまったらそりゃ被害も拡がっちまうと思ってな……」

 「別にお兄ちゃんが悪いわけじゃないんだから、そんな事言わないでよ」

 (ショー様以外の人が同じことをされていたら、まず命は無かったはずです。完全にマナを吸い尽くされた後、肉体すらもその糧とされてしまったでしょう)

 (それなら、俺でも良かった……のかなぁ、ナビ子?)

 (勿論です。ここにいる皆様の中の誰よりもマナ保有量が多いのはショー様ですから)

 (そっか。……、ありがとな)

 (いえ。まだ今は力のほんの一端を見せたに過ぎないかも知れません。お気をつけて下さい)

 (ああ。何とかみんなを守ってみせるさ!)

 「差が詰まってきたぞ!」

 懐に収まっている姉さんの声でハッと我に返った。

 「アクア・ウォール! 攻撃版!!」

 ローズが切り込み隊長よろしく、津波のような魔法を放つ。それを威嚇行為と受け取ったのか、狐は逃げるのをやめた。

 ふと思ったが、現状使う魔法が限られる。水で緩んだ地盤の上で更に水魔法を使うのも、当然森の中だから火を使うわけにもいかない。風魔法も火の勢いを強めるだけだ。案外ラクじゃないなこの任務。

 「……どうします?」

 「手筈通り、わたしが行く」

 振り返ると黒のマントを羽織っているであろう声の主はそこにはもう既にいなかった。

 「暗殺術、黒霧くろぎりッ!」

 マントを翻して注意を引き付けた上で敵の視界を遮り、手に持っている短剣で命を刈り取らんとする技。

 「!!」

 驚いた狐は超高速で後ずさり。シャロンさんの一撃は残像を刈り取るだけに留まった。そのまま無言でこちらへ歩いてくる。恥ずかしいんだろうか。

 「ッ! シャロン、避けて!!」

 サニーさんが打ち出した光球が、シャロンさんに迫る何かと衝突し弾けた。

 「大丈夫!?」

 「……失敗した」

 やっぱり空振ったのが気になっていたようだ。

 「サニーも、ありがとう」

 「怪我はなかった?」

 「うん」

 「良かった。って、アレ……」 

 「もう一匹いたのか……」

 「お兄ちゃん、あの子、尻尾が二本ある!」

 あの子っておい……。確かに尻尾が二本ある上に、元々追いかけてた尻尾一本の狐よりサイズが大きい。

 「なんだぁ? 猫又的な何かなんですかねアリスさん?」

 「わたしに聞かれても初めて見るから……」

 「数が足りない……です」

 「フィーナさん、どういうことっすか?」

 「わたくしが史料で見たものとはやや違うのです。尻尾の数も足りないし、大きさももう少しあったはず……」

 「まだ、あれより上がいるというのですか!?」

 ヴィオラさんがフィーナさんのぶっちゃけに驚く。尻尾レベル、とでも名付けようか……。

 「あちらも臨戦態勢……」

 尻尾レベル一、二共に身体に火を纏う。

 「トイプードルみたいだな」

 胴体と足首、尻尾の先を残してお洒落カットされたトイプーちゃんのような火の纏い方だったから思わず……。

 「確かに! まぁ、燃えてるけどね」

 アリスさんは分かってくれたようだ。冷静なツッコミも忘れないあたり落ち着いている。

 「構えろ! 来るぞッ」

 狐が火球を打ち出しながら走ってくる。

 「直線的ね!」

 各々が左右に散って回避した。

 「のわっ!?」

 ボボボボボンッ!

 女子達の身体で軌道が見れなかった為に、俺は回避行動を取ることなく火球の直撃を受けた。

 「あっつぅ……」

 「大丈夫!? ……そうだな?」

 「心配には及びませんお姉様。なんか熱いだけで効いてないみたいだからさ」

 「ならいい。だが何があるかわからんからな。無駄に食らってやるなよ」

 「うん」

 「今度はわたしが!」

 ヴィオラさんが飛び出す。

 「豪雨ヘビーレイン!!」

 上から下へ降るのではなく、水平に降る豪雨だが。故にかなりの広範囲に渡って敵を打ち払う。

 それに応じて二匹が火炎放射。炎の壁とヴィオラさんの魔法が衝突し蒸発。辺りは一面霧の中といったかんじ。

 「「「……」」」

 全員が集中して耳を澄ます。

 「ショーくんしゃがんで!!」

 「うおっ!?」

 俺の首があったところをレベルの鉤爪が通過した。

 「アリスさん、助かりました」

 「視えてたからね☆」

 ウインクとともに返事をくれた。アリスさんだけはこの濃霧の中でも視えるし、聴こえるんだろう。そういう能力ちからの持ち主だから。

 「にしてもちゃんと纏った火を消して立ち回るあたり賢いものね」

 「だから気づけなかったわけっすね」

 「ショーくんジャンプ!!」

 「ほあー!?」

 「ナイスジャンプ!!」

 「足首はダメだろ! つーかなんで俺ばっかり狙われるんすか!?」

 レベル一の方が足首に噛み付こうとして空振りまた霧に消える。

 「さあ?」

 「フィーナさん……」

 「いえ、私にも分かりかねます……」

 「お兄ちゃんの腕のそれがなんか引き付けてるんじゃない?」

 「腕の……って、呪印これか?」

 「じゃないかな? だってそれあの子達に付けられたんでしょ? ならそれに起因する何かが働いてるんじゃない?」

 「なるほどな……」

 我が妹ながらめっちゃ賢い。すげぇ洞察力を持っているようで、お兄ちゃんは驚きを隠せません。

 でもそれは同時に、俺の中で腕切り落とす以外に手段が無いことがハッキリとした瞬間であった。



 

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