シスコンと姉妹と異世界と。
【第153話】北の幸⑭
「んっ……」
「あ、目が覚めた?」
「まぁ、色んな意味で覚めたかと。何故に僕はサニーさんに膝枕をされているのでせうか」
頭の裏に伝わる太腿の感触が心地いい。浴衣を着てることもあって、脚が出しやすかったのもあるかもしれないか。
「なんでって言われると……」
サニーさんが口ごもってしまったが、その表情は窺い知れない。
双丘を下から見上げる体勢になっているために顔まで見えないのだ。はっきり言おう。俺は今おっぱいと喋っている気分だ。
「そう言えばさ、クラリスちゃんからさっきの木の棒の使い方聴いてきたんだけど……、試してみてもいい?」
木の棒……、耳掻きか。
「……、やさしくしてね?」
潤んだ瞳で訴えてみる。
「? う、うん……」
イマイチなリアクションが返ってきた。心折れそう。
「よっこらしょ」
とりあえず真上を向いていては耳掻きなんぞ出来ないので方向転換。
「ちょちょちょちょっ!?」
ぐいっと首を百八十度無理矢理回される。骨外れちゃう。
「かはっ…………」
「なんでこっち側向こうとしたの?」
「パンチラの誘惑に負けました(何らかの引力が働きました)」
「鮮やかに本音をありがとう。でもそういうのはショーくんがもうちょっと大きくなってからじゃないとね?」
あれ? 思考と口が逆に働いた。
「……ぬぅ」
「ぬう、じゃないの。お姉様にバラすよ?」
「超すみませんでした。バラされると、俺の身体がバラされるんで勘弁してください」
「貸し一つね」
「え?」
「ね?」
「はい……」
今日のサニーさんはなんか押しが強い。いつもよりお姉さん力が高まってるっていうか……。
「えっと……、じゃ始めるね? ティッシュティッシュ……」
「(普段寮の中では風呂上がりに綿棒でグルグルやってるけど、耳掻き使っては無いからな……。ちょっと恥ずかしいかも)」
「〜♪」
鼻歌交じりにサニーさんが耳掻きを続ける。
なんというか、不慣れだから浅い所をちょこちょこされるだけで、焦らされているような感じがして擽ったい。
「どう?」
「いい感じです……。見える範囲でいいんで、もうちょい奥までやってもらえませんか?」
「ちょっと怖いんだよねぇ……、鼓膜ぶち抜いちゃいそうで」
全然ちょっとどころで済む被害では無さそうなんだが。
(サニーさんみたいな美人さんに膝枕で耳掻きして貰ってんだし、リスクとしては釣り合いが取れるか……)
「ッ!?」
なにかに動揺したサニーさん。耳の深い所をぶち抜いた。
「いってぇぇぇぇええええええええええええ!? MajiでBuchi抜く五ミリ前!!」
「ご、ごめんなさいっ。大丈夫? 聴こえてる?」
「な、なんとか……。でもどうしたんすか急に……」
まだなんか耳の中がジンジンとしている。
「ショーくんが急に美人さんとか言ってくるから……」
「……、口に出てました?」
「聴こえてきた、っていうよりは伝わってきたと言った方がいいのかも」
「……、テレパシーでしたか」
「無意識に回線繋いじゃってたみたい……」
「いや、こっちこそすみません……」
互いに平謝りだ。初対面の自己紹介のようにペコペコしまくってしまう。
「わたし向いてないのかな……」
「まぁ、耳掻きの向き不向きなんてそう必要になることなんかないですから……」
「でも現に今、必要とされて失敗したわけで」
「僕なんかで良かったらいくらでも練習台になりますから」
膝枕とセットだと尚良し。
「膝枕もセットで?」
「「やっちまった……」」
超シンクロ。双子かっての。
「そこまで読まなくてもいいじゃないですかぁ!!」
「あははは。ごめんごめん」
コンコンガチャバタン。
「入るぞ?」
「……、入ってるよね? しかもノックから閉めるまで二秒くらいだったけどどういうこと?」
いきなりドアが開いたと思ったら閉まって、エリーゼ姉さんのご登場である。
「(ってか、なんかピリッとしてるか? なんかやらかしたか俺……)」
背中にじわっとした嫌な湿り気が生まれる。
まぁ実際のところ、ラッキーなんたらによるご利益は享受しているワケだから、問い詰められたら黒に天秤は傾くだろう……。詰んだな俺。ただでさえ今さっき膝枕(耳ぶち抜きのオマケ付き)して貰ってたし。
「あー、サニー。悪いがこいつと二人にしてくれるな?」
「は、はひ!」
ガタン、と声を裏返らせながら退室していったサニーさん。
姉さんは有無を言わせぬ圧力を発生させる能力を母さんから受継いだのだろうか。それとも女性特有のものなのか?
でも、『場』を作る魔法っていうのは面白そうだな……。
「さてと。聴きたいことが幾つかあるんだが時間いいか?」
「な、なんでございませうか?」
「まず、ベッドの上に落ちてるソレは?」
「……」
鋭い視線の先、鎮座するは耳掻き棒。
「まさか……」
「……」
「ショー。お前、溜まっているのか?」
「へ? ええぇぇぇぇぇ!? な、何言っちゃってるのさ姉さんってば!」
「ち、違う! 違うぞ、誤解だ! お前が想像しているような意味では言ってない!!」 ……ふぅ、と一呼吸置いてから「耳垢が溜まっているのかと尋ねたんだ」
「いや、分かんないけど洗面台にあったからさ。偶にはやってみるかなと思っただけ」
なんと苦しい言い訳か。洗面台で鏡見ながらやれば済むものを、わざわざベッドにまで持ってくる必要などないのだから。
「もう、済ませたのか?」
「いや、中途半端なとこで終わっちゃった」
「ああ、わたしが押し掛けて来てしまったからか。それはすまなかったな。……、よしここは一つ昔に戻って」
「戻って?」
「わたしが耳掻きをしてやろう」
「(? 姉さんがここに来た目的は何だったのだろうか。少なくとも弟のお耳の面倒をみる事ではないはずだが……)」
「む、無視をするなっ」
「あ、じゃあお願いしていい? 右耳の途中で手止まってたからさ」
「任された」
「でも昔っていうほどじゃなくない? ちょこちょこ夜に姉さんもローズもやってくれるじゃんか」
「ローズもお前にしているのか?」
「いや、寮で同じ部屋だから気付くっしょ」
「いや、わたしが居る最中にそんな二人の姿は見たことないと思うぞ?」
「あれ、そう? 姉さんが風呂とか入ってる間ってことだったけか?」
「よし、やるか」
「立ったまんまやるの?」
「冗談だ。ほら、膝の上に横になるといい」
ポンポンと自分の腿を叩いて我を誘う。
「では失礼して……」
「いつぞやのように大泣きしてもいいんだからな?」
「な、泣いてないし! てか今泣く理由無いもの!!」
「わたしの手元が狂って鼓膜を」
「そりゃ絶対に泣くけど!? でもそれは感極まるとかそういうのじゃない。ただただ悲しいだけのやつ」
痛くて泣くってのは何にもならないよなぁ。実際のところ、痛すぎると思わず笑っちゃうことの方が多い気がするけど……。
「静かにしてくれ。始められない」
「理不尽だよもう……」
この後めっちゃ気持ち良くて寝落ちした。
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